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この世界は男性に厳しすぎる!

作者:中酸実
 どうも、短編は二作目となる中酸実です。
 マリシャスさんのあべこべエッセイに感化され自分であべこべ小説を書いてみました。転移物ですがどうぞ、楽しんで下されば作者として嬉しい限りです。
「はぁ、どうしようか・・・」

 悲壮感あふれるため息が昼下がりの河川敷に消える。声を出した本人は平日の河川敷には似つかわしくない灰色のスーツ姿だ。

「まさか、働いていた会社があんなことしてたなんて・・・」

 これからどうしようかと考えつつ、今日の朝起こったことを思い返す。


 一日だけの平日休暇を酒飲みで満喫し、「今日も一日がんばるぞ!」といき込んで出勤したのはいいものの、会社の前で待っていたのは共に苦難を分かち合う同僚ではなく、会社を封鎖している警察の方々だった。
 急いで同僚に電話をかけると。

「もしもし、おい!どうしたんだよ?出勤したら会社が封鎖されてるぞ!?」
『あ?ああ、お前はそういや昨日いなかったな・・・』

 やけ酒でもしたのだろうか、明らかに煩わしそうな声で同僚は答える。

『実はな昨日、何処から情報を嗅ぎ付けたか知らんけどな。急に警察の方々が来て押し入り捜索してな・・・うっ、気分悪。そんでな警察が捜索したところ、出てくる出てくる不正や犯罪の証拠。そんで今に至るんやな・・・ってかお前、今日のニュース見てないん?一面にどどんと載ってるやん・・・』
「俺、今日遅れそうだったからテレビつけてないしスマホも見てない・・・」

 明らかに飲みすぎだろう電話越しから嗚咽が聞こえる。

『そうなんや、なんでもあまりの不正の多さに会社倒産するらしい。今やってるニュースで言ってるな。』
「まじか、全然知らんかったよ・・・」
『ったく、情報にうてぇ奴だな・・・それだからいつまでたっても童貞なんだよ(笑)』
「ど、ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!それよりお前はどうするんだこれから。」
『どうしようもこうしようもないな、とりあえず暫くは様子見てやな・・・それからハロワでも行こうかと思ってるよ。そ、それより、もうええか?も、もう限界・・・』
「おっ、おう、ありがとな!おかげで助かったよ、じゃあな!」
『どうってこ・・・』

 そう言い残して電話はぷつりと消えた。

「大丈夫か、あいつ・・・」


 っとこれが朝の出来事。
 あの後、当てもない俺はどこかに腰を下ろしたいと思い。今に至るというわけ。

「はぁ、どっか遠くへ行ってしまいたいなぁ~」

 俺の心から出たため息もこの河川敷に消える・・・はずだった。

「おっ!お兄さん、君遠くへ行きたいんだね。」
「へっ?」

 独り言を拾われた事に驚きつつ声のする方向へ振り向く。
 そこには10歳位の少年とも少女とも言えるような中性的な子供が立っていた。その子は俺の隣にちょこんと座ってきた。

「まあ、確かに遠くには行きたいけど。今の暮らしも捨てがたいんだよね。」
「フムフム、時代は現代と・・・」

 子供のじゃれあいだと思い、俺はその子に答える。すると、その子は懐から紙を取り出してメモを書きだした。

「何を書い・・・」
「じゃあさ、お兄さん。過去に戻りたいって思ってる?」

 こちらの質問をぶった切られたことに多少の不快感を示しつつも俺は答える。

「確かに戻れるなら戻りたいよ。でもね、今の人生も結構気に入っているんだ。」
「じゃあ、転移だね・・・それと少しパラレルワールド的要素も・・・」

 ぶつぶつ喋りながら、その子はまたメモを取っていた。不思議に思いつつ俺はあきらめずにその子と会話のキャッチボールをしようと試みる。

「ねぇ、君はどっから来・・・」
「じゃあ最後にお兄さん、お兄さんはモテたい?」

 急にそんなことを聞いてきて「何だこの子供は!?」っと思ったが、そこは大人のプライドで何とか平静を保ちつつ。その子に答える。

「そりゃ、モテたいよ。男ならモテたいって答えるはずだよ。」
「じゃあ、この世界で決まりだね・・・」

 うんうんとうなずきながらその子は持っていた紙を畳み立ち上がり。そして満面の笑みでこう告げる。

「お兄さん、質問に答えてくれてありがとう!お兄さんの希望通りの世界に行くかどうか分からないけど。目一杯、人生を謳歌してきてね!」
「えっ?それってどういう・・・」

 俺の言葉が言い終わらないうちに目の前が霞んできてしまいに真っ暗になった。


 目が覚めたら寝転がっていた。体を起こして辺りを見回すと、あの不思議な子供と喋った河川敷のようだ。ただ違うのは、時刻が夕暮れになってる事だろう。
「何時なんだ?」と思い、ポケットのスマホを取り出し時刻を見ると。時刻は6時になろうとしていた。

「あ、そうだ。荷物は・・・無事か。」

 こんな河川敷で無防備に気を失ってたことを思い出し、急いで荷物を確認する。4時間以上気を失っていたのに、会社の資料も財布も無事だったことにホッとした。

「ってか、何で会社の資料が無事でホッとしてんだよ。もう潰れるだろあの会社・・・」

 気がついたら会社の資料を真っ先に確認したあたり、社畜に染まってたんだなぁと実感しつつ。悲しくなって一人つっこみをする。

「さて、帰ろうか。もういい時間帯だし。今日は色々あって疲れた・・・」

 気を紛らわすためにそんなことを呟き。俺は帰路に着いた。


 外食する気にもなれず、俺は夕食を買おうと思いコンビニに立ち寄る。が、コンビニに入った瞬間。

「いらっしゃ・・・ませ。」

 コンビニの中は若い女性店員が一人しかいなく、その店員がまるで動物園のパンダを見るような目でこちらを驚いた様子で見ていた。その視線に不安を感じつつ、夕食のためのおにぎり3つを持ってレジへ進む。

「こっ、こちら3点でまっ、間違いないですかっ!?」
「は、はい・・・」

 かなり緊張しているのか、ロボのようにカクカクしながらレジを打つ女性店員。

「さっ、3点でにっ、275エンです!」

 1個100円以上するコンビニのおにぎりが3つなのに300円以内になる訳がない。そんな簡単なことに気づかないほど馬鹿じゃない、と思いつつ店員さんに訂正を告げる。

「あの、それ375円の間違いないじゃないですか?」
「すっ、すみませんでした!」

 緊張のあまり、店員さんはどうやら素で間違えていたみたいだ。土下座するような勢いで謝罪する店員さん。さすがに居心地が悪いので店員さんに笑顔で励ます。

「誰にでも、失敗はあります。失敗を乗り越えて人は成長するものですよ。・・・っと、お金がまだでしたね。」

 どこにでもあるくさいセリフを述べた自分が恥ずかしくなり、急いで自分の財布から小銭を探す。財布には丁度375円があり、それをレジカウンターの上に置いてあるトレイ(正式名称はカルトンと言うらしい)に入れる。
 ・・・が、いつまでたっても動かない店員を不思議に思い、ふと視線を向けると。店員さんは顔をゆでだこのように赤くして固まっていた。流石にそのままにしておくのは何なので声をかける。

「あ、あの店員さん。お支払いの方は・・・」
「・・・すっ、すみません!ちょ、ちょっと立ちくらみがしまして!」
「そうですか、体に気を付けてくださいね。働きすぎは良くないですよ。あ、レシート要らないです。」
「りょ、了解しました!」

