ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第一章
自分だけのもの
「雨宿りしたとき……和幸くん、私に言ったでしょ?
 見た目も全部、神様の贈り物なんだから大事にしろ、て」
「あ……ああ」

 和幸くんは、照れくさそうに頭をかいた。

「ずっと劇を断り続けてたある日ね、アンリちゃん、ウチまで来たんだ。どうやってウチを調べだしたのか分からないけど……」
「それは、ほら……アンリだからな」

 和幸くんは呆れて笑った。
 本当に、二人は仲がいいのね。なんだか、せつなくなる。

「カヤ?」
「え? あ、そうそう。それでね……そのときに、アンリちゃん、同じこと言ったの。『どんなに嫌な目にあったとしても、与えられたものには感謝をしろ。せっかくの容姿なんだから有効活用しろ!』 て」
「え……」
「それは、アンリちゃんがある人に言われたことらしいの。その人は……カイン。アンリちゃんを『迎え』に来てくれたカインなんだって」
「なるほどな」
「それで……この劇は自分の過去なんだ、て教えてくれたの。ずっと、そのカインを探してるんだって。この劇も、その人に気づいてもらうため。だから、どうしても注目度をあげたいんだ、て」
「……らしいな」

 らしい、か。やっぱり、二人は何でも知ってるんだ。アンリちゃんは、これは秘密だ、て言ってたんだけどな。和幸くんには話してるのか。
 あ。てことは……和幸くんもアンリちゃんには全部話してるのかな?

「ねえ、和幸くん」
「ん?」
「アンリちゃんも知ってるの? 和幸くんがカインだ、てこと」

 それを聞いて、和幸くんは、「え」と目を丸くした。しばらくして、笑い出した。

「まさか! そんなことしたら、あいつは発狂するよ」
「……それも、そうだよね」

 なんだろ。ちょっとホッとしちゃった。
 だめ、だよね。こんなこと考えるの。私、アンリちゃんと競おうとしてる。最低だ。

「信じてくれるんだな」

 急に、和幸くんがまじめな表情でそう言った。

「信じる?」
「俺がカインだ、て……」
「あ……うん。まだ、現実味がないけど……」

 だって、和幸くんがそういうなら……私は信じるしかないもの。
 それに、アンリちゃんがカインから言われた言葉を、和幸くんも言った。和幸くんもカインだ、ていうなら納得できる。

 あれ……? ちょっとまって。ソレって……

「そういえば! ってことは、和幸くんは、アンリちゃんを助けたカインを知ってるの?」
「ええ?」
「だって、同じセリフを言ったんだよ? 和幸くんも、その人から聞いたんじゃ……」

 そうよ。私は、自分の推理に自信があった。
 でも、和幸くんはせつない表情をうかべて首を横にふった。

「いや……そういうんじゃない。俺たちカインはな、皆、あこがれてるんだ」
「なにを?」
「全てさ。他の人は当たり前にもっているもの」
「……?」
「自分だけのもの、さ。見た目、性格、体、長所、短所……全て。だから、そのカインも俺も同じことを言った。
 『どんなに嫌でも、自分しかもっていないものには価値がある。だから、大事にしろ』、てな」

 和幸くんは笑顔をうかべていたけど……すごく、悲しそうだった。

「でも、それって変。自分だけのもの……そんなの誰でももってる。カインだろうがなんだろうが……皆、もってるでしょ。なのに、どうしてそれが羨ましいの?」
「……俺たちが、それをもってないからさ」
「どうして……?」

* * *

 カヤは理解ができないようだった。
 それもそうだよな。自分だけのものを持ってない。そういわれて、そうか、クローンか! なんて、分かるわけがない。
 俺はぎゅっと拳を握り締めた。ここまで話したんだ。俺が『創られた』こと・・・隠す必要もないよな。

「俺はな……いや、俺たちは……」
「ん?」
「俺たちは『創られた』子供……」
「え? なに?」
「カインは、皆……クローンなんだ」

 はっきりと俺は言った。ここまで、きっぱり言ったのは初めてだった。カインの中でも『クローン』という言葉は避けられていた。特に、藤本さんは使うことはなかった。俺たちが傷つくことを知っていたからだ。
 俺は……カヤの反応を聞くのがこわかった。
 カヤはしばらくあっけにとられていた。そうだよな。それが普通の反応だよ。

