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第一章
もうひとりの転校生
 放課後になってもまだ、平岡の尋問は続いた。

「だから、正直に言えって。なんで、神崎さんと急に仲良くなってんだよ?」

 平岡は朝からこればっかりだ。
 授業がおわって映画研究部の部室に来てからも、作業をしながらずっと聞いてくる。俺は適当にあしらい続けているのだが……こいつ、よく飽きないな。

「なんでもないことはないんだからな! ノートだって借りてただろ。
 それに、なんだよ! あのくさいドラマのワンシーンみたいなあれはよ!?」

 アレ……きっと、今朝、カヤを教室から連れ出したアレだろう。
 それは言うなよな。俺もちょっと後悔してるんだ。かっこつけすぎた……と。

「うるさいな。さっさとその布ぬわねぇとアンリに怒られるぞ!」

 そう、裏方の俺と平岡は、延々と布を縫っていた。一体、これが何用の布なのかも知らずに。
俺たちはただアンリの言いなりだ。

「あ! そうやって、お前はずっと隠そうとしてるよな! もう、ごまかしはきくか!」

 言って、平岡は自分が縫っていた布を放り投げた。

「あああああああ!」

 急にアンリの声が響いた。布を放り投げた瞬間に、部屋にはいってきたらしい。
 平岡は冷や汗を流して固まっている。俺は知らんふりを決め込むことに決めた。

「平岡ぁあ! なに、今のは!?」

 やはりな。布を投げたことに怒ってるぞ、あれは。
 平岡はあわてて布をひろいあげ、「手がすべった」と意味のない言い訳をわめいている。
 周りの連中は、平岡のあまりに必死な様子に笑いたいのをこらえている。アンリの手前、笑うことはできないからな。まあ……どんな言い訳しても、アンリにぶったたかれるのは避けられないだろう。と、思ったのだが……

「まあ、いいわ」

 意外にも、アンリの優しい言葉が聞こえた。俺はつい、「え?」といいそうになった。

「皆、皆、ちゅーもく! 劇の本番まであと一ヶ月ってとこなんだけど。
 ご存知のとーり、残念ながら、主役が辞めちゃいました。てへ!
 そこで、監督であるこの私が、新たな主役をスカウトしてまいりました!」

 おお! と、ざわめきがおきた。
 そういえば……主役だった小倉が辞めたもんな。確かに一大事だよ。
 アンリは扉の前でオホン、と咳払い。

「ご紹介しましょう!」と言うと、扉の向こうにいる誰かに手招きをした。俺のところからは死角でまだ見えないが、扉近くにいる女子は何やらキャーと騒いでいる。
 まあ、アンリのことだ。またどっかのイケメンを見つけてきたんだろう。そんな風なことを考えながら、俺は頬杖ついてボーっと見ていた。誰が主役になろうが特に興味もなかったからな。
 だが、入ってくる奴の顔を見て俺は目を疑った。

「今日、転校してきた、一年生の……」

 アンリはそこまで言って、入ってきた少年に拍手した。
 アンリに紹介されて入ってきたのは、なんと……

「リスト・ロウヴァー!?」

 思わず、俺は立ち上がって叫んでいた。
 そう、昨日、カヤの家の前で会ったあの少年だ。

「あら……和幸、友達なの?」

 アンリはきょとんとしている。周りの皆も驚いた顔で俺を見ている。まあ、いきなり叫んだんだもんな。そりゃそうだろうが。
 唯一、リスト・ロウヴァーだけはニコニコしている。あの様子……俺がいることを知ってたな。俺を見ても、眉ひとつ動かさなかった。

「ちょっと、知り合いなだけだよ」

 あいつが何者か分からない今は、とりあえず様子を伺ったほうがいい。俺はとりあえず、その場は適当にながすことにした。おとなしく座ると、隣の平岡が「大丈夫か、お前」といった表情で見てきた。

「和幸のせいで変な空気になっちゃったけど……仕切りなおしよ。
 今日、転校してきたばっかりのほっかほか。リスト・ロウヴァー君。
 なんとイギリスから転校してきたのよ」

イギリス……か。
 今のところ、ひとつだけ確かなことは、こいつは確かにアンリ好みのイケメンだということだ。部屋にいる女子も、小倉以上のイケメンの登場に、テンションがあがっている。

「リスト・ロウヴァーです。演劇とか、したことないんですけど……
 学校にも早く慣れたほうがいいかな、と思って参加することにしました。
 よろしく」

 キャーと、なんのへんてつもない自己紹介に女子は盛り上がっている。右目のかたすみで、平岡がつまらなそうにしているのが見えた。

「あ……」

 ふと、今朝のことを思い出した。

「平岡、お前が今朝言ってた転校生って……」
「ああ。どうやら、あのパツキン野郎だな」

 パツキン野郎ってな。新たなイケメンに嫉妬でもしてんのか?

「そこの藤本先輩とは……」

 え? いきなり名前を呼ばれて驚いた。パツキン野郎……あ、いや、ロウヴァーだ。

「藤本先輩とは特に仲良くなりたいな、て思ってます」
「は?」

 教室がざわついた。お……おい、何言い出してんだ? 変な誤解を生むようなニュアンスだぞ。
 それに……なんで、あいつ、俺の名前知ってるんだ?
 ロウヴァーは、なおもけろっとした様子でさわやかに微笑んだ。

「似たもの同士みたいなんで」

 似たもの……同士だ? 俺はぽかんとしてしまった。返す言葉が見つからない。

「なんだ、やっぱり友達なんじゃない」

 アンリは首をかしげて言った。

「ま、細かいことはどうでもいいや。そういうことで。皆、いろいろ教えてあげてねー」
「細かいことといったらさー」

 脇役Aの小松が口をはさんだ。

「いいのか? 違う学年いれて」

 そうか。全然気づかなかった。ひとつ下の学年なら、違う出し物があるだろ。小松、よく気づいた。

「そうだぜ、アンリ」俺も、小松に続いて口を挟んだ。

 俺は、どうしても……あのロウヴァーって奴と距離をおきたかった。あいつには劇から降りてほしい。俺は切実にそう思った。あいつは……なんか、不気味だ。
 リストは、きょとんとして俺を見ている。俺が小松に賛同したのが、あたかも不思議そうな表情だ。何考えてんだ、あいつ? 俺と仲良くしたいとか、似たもの同士だとか……意味がわからねえ。

「うるさいわねー。いいのよ、そんなことは」
 
 アンリは、ズバッと言った。そんなこと、で済ます気かよ。

「先生には許可とったもの。学園祭とは生徒の手で作り上げるもの!
 参加の枠に、厳しくする必要はない、てさ」

 また、女子がキャーと騒いでいる。

「おしかったな、和幸」

 平岡が隣からそう言ってきた。あいつと俺とでは、ロウヴァーを劇からおろしたかった理由は絶対に違うだろうな。俺は、はは、と笑って返した。
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