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第10話 死にたがリッチ

それにしても、である。

俺はあらためてアンネをながめる。

リッチの美少女。肉体のタフさにくわえて精神もタフで、俺の攻撃にもプレッシャーにも耐えられる。

ひょっとするとこのアンネこそは、俺とパーティーを組める逸材なんじゃないか……?


アンデッドだとかノーライフ・クイーンだとかそもそも人間じゃないとか、このさい気にするようなことじゃない。

だって美少女だし! おっぱいもデカいし!

男の子は誰しもノーオッパイ・ノーライフなのさっ!


やべ、そう考えるとちょっと緊張してきた。下手をうてないぞこれは!

とたんに初デートっぽい気分になり、俺はササッと居住まいをただして正座した。


「な、なあアンネ。せっかくだし、ちょっと話でもしないか?」

「よろこんで! わたしもお話したいことがあったのです」


そんなわけで、あらためてむかいあって座る俺とアンネ。

俺はちょっと気をきかせて、『物質変換』のスキルで湯呑みと緑茶をクリエイトした。


「粗茶ですが、どぞ」

「あ、どうもです」


ずずーっ。2人そろって茶をすする。


「しっかし、体が消滅しても復活できるってすごいよな。アンネは生まれたときからリッチだったのか?」

「いえいえ、まさかそんな。わたしがリッチになったのは、禁忌薬ラストエリクサーのおかげなのです」

禁忌薬ラストエリクサー。そういや『無限再生』の説明欄にもその単語が書かれてたな。

「つまらない話ですけど……お聞きになりますか?」

「おう、ぜひ聞かせてくれ」

「コホン。それでは――」


アンネは語りだした。


「わたしはもともとふつうの人間で、奴隷の身分でした。それであるとき、さる高名な錬金術師の方に買われたんです。新しく開発した薬の効果をたしかめるために――」

「そ、それって人体実験ってやつなんじゃ……?」


気軽に聞いていい話じゃない気がしたが、


「気にしないでください、昔の話ですから」


と、あっけらかんと言うアンネだった。


「それからいろいろな薬を投与されたんですけど、その中のひとつが偶然つくりだされた禁忌薬ラストエリクサーでして、わたしはリッチになってしまったわけなのです」

「偶然ってことは、その錬金術師も予期してなかったことなのか」

「そうですね。それからあの方はわたしのことはそっちのけで、ラストエリクサーを再現することに没頭していました」

「で、そいつはいまどうしてるんだ?」

「いまはもういません。100年以上前に亡くなりましたので」

「ひゃ、100年以上前って……」


つまりアンネの実年齢は、どう少なく見積もっても100歳プラスアルファってことだ。

……いや、だとしてもなんの問題がある? いやない!

美少女なら実年齢なんて知ったこっちゃあないぜ! あとおっぱいもデカいし!


「にしても、アンネは苦労人なんだな。奴隷で人体実験されたあげくリッチにされてちまうなんて……」

「わたしには苦労したって実感はないんですよね。錬金術師さんは研究以外には興味がなくて、薬の投与以外はなにもしませんでしたし。なにより不老不死のリッチにしてくれたことは感謝してもしきれないくらいです! この体は本当にすばらしいですよっ!」


満面の笑みで言うアンネ。

自分が不老不死であることを心から肯定しているようだ。

アンネの話はそこで終わりだった。


ずずーっ。また2人そろって茶をすする。

さて、次は俺が話す番だろうか。


「「あのっ」」


おっと、声がかぶってしまった。

ここはジェントルメンらしくレディファーストでいこう。


「そっちからどうぞ」

「いいんですか? ありがとうございます、実はここからが大事な話なんです」


コホンと咳払いをして、


「わたし、こうしてマサキさんと出会えたことに運命を感じているんです」


恥じらいの表情でそんなことを言う。


「う、運命って……?」

「そうです、運命です! わたしたちは出会うべくして出会ったのです! そう思いませんかッ!?」


祈りをささげるポーズをとり、瞳をうるませてアンネは言った。


「だからマサキさん! いいえマサキ様っ! お願いです、わたしをっ、わたしをっ!」


ゴクリ、と喉を鳴らす俺。


「わたしをマサキ様の奴隷にしてくださいッ!」

「は?」


呆けた声をだす俺。

じょ、冗談で言ってるんだよな……?


「や、ちょっと待ってくれ。いきなり奴隷にしてくれとか言われても、意味がわからないんだが

「す、すみませんっ! そうですよね、奴隷という表現ではわかりにくかったですよね! ではもっとストレートに言いましょうっ!」


アンネは言った。


「わたしをマサキ様の的にしてくださいッ!」


まと……的……弓とかを射るあの的のことか?


「ごめん、余計に意味がわからないんだけど、どゆこと……?」

「つまりですね、わたしをマサキ様の、ストレス発散用ボコりまくり人形にしてくださいとゆうことですよッ!」

「なにそのストレス発散用ボコりまくり人形って!?」

「だからですね、マサキ様がイライラしたときやムシャクシャしたとき、このわたしめがけて攻撃したり魔法を撃ったりしてくれないかなぁ、と」

「待て待て待てっ! それふつうに死ぬからっ! また完全消滅しちまうからっ!」

「そうです! それがわたしの望みなのですッ! だってわたしを殺せるのはマサキ様だけですからッ!」


アンネは体に腕を巻きつけ、恍惚の表情でゾクゾクっと身をふるわせた。


「マサキ様の魔法でダンジョンごと消滅させられたとき……わたしはかつてない至福の快感につつまれました。細胞のひとつひとつが歓喜にうちふるえ、魂が天上の楽園に到達したかのような極上の心地よさ……わたしはもう、あの快楽なしには生きられない体になってしまったのですッ! あぁ……マサキ様ぁ……!」


前かがみの態勢で俺に迫ってくるアンネ。

顔近っ! そして胸の谷間見えすぎっ!

つか、肉体が消し飛ばされるのが快感ってどういう体の構造してんだよ!?

いくらなんでも変態すぎ……って、待てよ、もしかして固有スキル『痛覚変換』の影響か?

それだったら仕方な――


「ハァッ、ハァッ……! マサキさまぁ、アンネはもうガマンできないですぅ! いますぐ消滅させてくれないとアタマがオカシクなっちゃいそうですぅぅぅッッッ!」

「いやもう充分おかしくなってるから!」


前言撤回、やっぱこの女とんでもないド変態だ!


「マサキ様ぁっ、はやく、はやく、はやくアンネに一発ぶちこんでくださぁぃぃぃぃぃッッッ!」


ついには俺に抱きつこうとするアンネ。


「ちょっ、やめっ、落ちつけってのッ!」


俺は「待て」という意思表示のため両手を前に突きだした。

ズォゥッ! その動作で衝撃波が発生し、アンネの胴体に風穴が2つ空いた。


「あ――」


一瞬遅れて、アンネの体が光の粒に還っていく。


「これっ……! これですよこれッ! この完全消滅っ、超キモチイィィィーーーーッッッ!」


絶頂の叫びを残して、アンネの肉体は素粒子すら残さずに消滅した。

まあ固有スキル『無限再生』の効果で、そのうち復活するんだろうけど。


復活、するんだろうなぁ……。

なんか、とんでもない女に目をつけられちまったかもしれん……。

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