死にたくても死ねない!?(26/42)縦書き表示RDF


少し早いですけど、新年です。
死にたくても死ねない!?
作:夷 神酒



SUICIDE25〜過ぎ去りしもの、迎えるもの〜








108の煩悩は、神の力でも無くすことは不可能である






―――――――――――――――








時は夕暮れを超えて、夜闇が空を満たす頃。
俺はキッチンに立ちながら、正方形の箱に食品を詰める。


「…シン…紅と白…どっち勝つ?」
「ん? 俺に聞くな。俺はあんま歌好きじゃねぇんだ」


小夜は、テレビから目を離さずに俺と会話する。


「仕方ないよ。真慈本当に音痴だからね」
「あれは鼓膜への暴力だぜ」
「いや、あれは決戦用音波兵器だね」


…そして、三人分のノイズが聞こえる。


「……黙れチビ、バカ、全身生殖器。俺は興味がねぇだけだ」
「チビ(バカ)って言うな!!」
「いや、俺の言われ方酷くねっ!? 全身生殖器ってなんだよ!!」
「「「いや、だってそうでしょ」」」
「…………もういいよ」


…今日は同居人の小夜以外にも、麻依子と亮佑、洋がいる。
なぜかって言うと……まぁ、年越しを暇な奴らで騒ごうって話になって、俺の家でパーティーってわけだ。
亮佑とは分かるとして、麻依子は家族がいるし、洋はナンパに走りそうなのに、なぜか大晦日だけはいつもここに来る。

ついでに、今用意してるのは明日のためのお節だ。


「それにしても……全部手作りのお節って今時珍しいよね。アタシの家も伊達巻とか蒲鉾かまぼことかはスーパーで買うよ」
「お袋が昔から『主婦をナメるなぁ!!』って作ってたからな。この時期になると、お節を作らないと落ち着かないんだ」


五日前程から煮豆やら栗きんとんの準備を始めてる時点で、完全なる習慣だな。


「…さて、これで準備完了っと」

あれこれ会話してる間に、重箱の中に色とりどりの料理を詰め込み終わった。


「ほれ、余ったものはツマミにしていいぞ」
「「「待ってました!!」」」


俺が余りものをテーブルに置いた途端、テレビの前から速攻で料理に群がる三名のハイエナ。


「やっぱりおいしい!! 豆嫌いなアタシでも真慈の煮豆は食べられるんだよね」
「ヤベーぜこれ!! 全部ウメェ!!」
「真慈は食材を選ぶ目も一級品だね。この数の子と海老は見た目も味も最高だ」

ったく、喋りながらもの食うんじゃねぇよ。
節操ねぇな。



「………」

そんなハイエナ達に比べ、テレビの前から動かない小夜。
…こっちのほうが問題だな。


俺はキッチンに戻り、冷蔵庫を開ける。
そこには、ハイエナ達が群がる前にあらかじめ分けておいた料理が入っていた。
その中から好き嫌いの激しい小夜でも食べそうな二、三品を小皿によそる。
そして、テレビの前に居座る小夜に持っていく。



「小夜。お前の分だ」
「…私…の分…?」
「そうだ。あのハイエナが群がったら、お前は絶対諦めると思ったからな。一緒に住んでるんだしそれ位の配慮はしてやるよ」
「……ありがとう」


小夜はこっちに顔を向け、伊達巻を手掴みで取って遠慮気味にちょっとだけ食べる。

「……おいしぃ…」
「当たり前だ。俺が作ってんだからよ」
「…うん…」

小夜の顔からは、喜びの感情がはっきりと読み取ることが出来た。作った側として、三人の言葉よりこっちの方がうれしいな。



「真慈、お客さんみたいだよ?」
「ん? あぁ、分かった」


小夜と話してたため、チャイムの音を聞き逃していたらしい。


「じゃ、小夜。自分で持ってくれ」
「…分かった」


取り合えず小夜に小皿を渡し、来客を迎えに玄関に向かう。


「どちら様ですかぁ…って、来客は一人の予定だったんだけどな」

一様、俺は会長補佐という立場なんで、生徒会長である麗花をこの場に招いてみた。
それに、体育祭の時に小夜のことを世話してくれたらしいので、そのお礼もかねてだ。


なのに…

「…すまない真慈。細心の注意を払ったのだが…つけられてしまった」
「かたいこと言わないのぉ。みんなで楽しみましょ〜♪」
「シンお兄ちゃん! 遊びにきたよ!!」


上から麗花、彩華、真紀である。
麗花と彩華は分かるが、何で子供の真紀がここに?

