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魅惑のValentine's day
作:神崎奈哉


ピンポーン♪


朝7時、工藤邸のチャイムが鳴った。鳴らしたのは、女子高生達。この時間ならまだお目当ての『名探偵』は寝ていると思われる。いつも蘭に起こされているのだから。
「はい、どちら様でしょうか?」
インターホン越しに聞こえてきたには、女の声。はっきり言うと、いつの間にか帰ってきた有希子の声である。
「え・・・工藤新一さんの自宅であってますよね?」
「・・・あ、えぇ。あってるわよ」
有希子は一瞬考えたが、直ぐに今日が何の日か思い出した。そう、今日は年に一度の女の戦争、バレンタインデーである。
「私達、工藤君にチョコレートを作ってきたんですけど・・・」
「新一に?あの子彼女居るわよ?」
「それでも良いんです。工藤君が貰ってくれるだけで・・・」
彼女等は工藤新一にチョコレートをあげられれば良いのだ。もしかしたら、自分を選んでくれるかもしれないなんて二の次である。
「そう。でも、そんなにたくさん食べられないと思うし、止めておいた方が良いわよ」
それっきり有希子からの返答はなく、沈黙してしまったので諦めて帰っていった。30分後、またチャイムが鳴った。
「は〜い。どちら様でしょう?」
「え、おば様?蘭です。いつ帰って来られたんですか?」
「あら、蘭ちゃん?ちょっと待ってね。今開けるわね」
ガチャッと鍵が開く音がしたので、蘭は門の前から扉の前へと移動した。そして、扉が開く。
「蘭ちゃん、久しぶりね!」
「お久しぶりです、おば様。いつ帰って来られたんですか?」
「今朝よ」
優作に内緒で来たの、蘭ちゃんも内緒にしててね。と付け足した。いつもの夫婦喧嘩だろう。
「え、じゃあ新一は知らないんですか?」
「そうね。まだ、起きて来てないから知らないと思うわ」
「じゃあ私、起こしてきますね。遅刻するといけないし」
蘭がそう言い、二階に上がって行くのを見て有希子は微笑む。
「いつも起こしてもらってるのね」






コンコン

「新一、入るわよー」
新一の部屋のドアを軽くノックをして開ける。いつもの通りに。
「いつまで寝てるの?早く起きなさい!!」
そしてまたいつものように揺すり起こす。
「んー・・・」
と声がしてもぞもぞと動く。昨日は珍しく事件が無かった為、早く寝たはずだが・・・?
「また布団の中で小説を読んでたんでしょう?早く寝ればいいのに・・・」
「・・・うっかり面白いのを見つけちまったんだよ」
答えつつ、大きな欠伸をする。今日は寝起きが良い方だ。
「あ、そうそう。おば様がいらしてたわよ」
「は・・・?」
「だから、おば様がいらしてたわ。おじ様に内緒で来たらしいけど」
これを聞いて昨夜、有希子からかかってきた電話を思い出す。
確かあれは・・・
「夫婦喧嘩の喧嘩の度に日本に帰ってくるなよな・・・」
「どうでも良いけど早くしないと本当に遅れるわよ」
「げ・・・」
時計をみたら・・・ヤバイ。時間が殆ど無かった。蘭は、慌てだす新一を放って一階に下りていく。






「蘭ちゃん、新ちゃん起きた?」
「はい。といっても時間無いですけど」
苦笑する蘭に有希子は笑う。
「いつもの事なんでしょ?」
「えぇ、まぁ・・・」2人が話していると二階から大きな音がして、新一が階段を下りてきた。用意をして、パンを食べながら有希子と会った。
「あ、母さん。帰国の理由は(想像がつくから)聞かないけど、早くロスに帰れよ」
「気が向いたら帰るわよ」
たった一言で久しぶりの親子の対面が終了。これだけだが、新一が両親を心配していないといったら嘘になる。離れて暮らしている分、会うのが照れくさだけなのだ。
「じゃあ、蘭ちゃん、新ちゃん。いってらっしゃい」
「いってきます」
「おう」
有希子に見送られて、新一にとっての地獄の学校に向かう。






「ねぇ、新一。今日が何の日か覚えてる?」
「今日?何の日?」
無駄知識は多いが、こういう記念日に新一は弱い。
「全く・・・今日は女の子にとって一番大事なバレンタインよ?」
「・・・バレンタイン?今日って2月14日だっけ?」
「そうよ」
「なら、俺にくれるんだろ?蘭」
新一にこの台詞を言わせたいが為に、蘭はわざとこの話題を持ち出したのだと思う。そんな事は勿論お見通しなのだけど、引っ掛かる。
「仕方ないわね・・・はい」
「サンキュ」
口では仕方ないと言いつつも真っ赤な顔をして、本命チョコを渡してくれる蘭から、新一は笑顔で受け取る。
「・・・正門の前、人だかりが凄くない?」
いつの間にか着いてしまった帝丹高校を見て驚く。2月ともなれば自由登校が始まっている高校もある為、新一にチョコレートを渡したいと言う高校生で溢れかえっていた。
「なんだ、あれ・・・」
言葉を漏らした新一の声を聞いた女子高生達が、彼女(蘭)が隣に居るのも関わらず、チョコを持って押し寄せてきた。
「工藤君ー私のチョコ貰ってー」
「好きです」
「工藤君、格好良いー」
などといながら、である。
流石の新一も困ってしまって立ち止まる。すると蘭が、
「はいはい。新一にチョコをあげたい人はこの袋に入れて下さいー」
何処から出したのか大きな袋を広げていた。吃驚したようだが、ためらいなく袋の中に次々と入れていく。
「新一、自分がモテるって事を自覚しなさいよ。あ、まだたくさんあると思うから、はい」
自覚するのは蘭も、だと思うが・・・。はいと新一に手渡したのは勿論、大きな袋。その時、蘭の瞳が揺らいでいた事を新一は見逃さなかった。彼氏がたくさんチョコレートを貰って嬉しい彼女が居る訳ないのだから。
蘭は袋を渡し、偶々近くに居た園子と先に行ってしまった。置いて行かれた新一に災難は続く。寧ろこれからだと言える。
「どうやったらこんなに詰められんだよ・・・」
「相変わらずモテモテで大変そうだな、工藤」
ロッカーを開けた途端、大量のチョコレートがふってきた新一を見て、男子生徒が言う。彼は・・・何も出てこなかったのだろう。皮肉な響きをしていた。
「そう思うなら、手伝え」
「嫌だね。お前が貰ったんだからしっかり後片付けまでしろよ」
当然ながらまた、置いて行かれてしまう。


