「あの、今、暇ですか・・・?」
二人の女の子が恐る恐る聞いてくる。
「暇じゃねぇけど」
俺はあっさりと二人の誘いを断って、再びコーヒーを飲み始めた。
「し、失礼しましたっ!」
俺が怒っていると勘違いしたのか、慌てて逃げていった。
「あらら、可哀想。その眉間の皺、どうにかしなさいよ」
俺を十分も待たせた女がやってきた。
「遅せぇよ、姫紗」
姫紗とは、中学からの親友だ。
かなり仲が良い。
かといって、俺と姫紗は友達というだけで、付き合っているとかそういうのはない。
そういうふうに見られがちだが・・・。
自分で言うのもなんだが、俺はモテる。
姫紗もモテる。
お似合いだとか言われるが、いい加減やめてほしい。
俺が好きなのは、もうひとりの親友、夕月 春華だ。
春華はずば抜けて美人なわけでもない。でも、俺は出会った瞬間に運命的なものを感じた。
つまり、一目惚れしたのだ。
春華とは趣味がかなりあって、すぐに仲良くなった。
俺が好きなものは春華の好きなもので、俺が嫌いなものは春華の嫌いなものだった。
春華と、一緒にいるのは俺にとって一番落ち着ける時間だったし、一番楽しい時間だった。
春華がいないと、その一日はとてもつまらなくて、退屈だった。
いつだろう。春華への恋心に気づいたのは。
気がつけば、春華は俺にとって一番大切で、かけがえのない存在だった。
「ごめん、ごめん。そういえば、亮。春華から連絡きてる?」
「・・・全然、こねえよ」
「あ、そう・・・。私には毎日のように来るんだけどな・・・」
「姫紗、わざとか。そうか、わざとなのか。良い度胸じゃねえか!」
「きゃー!ごめんってば!今から連絡してみるからさ。とりあえず落ち着いてよ!」
「・・・早くしろ」
姫紗のにやにやとした顔にかなりイライラする。
「なんだ?姫紗」
「なんでもな〜い」
そう言うと、姫紗は携帯をバッグから取り出し、かなりの早打ちでメールを作成し始めた。
春華は、ひとりで少し離れた街で生活している。
高校がそこにあるからだ。
春華が通っている高校は日本トップの高校で、かなりレベルが高い。
だが、春華はそこでもトップ5をキープしているようだ。
俺のライバルだったんだから、それくらいしてもらわないと困る。
といっても、毎回勝つのは俺だったが。
今日は、久しぶりに姫紗と会うことになって、待ち合わせをしていたのだ。
俺たちはこうして用がなくても会うことが度々ある。
俺と姫紗も高校が別だ。
そんなに離れているわけではないのだが、中学のように毎日会うことはできない。
「送ったよ」
姫紗がやっと携帯から顔を上げた。
「なんて送ったんだ?」
俺が聞くと、姫紗がにやりと笑って、携帯のディスプレイを見せてきた。
そこにはこう書かれていた。
『春華へ
おはよう。今、何してる?
私は亮とデート(笑)してます。
もちろん、嘘よ?
焼餅妬いた?
