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このお話は『三日間』の続編です。秋と硝子のその後と 個性豊かな友人達のお話です。

wedding party
作:如月 雪



ジューンブライド


 ・・・ジューンブライド・・・


女の子が憧れるウエディングに 事もあろう二十歳にもならない私達が関わるなんて・・・・・



何で こんなジメジメした六月に結婚式なんてするんだろう?
  私の時は絶対 こんな時期にはしないわ!


英明と司会の打ち合わせをしながら、美夏はブツブツ独り言をいっていた。
「何をブツブツ言ってんだよ?」
出席者の確認をしながら英明がぼやく。

 高校の同級で親友の白鳥硝子しらとりしょうこ篠原秋しのはらあきが入籍したのは、まだ桜の蕾が膨らみかけた頃だった。

 優等生で理論を積み重ねて男子にも反論させない理屈家の硝子が、冷血感で仲間以外には笑顔も見せないクールな秀才の篠原秋が 学生結婚をしてしまった。今時、学生結婚と言うと出来ちゃった結婚か?と思うけれど、それは全く有り得ない。
私達には全然気付かれずに、二人はお互いが魂の片割れだと信じあっていた。
片時も離れて暮らしたくなかったみたいだ。けれど硝子の母親としては結婚前の同棲など認められない事だ。今時、古いよ!と言われそうだが、認められないものは認められないのだ。
お互いの家の話し合いに依って二人の早い結婚が決まった。

 秋がシノハラの御曹司だとは私はその時まで知らなかった。 香音もそうだ。
英明は、秋が転校してきた頃 N高校に在学中の従兄弟に聞いたらしい。が、秋が何も言わないのに自分が訳しり顔で話すわけにはいかないと私達にも言わなかった。
 英明が英明で在るところだ。人懐っこくて人情味があり、口が堅い。
  気難しい秋が、心を開いた筈だ。

勿論 言い出しっぺは私 伊藤美夏いとうみか位宮英明いみやひであきだから幹事も二人でするしかない・・・
 あともう一人 一条香音も幹事の一人なのだが、彼女は東京芸大でバイオリンを専攻しているため中々 関西へは戻って来れない。 このあいだのコンクールではグランプリを取った。
来年は留学するらしい。兎に角、 彼女は忙しい。従って、動けるのは私と英明だけになる。

まあ 会場のホテルは香音のお父様から『ただ』で借りた為 会費を安く抑えられた。
余興も 香音が大学の友人と弦楽アンサンブルをしてくれるそうだ。 香音 様様である。

  一条香音いちじょうかのん

 真っ直ぐな黒髪と黒目勝ちな大きな瞳が印象的な人形のような美人だ。
高校時代も他校の生徒から良く声をかけられていた。 彼女を少しでもしっている男子ならそんな無鉄砲な事はしない!命が惜しい からだ

香音は 何と言っても口が悪い!

男で有ろうが女で有ろうが、筋の通っていない事や卑怯な事には容赦はしない!

怖いんだ。

それに酒も強い!そして、ホテル事業の全国展開をしている一条グループのお嬢だ!
一条グループは各主要都市にホテルを所有している企業だ。 香音のお祖父様が一代で築き上げ、お父様が海外進出を始めた。

「ところで香音 誰を連れてくるのかしら?」
香音が一緒に演奏する相手の事が気になっていた。

 あの子は性格からでも判るように、人と連るむのを嫌う。根っからのソリスト。
学生オケでもきっと自己主張を曲げないはずだ。私達だから未だ一緒に居れるのだ。各々が個々にお互いを侵略しあわないから・・・

私達五人は集まっていても寄りかからない。依存しない。
一人一人が一匹狼みたいな物だ。


だから、香音はソリストを目指しているし、何れはそうなるだろう。 そんなあの子が連れてくる相手は誰なのか?

昨年の夏に行ったジュリアーノ音学院のサマースクールで知り合ったらしい。 ピアニストだと言うが アメリカ人かな? 打ち合わせに 今日の夕方待ち合わせているんだった。

ボールペンを下唇に当ててボーっと考えていると、
「何 寛いでるんだよ? 早くしないと待ち合わせの時間に遅れるぞ?」
斜め前から英明がせっついた。

ファミレスの隅のテーブルでドリンクバーだけで朝から二時間も粘っている。

結局 出席者は七割にもなってしまった。
二百人もの出席者にお手上げ状態だった二人だが、ホテル側の責任者の方が親切にフォローしてくれた。未だ学生何だから完璧に為なくても良いんじゃないかとアドバイスをもらい羽陽曲折の中今に至った。食事はバイキング型式とし、丸テーブルに自由席とし歓談をメインとした。受付は各クラスの委員長に頼んだし、司会はK大放送部のわたくし美夏がおおせつかりました。
英明は、進行のまとめ役。


待ち合わせ時間は11時だ。私達はパソコンと出席名簿 タイムスケジュール表等を持って秋と硝子の新居である御池のマンションを訪ねた。

「香音はキット遅れてくるよ!」
英明の運転するカローラフィルダーに乗ってマンションの駐車場に停める。前もって空けておいてくれた34番。

つい先日前までは、ワンルームマンションだった二人だが、今は何と言っても新婚さんだ。
この間2LDKのマンションに引っ越したのだ。始めて訪れる親友の部屋に、何だか気恥ずかしいのは私だけ?

