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無関心の恋(拍手お礼の中身) 作者:黒湖クロコ
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オタクの恋(影路視点)

「エディって、いつからそんなにアニメとか好きになったの?」

 組織の仕事で張り込み中、ふと気になっていた事を私は聞いた。
 今日の張り込みは、海外のバイヤーとの麻薬の取引の現場を押さえるためのもので、私と佐久間が張り込みをしていたのだが、パソコンで情報を収集しきったエディが合流してきた所だった。明日香からの連絡では、バイヤーがこちらへ近づいてきているようだが、まだ今すぐここへは来ない。そのため若干暇だった事もあり、そんな質問をする事になった。
「影路、聞くまでもなく、コイツは生まれた時からオタクに違いないぞ」
「酷いなー、佐久間は。別に僕も昔からアニオタやっていたわけじゃないよ。赤ん坊が『もえー』って泣いたら怖いじゃないか」
 ……佐久間が言う通り、エディは生まれた時からオタクだったといっても驚きはしない。
 でも普通に考えたらエディも最初からオタクだったわけではないはずだ。

「……言いそう」
「絶対言ったよな」
「言わないよ」
 泣き声が『おぎゃー』ならぬ『もえー』……いや、ないか。
 明らかにないと分かるけれど、なんとなくエディなら言ったかもと思えてしまう何かがある。
「そうだねー。小さいころは、実を言うとアニメとか見ていない子供だったかな」
「マジで?」
「マジもマジ。大マジさー。その頃の僕は、健全なるガチ美少年だったからね」
 自分でガチ美少年というのはかなりの自信家ではあるけれど、実際エディは美少年である。ハーフのいいとこどりをしたような顔立ちだ。
 今でこそ少年だと分かるが、幼い頃は人形のようで、女の子にも間違えられたのではないだろうか。

「で、そんなマジ美少年が、残念美少年になるまでに何があったっていうんだよ」
「昔、自分の限界を決めてはいけないと超上から目線で言ってくる奴がいてさ、それがムカついたんだよねー。その頃、いたいけな少年だった僕は【ツンデレ】を知らなくて、その事を馬鹿にされてさ。だから、自分の中の限界を超える為に、最初に【ツンデレ】が何かを調べたんだ」
「へー」
 自分の限界を超える為に修業するのノリで、【ツンデレ】を調べたというエディ。分からないことを調べたり、限界に挑戦するのはいい事だ。いい事のはずなのに……何でこんなに内容が残念なのだろう。
「とりあえず、【ツンデレ】がツンツンデレデレする人の事だと分かってね、それがどういう人なのか、ツンデレが出ているアニメを見たんだ」
 エディは賢いから、実際どういうものなのか、きっちり確認をしたかったのだろう。でも内容がとにかく残念な気がしてならないのは、私もアニメに偏見を持っているという事だろうか。
「で、ツンデレのアニメを見ながら他にも用語を調べると僕の知らない言葉が数多くあったんだよね。例えばGLとか、メイドカフェとか、つらたんとか、そうそう萌えもその当時はよく分からなくて、色々調べたんだよね」
 分からないことを調べる。それは凄く大切な事だとは思う。思うけれど……残念だ。凄く残念だ。
「そういうアニメも見たのか?」
「もちろん。やっぱり、本物を見ないと分からない事ってあるからさ」

 エディがやっている事は、調べ物をして、実際体験までするというすごく勉強家な方法だ。でも……世の中、知らない方が幸せって事もあるのではないかな。
 そんな感想が心に浮かんだけれど、たぶんこの感想も使いどころが今じゃない気がする。
「で、オタクになったという事かよ」
「いや、その頃はまだ知識だけだったからね。こういう世界もあるんだなぁという感じで、でも全然理解していなかったんだと思う」
 ……その頃のエディを私は知らないけれど、周りの人は理解してほしくなかったんじゃないかなと思う。人形のような顔立ちの子が、【萌え】を理解し、【ツンデレ】はあはあとか言いだしたら、たぶんショックで寝込みそうだ。
「なら、いつからオタクなんだよ。知っていればオタクじゃないかよ?」
「チッチッチ。佐久間は、全然オタクの事を分かってないね」
「分かりたくねぇよ」
「オタクは、心に萌えを宿してからがオタクなんだよ」
 佐久間のツッコミを無視してエディが語る。

「だいぶんとオタク用語を覚えた頃に、僕は大学に入学したんだよねー。その時の教授が日本のサブカルチャーに興味を持っていた人でね、そこで僕は運命の人と出会ったんだ」
「運命の人?」
 もしかして、これはエディーの恋愛話にこれは突入するのだろうか。
 オタクというのは、女性にも多いと聞く。だとすれば可能性はある。
「【飛べない鳥reverse】の乙姫ちゃん。なんというか、健気な子でさぁ。教授の紹介で【飛べない鳥】を知る前に知り合ってしまったけど、もう涙なしでは語れないんだよ」
「えっ? アニメ?」
「いやぁ。その頃はまだ漫画だったよ」
 いや、たぶん佐久間が聞きたかったのはそこじゃないと思う。エディも分かっていて恍けていそうだけど。
 運命の人というから、実在の人物の事だとばかり思っていたら、まさかの二次元の人だった。エディらしくて予想外ではないけれど、どこまでも斜め上な気がする。

「教授は夏目ちゃん押しでさ。周りに日本のサブカルチャーを知る人があまりいなかったから、僕と熱く語り合ったんだよね。僕は元々人見知りだからさー、あんなに人と語り合ったのは初めてだったね。そして、語れば語るほど、萌えは強くなる事を知ったよ」
「全国の人見知りに謝れ」
 うーん。確かにエディは怖がりだし、人前に出る時は被り物をするけれど人見知りと言われると、また違う気がしてくる。もしかしたら、その頃は本当に人見知りだったのかもしれないけれど。
「というわけで、佐久間も影路ちゃんも、飛べない鳥を読まないかい? 3次元が糞だと思えてくるよ」
「影路に変なものを勧めるな」
「僕の運命の人を変だなんて、佐久間酷いっ! 乙姫ちゃんは可愛いんだよ?!」
「運命の人がペラペラじゃなければな」
「なんだい。佐久間はデブ専なのかい? 爆乳女子が好きなのかい?」
「ちげぇよ」

 なんとなく自分の胸を見てしまったのは仕方がないと思う。
「まさか――。佐久間悪いけど、僕は2次元の女の子にしか興味がないんだ。ごめんよ」
「そういう意味でもねぇよ」
「影路ちゃん。こうやって、女子はBLにはまっていくものらしいよ。好きな男が他の女とくっつくぐらいならって――」
「変な事を影路に教えるなっての」
「BL?」
 なんの略だろう?
「止めろ、影路が穢れる」
 佐久間が私の耳を塞いだ。エディはアメリカ育ちだから、何か英語的な略なのだろうけれど。あまりいい言葉ではないのかもしれない。

 結局んところ、エディがオタクになったのは、オタクの人に馬鹿にされて調べていくうちに深みにはまったという事でいいのだろうか?
 エディにツンデレというものを教えてしまった人はなんて罪深いのだろう。でもエディがそれほどまでに躍起になって調べたのは、案外相手が好きな人だったり、好きな人が好きだったライバルのような人だったりしてと思うが、エディはそういう事を語るのが好きではないので、たぶん教えてくれないだろう。
 きっと自分の事ではなく、アニメの事なら存分に語ってくれるだろうけれど。
「あ、でも。2.5次元なら愛せるかも」

 エディの真意は見えないままだったが、私はそろそろ真面目に仕事をしようと集中しなおした。
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