…まぁ、仕方ないので玄関の扉を開ける。



「失礼する」
「ヘルぅ、久しぶりぃ〜♪」
「お兄ちゃん遊ぼー」


取り合えず、突撃してきた後者二人の頭を掴んで、本体への衝突を避ける。


「どうぞ麗花さん。…そして二人。しょうがねぇから入れてやるけど、狭い所で暴れるな」
「「えぇ〜」」
「彩華は酒の飲ませねぇし、真紀は浅尾の所に返すぞ」
「「はぁぃ…」」


なんか、こいつら似たもの同士だな。
まぁ、彩華の精神が低年齢なんだろうけど。

………それにしても、四人目の来客はずいぶん素直じゃないみたいだな。

「おい、ここは託児所じゃねぇんだから、保護者もいねぇと預かんねぇぞ!」
「おい、真慈なにを外に向かって叫んでるんだ?」
「まあ待ってろ。…そのまま外で年越す気かぁ!」

麗花を押さえて、俺は外の暗闇に向かって大声を上げる。
すると、電柱の影からバツの悪そうな顔をした白衣女が現れた。


「浅尾先生!?」
「遅いわよぉ、サクちゃん?」
「ママ!?」

麗花と真紀は驚きの表情でその人物を見て、彩華は最初から分かっていたらしい反応を見せる。
てか、サクちゃんって……


「…いゃ、あの、その、えっと」
「いちいち動揺すんな。どうせ、娘が心配でついてきたんだろ? 俺も鬼じゃねぇ。中に入って甘酒でも飲みな」
「……お言葉に甘えることにするわ」


浅尾は諦めた顔で、玄関に入ってきた。

「んで、いつの間にか右腕に引っついてるこの子だけリビングの連れてってくれ」
「リビングはこの先ね…分かったわ。ほら、真紀も諦めて離れなさい」
「う〜いじわるぅ」


浅尾に真紀を預かってもらって、右手が開いた。
残りは…


「麗花さん。いつの間にか左手に引っついてるこいつを預かってくれ」
「………」


……あれ、反応なし?
左手に絡みついてた彩華を外してもらおうと思ったら、麗花は何も反応せずにじっと彩華を見てる。


まるで、宿敵を見るような瞳…


「麗花サン? どうしましっ……なっ!?」

その姿は一瞬で俺の視界から消え…


「……麗花さん。あなたがそんなことするとは思いませんでした」
「わ、私だって、やってもいいだろッ!! これでバ、バランスだっていいはずだ」


……いきなり消えたと思ったら、俺の右手に抱きついてました…
テメェ等はコアラか?



「麗花も大胆になっちゃってぇ〜……本気みたいね」
「い、言ったはずだ。最後に勝つのは私だと」

右手には執拗にねっとり絡みつく姉の彩華。
左手には恥ずかしそうに抱きつく妹の麗花。



「真慈はまだ?」

…そして、タイミング悪くリビングから近づいてくる足音。





「遅いよ真慈……姉妹丼の食事中?」
「消え失せろ放射性セクシャルハラスメント物質!!!」
「ブベッ!?」


洋がウザイ発言をしたので、塞がった両腕の代わりに左膝で顎を打ちぬいた。



「…この仕打ち…グスッ、暴れ回っていい? 泣いていい?」
「やってみろ。しかし俺の敷地内で行ったら………殺ス」
「ゴメンナサイ」


洋は見事なジャンピング土下座を廊下でかましてから、リビングへと去って行った。



……で


「テメェ等二人はとっとと離れろやぁぁぁぁぁああああああ!!!」
「「キャーー!!」」









―――――――――――――――












あれからなんとか収拾して、無事に年を越す準備が出来た。

と、言っても…



「…何だこの有様」
「みんな寝ちゃったね」
「………お酒…すごい…臭い」


俺はキッチンの方でくつろぎながらリビングを見る。

我が家のリビングには、大量の死体…という名の酔い潰れ達が酒に飲まれてブッ倒れてた。
最初は甘酒だったんだけど……家の酒蔵秘蔵のスコッチ、コニャック、バーボン、ジン…などなど、蒸留酒スピリッツの嵐が吹き荒れた結果だ。



