ストラグル・ドラゴン―STAGE1―(47/52)縦書き表示RDF


う……呉羽より恋が手ごわい……。どうしよう、こっちの方がでっかい山かもしれません。
ストラグル・ドラゴン―STAGE1―
作:拓平



第四十四章


 電話が鳴っていた。トゥルル、トゥルルッ――……誰かが取ったらしい。規則的な呼び音はぷつりと止まる。しばらくして階段の下から朋恵の声が聞こえた。
「芽緒電話よ!友蘭ちゃん!」
ベッドにうつ伏せに突っ伏していた芽緒の耳がぴくりと反応する。しばし枕に顔を埋め悩んだ後、結局身を起こした。
「はぁい」
重たい体を動かして芽緒は階段を降りた。

 「あらっ!まだ制服なの!?早く着替えなさいよも〜!」
受話器を差し出しつつ、朋恵は芽緒の姿を見て呆れたように溜め息をついた。芽緒は多少赤い虚ろな目を母に向け、うんとやる気なく答える。
「まぁいいわ、友蘭ちゃん心配してるのよ?全く、仕事を休むなんて……」
「わぁったからあっち行ってて」
芽緒は受話器をひったくって母の小言を遮った。朋恵はまた溜め息をつくと台所へ戻っていく。彼女が離れるのを確認後、芽緒は一度深呼吸して騒ぎ出した心臓を押さえ、受話器を耳に当てた。待たせる間流されていた軽快なメロディーを意を決して止める。ぎゅっと目を閉じて、芽緒は震える声を必死に落ち着かせた。
「も、もしもし?」
『あ!芽緒君?銀ですけど……あの、今日どうしたの?しんどかった?』
電話口での彼女の声に芽緒は自然と顔の筋肉が緩む。だ、だめだ。期待しちゃダメだ。
「うん、ちょっとね。でももう大丈夫だよ」
『そう?元気ない声だけど……。また仕事できるよね?』
「うんできるよ」
多分、ね。
『よかった。ごめんね、いきなり電話しちゃって。……じゃあ、また明日学校でね』
そこで、うんと言って切ってもよかったのだが、芽緒は思わず引き止めてしまった。
「あ、あの銀さん」
『うん?』
「あの………………………」
引き止めておいて、芽緒は何の言葉も出てこなかった。
 一体何を聞くのか。赤井の事?もしかしたらアレは何かの間違いだと、そういってほしいのだろうか。本当は好きじゃないよと言ってほしいのか?芽緒は自分に嘲笑した。馬鹿な。何を期待しているんだろう。自分の失恋は確定したのだ。今はただの秘密を知られたからそばに居るパートナーという存在。ただそれだけ。
「い、いや。なんでもない。なんでもないよ」
『そう?芽緒君なんだか変よ?』
「なんでもないよ。ホント」
『ならいいけど……』
「うん、じゃあ明日。ばいばい」
芽緒はそう言い、早々に電話を切った。ガチャリと何かを断ち切るように。




 「行ってきます……」
朝。今日は一段と冷え込む。もう完璧な冬に突入した。そろそろマフラーでも引っ張り出そうか。
 芽緒は玄関のドアに手を掛け、後ろに立つ朋恵を振り返った。エプロン姿の朋恵はいつもどおりお玉片手に手を振る。
「行ってらっしゃい。あ!そうそう」
何かを思い出したかのような朋恵に芽緒は眼で何?と問う。
近々辰沙たつさ家が来るそうよ」
その言葉に芽緒は少々目を剥く。
「え、ひょうせつが?」
「ええ、一応そのつもりでね。もしかしたら三族招集かかるかもしれないわ」
「ああ」
一言答え、芽緒は玄関を出た。辰沙家と言えば去年の春に会ったっきりだ。一体何の用事であろうか。