 新人1人に店を任せるなり、立ちくらみがするほど働かせたりこの店は大丈夫か?と思いつつ商品を受け取りコンビニを出る。すれ違いざまに女性の客が入って来たけども、その人もまるで水族館のペンギンを見るような目でこちらを見ていた。
 「俺の顔に何かついているのかなぁ」と思いつつ俺は一直線に自宅に帰った。



・・・が、俺はこのときは知る由もなかった。俺の今いる世界が男女比1:1の世界ではなく、1:20の世界に転移していたことを。



「はぁ~、あの男の人かっこよかったな~。もう、頭の中とろけそうだよ~。」

 生まれてこのかた、20年ちょっと。男性とひたすら縁のなかった人生・・・。っとその前にこの国、いやこの世界の男性について説明しといた方が良いだろう。
 この世界は男性が全体の人口の5%しかいないため。生まれたときから、まるで希少動物のような扱いを受ける。それもそうだ、自分たちの子孫を残せる人が20人に1人いるかいないかなのだからだ。
 では、男性の方はどうだろうか?実際問題、女性を毛嫌いする男性はこの世界では圧倒的に多い。なぜならば、幼い頃から母親から女性は怖いと教えられ、また生活は貴族のような待遇、そして極めつけは一生働かないでも将来が安泰なのだ。・・・これで性格がねじ曲がらない方がおかしい。私だったら絶対性格がねじ曲がってる事だろう。
 男性が極端に少ないこの世界では、もちろん犯罪者も女性に傾く。と言うか、男性の犯罪者なんてほとんど記憶にない。これも男性の女性嫌いを加速する一員なのだろう。
なので・・・っと言ったら言い訳がましいが、人生20年ちょっと、男性と縁どころか存在もなかった私はしかたないのだ。急にコンビニバイトの途中で男性が、しかも一人でコンビニに来たことに驚きと緊張を隠せなかったのは・・・。

「お~い、惚気るのはいいけどさ。客を置いてトリップするのはどうかと思うよ?」

 気が付いたら目の前に商品を持った女性客が悪態をついていた。たしか、あの男性とすれ違いに入って来た女性客だ。

「確かに、こんな世界じゃあ滅多に見ない、いい男性だけどさぁ。」

 彼女が言ってるの容姿のことだろう、この世界の男性は大抵は働かず家でゴロゴロしているか女性に監禁(しまっちゃう)されるのが常だ。おかげで容姿は・・・うん、これ以上は言わない事にする。また、容姿が良くても性格が壊滅的なのだ。私だって、容姿も良くてかつ性格もいい男性など二次元にしかいないと思っていたんだ・・・つい先ほどまでは。

「それだけじゃないんですよ!彼、とっても優しかったんです!初めての男性に緊張のあまりミスした時も、罵りや暴力もするわけでもなく。私を≪笑顔で≫励ましてくれたんですよ!もう、あの笑顔と言えば最高なのd・・・」
「はいはい、妄想乙妄想乙(笑)」
「妄想じゃないです!現実です!」
「そこらへんにしてさ、さっさと会計済ませてくれよ。明日、早いんだからさ。」
「あ、はい。すみません。」

 見たところとても若そうなのにインスタントラーメン、ビールにあたりめといった、中年のおばさんっぽいチョイスに苦笑しつつ。慣れた手つきでささっと会計を済ます。

「4点で税込み1612エンとなります。」
「はいよ、小さいのないからさ1700エン。」
「はい、お釣りの88エンです。」
「ん、了解。お前も変な妄想見るぐらい働いてるんだったらさ。休んだ方が良いと思うよ。」

 真面目な顔で心配されたので、慌てて反論する。

「余計なお世話です!」

 ハハハっと笑いながらコンビニを出る女性客。

「っんもう、散々からかって・・・でも、やっぱりあの男性客かっこよかったなぁ。」

 男性客のレシートを見て、妄想じゃなく現実だということことを確認しひとりごちる。今日のオカズは決まったと考えながら、彼女は残り1時間のコンビニのレジに励むのであった。




 見慣れたアパートが目に入りホッとしたと同時に疲労感がドッと押し寄せる。慣れたように急こう配の外付け階段を上り、最短距離で愛しの我が部屋、203号室を目指す。そしてこれもまた慣れた手つきで鍵を取り出しロックを解除する。ガチャリと何年も聞いて聞き飽きた鍵の外れる音に安堵感をかみしめつつ扉を開けると・・・

 殺風景な我が部屋が広がっていた。

「へ!?」

 殺風景な部屋に思わず心の声が出る。いや、殺風景と言うには語弊があるだろう。部屋の中には≪何も≫なかった。そして今、現在進行形で驚いている。思わず部屋番号を三度見したぐらいだ。

「こう言う時は警察か?でも、泥棒の仕業にしては明らかにやりすぎてる。それにちゃんと鍵が掛かってたしなぁ・・・」

 河川敷で4時間以上寝たはずなのに襲い掛かる睡魔と格闘しつつ思考をめぐらす。

「ああ、もうだめだ。明日になってから考えよう、どうせ仕事もないんだからな。」

 思考を放棄し、すっからかんになった部屋の中に入る。後ろでカツカツと階段を上るハイヒール音が聞こえる。
「あれ、このアパート女性が住んでたっけ?」と一瞬思ったが。まどろむ思考に勝てず、部屋に入るなや否や寝てしまった。




「はぁ、今日も疲れた・・・」

 3日連日夜勤で心も体もボロボロだった、そして極めつけはさっきのコンビニ店員のありもしない妄想話。もう人生やってられるかぁ!と思うが、明日は休日なのでゆっくりしようと心に誓う。
 いつものように無駄に急勾配な階段を上り、ふと自室を見ると。男性が私の部屋の隣の部屋・・・203号室に入ろうとしているところだった。それも男性が滅多に着ないスーツ姿の男性だ。男性がスーツなんて珍しいと思っているとふと思い出す。そうだ、さっきコンビニですれ違った男性だ。しかも、あの店員さんの妄想話に出てた男性だ。
 あの店員さんが言ってたことは信じられない、現実であのような男性がいないことは人生25年ではっきりと痛感した。
 小学生の時だ、思い切ってクラスの男子に声をかけたら。

「は?何話しかけてんの?」

 っと、ひどくあしらわれたし。その後も何かと偉そうに罵詈雑言を並べてきた。
 中学生の時も男子と言ったら、自分が偉そうに喋る。さも当然のように地球が自分中心にして回るような態度をするのだ。もちろん先生は何も言えないし、女子は男子の気を引こうと頑張る。それを鼻にかけてさらに態度がでかくなるのだ。
 こんな私でも初恋はした、高校生の時にクラスの男子に惚れたのだ。中学の時まで男性に惚れるのは馬鹿らしいと思っていたけど。自分が恋してしまってからは他人に言えないようになっていた。
 そして高2の時、思い切って告白したが。返事は・・・

「馬鹿がぁ、お前のようなブスに俺がOKするとでも思ったのかぁ?」

 っと、告白の返事に対してはあまりに酷い言葉の羅列だった。それからことあるごとに、私が告白したことをネタに持ち出してきてからかった。その時、私は実感した。現実の男には碌なのがいないって。
 昔の事を思い出しズキリと痛む背中にため息をつきつつ自室に入り、ベットに倒れ込む。部屋の中はアニメや同人のグッズとかであふれかえっている。そう、現実の男性にうんざりした私は二次元にのめり込む事となった。
 ベットに倒れ込んだ私に強烈な睡魔が襲い掛かり、眠気と格闘しながら呟く。