最初は彩華に無理矢理飲まされた浅尾が酔い潰れ、続いては浅尾が落ちたことで調子づいた亮佑と洋…
そして、酒の匂いだけで酔った麗花が倒れた。
真紀は子供だから眠くなったみたいだ。

いちよう全員に毛布を被せてやったから、風邪はひかないだろ。



そして今生き残ってカウンターに座ってるのは三人…


飲んだのは果物酒ぐらいで、ほとんど酔ってない麻依子。
アルコールが苦手で、ノンアルコールワインしか飲んでない素面の小夜。
そして……


「ヘルゥ〜♪ もっと飲みましょぅ」

…天下の酒豪、彩華だ。


こいつはさっきから蒸留酒をストレートでいってる。
普通だったら一口で喉が焼ける代物を、水のようにグイグイ飲み干していく。
……まぁ、俺もその勢いに付き合ってる分、結構飲んでるんだけど。

「なにが飲みたい?」
「次はアクアビットぉ」
「分かった…にしても、あんたは底無しの酒豪だけど、妹の方は全然だな」
「しょうがないのよぉ。麗華はビールだって一口でバタンキューなんだもん」



俺は頼まれた酒と共に、輪切りライムと塩を渡す。
これは少しは喉をいたわれよってことだ。

「そういう気遣いもいいのよねぇ」
「…家主マスターとして当然のことだ」


気恥ずかしさを誤魔化すために、グラスに入ったバーボンを軽くあお


「……それにしても、足の方は大丈夫なの?」
「今のうちはな、…あと数日でダメになると思うから、全員に迷惑かけるわ」
「いいわよぉ、生きてるだけで十分なんだからぁ」
「……本当に…よかった」


麻依子の言葉を皮切りに、四人の中だけで分かる会話が始まる。

…俺は三人にだけ、俺が一度死んだこと、そして生き返るまでを話した。
理由は、俺の狂気の効果が切れて左手足が動かなくなった時に、周りにかける迷惑を最小限にするためだ。

彩華には車椅子を用意してもらうため。
小夜には同居人として迷惑をかけるから。
麻依子には家事を手伝ってもらうためだ。

信じてもらえるか心配だったけど、三人は笑いながら信じてくれた。


だから、三人は知っている。
…俺が生きたいと想ってる事を。

そのことを伝えた時、麻依子はボロ泣き。
明るく気丈な彩華や、感情表現が乏しい小夜までに泣かれたことにはビックリした。


みんなは俺は死なないと言ってたけど、内心ヒヤヒヤしてたらしい。
俺は一つのことに夢中になりすぎて、周りの人達の心を考えてなかったようだ…


「……さて、新年から難しい話はやめよ!」
「…もうすぐ…年越し」


麻依子が指差す先には時計があり、あと数分ですべての針が真上に上る。


「んじゃ、全員起こすか…」
「いいじゃなぃ。せっかくいい気持ちで寝てるんだから、私達だけでカウントダウンしましょぉ?」
「だけど………まぁ、いいか」


四人だからカウントが半端だけど、たまには少数で楽しむのいいだろ。












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「フォー!」





一年のつごもりが暮れる時…
その時、世界は塵芥じんかいごと終焉を迎える
その時、世界は浄らかな開闢を始める





「……スリー」





さっきまで過ごした世界は過去になる
そして、今生きてる世界は未来になる





「トゥ〜♪」





世界は『年』という世界で区切らずとも、回り続けるもの
しかし、人は立ち止まらぬときに区切りをつけることにより、自分の中に新しい真っ白なページを作り、そこに道標となる夢を描く…





「ワン…って、テメェ等引っつくな!!」



そして俺は、七福神だろうがイエス様だろうが、相手はいとわねぇから心の底から願う…






「「「HAPPY NEW YEAR!!」」」
「……イヤー…」



……今年という年が、周りの人達が幸せでいられる年であるように
そして、そこで俺も一緒に笑っていられるように……
















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