ここ、帝丹高校にはバレンタインデー限定でチョコレート回収BOXがある。数年前、新一程ではないが、とてもモテ生徒が居た。毎年大量のチョコレートを貰ったが、美人の彼女が居た為、一切手を付けず、床にバラまいたままにした事があってから、校内5箇所に設置される事になったのだ。新一も例に漏れず毎年世話になっていた。



「あれ?工藤身軽だな」
「大量にあったんじゃねーのか?」
「全部、例のBOXに入れてきた」
当たり前だとばかりに言い切る。持っているのはただ1つだけ・・・登校中に貰った蘭のチョコである。
「じゃあ、今持ってるのは毛利のチョコか」
「当たり前だろ。じゃなきゃ工藤が残す筈がねーよ」
「だよな」
図星、だ。蘭以外の女のチョコを食べてしまうとは彼の『お姫様』が機嫌を悪くしてしまうから、食べてはならないのである。下手をすれば、嫌われる可能性があると(実際は無いが)思っているから。
「てか、あのBOX便利だよな。色んな奴が使ってんじゃん」
「あぁ。モテる奴とか大変そうだよな」
「だったらよ。その回収したヤツってどうしてんの?」
「え?知らなかったのか?」
「あれ、先生が持ち帰るんだぜ。家で自慢してたりしてー?」
自慢はないだろう。だって『工藤君へ』などと書かれているのだから。自慢したら、終わりである。
「ありえねーって!」






「わ、私、工藤先輩の事が好きです。これ、受け取って下さいッッ」
「悪いけど、俺、彼女居るから」
この会話は本日何度目だろうか。2限が終わったばかりだというのに帰ってきたら、呼び出されの繰り返し。流石に辛くもなってくる。
「毛利先輩ですよね?あんな空手をやってる強い女より、私の方が良いと思いますよ?!」

ブチッ

何かが切れる音がした。新一がにっこりと笑い(いや、目が笑っていないが)女の手からチョコレートが入った袋を取る。女は受け取って貰えた!と顔を綻ばすが、違う。


グシャッッ


新一は、中の物ごと潰す。そして、偶々開いていた窓から投げ捨てた。勿論、笑顔のまま。
「・・・アイツより、良い女なんて居る訳ねーだろ」

とても冷めた物言いだった。女は、新一の禁忌に触れてしまったのだ。蘭を貶すという禁忌に。
事実、蘭より新一の事を分かっている女なんて居ない。大抵の女は新一の外ズラしか知らないのだから。知ってしまえば、好きで居られない。それ程ギャップが凄いのだから。



「おい、工藤。また女泣かせたって?」
「中庭に工藤宛の潰れたチョコ、落ちてたらしいぜ?」
「あぁ。潰して落としたからな。あの女蘭を貶しやがって・・・!!」
怒りはまだ収まらないようだ。まぁ、最愛の彼女を貶されたのだから、仕方ないと言えば仕方ないが。






次の時間・・・
「はい、工藤です・・・はい・・・」
バレンタインも名探偵に休みは無い。男女のトラブルがあるので、寧ろ増える。
「はい?佐藤刑事、もう一回おっしゃっていただけますか?」
『だから、あちこちの県警から工藤君宛てに大量のチョコが届いてるのよ。あ、北海道警からもあったわよ』
「・・・なんで受け取ったんですか・・・送り返して下さい・・・」
『だってぇ、いるかなぁーって思って』
明らかに新一の反応を楽しんでいる。いらないと、新一が甘い物が苦手だと分かっているのに、わざと受け取ったのだ。だが、新一には対抗出来るネタがあった。
「じゃあ、いいです。今日は、お手伝い出来ません」
『え、ちょっと待って。送りかえるわ、送り返す。だからお願い、来て!人数足りなくてうちも大変なのよ!』
「・・・本当ですね?行ってあったら、帰りますよ?」
『えぇ、本当よ。工藤君が来るまでに必ず片付けるわ』
「分かりました。それなら・・・」
本当は行きたくて堪らないのに、あえて嫌そうにし、佐藤を上手く利用してしまった。人数が足りてないというのも嘘ではないだろうし、行く事自体に依存は無かったのだが。
「あ、高木刑事が到着したみたいです。では、警視庁で」


「工藤・・・」
「なんですか?」
にっこりと笑う。言いたい事は、分かっているのに敢えて聞き返す。
「い、今のは脅しじゃないのか?」
「だって、嫌じゃないですか。あ、もう迎えが来てるんで、早退します」
さらりと交した新一。残された者達は、改めてこの『工藤新一』の恐ろしさを思いしった。




うぎゃっっ
新一が違うっっ誰だ、コイツみたいになってます。
てか、蘭ちゃんが殆ど出てきません。有希子さん、あれだけの登場の為に遥々海を渡らせたのか、私!!

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