あっ、そうそう!亮がね、寂しがってるよ。
春華からメールも電話もない、ってね。
恥ずかしがってないで、メールぐらいしなよ。
それじゃあね
姫紗』
「は?!なんだよこれ!」
「え?メール」
「んなもん分かってるよ!この内容のこと言ってんだよ!」
「あはっ、遊び心だよ」
「っざけんな!」
「そう怒らないでよ。そんなんだから、いつまで経っても進歩しないのよ。春華が向こうの高校に行かなかったら、告白だってしなかったでしょ?もっと積極的に頑張ってよ。そうしないと、
春華が帰ってきても亮、フラれるよ?春華からの連絡ばかりを待たないで、自分からメール送ったりしなきゃ」
「・・・分かってるよ」
「よし。じゃあ、亮。春華にメール送るのよ」
「今か?!」
「今よ。じゃなきゃ、いつするの?私が見てなければ、亮、やらないでしょ」
「んなこと・・・」
「あるよね?」
段々、姫紗からの圧迫感が強くなる。
「わ、分かった」
そう言った瞬間、姫紗の黒いオーラが消えた。
「はい、じゃあ打って」
急かされ俺はポケットから携帯を取り出して、メールを打ち始めた。
『よお
元気か?』
まで打ち終えたときだった。
電話がかかってきた。
メールを打っていたのに、それが中断されて、少し不機嫌なまま誰からかも確認せずに、
「もしもし?」
と思いっきり、不機嫌な声で電話に出ると、
「あ、春華だけど・・・。ちょっと、タイミングミスった?」
「あっ・・・い、いや。べ、別に・・・」
「なに?なにどもってんの?」
少し笑っているのが電話越しでも分かる。
「ば、バッカじゃねぇの。俺がいつどもったんだよ」
「現在進行形じゃん」
「おまえ、ウザい」
「相変わらず辛口だねぇ。そんなんじゃ、オンナノコに嫌われるよ?」
「俺は・・・俺はっ、お前以外の女になんて嫌われてもいいんだよっ!」
「はっ?!あんた、なに言ってんの?!恥ずっ!」
「う、うるせぇ!じゃ、じゃあもう切るからな!またな!」
つい恥ずかしくなって、切ってしまったがすぐに後悔した。
もう少し・・・話せばよかった。
「なんで、もっと話さなかったの?」
「お前に関係ないだろ」
「恥ずかしかったんだ?」
「・・・」
「そうでしょ?」
「・・・そうだよっ!悪りぃかよ!」
「そんなことないよ。ねえ、亮。春華、早く帰ってくればいいのにね・・・」
「・・・ああ」
それから数年が経ち、春華が帰ってくるという知らせを聞いた俺は、仕事を放り出して、空港まで迎えに行った。
空港に着くと、すでに中学でいっしょだった奴らが来ていて、その中には姫紗の姿もあった。
俺に気づくと、姫紗は俺のところに駆け寄ってきた。
「遅かったね。今、飛行機がついたところだよ」
「そっか」
「ははっ」
「な、なんだよ」
「よっぽど急いで来たのね?白衣と聴診器をつけたままよ?」
「うわっ、マジで?!俺、恥ずかしい・・・」
「トイレで脱いできたら?まだ時間があるわよ」
「そうする」
俺は急いでトイレに行って、白衣と聴診器を脱ぎ、ロッカーに入れた。
いよいよだ。
春華が帰ってくる。
多分、あの日の返事をくれるだろう。
俺にとってその答えが良いものか悪いものか・・・。
そろそろ行くか・・・。
俺は少し緊張した足取りで、姫紗たちがいるところに戻った。
「白衣は?」
「ロッカーに突っ込んできた」
「そう。あっ!」
姫紗がそう言って、指差した先に笑顔の春華が立っていた。
背中のあたりまであった髪が更に長くなって、今では腰のあたりまである。
別れたときより、ほっそりとしていて、綺麗になっていた。
俺は一瞬、ドキッとする。
春華が走ってきて、すぐにみんなに囲まれる。
「お帰り!」
という皆に一人一人「ただいま」と言って、笑顔を向けている。
しばらく俺と姫紗はその様子を見ていた。
姫紗が、
「おかえり、春華!」
というと、春華はこっちを見て、にっこりと笑うと、皆を掻き分けて、俺と姫紗の前に立った。
「ただいま、姫紗、亮」
「うん」
「お、おう」
その後、春華と姫紗は抱き合って、再会を喜んでいた。
抱擁が終わると、春華はこっちを向いた。
「ただいま、亮。元気?」
皆の視線が集まっている。
「あ、ああ。お帰り・・・」
すると、春華は嬉しそうに笑って、手を出した。
握手でもしようというのか?
「亮、あの日の気持ち、まだ持ってる?」
俺が春華をまだ好きか、と聞いているのだろう。
返事に困り、代わりに頷く。
「それじゃあ、これからは友達としてじゃなく、彼氏としてよろしくお願いします」
次の瞬間には、俺は春華を抱きしめていた。
しようと思ってやったんじゃない。
体が勝手に動いたのだ。
最初は春華も驚いていたようだが、少しすると、春華も俺の背中に手を回してくれた。
皆から冷やかしの声が聞こえるが、俺はそんなもの耳に入らないくらい幸せだった。
長かった。
だけど、俺の初恋は見事に叶ったのだ。
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