「そういえば、隣の部屋に人住んでなかったさな。明日、大家さんに聞いてみよう。」

 その呟きを境に私は眠気に負け。夢の世界へと引きずり込まれていった。

 翌日、昨日は早くに寝たせいか目覚めが非常にスッキリだったが。起きた時間は平日、会社がある日に目覚める時間だったことが。着実に社畜に染まっていってるなと悲しい自覚をしつつふと思い出す。この時間帯は大家さんがいつも外で掃き掃除をしている時間帯だ。昨日の疑問をぶつけるために私は着替え、急勾配の階段を下りる。そこにはいつものように掃き掃除をしているおばあちゃんがいた。
 101号室の住人である大家さんは60歳ぐらいで口癖は「若い頃はモテてたのぉ」っと言う明らかに、歳のせいで記憶が混同しているおばあちゃんだ。

「あらあら、202号室のえっと・・・だれっだったかの。」
「大家さん、そのやり取り三日前もしたさ。それより、203号室って誰か住んでましたっけ?」
「え~、誰も住んでないの。203号室は3年前から空き部屋やのぉ。ほぉら鍵もこの通り。」

 そう言うと大家さんはポケットから203とタグのついた鍵を取り出す。
 昨日のことは、幻覚か現実か。そのことを確認するために私は思った。

「とりあえず大家さん、203号室に付いて来て下さい・・・」




 インターホンの音に目が覚める。何もない部屋の中、拙い記憶を辿っていくと昨日のことを思い出す。

「ああ、そうだ。昨日は疲れてそのまま雑魚寝したんだった。」

 なおも鳴り続けるインターホンの音に煩わしさを感じつつ玄関に向かう。

「誰だよ、こんな朝っぱらから・・・」

 っと、少し不機嫌そうに愚痴りながら玄関に手を掛けようとしたその瞬間。

 ガチャリ

 っと、ドアが勝手に開き扉の向こうには、見知らぬ若い女性と老婆がこちらを見て驚いていた。あまりの事に自分も理解できず、おもわず。

「ど、どちらさまで・・・」

 反射的にその様な言葉を呟いていた。


 あの後、同行を求められた俺は101号室の大家さんの部屋にいた。大家さんの部屋は畳が敷いてあり、俺の向かい側ちゃぶ台を挟んで女性二人と言う構図で向かい合っていた。

「で、あなたの話をまとめるさ。自室に帰ってきたら部屋には一切の荷物がなかった・・・と。」

 結構バッサリ話の端を折ったなぁと思いつつ、202号室の住人と言ってる女性に返事をする。

「え、ええそうです。所でそちらの方ではどういう風な状況になっているのですか?」

 なるべく、下手に刺激しないように疑問をぶつけてみる。すると・・・

「こっちでは203号室には3年間、誰も住んでない事になってるさ。」

 彼女が驚愕の事実を口にする。隣では大家さんがうんうんとうなずいている。

「え?」

 事態が呑み込めず素っ頓狂な声が出る。

「だから、203号室には誰も住んでいないんさ。資料の上ではな。」
「え?だって自分、三年間住んでましたよ!ちゃんと大家さんに家賃を・・・あれっ?」

 そこまで言いかけて、ふと気づく。確かに大家さんは60代のおばあちゃんだったが、今目の前にいる人ではなかった。それに101号室も畳張りではなく、フローリングだったはず・・・
 急に黙って考え出した俺を心配したのか彼女が声を掛ける。

「あの、急に黙り込んでどうしたのさ?」

 その声にふと我に返り、今考えてたことを報告する。

「え、ええ。何と言いますか。なんか違うと言いますか。何でしょうこのもやもや感・・・」
「違うって、まさか住所間違えてるって言うオチじゃないのさ?」
「違います!住所は確かにここです。間違いありません!」

 それを聞いてう~ん、と考え込む彼女。すると一つぽつりと呟いた。

「じゃあ、警察行くといいさ。」
「・・・へっ!?」

 まさか自分が警察のお世話になるとは、24時間前の自分は全く予想していなかっただろうと思った・・・




 この国には警察の部署の中に≪男性保護防犯部≫と言う部署がある。これは男性と言う犯罪に巻き込まれやすい存在を守るために作られた部署で、主に犯罪の被害者になった男性のケアや男性への防犯が活動内容となっている。この国の男性はおろか国民全員が知っていて男性と接触しても犯罪にならないということから、今人気になっている職業・・・のはずだが、目の前の男性はその事をまるで知らないかのように首をかしげている。
 そもそも、普通こんな理不尽な状況に陥れば男性は癇癪を起すか、暴れるかの二択なのだ。だが、この男性は不思議で落ち着いて対処している。それに、私たちに話す態度も上から目線の傲慢な態度ではなく対等、いやむしろ私たちより下手で出ている。そのせいか、自分が自然な口調になっているが・・・ともかく不思議な男性だと思いつつ、男性保護防犯部について説明する。

「この国では男性保護防犯部と言いまして男性を保護する部署が警察にあるのさ。」
「何時から、この国の警察にはそんな部署が出来てたんですか!?それに保護すべきは男性ではなく女性の方じゃ・・・?」

 女性を保護?何を言っているだこの男性はと思ったが、それより気になるのはこの男性が微塵のかけらも知らないということに驚いた。それに彼の言い分だと、つい最近作られたようなニュアンスだが。実際は私の母が生まれる前、男女平等保護法が制定されたときに作られた、とても古い部署である。

「とりあえず、警察の人に話を伺おうさ。そうじゃないと何も変わらないさ。」
「あ、はい。分かりました。」

 男性なのにしっかりと素直になるあたりこの男性は他とは違うなと思いつつ。111と男性保護部に直接繋がる電話を掛けた。
 ・・・その後の事は結論から言うと、この不思議な男性はこのアパートの203号室、つまり私の部屋の隣に住む事になった。




あの後、俺は人生初となるパトカーに乗って警察署に行き事情を話したところ丁寧に対応してくれた。何故か体や顔をじろじろ見られたりはしたが何とか事は進んだ。
 そしてこの世界の事情を聞かされたときは驚いた、この世界は男女比が1:20で男性が絶滅危惧種のように扱われていることや男性は働かなくてもいい事、また一夫多妻制が義務化されているなど・・・男女比が1:1の国で生まれた俺には到底理解できないような常識がこの世界にはあった。
 そして、婦警さんは犯罪者が女性に傾き、被害者に男性を多数含まれる事実を述べ。俺に外出するなら特に用心しなさいと警告し、スタンガンを渡された。
 「この世界の男性、ハードモードすぎやしないか・・・」と思いつつ、苦笑いしながらスタンガンを鞄にしまう。
 分かれ際になぜか警察の人に握手を求められたりしたが何だったのだろうか・・・
 そしてもう一つ、スマホにある電話番号を一通り掛けたが。誰一人としてかかることはなかった・・・そう、この世界で俺を知るものは誰もいないのだ。
 余談だが、この世界の携帯電話番号は12ケタと言う事を後で知った。


俺がこの世界にきて1週間が過ぎた、生活費は国から落ちてるし家具も男性保護部から無償でくれた。住むところを自由に選べるらしいが、俺は結局あのアパートに住む事にした。何より俺が前の世界から知っているアパートだったから、何というか中々離れないのだ。何かあったらすぐに連絡してくれと男性保護部の婦警さんたちから連絡先を渡されたが、どう見ても個人の連絡先なのだ。
 3日ほどはごろごろしていたが、4日目流石に何もしないのは大変居心地が悪く、大家さんに相談した所、大家さんが毎日やっている掃除や花壇の水やり、草抜きなどを代わりにすることにした。大家さんはとても感謝していたが、こちらとしてはタダで住ませて貰っている身なので複雑な気分だ。
 大家さんの仕事をしているとアパートにすむ住人との交流も出来た。住んでる人は俺以外全員女性で(まあ、こんな世界だから仕方ないのだが。)個性豊かな面々だった。その中でも仲がいいのは俺に警察への出頭を進めた202号室の(・・・そういえば名前聞いてないや。)女性である。と言っても、毎朝、掃除のときに顔を合わすのと、時たま買い物帰りにばったりと会って喋りながら帰る程度の仲である。


 そんな生活が2週間続いたころ、今日も時たま買い物帰りに彼女とばったりとあった。前から気にはなっていたが彼女はいつもカップ麺やら冷凍食品を買い込んでいる。本日も例外なく買い物袋いっぱいにインスタントラーメンを買い込んでいた。やはり気になったのでそれとなく聞いてみる。

「毎日、カップ麺ばっかだと体を壊しますよ。」

 急に聞いてきて彼女はびっくりしたみたいだったが、すぐに口をつーんと尖らせて答える。

「私だってカップ麺ばっかは嫌さ、でも料理が作れんのさ・・・」

 予想のど真ん中の回答を彼女は答える。いつも食材を買い込まず、カップ麺やら冷凍食品を買い込んでるのでもしやと思ったが予想は的中した。なので、つーんとそっぽを向いている彼女に俺はこんな提案をする。

「あのさ、迷惑かもしれませんが。料理食べて行きません?」

 料理には自信があった、一人暮らしが長いせいで自然と自炊ができるようになったのだ。その腕前は元同僚に言わせると

『あんさんの料理は普通に店開けるな!』

 ・・・らしい。っと話を戻すと、俺の提案を聞いた彼女はバッとこちらに振り向いて。

「全然迷惑じゃないさ!」

 と言って、首を赤べこのように上下にぶんぶん降っていた。



「へぇ、いい部屋さ。」

 っと彼女は部屋を見渡しそうコメントした。もちろん俺は緊張していた、生まれてこの方、女性を家に招いたことなどほとんどなかったからだ。
 緊張を紛らわすために台所に向かう、本日のメニューはロールキャベツだ。
 材料の下ごしらえをしているとリビングから声が飛んでくる。

「結構、殺風景さね。」

 彼女なりの感想だろう、その感想に俺は答える。

「どうも、他人の金で嗜好品とか買うのは居心地が悪くてですね・・・」

 これは心からの本心だ。やはり、今支給されているお金が国民の税金から出ていると思うとどうも贅沢する気にはなれない。しかも、支給される金額がどうも1桁おかしいような気がする。唯一ある嗜好品はテレビくらいだがこれは男性保護防犯部から支給されたものだ。

「暇な時はどうしてるのさ。」
「料理の研究したりしてますかね。」

 最近は暇すぎて色々と料理の研究とかをしている。なので、料理の腕は元同僚に食わせたときよりも遥かに上達してる・・・と思う。

「お、じゃあ。期待してもよさそうさ。」
「あまり、過度な期待はしないでくれよ。」

 変に期待させたかなとか思いつつ、最後にクレイジーソルトで味を調え仕上げる。

「はい、おまちどうさま。本日のメニューはロールキャベツだよ。」
「お、いい匂いさ。でもこんな短時間でロールキャベツって出来たかな?」
「短時間で仕上げる裏技があるのですよ。」

 そう答えたときに、丁度炊飯器がピーと音を出し炊き上がりを知らせる。茶碗にご飯を盛り、食べる準備を整える。

「じゃあ、いただきます。」
「いただきますさ。」

 いただきますと言いロールキャベツに箸をつける、一口食べて味を見る。うん、今回もうまく出来たと自画自賛していると。

「ひっくひっく・・・」
「!?」

 ロールキャベツを食べた彼女は泣いていた・・・

「ど、どうしたの!?」

 いきなり泣き出し困惑する。

「い、いやさね。あまりにおいしくて優しい味だったから。・・・思わず涙が出しまったのさ。おかしいね、料理を食べて泣くなんてさ。」
「い、いや泣くほどおいしいって言ってくれて、こちらとしたら作り手冥利に尽きます。」
「こんなおいしい料理やったら、毎日でも食べたいさ。」
「だったっら、毎日食べに来ますか?」

 冗談で言ったつもりが彼女はガバっと顔をあげてこちらを見る。

「い?いいのさ!?」
「は、はい。食材を持って来たら作りますよ。」

 余りの勢いに押されつつ、予防線を張って答える。

「ありがとう!これから毎日食材を持ってくるさ!」

 そう答え満面の笑みを浮かべる彼女は本当にかわいくて不覚にもドキッとしてしまった。
 こうして彼女が食材を持ってきて俺が調理をするという関係が出来た。この関係は俺が彼女に毎日料理を作ってる事が他のアパートの住民にばれる二か月後まで続くことになる。



 この男性は他の男性とは違う、そう思うようになったの何時からだろう・・・いや、思い返してみたら最初からか。他の男性ならばもっと良い所を住みたいと思うが、この男性はこのおんぼろアパートに住みたいと言う事を大家さんから聞いた。さらに、彼が住み始めてから5日後。会社に出勤するためにスーツ姿で階下に降りると、いつものおばあちゃんではなくて彼が掃除をしていた。私が困惑のあまり固まっていると、彼はこちらに気づいたようで。

「あ、おはようございます。」

 と、爽やかな笑顔で挨拶してきた。男性が笑顔でこちらに挨拶をするという、あまりの突然の事に「まるで、二次元からそのまま飛び出してきたかのようだ。」とつい数秒固まってしまっていたが。そこはサラリーウーマンの意地で、笑顔で挨拶を返す。
 すると彼はホッとしたかのように掃き掃除へと移る。私はつい固まっていたのが恥ずかしいのと下半身の疼きを抑えるために、速足でその場を去った。いつもよりも会社へ早く着いたのは内緒だ・・・。

 会社の同僚に今朝の事を話すと。

「はいはい、妄想乙妄想乙。」

 と、私がいつぞやのコンビニの店員に言ったことと全く同じことを返された・・・


 彼がこのアパートに住み始めて10日がたったある日。私はばったりと彼に会った、時刻は夕刻、私も彼も買い物帰りと言う状況だった。そのまま、踵を返して去る訳にはいかないので。自然と一緒に帰ることになったが、男性と横に並んで歩くなんて人生初だ。
 私は緊張のあまり下を向いて黙り込んでいた。ふと、彼の買い物袋を見ると野菜やお肉と言った男子力の高い買い物内容が見てとれるのに対し。私の買い物袋はインスタントラーメンや酒、おつまみと言ったとてもおばさん臭いラインナップ・・・最近では、男子力の高い女性がモテると言うが。私にはその微塵のかけらもない。
 話すこともなくただ黙って歩くだけと言う、気まずい雰囲気に押しつぶされそうになった時、ふと彼から声がかかる。

「あの、今日はどんなものを買ったのですか?」

 急に話しかけられたせいで、あたふたしてしまい。つい本当のことを口にしてしまう。

「え、えっと。ビールにおつまみにインスタントラーメンさ!」

 口に出してしまってから、しまったと思う。この世界の男性はおばさん臭いのをとっても嫌うからだ。ただ、口に出した相手がこの世界の男性に当てはまらないと言う点が、私に功を奏したのかもしれない。

「やっぱ、飲みますよねビール。仕事疲れには最大の薬ですよあれは。」
「は!?」

 どんな罵詈雑言が飛び出てくるかと身構えてたところ。優しい声で共感するように話す彼に思わず淑女として情けない声をあげつつ彼の顔を見る。すると、彼はうんうんと頷いていた。
 正直言って私は驚いた、おばさん臭い私を罵るどころか共感したのだ。この世界の男性はビールが苦手だ。おばさん臭いというのもあるが、何より苦いと言う点にあるのだろう。なのでこの世界の男性はビールを飲まない。それなのに彼は、あたかもビールをいつも飲んでいるかのように共感している様子に、私は親近感を覚えた。
 それが話の切り口になったのだろう、それから彼と取り止めのない話をしながら帰路に着くことになった。

「じゃあね、また明日。」
「うん、また明日さ。」

 名残惜しいと思ったが、彼が部屋に入ったので私も自室に戻る。ベットに倒れ込むと心臓の音がバクバクと聞こえ、体の疼きが止まらない。これは何回かいたさないと眠れないかなと思いつつ。隣室の男性へ思いを向ける。
 この頃だったのだろう、彼を特に意識するようになったのは。もう二度と恋なんてしないと思っていた自分が、淡い恋心を持つようになったのは。




 あの素敵な男性が初めて来店した日から、すでに10日以上たった。本日も客足が少ないみたいで店内は店員である私以外、人っ子一人いない。

「はあ、また来てくれないですかね。あの男の人。」

 そんな呟きを漏らしてみると自動ドアの音が聞こえる。私の呟きが神様に届いたのかなっと思い、入口の方を見ると。店に入ってくるのは女性だったことに深くがっかりした。

「いくら女性だからってさ、そんな不機嫌そうに接客するのはどうかと思うさ。」

 私そんな顔してたっけなと思い、目の前の女性を見る。どこかであったことがあるのは気のせいだろうか?
 そんな私の疑問をよそに彼女は喋る。

「この前の事は謝るさね。確かに、あの男性は妄想の産物ではなく、あんたの言う通り素敵な男性さ。」

 彼女からお金を受け取りつつ記憶をほじくり返す。ああそうか、この女性はあの男性の後にきて私をからかった人だ。でも、そんなことより大事な情報が目の前にあった。

「まるであの男性を知っているかの様な口ぶりですね・・・」

 大した情報は得られないだろうと思いつつ、愚痴りながらお釣りと商品を渡す。・・・がその女性はお釣りと商品を受け取るとバツの悪そうな顔でこう答えた。

「え、えと。その人さ。私の部屋の隣人なのさ。」

 一瞬、固まった後。思考をめぐらせ。ようやく状況が呑み込んだ時、目の前の女性に何としてでも
住所を聞こうと考えをまとめる。

「あ、あの!住所は・・・」

 が、女性は影も形もなかった。おそらく女の勘で己の危険を察知しただろう。俯いて考えた時間は10秒にも満たなかったが、その間に女性は逃走したのである。

「逃げられてしまいましたか・・・でも、今度会ったら何としてでも聞き出してやるのです!」

 決意を新たに残りの勤務時間に励む店員さんなのであった。




「はぁ、はぁ、いくら浮かれてたからって余計な事言うんじゃなかったさ。」

 店員さんの周りの空気の変化をいち早く女の勘で感じ取った私は、素早くコンビニを後にした。やはり口は災いの元だと言う事を実感しつつ自室に帰る。いつもなら、レジ袋の中にはビールとおつまみの他にコンビニで買えるちょっとした変わり種のインスタントラーメンが入っているのだが、今日に限ってはビールとおつまみだけ。代わりにもう一つ、スーパーのビニール袋がありその中には私が二度と買うことはないと思っていた野菜やお肉と言った食材が入っていた。
 全ては昨日、隣人の男性とした約束の為に・・・
 その約束と言うのが「食材を持って来たら調理してあげる。」と言う、この世界の女性ならば諸手を挙げて歓迎するような約束だった。顔も良く、性格も良いという正に二次元の産物としか言いようのない男性からの手料理だ。もう楽しみで楽しみで仕方がない。
 そう考えると昨日はまるで天国のような一日だった。帰宅途中、いつものように彼に偶然ばったりと会って(勿論、この時間帯なら彼がいるだろうと言う確信をもってだが。)一緒に帰る途中。彼に私の不健康なインスタントラーメン生活を見破られたが。そのあと、彼が提案したのが自身の手料理を食べさせてくれると言う、独身女性にとって、とても魅力的な食事プランだった。
 その後、彼の自室に行き。殺風景な彼の自室に驚きつつも料理ができるのを待った。
 実際、彼の料理の味を一言で言うのは非常に耐え難い。もし機会があるのならば原稿用紙一枚分にそのおいしさを書き綴っただろう、その位に美味しかった。そして、ただ美味しかっただけではない何というか・・・味わいがとても優しかったのだ。そう、その人の為に心を込めて作っている料理特有の優しさが彼の料理にはあった。
 そのせいか、女手一つで私を育ててくれた母親の事を思い出してしまい、私はいつの間にか涙を流していた。彼は凄く心配そうに見ていたが、私の方はと言うと「困った顔もいいな」と言う無粋な事を考えていた。
 そして、夕食後にくつろいでいるとき。その時に提案されたのが私が笑顔で食材を買い込む理由となった、あの約束だった。
 さて、本日も彼の部屋に向かおうか。美味しい料理と彼の笑顔を拝みに・・・




 隣室の女性と奇妙な約束をしてから1週間が過ぎた。そして俺がこの世界に来てから、約1ヵ月となる。このアパートの住人たちと大分、打ち解けた気がする。・・・何故か今でも顔をそらされる住人もいるが。
 それはともかく、大家さんに代わりアパート管理の業務をしているので大体の住人の日々の生活が分かってきた気がする。
 101号室は言わずもがな大家さん。俺がアパート関係の仕事を大家さんの代わりにしているので時間が出来たのか、最近は趣味のゴルフに没頭しているようだ。
 102号室の住人は工事関係の仕事をしているのか、いつも薄汚れた作業着を身にまとい朝の8時位に出勤している。元気が良く、挨拶をしたらあちらの方も元気に挨拶をすると言う。サラリーマンをやっていた自分にとっては好印象な人だ。
 104号室の住人は多分作家なのだろう、滅多に部屋から出ないがふらっと外に出たときの容姿は黒い服に乱雑に伸ばした黒髪、目の下に隈と言ういかにも作家っぽい姿だが。俺がその人を作家だと確信したのは少し前に編集者の人らしき人が104号室の前で締め切りの催促をしていたからだ。・・・何故かその時、俺も一緒に手伝わされたけど。
 201号室の住民は高校生だった。都会の高校に進学するにあたって一人暮らしを始めたそうだ。女子高生が一人暮らしって、よく親が許したなと思う。
 202号室はもう最近、俺の部屋に入り浸ってる会社員の住人。部屋には一度も入ったことないけど、彼女が部屋に招待してくれるまでは尋ねるのは無粋かなって思う。
 203号室は我が部屋だ、まあ、前の世界と比べて殺風景なのは致し方ないと思う。最近はやっぱり他人の金で生活するのがなんだか気に入らなくて、職を探そうかなって思い始めているとこだ。

 ふと、掃除をする手をやめ時計を見ると時計の短針は10時を指そうとしていた。そう言えば、隣人の姿を今日は見ていない。いつもなら8時30分位にこのアパートを出るはずなのだが・・・。今日、会社があることは昨日の夕食の時に愚痴っているのを聞いている。
 もしやと思い、俺は急いで202号室に向った。




「う~、気分悪。」

 寝起きは最悪だった、頭痛で目が覚め熱っぽさを感じ体温を測ると38.2度明らかに風邪。夕食時に一緒にいた隣室の男性にうつしてないかがとても心配だ。夕食を作ってもらった上に、風邪をうつしてしまったら合わせる顔がない。
 会社に休みの連絡を入れ、行きつけの病院の予約を入れようと思ったが。本日、行きつけの病院は午後診察のみ、仕方なく午後まで休もうと思いベットに寝転ぶ。
 改めて自分の部屋の様子を見てみるとひどいとしか感想が出てこない。床には乱雑に置かれた漫画や、脱ぎっぱなしの洗濯物、そして本棚の中には漫画や同人誌がずらりと並び、上にはフィギアが所狭しと並べられていて、極めつけは壁一面のアニメや漫画のタペストリー。モテない独身オタの汚部屋となっていた。

「私の部屋がこの状態じゃあ、あの人を自室に招待できないさな。」

 こんな部屋見たら彼、引いてしまうなとか思い。改めて掃除しようと意識を固めつつ、意識を手放すのであった。


 インターホンの音に意識が浮上してくる。そしてインターホンの音に交じって聞こえてくる男性の声。誰が訪ねて来たのだろうと、痛む頭を起こそうとした時。ガチャリと玄関の戸が開いた。

「お~い、大丈夫ですか?」

 今度ははっきりと聞こえたその声の主は、絶対に部屋を見られたくない人No1の彼だった。
 彼の姿を確認するや否やパニックになる。

「えと、えっとっっっ!」
「ちょ、大丈夫ですか!顔が赤いですよ!どうしたんですか?」

 そう言いつつ、私のベットに駆け寄る彼。私は半分あきらめつつ、素直に答える。

「風邪やけど、ちょっと寝れば大丈夫さ。」
「そんなことはないでしょ、見たところとてもしんどそうじゃないですか!」

 そう言うやいなや、彼は部屋を出た。しばらく後、彼は何かをもって私の寝てるベットのそばに来た。

「はい、お粥。作ってきましたよ、口を開けてあ~ん。」

 彼が持ってきたのはお粥だった。まさかあ~んをしてもらえるとは思わなかったが、厚意に甘えてお粥を食べさせてもらう。
 だが、彼はこの部屋を見て何も思わないのだろうか。怖いが気になって聞いてみる。

「あ、あのさ。この部屋どう思うさ・・・」
「ん?自分の部屋って感じでいいと思うよ。」

 帰ってきた返事に驚きを隠せない、まるでこの部屋を気にしてないかの様だ。

「なあ、引いたりさ。しないの?」
「なんで引く必要があるのですか?こうゆう部屋、自分にも経験ありますよ。」

 今の殺風景な部屋からは想像できない。彼にも、こんな部屋だったころがあったのかと驚いたが。そんなことを聞きたいんじゃなかった。

「そういうわけじゃなくてさ。あの、こんな趣味の女性、男性は嫌うっていうし・・・」
「こういう趣味、自分は好きですよ。それに、趣味とかって人それぞれですよ。よっぽどの事じゃない限り嫌いになるなんてありえません。」

 無理して言っているわけでもなく、本心から言っている彼に私は本気で恋に落ちたのだった。




 もしやと思って、202号室に入ったら。隣室の女性は寝込んで休んでいた、まだ、救急車を呼ぶ事態を避けられただけマシだと思う。
 ただ今、絶賛看病中である。お粥を作ってその後はひたすら寝かせた。午後に行きつけの病院に付き添いで行ったが、注目の的になっていた。男性が女性の付き添いをするのがそんなに珍しかっただろうか?
 健診な看病の結果、翌日には回復し会社に行けるようになっていた。彼女が会社に行くときに感謝の意を述べながら抱き着いてきた。そんなに会社に行けることが喜びなのか・・・俺には分からない。


 彼女が回復してから三日後。もはや習慣となった彼女との夕食後に、俺は自分のタダ飯食らいの生活にしびれを切らして、彼女にこんな相談をした。

「働く場所ってないですかね?」

 今まで彼女が驚く顔をしてきたのを見てきたが、今回の驚き加減が一番だなと思った。




 そう、私は最大限に思考をフル回転させ悩んでいた。事の発端は昨日の彼の相談だ、まさか男性が働きたいだなんて言い出すなんて・・・。しかもあんな真剣な顔で。相談はいったん保留にさせて貰ったけど、この難解な議題は私の仕事中にまでもつれ込むのであった。
 今は悩み疲れ、自販機の前で休憩中だ。暖かい紅茶をすすり英気を養う。
 なぜこれだけ悩むのかと言うと、もちろんあの男性のスペックにある。顔は良く、料理や掃除などの男子力が高いのもさる事ながら、女性に優しくそして女性の暗い部分を見ても寛容的であると言うところだ。正に優良物件の塊、こんな男性を女性社会の真っただ中に放り込むほど恐ろしい事はない。

「何かすごく悩んでるそうじゃないか。どうしたんだい?」
「はい、実はですね。隣人の男性が働きたいって言っているんですよ・・・」

 彼の事を考えていたせいか、背後から聞こえてきた声に反応して呟いてしまった。しまったと思いつつ声のした背後を振り向くと・・・

「しゃ、社長!!??」
「ほう、ずいぶんと面白そうな話があるじゃないか。」

 そこには我が社の社長が立っていた・・・




 今日は一人の社員が朝からやけに深刻そうな顔で悩んでいた。普段なら気にはしないのだがその悩んでいる社員に私は興味があった。
 その社員は最近、前よりも格段に笑顔でいる時が多く、そしてそれに呼応するかのようにめきめきと業績を伸ばしてる。そして、一週間以上前から必ず定刻には帰るようになっているが、それでも彼女の業績は伸びている。・・・そんな彼女が、本日は悩んでいて手に職が就かない状況だった。何があったかとても興味がある。
 彼女が休憩をするのを見払からって、席を立つことにした。彼女の後をつけると自販機の前で休憩中だったがその時も深刻そうな表情だった。
 何があったのかと思い彼女に声を掛ける。


 彼女の話を聞くに隣人が仕事をしたいそうだ。まア、問題はその人の性別が男性だと言う事か・・・

「面白い・・・」
「え?」
「その男性をうちで雇おうじゃないか。っとと、まずは面接だな。・・・男性が働きたいとは実に興味深い。」

 今やほとんどの国の男性が働くなくてもいいこの世界、そんな世界で働きたいと言ってる。興味本位で言ってるのか知らないが・・・。まア、おふざけで言ってるなら少々痛い目に合わないといけないけどな。
 かくいう私も昔、男性関係で痛い目にあったのだから。




 コンコンと扉をノックする、俺は絶賛面接中だ。

「入れ」

 扉の向こうから返事が返ってくる。緊張をほぐすためにネクタイをキュッと絞め、俺は扉を開ける。


 三日前、隣人からこんな提案が来た。

「ねぇ、うちの会社で働いてみない?」

 ここ数日の就職活動ははっきり言って、成果はイマイチだったので。彼女の提案はまさに渡りに船だった。
 何故かハローワークに行っても相手にされない。・・・と言うか、最初の方は「こんなところに男性の方が直接来るなんて・・・。」って言って対応の女性がトリップしてたし。次にハロワに行ったときは戦争になってた。どうしようかと思ってるところに彼女からの提案、ホントによかった次にあのハロワ行ったら死人を出すところだった。

「面接は三日後だけど、大丈夫さ?」
「あ、ああ。大丈夫だ、問題ない。」
「そのセリフ、フラグにしか聞こえないさけど・・・」

 彼女の愚痴を華麗にスル―し、俺はクローゼットに目を向ける。クローゼットには俺と共にこの世界に来たスーツがある。こんな世界に来てもスーツを着る機会があるなんて・・・っと嬉しいのか悲しいのか分からない感情を噛みしめながらも。「三日後の面接に向けて頑張ろう。」と意気込むのであった。




 はっきり言ってこの男性は想像以上だ。着席をした男性を見つつ今は面接官として私は今、非常驚いている。
 前例を聞かない男性の就職面接だけあって、社長である私が面接官として相手する。因みに両脇には人事部の部長と課長が控えている。最低限のことが出来ればいいかと思い、彼との面接を始めようと書類に目を通した。

 すると不意にノックが聞こえる、何かあったのだろうかと思い返事をする。と、入って来たのは社員の女性ではなく面接を受けに来た男性だった。時計を見ると指定した時間ぴったり、私たちは慌てて姿勢を正す。すると彼は綺麗なお辞儀をし、慣れた様子で椅子の横につく。
 一連の動作を見ると堂に入ったもので、一朝一夕で出来るものじゃない。と、呆けていると彼は私たちの目を見ながら年齢と名前、出身大学を述べ最後に「本日はよろしくお願いします。」と言った。この様子はまさに本当に女性がする面接であり、私が驚いていると隣の人事部の部長が「どうぞ、お掛けください。」と言う。流石は人事部の部長だ、場慣れしているのかこんな不測の事態でも落ち着いている。

 面接はあっという間だった、と言うよりも。やはり私は面接官として向いてないのか終始、部長と課長が面接官として質問と応答をしていた。彼がこれまた慣れた様子できれいに退室をすると、私は両隣にいる部長と課長に意見を求める。私の腹積もりでは彼は採用なのだが彼女らの意見がほしかった。

「さっきの男性はどうだったか?」

 返事が返ってこなかったので不思議に思い両隣を見ると・・・彼女らは精根尽き果てた様子だった。

「あっ・・・社長。彼はものすごくいい人材です。保証します・・・」
「そうですよぉ、寧ろあたし達が頼み込まないといけないほどの人物ですぅ。」
「そ、そうか」

 慣れない男性のしかもあんなにかっこいい男性と喋って無事でいられる方がおかしいだろう。腰砕け状態の彼女らを見つつ、私は彼をどこに配属しようかと思考の波におぼれた。




 彼が私と同じ営業部に配属になって、私は天と社長に感謝した。社長曰く「彼はコミュニケーション力が高く営業職に向いている。」だそうだ。会社の同僚達も彼の営業部でのあいさつで一斉に色めき立ったのはもはや伝説だ。みんなが注目する中、彼の席は私の隣になった。彼が私の席の隣の空いている席を指定したからだ。最近は夕食の事がアパートの住人にばれて、彼の部屋にほかの住人が押し寄せてくるようになったので、彼と話す時間が少なくなっていたのだ。
 彼は営業部でめきめきと業績を伸ばした。男性と言う事もさることながら持ち前の容姿と性格に加えコミュニケーション力もそこそこある、彼は次々と取引や商談を成立させていった。
 今日も彼と共に取引をしに行く。本日の取引は大雑把に言うと融資を受け取りたいと言う会社に対する取引だ。しかし今回の取引相手は良いうわさはあまり聞かない会社だと言う事で気を引き締めていると。ふと隣から声がかかる。

「今日の取引相手はいい噂はないね。」

 どうやら彼はスマホを見つつそう言う、恐らく今回の取引相手について調べていたのだろう。

「確かに、でも私たちは私たちの仕事をするまでさ。」
「そうだね。」

 私は会社の先輩として笑みをしつつ答える。そろそろ会社が見えてきて気を引き締めなおした。

 ・・・がこの時、私は思いもしなかった、まさかあの会社にあいつがいるなんて。




 俺が会社に入社してから半年たった、働いていると月日が経つのが早い気がする。会社内では頑張ってる方だと信じたい。
 あと、会社で働いてから隣人の女性のまた違った面を見れた気がする。私生活はあんなんだけど、会社に出社したとたんにスイッチが入ったかのように凛々しく仕事をする。普段を知っているだけにギャップに戸惑ったが普段の彼女と仕事での彼女と言う二面を見て。多分、俺は惚れたんだろうな。
 そろそろ取引相手の会社が見えてくる。あまりいい噂は聞かない会社だ、気を付けないとと思い自分に喝を入れる。
 受付で用事を伝え部屋に通される。ノックをして部屋に入ると、部屋の中にいたのは眼鏡をかけた女性とソファの上でふんぞり返っている男性だった。チャラい服を着てて髪は金に染めている、何より融資を受けたいと言うのに、まるでそのありがたみがないかのように偉そうな態度である。第一印象は最悪の一言だった。その彼は営業に来る男性が珍しいのか俺の事を興味深そうに見ていた。
 こういう商談で男性を見かけたことないので俺は少し驚くがすぐに平静を取り戻し、「失礼します。」と言い対面の席につく。さて、名刺交換といきますか。

「初めまして、私は○○会社の営業でこういうものです。」
「へぇ、男が営業だなんて珍しいじゃねぇか。名刺なんていらねぇよ、交換して何の意味があるんだってんだ。お前はさっさと俺の会社に金を融資すりゃあいいんだよ。」

 まさか、部屋に入って来た時点で第一印象が最悪だったがまさかそれ以下に評価が落ちるとは思わなかった。敬語なし、慣習である名刺交換もなし。もうこの時点で交渉を切ってもいいのだが、さらに上から目線でこちらに命令してきた。「何様のつもりだ!」と思い、憤慨していると男はひそひそ声とは言い難い声量で隣の女性に話していた。

「おい、どういう事なんだよ秘書ぉ。営業には女ぐらいしかいねぇから、俺が向かえば簡単に融資をくれるって言ってたじゃねぇかよ。今、目の前にいるのは男じゃねぇか。」
「い、いえ。その意見は社長が言ったのであって私は・・・。それにあなたはマナーが成っていま・・・」
「はぁ?ぐちぐちうっせぇんだよ。俺に指図すんなよ、だ・ん・せ・いである俺に!」

 対面まで聞こえる彼らのやり取りにイライラしつつ。ふと隣を見ると、いつもは元気な彼女が顔面蒼白にしながら俯いていた。
 どうしたのかと思い、声に出そうとした時。対面の男性はこちらの様子に興味を持ったようでこちらに顔を向ける。そして何かを思い出したような表情をして喋り出す。

「よぉ、久しぶりだなぁ。覚えてっか?俺だよ俺、高校時の馴染みだよねぇ俺たち。ここは1つ馴染みの頼みとして融資をくれねぇかねぇ?」
「え、そ、それは・・・」

 驚いたことに隣の彼女はあの対面の男性と顔なじみだった・・・。俺が驚いていると男性はさらにたたみかける。

「ほう、融資くれなきゃあの事バラしちゃうぞ、いいのかねぇ?どうやらお前、隣の男性に惚れてるみたいだしなぁ。」
「だっ、ダメです!」

 彼女はバッと顔をあげ抗議をする・・・が、男性はもてあそぶかのような表情をし次の言葉を述べる。

「いんやぁ、喋るねぇ。嫌って言われたらなぁ言いたくなるんだよぉ。」

 その言葉を聞き絶望した表情を見せる彼女、その表情に満足したかのように男は俺に向かって喋り出す。あまり状況は呑み込めないが、はっきり言って男のあまりの下種に俺のイラつきは頂点に達しようとしていた。

「あんたの隣にいる女はな、高校の時に俺に告白したんだよぉ。大爆笑だよなぁ、こんな女が俺に告白するなんてよぉ。もちろん答えはNOに決まってんだろぉ当たり前だよなぁ。その後は、散々からかってやったさぁ。そして極めつけはこの女が背中に負った傷さぁ、痛めつけてやれと俺に群がる女子に言ったが。まさかあんなに盛大にき・・・」

 自分の中で何かがプツンと切れた音がした。俺は立ち上がり荒ぶる気持ちを抑えながら(ゲス)のいる方に歩み寄る。

「へっ、あの女に愛想でもへぶぅぅぅ」

 俺は無言で男に向かって全力で殴りつける。俺は許せなかった、彼女をいや女の人をあんなふうに扱うこの(ゲス)の事が。そして、伸びている(ゲス)の隣にいる秘書にこう言う。

「この融資はなかった事にします。それと、女性が男性を傷つけたら男性保護法にあたり犯罪ですが、男である俺が殴ればただの喧嘩です。傷害罪で訴えるなり好きにしてください。」
「・・・分かりました。」

 俺は俯いて黙っている同僚を連れて部屋を後にする。彼女を先に行かせ、俺が退室しようとすると。

「ごめんなさい、そしてありがとうございます・・・」

 と、小さな声が部屋から聞こえてきた。


我が社に帰る途中、今回の取引の事を社長にどう説明しようかと悩んでいると。不意に袖を引かれる。どうしたんだろと思うと、隣の彼女が口を開く。

「なんで、殴ったのさ。あんたには全然関係ない事なのに・・・。」

 彼女はそうぽつりと漏らす。

「何で殴ったって、そりゃ・・・」
「・・・そりゃ?」

 一瞬どう言おうか迷い、この際だし恥ずかしいが本心を言おうと決意する。

「お前の事が大切だからだよ、友達としてでもなく同僚としてでもなく一人の女性として。」
「・・・」

 いざ言ってみたが、臭いセリフのせいか恥ずかしくて穴があったら入りたい。
 ふと、彼女の方を見ると俯いて赤くなっている。恥ずかしいのはこっちの方なのに・・・
 そのままの状態で歩いていると状況を整理出来たのか、彼女はポツリと言葉を漏らす。

「私、おばさん臭いよ。」
「知ってる。」
「ヲタクだよ。」
「知ってる。」
「いっぱいあなたに迷惑かけてるよ。」
「気にしてない。」

 何をいまさらなことをと思うが、俺は答え続ける。

「傷物だよ、私。」
「さっき知った。」
「毎晩、あなたで抜いてるのよ。」
「それは知らなかった。」

 意外な告白に驚きつつ平静を保つ。すると彼女は俺の方見て言う。

「こんな私で本当にいいの・・・?」

 (だぁぁぁ、そんな泣きそうな顔するなよ!)と思いながら。触れたら壊れそうな彼女の肩に手をまわし、気力を振り絞って答える。

「そんなお前が良いんだよ。」

 腕の中の彼女は幸せそうに泣く・・・が、俺は自分の臭すぎるセリフに言葉に悶絶死しそうだった・・・




 私は年甲斐もなく泣いていた、一生男性とは縁がないと思っていた。けど、彼は誰にでも優しいがこんな私でも優しく暖かく接してくれて、本当にありがとうの言葉しかでない。
 彼の腕に抱かれている中、これだけは伝えないとと思い。勇気を振り絞り告白する。

「ありがとう、私もあなたの事が大切さ。ううん、世界で一番大切さ!」

 きっと私は泣きながら笑って言っているだろう。不細工な顔になってるだろうなと思う。

(こんな私を選んでくれてありがとう、これからたくさんの迷惑をかけると思うけど。よろしくお願いします。)




 人生初の彼女に浮かれつつ彼女が泣き止んだ後、俺たちは自社に戻るが戻る途中、お互い恥ずかしいのかお互いの顔を見なかった。
 現在、報告の為に社長室の前にいる。いつもなら部長にまず報告なのだが社長室に通される、まさかあの男が通報したのかと思いつつノックする。

「ああ、話は聞いてある。入れ。」

 社長からの返事が聞こえ入室する。俺は立ったまま報告する、彼女にあの事を報告させるにはちょっと酷だろう。

「あの、社長、今回の取引の件ですが・・・」
「ああ、報告しなくても大丈夫だ。私は知っている何もかも。」
「社長、それはどういう意味・・・」

 社長の言っている事が分からなかった。すると社長は席を立ちあがりカツカツとこちらに歩み寄り、俺の方じゃなく彼女の方に社長は止まり。

「さて、会社を出る前に渡した資料はあるかしら?」
「は、はい。」

 彼女から資料を受け取った社長は、その資料に挟んでいたボールペンを抜き出した。

「このボールペン、実は盗聴器なんだよね。」
「「え?」」
「知り合いに試作品を渡されたから、心配になっていたあなたたちの今回の取引の資料に入れさせてもらったの。」

 ボールペンをクルクルと指で回しながら話す社長。聞きたいことは他にあったのに心外なことを言ってしまう。

「あの、社長。それって盗聴では・・・」
「あら、確かに男性を盗聴してたら大問題だけど。同性なら問題ないでしょ、あなたが言ってたじゃない。」
「は、はぁ・・・」

 確かに自分の持論であるため素直に頷くしかなった。っと気になったことを社長に聞く。

「どうするんですか社長、あの会社の取引・・・」
「どうもこうもしないわよ、あっちがこっちを見下したから融資の話は取り消しにするわ。それと、私の可愛い社員を痛めつけてくれたことを後悔させないといけないしね。」

 ハハハっと乾いた笑いしか出なかった。

「あら、なに笑っているのかしら。私はあなたの今日の取引の≪全て≫を聞いたわよ。そう、帰り道でのあのこの世界の男性らしくないカッコいい告白もね。」

 あっ、と思いつつ。あの臭いセリフが他人に聞かれていたと思うと、凄く恥ずかしかった。

「そして物は相談だけど私、結婚してないんだよねぇ。それに、この国は一夫多妻制が義務づけられているんだよねぇ。」

 捕食者の目をした社長に後ずさりしながら、隣にいる彼女に助けを求める。

「あ、あの。助け・・・」
「ああ~、あの時の彼はめっちゃかっこよかったさ~」
「トリップしてるぅぅぅ!」

 自分の世界に入っている彼女を尻目に、俺は逃げるように社長室のドアノブに手を掛ける。が、後ろから社長の声が聞こえる。

「あ、あなたの告白を間違って社内アナウンスに流しちゃった、ゴメンね(笑)」
「へ?」

 廊下に続くドアを開けると廊下には多数の同僚たちがいた。そして、俺が社長室から退室したのを確認するや否や彼女らは肉食獣のような目でこちらに寄ってくる。

「あ、あの話があるのですがってあっ!」

 生存本能に従い俺は脱兎のように逃げる。もちろん逃がすかと彼女たちは、追いかけてくる。もはや一種のゾンビものだ。
 ふと、後ろを振り返ると社長室で腕くみしながら妖艶な笑みを浮かべる社長の姿が。「あんの社長!」と思いながら駆ける。

「この世界は男性に対して厳しすぎる!!!」

俺の心からの叫びは昼間の社内に響いた。

・・・えっ?あの後、どうなったかって?そりゃあ、あなたの想像にお任せしますよ。そうだな、ただ一つ言うのなら.
・・・俺は全治二週間の怪我を負った。
 どうでしたか?自分自身こう言ったあべこべ物は書きなれていなくてまだまだ未熟です。なんと言いますか、全体的に長くなってしまいましたし。本来の短編プロットではコメディらしくちゃちゃっと終わるはずでしたのにね。
 やっぱりあべこべものは難しいです、書いてて実感しました。個人的には後半で特にグダグダしたのが心残りですね・・・
 いつもの事ですが感想や意見などあればどしどし下さい、作者が喜びます。後、批評とかここ直したらいいよ~とかありましたら指摘してください。次回の作品に役立てます。

 最後に蛇足的な追記となりますので興味のない方はスルー推奨です。マリシャスさんのエッセイではあべこべ作品は更新されない作品や、完結されない作品が圧倒的に多いと述べています。確かにその通りです自分も実感していました。じゃあ、どうすればいいのか?自分なりの回答にしたのがこの作品です。長ったらしくて完結できないのなら、ザックリ端を折って短く短編にすればいいじゃないという理論です。もともとこの作品のプロットも長編用でしたし(笑)
 さて、こんな蛇足的追記を読んでいる人なんていないと思いますし。ここらでお暇しましょうかね。では、あべこべジャンルの繁栄を願って(`・ω・´)ゞ敬礼

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