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チョコレート革命 作者:香月よう子
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十五の夏

 守屋浩人、十五の夏。最愛の彼女・辻玲美が自らこの世を去る。その葬儀の日、出席しなかった浩人の部屋を、玲美の親友で同じバンド仲間である沢口冴枝が訪れる。その数日後、バンド仲間の津田由弘が浩人に、「冴枝を泣かせるな」と詰め寄るが、けんもほろろの態度の浩人に由弘の怒りが爆発する。
 二年後の高二のある秋の夜、デート中の浩人と冴枝は、浩人のクラスメートの神崎純子と遭遇。彼女は玲美と同じ顔を持っているのだった・・・

 以上を踏まえて、青春劇「十七歳は御多忙申し上げます」(章「衝撃」「再会」参照)及び、その続編シリーズ「ふたりの季節」・PART2「守屋の夏」と、是非併せてご覧下さい。
 あれから。
 どれほどの時間が経っていたのか、私にはわからなかった。

 唯言えることは、今が完全に夜だと言うこと。
 部屋の中は真っ暗闇で、カーテンを開け放したままだった窓の外は夜目にも暗く、不気味な様相を呈している。
 私は眠っていたんだろうか。
 もしかしたら、気を失っていたのかも知れない。
 体が重い。ある種の鈍痛を覚えている。
 私は恐る恐る、ベッドから身を起こした。

「浩人・・・」

夏用の薄いダブルガーゼのブランケットを胸まで手繰り寄せながら、私は、隣で背を向けたまま眠っている彼の名を呟いていた。

「・・・ん。玲美・・・」
「!」

 その時、そっと彼の肩にブランケットをかけようとした私の手を握りながら、浩人は寝返りを打った。

「──────冴枝・・・」
 浩人は目を醒ました。
 手の力が弱まる。目を逸らす。
 そして、私が沈黙を破る。

「そうよ。冴枝よ。玲美じゃないわ。あなたは私を抱いたのよ」
 責任を取れなどと言うつもりはなかった。
 なされるがままにされていたのは、この私。
 私は自ら進んで浩人に身を任せたのだから。
 浩人は何も答えない。
 私にそれ以上触れる気もないらしい。
 けれど、私は浩人の心が欲しかった。
浩人の腕枕で眠ってみたい。

「行かないでっ! 浩人・・・!」
 私を傍らに残したまま起き上がろうとした彼に向かって、私はそう叫んでいた。
「行かないで・・・私を見て。私がいるわ。私を・・・」
 身代わりでいい。
 遊ばれてメチャメチャにされてもいいと、納得づくであった筈なのに、肌を合わせたことで私は、やはりワガママになっていた。

「好きなの。ずっと、ずっと、好きだったわ。愛してるのよ。私には、浩人しか・・・」
 私に背を向けたまま動かずにいる彼の背中に、私は顔を埋めている。
 これまで抑えに抑えていた想いが、関を切ったかのように溢れ出してゆく。
 報われなかった恋。
 玲美の幸福の陰で、私は密かにどれほど泣いてきたことか。
 私は遂に玲美を裏切ってしまったのかも知れない。
 けれど、玲美はもういない────── 

「服、着ろよ。もう遅い。早く帰れ」
 しかし、初めてまともに聞いた浩人の言葉は、ゾッとするほど冷たかった。
 彼はもう一度横になると、やはり私には背を向けたまま、煙草に手を伸ばした。
 暗闇の中、ぼんやりと白煙が漂う。
 私はどうしていいかわからなかった。
 抱かれた男の部屋から一人追い出される・・・
 そんな惨めなシチュエーションが、私の動きを鈍くする。

 しかし、何もかもが無駄だということを、私は悟った。
 手探りで服を探し、身につける。
 脱がされることよりも恥ずかしいような気がするのは何故だろう。

「浩人」
 来た時と同じセーラー服姿に戻ると、私は言った。
「帰るから・・・。だから、キスして」
 浩人は、黙ったまま私に、触れた。
 浩人の口づけは、深い。
 深くてそして、煙草の味がした。

 そのまま彼の胸の中に崩れこんだ私を、彼はただ黙って抱いていてくれる。
 わかっているのに。
 浩人の心は玲美が全てだってこと。
 よくわかっているのに。
 それでも私は、ほんのひとかけらでも浩人の優しさを愛だと信じたがっている。

「浩人・・・浩人・・・!」
 私は、彼の胸の中でいつしか、しゃくり上げ始めていた。

 愛してる あいしてる アイシテル・・・

 私には浩人が全て────── 







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