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憧れのヒーローΦ
作者:東野佳奈子
 俺が警察になろうと決めたのは高校二年の夏だった。あの夏は色々なことがあった。
 通っていた東海第一高校の二年にいるのは殆どが不良だった。頭もそれほど良くない。俺はその入学試験に特別選抜で入学できた。なぜその高校を志望したかといえば、柔道部があったからに他ならない。自分の身体の弱さが昔から嫌いだったので、少しでも強くなれればと思い、柔道の強豪校といわれた東海第一に入学を志望した。
 やはり俺はそこでも弱かった。初めて体験する柔道という武道になかなか慣れなかった。投げられれば身体は痛いし、自分のように華奢な身体をしている者は誰もいない。みんなごつい体つきをしていて、いかにも昔から柔道をやっている、というような人ばかりだった。
 そんな時、先生からいろいろなことを宣告された。今のおまえでは試合に出すことはできないとか、もっとすばやく動けないのかなどだ。しかしその中でも一番俺の心に響いた言葉はこうだった。ある日の部活動時間で呼び出されて言われたのだ。
「おい、佐久間。俺知らなかったけど、持病があるみたいじゃないか。それも心臓の。今のままで大丈夫なのか。柔道なんて特にそうだが、絞め技だって教えただろ? 試合に出るようになれば、あんなのは大抵相手は隙あらば仕掛けてくる。それに耐えられるのかって話だ。うまく逃げられる自信があるか? 俺は少なくとも、今のおまえには無いとみている。退部するなら今だぞ」
 まさか退部の話を持ちかけられるとは思っていなかったので、俺は正直ショックだった。とりあえずその日は帰宅して自室にこもっていた。
 帰宅してからパソコンを開くと、迷惑メールが何通かきていたので目を通した。するといつの間にか出会い系サイトの会員登録をされてあり、それが数日経っていたらしく、メールを通知するだけのポイントが足りないために金を請求されていたことが分かった。それは確実に詐欺であり、それによる被害者も少なくはなかった。そこで俺は一つの決心をした。絶対に警官になってこういった被害を抑えてやる、と。
 それから俺は架空請求のメールがあっても決して折れなかった。どんなことがあろうと、これは詐欺類のものであり、請求は嘘であるということが分かったから、メールは無視し続ければいいだけのことである。それが第一の決意だった。
 その一件があってから、俺は少しずつだが法律を勉強し始めた。知れば知っただけ自分のものになるということが分かったので、少なからず楽しみを覚えた。そして通学時もブックカバーをかけた法律の本を持ち歩いていた。
 そんなある日のことだった。東海第一高校で事件がおきた。生徒同士の暴力だった。俺は学校に着くなり巻き込まれたが、相手はただのチンピラだったので、自分が今まで柔道部で培ってきた技を駆使してこてんぱんにしてやった。そして俺は安心して教室に向かうと、その途中で女子生徒が男子共に囲まれているのを見つけた。なぜか今日に限ってこういうことが多いと思いながら、その間に割って入った。すると、囲んでいた男子生徒の一人がサバイバルナイフを出してきて俺に突きつけたのだ。
「おまえ、これ以上言ったらぶっ殺すぞ」
「殺せるもんならやってみてください。どこからその意志が沸いてくるんです? 君の気が知れないんですどね。正気の人間ができることじゃないと思います。これを犯せば君は犯罪者です」
「何警察染みたこと抜かしてんだよ。調子こいてるなよ」
 俺はまさか本当に刺してくるとは思わなかったが、これもやはり柔道で培った相手の動きを読むという心理的な技を使って、向かってきたナイフを反射的に掴んだ。無論その手からは血が滝のように流れた。とてつもなく痛かったが、最初は痛いというよりも熱いという感覚のほうがあった。
「殺人未遂ですよ」
「うるせえな、分かったよ、くそっ」
 そう言うとその男子生徒たちは走り去っていった。俺は切れた手を押さえて保健室まで走った。保健室では手当てが大変だということで、最寄の病院に連れて行かれた。
 病院で手当てを受けているときに俺が思ったのが、第二の決意だった。なぜ世の中にはこのような悪事を働く者がいるのだろう、得にならないことをして挙句には法に触れる。なぜそんなことをする必要があるのだ。俺は疑問だった。損得勘定ができない阿呆共のすることだと実感した。窃盗、殺人、轢き逃げ、詐欺など、結局は警察に捕まる運命にあることをなぜするのだ。所詮阿呆なのだ。結局結論はいつもそこにある。
 俺は警察になって世の中の悪徳に立ち向かう、ヒーローになってやるのだ、と心に決めた。国家資格だから何なのだ。自分の努力次第で人生は変わる。そう信じて今までやってきたではないか。そう感じた。
 学校に帰ると、警察がきていた。俺が車を降りると、若い刑事は小走りにこちらへ向かってきた。そして刑事は俺の名前を確認すると、あのときの情報を根掘り葉掘り聞いてきた。その刑事の名前は岡本と言った気がする。
 親には猛反対を食らった。だが俺はこの信念を曲げるつもりなど、毛頭無かった。もちろん仮面ライダーなんかはヒーローだが、警察ではない。昔からああいう類の特撮ものが好きで、それに感化されて正義感が強くなったのだ。
 俺が受けた被害を、これ以上他人に遭遇してほしくない。SNSのサイバー犯罪や、事故、殺人など、もうこの目で見るのはうんざりだ。
 だから俺は警官を目指して努力したのだ。
 十年後の俺に訊こう。おまえは今、警官になって働いているか? ちゃんと警察学校は卒業できたか? 自分ができるだけの努力はしたか? 世のためになるような仕事をしているか? 俺は、あの時の気持ちを忘れないで俺らしく生きているか――。ちゃんと仕事して上の人についていけているなら、おまえはきっと、大丈夫だ。頑張るんだぞ。
 俺が警官になろうと思ったのは、こういうことがあってこその思いだった。
 私の体験と、それによって思ったことを佐久間刑事に置き換えて書きました。私の将来の夢は色々ありますが、その中の候補として警察があります。今の私はきっと、佐久間刑事と同じ気持ちです。軽くエッセイみたいになってしまいましたが、私の気持ちと佐久間刑事の過去をドッキングさせました。
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