 「イエーイ☆おっはよ――――――う!!!!」

 そんな思考も停止するほどのハイテンションで迎えてくれたのは江月永。彼は毎度の如く龍架の家の前で待っていた。今日は今にも飛びついてきそうな勢いである。そのハイテンション振りの理由を察した時、芽緒の気持ちはずんと沈んだ。
「おはよ……」
「あれ?」
少し俯き加減で早足に歩き出した芽緒に、永は駆け足で付いていきつつも少し首を傾げる。
「どうした?今日テンション低いじゃん」
「お前が高いんだよ」
「いやいや芽緒低すぎ」
そう言う永は突然芽緒の後頭部を掌ではたいた。
「いでッ!」
スパンッと軽い音が鳴り、芽緒は頷く動作を取らざるを得なかった。
「お前よ〜今日一大イベント待ってんのに何沈んじゃってんのー?」
一大イベント=告白。芽緒は後頭部を手で押さえつつはぁと溜め息をついた。
「もう、そのイベントは起こらねェよ」
「は?」
「だから……」
くるりと永を振り向いて芽緒は叫んでしまった。八つ当たりと分かっていながら。
「もうその必要はねぇんだよ!!!」
そうして、脱兎の如く芽緒は駆け出した。




 そのまま永をおいて、芽緒は学校に着いてしまった。教室に入ると走ってきたからかいつもよりも大分本鈴よりも余裕があった。
 窓際の自分の席に向かい、鞄を置く。横を見やると友蘭はまだ登校していないようである。鞄も彼女もいなかった。そして前方、赤井はいた。眠いのか、机に突っ伏している。
「……一緒に登校はしないんだ……」
誰にも聞こえない声でポツリと呟く。芽緒はまた何かを期待している自分に気付きハンと軽く鼻を鳴らした。
「バカらしい」
その感情が表れたのか少々乱暴に椅子を引く。ガタンと音が鳴ると、赤井がむくりと起き上がった。
「あ、龍架……」
眠気眼を擦りつつ赤井はしばしぼうっと芽緒を見つめていた。そして唐突に立ち上がる。
「龍架!ああ龍架じゃん!ちょっと来い!!」
すると彼は芽緒の腕を引っ掴み、足早に教室の外へと連れ出した。

「ちょ、お前何すんだよ!」
あまり人が通らない非常階段の踊り場に連れて来られた芽緒はバッと赤井の手を振り解く。窓も開いておらず、朝の光は入ってこない薄暗い場所だ。
「オイ龍架」
「はい?」
がっしりと両の肩を掴み、赤井は芽緒に詰め寄る。
「なぁ、お前ちゃんと銀好きだよな?」
「はぁあ?」
今更何を聞くか。自分が彼女をどれほど好きでも、彼女が選んだのはお前じゃないか。俺がどう想おうと意味はない。
「も、もういいよ。銀さんの事は、もういいよ俺」
「は!?なんで!?!?」
「な、何でって……こっちが聞きてぇよ。なんで赤井にそんなこと聞かれなきゃいけねぇんだ」
選ばれたのをいい事に俺を苛めようってか?選ばれないのにずっと執着するほど俺は往生際悪かねぇよ。
「幸せいっぱいのお前に何が分かるんだよ!?よかったよな赤井!俺の事なんてもう気に留めてくれんな!!」
「え?龍架何言って…………」
そのきょとんとする赤井でさえも、芽緒はいらだった。
「うるせぇよもうほっとけ!」
「ちょ、お前……おい待てよ!!」
赤井の制止も聞かず、芽緒は逃げた。階段を駆け上がって、教室を目指す。もういい、どうでもいい。構ってくれるなと彼は逃げた。
 対して赤井は呆然とする。ただ薄暗い踊り場に立ち尽くし、首を傾げた。
「なんだ……あいつ」
「ふぅ〜んそゆことでしたか」
「うわっ!?江月!?」
いつの間に現れたのだろうか。背後には永が腕を組んで立っていた。
「い、いつからいた……?」
「ん?さっき。まぁそんなこたどうでもええよ」
そ、れ、よ、り、と永は指を振ってにんと笑った。
「なんとなく分かったよん今の状況」







ネット小説ランキング>現代FTシリアス部門>「ストラグル・ドラゴン―STAGE1―」に投票





ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(3) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう