お助け電話相談
電話が鳴ったのですぐに受話器を取ります。お待たせしないのもサービス。
「はい! お助け電話相談です」
「あー。えーと、何でも相談していいんでしょうか」
「何でもではなく、日常の困っていることです。何かありましたか?」
といっても非営利事業ですので、本当に相談を聞くだけなんですけどね。
「うーん。困っているというか、不思議というか。さっきなんですけど、いきなり電話がかかってきたんですよ」
「はあ。オレオレとかですか」
「いいえ。そういうお金を出せとかじゃなくて、なんだかやたらに私のことを誉めちぎるんです」
「誉める……」
「誉められたんで嬉しかったんですけど、電話が切れた後で変な気分になりまして。どうも、私のことをよく知らないで誉めていたみたいだし。心当たりはないし」
何でしょう。新種の詐欺でしょうか。
「どうすればいいのか、お聞きしようと」
そんなこと言われても、どうしようもないですね。でも、判りませんとは言えませんから、そうだ!
「相手は判りますか?」
「いえ、非通知だったので」
「じゃあ、誰でもいいから誉め返しましょう。適当に電話して」
「知らない人と話すなんて、そんなの恥ずかしいです。メールじゃ駄目ですか? フリーアドレスから適当な相手に送って」
「ああ、何でもいいです。気の済むまでやって下さい」
何とか収めて電話を切ります。訳の分からない相談が多くて困るんですよ、この仕事。
また電話です。今日は多いですね。
「はい! お助け電話相談です」
「あのぉー、何でも相談できるって」
どういう噂が広まっているやら。
「何でもじゃなくて、日常の困り事だけです」
「ウチの家の前の道が、掃除されているんです。本当に綺麗になってありがたいんですが」
何が問題なんでしょうか。
「それが何か問題でも?」
「お礼を言いたいのですが、どなたがやって下さるか判らないので」
まずいですね。誰がやっているのか調べろとか言いだしそうです。
「そっとしておきましょう。善意の第三者で、正体を知られたくないんですよ。ねずみ小僧みたいな人ですよきっと」
「でも、気が済まなくて」
「それなら誰かにお礼の手紙でも……いや、宛先が判らないか。そうだ! でたらめに電話してお礼を言いましょう。それで気が済むのなら」
掃除人を調べろとか言い出す前に、素早く電話を切ります。危ないところでした。
また電話! なんか今日は大繁盛です。テンション下がりますよ。
「はい。お助け電話相談」
「あの……変な相談を受け付けてくれると」
誰だ! そんな噂を広めている奴は。
「日常の困ったことだけです。何かありましたか?」
「その……メールが来たんです。内容はお礼でした。でも、心当たりがなくて」
どっかで聞いたような話ですが、気のせいでしょう。
「何か人助けでもしたのではありませんか? ご自分では気づかずに」
「その……ぼくはもう何年も引きこもっていて、外出するのは夜だけなんです。人と会わないようにしてますし、誰か来たら隠れます」
危ない人みたいですね。まあ人畜無害そうですが。
「それで、どうしたらいいんでしょうか」
だから、なんでそんな相談を持ちかけるんですか。私に判るわけないでしょう。
「何か良いことでもしたらいかがですか。お礼の後払いということで」
「でも人と会えないんです。怖くて。対人恐怖症と診断されています」
そんな状態なんですか!
「それじゃあ……そう、例えばどこか知らない人の家の前の道を掃除するとかどうですか? 早朝とか夜中にやれば人と会わなくて済みますし」
どこかで聞いたような設定が無意識に出てきたみたいですが、気のせいでしょう。
「ああ! そうですね! それなら人に会わなくて済みそうですし。ありがとうございました!」
何とか満足して頂けたようです。それにしても、相談を聞いていると人と人との繋がりがなくなってきてますね。困ったものです。これからどうなるんでしょうか。ま、私なんかが悩んでも仕方がないですけれどね。
あ、電話です。仕事仕事。