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ストラグル・ドラゴン―STAGE1―
作:拓平



第十六章


 優しく肩を揺さ振られている。ふわりと夢の中から浮き上がる。
「――ん……うか……くん、龍架君!」
薄っすらとあけた目で確認したのは、目の前に迫る友蘭の顔。一気に意識は覚醒した。
「ぅわっっ!!!」
「きゃっ」
驚いてがたんと立ち上がったら、友蘭も驚いて慌てて身を引いた。丁度後ろに立っていた永に友蘭の背中がぶつかる。
「おっ」
とん、と両手で友蘭の肩を支え彼女の勢いを止める。
「ごっごめん江月君っ」
「いいよいいよー。……おはよう、芽緒」
永は友蘭にはさわやかにかつにこやかに言う。だがその後、明らかに赤面する芽緒に視線を向けた彼の口の端はつりあがる。先程の距離は眠気を飛ばすには丁度いいだろう。
「え?あ、う、うん。あっ、ごめん」
「ううん。それより龍架君、もう皆外だよ、早く行こ?」
「う、うんうん」
まだ心臓が五月蠅い胸を押さえ、芽緒はこくこくと頷いた。
 芽緒が熟睡中にバスは目的地に到着。広い駐車場で一旦二年生は集められ、芽緒達も並ぶクラスメートらの中に慌てて加わったのだった。


 「ここから歩いてすぐの所に遊園地があるから、今日はそこで自由。えーと五時にまたここに集合。
 明日も同じところで自由、午後繁華街に行きたい生徒は先生に言いなさい。遊園地で乗り放題の腕輪……今配ってるな。それは明日も失くすな、なくしたら何も乗れないからな」
学年主任の先生は全員をしゃがませ声を張り気味に言う。他の教師が腕輪をそれぞれのクラスに配る。
 「なぁ」
「うん?」
芽緒は腕輪に手を通しながら近くにいた智広に声を掛けた。
「なんで二日も同じ遊園地なんだ?」
「ああ。今度の遊園地ね、すごく広いんだって。だから一日で廻れないらしいよ?」
「ふぅん」
「班行動で!他の人の迷惑にならないように!」
その先生の声を合図に全員立ち上がり、ぞろぞろと歩き出した。
 目指すは巨大遊園地。




 「ぅわぁあっ!!」
智広がパンと両手を打ち合わせて感嘆の声をあげる。大きな入り口のゲートをくぐった途端、別世界が広がっていた。
「……すご」
興味がない芽緒でさえもぽかんと口を開け放つ。隣の友蘭は瞳をキラキラと輝かせていた。
 ここ、『桜卿(さくらきょう)遊園地』は最近出来たテーマパークだ。中の雰囲気を第一に考え建物遊具に様々な装飾を施している。テーマは夢の国、とでも言うのだろうか。カラフルにかつ可愛らしく派手すぎず。外装に限らず内装までも手が込み、特に女子が喜びそうだ。そしてその敷地の広さも売りの一つ、一日で回りきれないというのも頷ける。
「銀さんもこういうの好き?」
芽緒がそう尋ねると、道を行くキャラクターのきぐるみを目で追っていた友蘭は我に返ったように赤くなりゲートで貰った地図で少し顔を隠して、上目遣いに芽緒を見上げた。そしてぎこちなく頷く。
「う……うん」
どくんと心臓が脈打った。そんな可愛らし過ぎる顔で見上げられたらもう芽緒は他はどうでもよくなった。
「そっそう」
「芽緒〜銀さーん何してんのー!?」
夢の中のような気分に浸っていた芽緒を我に返らせたのは永の声。いつのまにやら他のメンバーはあんなに遠く離れた場所で手を振っている。
「早っ」
芽緒は緩みきった顔を引き締めて駆け出した。




「何乗るー?」
峯山が地図を片手に首を傾げた。彼女は短いくるくるの髪を可愛く二つに結んでいる。小柄な容姿に合う髪型。峯山はふわふわしてて可愛らしい。いわゆる癒し系というやつか。
「やっぱ最初はジェットコースター!!」
小竹が勢いよく提案した。
「いいねー怖いの行こうかー」
「な!!」
小竹と峯山はいつも互い隣にいる。それが自然で当たり前の事なのだ。中学に入った時から一緒の二人。芽緒はふと思った。友蘭とこの二人のような関係になれたらどれだけ幸せだろうか――。
 その時、永が芽緒の袖を引っ張り相変わらずのにやけ顔を見せて囁いた。
「この二人みたいにーとか思ってたろ」
「!!!!!」
びくりと体を震わせ、誤魔化す様に声をあげた。
「おおおおお俺なんか飲むもの買ってくる!!!!」
「あっじゃあ俺も行きます兄さん。持てないだろうし」
夾羅は既に走り去っていく芽緒を追いかける。永は図星かと鼻を鳴らしにこやかに手を振った。
「俺コーラねー」
 「………大丈夫かな、龍架君」
芽緒と夾羅が買いに走っていくのを見守りながら友蘭は呟いた。
「ねね、友蘭」
智広がぽんと友蘭の肩をたたく。
「うん?」
「作戦A〜ジュースを買いに行く時は一緒に!!」
そういい、友蘭の返事を待たずに智広は駆け出した。
「私も手伝う〜〜〜!!」
唖然と小さくなっていく智広の背中を見つめる友蘭。隣で永が眉を潜めた。
「……じゃっ少なくなっちゃったけど乗るもの決めておきましょ!」
峯山が気を取り直して、地図を広げた。




 智広は芽緒(と夾羅)を追い掛けながらふふ、と笑った。折角のチャンスなのだから、出来る事は全てやるつもりだ。芽緒が友蘭の方が好きなのは知っている。だといって身を引くつもりはない。芽緒を振り向かせるのだ。
「今回は楽しいものにしなくっちゃ……ひゃっ」
「あっ」
スキップ気味になっていた智広は目の前に現れた者に気が付かず、そのままぶつかってしまった。ばさばさと大量の書類らしきものが地面に散らばる。
「キャー!!ごめんなさいっ大丈夫ですかっ!?」
智広は慌てて散らばった紙を掻き集める。落ち着いた女性の声が聞こえた。
「大丈夫よ、いいわ、私がするから」
顔を上げればさらりとした茶髪のストレートが目に入った。その瞳は少し近寄りがたさを感じさせるものの、その容貌は整っている。
 智広は大人の女性に多少なりとも見惚れながら掻き集めた書類を手渡す。女性はぴっちりとしたスーツを着ていた。
「すみません、ホント」
女性はにこりと微笑んで書類を受け取り、黒いバックの中に滑り込ませる。
「いいのよ、気をつけてね」
「はいっ」
智広は一度頭を下げてまた駆け出した。




 「………………上瀬智広……か。元気な子ね」
女はコッコッとヒールの音を立てながら先程鞄に入れた書類の一枚を手に取り、呟いた。そして振り返る。もう智広は居ないが女はそのまま立ち尽くしふと口の端を吊り上げた。
「……今回は、楽しいものにしなくっちゃ……よね?」
茶色い髪を踊らせてまた前に向き直り、再び足を進め始めた。この愉快な遊園地とは場違いな不敵な笑みを浮かべ、天を仰ぐ。
「さぁ、折角なんだから楽しみましょう?ねぇ……龍架の長男……いえ、龍架芽緒君」







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