いやいや・・英明も心なしか赤い顔をしている。
あのクールな二人がどんな生活をしているのか、見たいけれどなんか照れる。

玄関ホールで部屋番号を押すと、
「ハーイ すぐ開けるからね。上がってきて。七階だから」
硝子の声が聞こえた。 程なくして、ガチャとロックが解除され私達は七階の部屋まで上がって行った。

「遅いよ!」
黒いソファに座っているのは、香音ではないか?
「えーなんで香音が先に居るのよ?」

「あはははは。ヤッパリ香音は遅刻魔なんだ?」
香音の横に座っていた凛々しい青年が笑った。

ん? 何処かで見たことあるぞ? ん? 何処だ?

あ あ うそ? エッ? まさか? 有り得ない!


「痛ってぇなぁ。何すんだよ?」
美夏は英明の頬を思いきりつねっていた。

「だって だってあの人 美村さんだよ。
この間 プラハのコンクールでグランプリを取ったピアニストの美村さんだよ!」
美夏の声は上擦って、珍しく舞い上がっていた。

「はじまして。美村蒼みむら そうです。」
大きくて綺麗な右手が差し出された。
「はじまして位宮英明いみや ひであきです。」
「はじまして。伊藤美夏いとう みかです。お会いできて光栄です。」

「チョッと どうなってるのよ?」
小声で香音に聞いてみる。
香音は珍しくおとなしい?  ??なんだ?

香音がアンサンブルをする相手とは、ことも有ろうに 美村蒼なのだ。 もちろん 『ただ』で!

夏休みにアメリカで知り合って仲良しになったらしい。

信じられない!

パーティーにきた人は儲け物だわ! 彼のコンサートやリサイタルのチケットなんて取れないんだから!



 何でも、いつものようにサマースクールでも香音は独りで行動していた。
日本人の女の子はいつも誰かと一緒にいるが彼女だけは違った。
凛々しく気高い薔薇の様な姿だった。しかし、綺麗な薔薇には棘が有るのだ。

勿論 香音にも有った。白人の男子学生に毒舌を吐いていたらしい。もちろん英語で。
それも汚く罵っていた。日本人は年齢より下に見られがちだし、香音の見た目は日本人形の様に愛らしい。まさかそんな彼女の小さな口から 男性も驚くような言葉が出てくるとは思わないのだ。
蒼自身もびっくりしていた。何てかわいい少女なんだろうと思っていたら、口が悪いの何のって!そのギャップに蒼はお腹を抱えて笑ってしまった。

「ちょっと貴方 人を見て笑うものじゃないわよ? 日本人でしょ?
 日本人なら礼儀と言うものを重んじなさい!」
毛を逆だてたロシアンブルーの様に 気高い気品を逆だてている。
「ごめん。ごめん。余りに激しく怒ってるから、何だか可愛くなってね。」
彼女の顔が怒りで目がつり上がった。
「馬鹿にしてるの?」
「違うって。アー腹が痛い。久々に笑わせて貰ったよ。
俺は、美村蒼。Mrアンドレアについている。馬鹿に何てしてないよ。日本人の女の子で君ほど自分を出せる子は居ないから驚いただけだよ。傷つけたなら謝る。ゴメン」
 蒼は律儀に頭を下げた。

「・・ならいいです。私は一条香音。東京芸大の学生です。
  ここのサマースクールに参加しているの。よろしく」
小さな白い右手を出した。
蒼は 彼女のことを気に入った。自分にまとわりつく女性達とは違う潔さがあった。
サマースクールの間に蒼と香音の距離は瞬く間に縮まっていった。香音にとっても蒼と話していると、いつもとは違う感動が産まれてくるのを実感していた。秋や英明とも違う。

学生オケの仲間とも違う

自分が女で良かったと判る瞬間



それでも、香音の毒舌は蒼の前ですら変わらない。
自分と食い違う解釈にはとことん議論を戦わせる。「でも蒼さんの言うように弾くのは無理よ。」
サマーキャンプの最後の演奏の為、二人でアンサンブルをすることになっていた。
蒼の解釈と香音の解釈には少しずれがあったのだ。












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