ウエディングパーティー
とうとう パーティーの当日がやってきた。香音のパパが殆んどボランティアで提供してくれたお陰で、学生の私達でもそれらしい会場になっていた。
正式な披露宴は秋と硝子が大学を卒業してから神戸で執り行われる。秋があの『シノハラ』の御曹司なのだから当たり前だけどね。
だから、このパーティーに出席するお堅い人種は担任の先生だけだ。
香音はいつものように今日も時間ギリギリだ。
蒼さんが一緒でもあまり変わらないみたいだ。
私は一週間前に起こった出来事が頭から離れず、何だか変だ。今日はトチらないようにしないとね。
英明が車でうちの前まで迎えに来てくれた。
あれから一週間、英明はクラブの練習が忙しく会っていない。淋しいような恥ずかしいような変な感じ。それでも毎日電話で話しているんだからおなじなんだけど。
今日は初めての司会だからちょっとオメカシしたんだけど変じゃないよね?
黒いアメリカンスリーブのワンピースはお気に入りのセレクトショップで見つけた。
肩が見えるのが少し恥ずかしいけど、ハイネックになっているから私の細い首には似合うと店員さんが一押ししたものだ。それに合わせてシルクオーガンジーのショールも買っちゃった!春休みに頑張ってバイトに励んだから奮発したの。
髪型は色々考えて夜会巻きの少し崩した感じに仕上げた。普段はあまりしないお化粧も今日はママに教えて貰ってケバくならないように頑張ったんだ。
「ププ」
英明のカローラフィルターがうちの家の玄関前に止まった。
「オハヨウ。おばさんたちいる?」
英明の言葉に疑問を感じながらも、
「うんいるよ。パパも今日はお休みだし。」
「チョッといいか?」
私の返事も聞かない内にうちの玄関を開けていた。
「おはようございます。英明です。」
ラグビー部員らしいハキハキした声でママを呼んだ。
「あら英明君。久しぶり!相変わらずハンサムね。今日は美夏のことお願いね。この子 今週可笑しいのよ。ふふふ」相変わらず美しく饒舌な美夏の母親だ。これで五十歳になろうとは誰も思わない。美夏とは感じが全く違う。俺には少し怖いんだけどね。
「その事でチョッとお話が。叔父さんもいるんでしょ?」「あらあら。まあ。入って。何だかいつもの英明君らしくないわね。ふふふ。
パパ〜英明君が来てるわよ。どうぞ。まだ時間は大丈夫でしょ。紅茶入れるわね。」
何だかママの笑顔がニヤケているのは気のせい?
英明の後ろで何がどうなっているのか判らない私にウインクなんてしてるじゃない。
「おお 英明君久しぶり!また大きくなったんじゃないか?」パパは自分も学生時代にラグビーをしていたもんだから、英明のことを凄く気に入っている。高校時代から私以上に花園に応援に行ってたんだ。
「お久しぶりです。叔父さん。今日はあまり時間がないので要点だけ言います。
美夏と結婚を前提にお付き合いさせてください。大学を卒業したら直ぐ結婚したいと思います。」
突然、英明がうちの親に飛んでもないお願いをしたから、私は立っていられなくなってしまった。
フニャフニャとリビングの床に座り込んだ私を抱き上げた英明は
「なっ?」
と意味有りげな笑みを浮かべている。今日みたいな日に言わないでよ。
信じられない!
私にはまだ何の承諾もとっていないのに・・・
「いつのまにそんな関係になっていたの?・・全く気付かなかったわ。美夏も大人になったわね?ママに隠し事を出来るんだから。」ニコニコと顔全体に笑みを浮かべて ママが首をかしげた。
・・ぐっ・ 何だか 照れ臭い。
パパは 苦虫を潰したような顔をしている。
「ねえ?あなた? あなたも賛成でしょう? いつも言ってるじゃない!英明君がうちの息子だったらって!」
痛い所を着くな!とパパの心が叫んでいる。
「まあ 英明君が美夏の伴侶なら 問題は無いんだが・・・
チョッと早くないかい?」
ママに指摘されて 渋々了解したみたいだが、まだ文句を言いたいみたいだ。
「でも 叔父さん
今日は何の日か?知ってるでしょう?
秋と硝子の結婚パーティーなんですよ? 二人は同級生なんだから・・」
確かに 今日は英明と美夏はウエディングパーティーの司会に行くのだ。
はぁ・・・
思いっきり大きな溜め息をついて、パパは肩を落とした。
「解った。英明君?美夏を頼むな?」
当の本人の意思などお構い無しに 話は進んでしまった。
英明の車に乗って会場のホテルに着くまで、私の思考は雲の上にいるようだった。
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会場のホテルには 主役の二人がホテルのマネージャーと最後の打ち合わせをしていた。 私達の姿を見ると 向日葵のような笑顔を見せて硝子が手を振った。
・・あ― 硝子があんな表情を浮かべているなんて・・・
見ている方も幸せになるよね・・・
私達が打ち合わせに入って直ぐ、硝子は用意の為に席を外した。
紛いなりにも、ウエディングパーティーなのだ。
ウエディングドレスとはいかないまでも 其なりのドレスを着るそうだ。ちなみに秋は 黒のタキシードらしい。
秋のタキシード姿って、同級生の女子には美味しいよね。
暫くして、ホテルのフロントの男性が険しい顔をしてマネージャーに耳打ちをしてきた。
何があったんだろう?
マネージャーさん、無茶苦茶怖い顔をしているじゃない。
「先ほど こんなものがホテルに届けられました。祝電の中に一緒に入っていたみたいです。差出人は不明です。」
マネージャーの野茂さんが 一通の電報らしきものを差し出した。
秋が 受け取り中を開くと、そこには『呪怨』の文字が・・・・
「きゃ!」
私は思わず声を上げてしまった。
「何なんだよ? これは!」英明が 怒りモード突入で叫んだ。
秋だけが 落ち着いた表情を崩さず、腕を組んでいる。流石に 視線には厳しい光が漂っているのは否めない。
「セキュリティを強化しましょう。只の悪戯だと思いますが、念のために皆さんも極力 注意してください。警備スタッフにも 警備の強化を促しておきますので。」
そう言って 野茂さんは席を立った。
「秋! これって
マジで悪戯だよな?」
不安と怒りで顔を真っ赤にした英明が 抑えた声を出した。
私は 多分真っ青な顔色をしているのだろう。英明の大きな手が私の手を握りしめていた。
「悪いな。嫌な思いをさせてしまって。 すまん。
多分、俺がらみだ。」
秋は 自分がらみだと言った。身に覚えが有るのか?
余りにも 動じない秋の姿に一瞬不安を感じたのは私だけなのか?
どういう事よ?
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