「でも……」と、カヤは眉をひそめた。「クローンは……もう、禁止されているはずじゃ……」
「ああ。表向きにはな。でも……ほら、この通り、クローンは今でも創られているわけさ」

 俺は鼻で笑って自分を指差した。
 そう、教科書ではクローン研究はこの国の黒歴史とされている。そして、それは過去のものだ、としっかり書かれてある。

「……誰の?」と、カヤは遠慮がちに聞いた。俺は誰のクローンか、ということか。
「さあ。誰も知らない。多分、俺を『創った』奴も知らないだろ」
「そっか」

 カヤはうつむいた。
 やっぱ……気味悪い、かな。カヤみたいなお嬢様にとっては、クローンなんて……。

「だからな」と、俺はこの重い空気を取り払うように、明るい口調で言った。「俺たちカインには、自分だけのもの、てのがないんだ。全部、誰かのコピーだからさ」

 これ以上、この話をしたくはなかった。だから、話を無理やりまとめようとしていた。カヤに……軽蔑されたくなかったんだ。

「そんなこと、ないよ」
「え?」

 急に、カヤが切り出した。いつのまにか、カヤは顔を上げて俺を見ていた。

「和幸くんだけのもの、たくさんあるじゃない」
「?」
「生まれたときは、コピーだったかもしれない。でも……それからは? それから起きたこと。それから会った人。それから感じたこと。全部、和幸くんだけのものだよ」
「……!」
「ね」と、慰めるようにカヤは微笑んだ。「言ったでしょ。始まりはどうでもいい。大事なのは、今の気持ちだ、て」

 俺は、なにも答えられずに、カヤを見つめていた。
 月明かりに照らされたカヤの顔は、いつも以上に魅力的だった。

「人は欲深いから。与えられたものだけじゃ満足できない。だから、生きるんだよ。自分だけの……大切なものを創るために。つらくても苦しくても、生きたい、て思うんだよ」
「カヤ……」

 どこから、そんな考えが生まれてくるんだ? 
 俺は思った。カヤの魅力は、見た目だけじゃないんだ。もっと、奥深く……彼女の思い出や願い、苦しみ……それが心の中で混ざりあって、魅力となってあふれているんだ、と。神に与えられた魅力だけじゃない。彼女はそれ以上の美しさをもっている。

「それに……」と、カヤは声のトーンを高くして言った。
「今夜、私が和幸くんの部屋に泊まったことだって……和幸くんしか知らないんだから」
「へ?」

 な……なんの話だ、急に?
 カヤはいたずらっぽく微笑むと、人差し指を口の前でたてた。

「こんな美人を部屋に泊めたなんて……皆にバレたらねたまれるよ」
「あ……」
「なんちゃって」と、カヤは肩をすくめた。

 俺は、つい、笑ってしまった。

「そうだな」

 リストは言っていた。彼女は神に創られた、と。きっと、この地球(エリドー)で一番美しい女性なんだろう。そんなカヤと一夜を過ごすとは……。全人類にブーイングをくらいそうだ。
 思えば、これも……俺だけのものなんだな。俺のオリジナルは、カヤと知り合ってもいないんだ。カヤとの出会いも、俺だけのものだったんだ。

「カヤの言うとおりかもしれない」

 俺は、カヤを見つめた。
 それにしても、カヤがあんな冗談を言う奴だとは知らなかったな。それに、カヤにとっては、自分を美人だと表現するのはつらいはずなのに。

「ありがとな、カヤ」

 自然と、そんな言葉が俺の口からこぼれていた。カヤは安心したように微笑んだ。

「ううん、ありがとう」
「え?」
「今ね、初めて自分の容姿に感謝したの。少しは……和幸くんの自慢になるかな、て思って」
「へ?」

  カヤは、髪を耳にかけながらそう言って、真っ赤な顔を隠すようにうつむいた。

「あ……うん」

 それが、俺にできる精一杯の返事だった。
 こんな状況……初めてなんだ。気の利いたことがいえるわけがない!
 俺の頭の中では、『『災いの人形』はあなたに恋をしています』というリストの言葉が無限リピートしていた。
メッセージも送れます↓


キャラクター人気投票を行っています。よろしければご協力お願いいたします♪
+投票する+


ランキングに参加しています



+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。