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オフーダ屋のアンナ・マーナ

作者:茉雪ゆえ
 いらっしゃいませ! 『オフーダ屋マーナ』へようこそ。
 どのような『オフーダ』をお求めですか?

 あら、軍人さん? あ、騎士様。そうですか。……ええ、そうなんです。軍には優秀な魔法使いの方がたくさんいらっしゃいますでしょ? ですからこんな町外れのさもない魔法屋にいらっしゃるのは巡回の警備兵の方くらいなんです。珍しくてつい。

 それで、どの『オフーダ』をお探しです?
 ……まあ、『オフーダ』をご存知ない? 護符とは違うのか、ですって?

 ……ええ、まあそうでしょうね。わたしの『オフーダ』は異界の魔法なんです。え? ああ、違うんです。異界人だったのはわたしの祖母、先代の店主でございます。如何様にしてやって来たのかは定かでないのですが、若い時に転がり落ちて、祖父に保護されたのだとか。
 ああ、ごめんなさいね、祖母は三年前にファルウの河を渡りまして。祖父も……五年前に。ええ。祖母の魔法の質を受け継いだのは私だけでして、それで私がこの店を受け継いだんです。もう5年も前のことです。

 そうそう、『オフーダ』についてでしたね。
 『オフーダ』は護符とは違いまして、目に見えて効果があるものではないんです。持ち主の『祈り』をちょっとだけ後押しするようなものでして。ほら、みなさま神殿とか礼拝でお祈りになりますでしょ? それを少しだけお手伝い差し上げるんです。
 ちょっと見ていただけます? この……祖父が祖母のために開発した、異界の魔法陣の中に……ええ、綺麗でしょう? 祖父は美しい魔法陣を書く天才でした!どうして魔法院に行かなかったのか、不思議でしたわ。
 ああ、それで、魔力を込めつつ異界の文字を四文字ほど書き入れ、墨を乾かしますと……できました!
 そう、これだけなんです。

 ちなみに一番人気の『オフーダ』は『家内安全』ですわ。
 意味ですか? 家族みんなが事故もなく健康でいられるように、ですわね。これ、祖母の頃から人気でしてね、居間などのみんなが集まるところに掲げておくと、確かに事故や病気が減るんですよ。効果は一年ほどなのですけど。
 次点? そうですね、ここは交易都市ですから『商売繁盛』がよく出ますねえ。売上が二割上がった、って言ってくださる商人さんもいらっしゃるんですよ。あとはキャラバン隊の方々は『一路平安』をお求めになりますね。道中の無事を祈る言葉ですのよ。
 あとは……そうですわね、ちょっと特別なのは『恋愛成就』でしょうか。うふふ、もちろん、若い娘さんに人気ですのよ。まあ、相手のあることですので、他の『オフーダ』とは成功率が違うので、ちょっとお安くしているんですけど。
 何が違うか? ほら、人の心を変えるような魔法って、難易度がひどく高いじゃあございませんか。それに、お相手のいる方に対してはどうしても、成功率は下がりますでしょ。何が何でも成就させてしまうのはいかがなものかと思いますし、そんな効果があったら、ご結婚されている方には迷惑な『オフーダ』でしょう。

 それにね、わたくし、魔法院には通いませんでしたけど、いちおう、魔法使いとしては国に登録されておりますの。認可魔術師の規定で、人の心を動かす呪術は禁呪でしょう? ですからこれはほんと、気休め程度の『オフーダ』なんです。ですから、他よりお安いの。……でも、このお値段なら若者のお小遣いで手に入りますでしょ? 告白前の娘さんがお守り代わりに買って行ったりなさいますのよ。

 固定のもの以外? ええ、オーダーメイドもございますよ。
 異界の言葉を4つ組み合わせて、お客様ご希望の効果を付与いたします。他者の精神に干渉するものはお受けできませんけれど、それ以外ならだいたい、お受けできますよ。
 最近ですとそうですねぇ……ああ、王都の学術院を受験する、という学生さんが『合格祈願』という『オフーダ』をオーダーなさいましたよ。合格を神に祈る、という意味ですけれども、無事合格なさったかどうかは、まだお聞きしておりませんわねえ。

 他にどんなものがあるかと? え? ……女性問題に関するものは、ですか?
 ああー、なるほど、騎士様美形でいらっしゃいますものねえ、恋人がたくさんいらっしゃって? ……あらまあ、それは失礼いたしました! 寄られすぎて、困っていらっしゃると。まあ、贅沢なお悩みですよ。とは言え、ご本人はお困りでしょうね……ちょっとお待ち下さいね、今までのオーダーの履歴やレシピから探してみますから。少々お待ちになっていただけます?





 ……おまたせして申し訳ございません、これなんていかがでしょう? 祖母がいた頃に作ったものだそうですけれど、この街一番の美男子、と言われた方が、あまりにたくさんの女性たちから愛を乞われて、運命を見失いそうだから、と依頼されたそうですわ。
 『女難回避』というのですけれど……ええと、意味ですよね。女難、とは男性が、女性から受ける災難のことを示す言葉で、回避、はそれを避ける、という意味ですわ。おモテになる、というのは難ではございませんから、避けられはしないでしょうけれども、思いつめるあまりに襲われる、だとかいったことからなら、御身を守るかもしれませんわねえ。

 まあ、あくまで『オフーダ』は気休め、ですから。
 少しだけ、そのことに関する貴方様の運気を上げる、といった、それだけのものですし。

 ……まあ、そうですか、お買上げ、ありがとうございます! 『女難回避』でよろしいですか?
 え? 2枚ですか? わかりました。『類は友を呼ぶ』という異界のことわざがございますけれど、同じような境遇の方が他にいらっしゃいますのね。ところで、魔法陣の方にお名前を組み込みますと、効果が上がるそうなのですけれど、入れられます?

 ……ロレンツさまと、アマデウスさま、と。スペルを頂戴できますか?
 ……承りましたわ。

 2枚でオーダー、ただし過去の事例からですので、200ギローネになりますわ。それから、インクが乾くまでの時間も含めて、2時間ほどお時間頂戴しますけれども、よろしいでしょうか?
 わかりました、携帯用の小袋に入れて、ですわね。そちら、20ギローネ追加となりますがよろしいですか?

 はい、たしかにお代金、頂戴いたしました。こちら、引換証となりますので、後ほどお持ちくださいね。……では、16の刻にお待ちしております。





 数多の商人で賑わう交易都市・マリス。
 王都に継ぐ経済都市であり、商人たちの組合による自治権が強いこの土地に、立太子したばかりのアマデウス王子が視察に訪れたのは、年の瀬も近い、冬の初めのことだった。
 視察と銘打たれてはいるものの、王太子の『顔見世』と『嫁探し』であるのが実情である。『学術都市』からこの『交易都市』を経て、次は『芸術都市』へと向かうらしい王太子に、一族の娘達を売り込もうと、豪商たちは日夜、華々しい歓迎の宴や夜会を開き、迎賓館はそれはそれは美々しく豪華に飾り立てられたのだという。
 その様子は『マリス・ジャーナル』で連日報じられ、王太子とそのお付きの騎士たちの美しさに、マリス乙女たちは日々、今日はあちらの美術館へ、明日はあちらの品評会へと王太子たちの行く先ざきを追いかけて、黄色い声が街中に響き渡ったそうな。

 ――さて。
 その賑々しい商店街の外れにある、少々東洋趣味な小さな魔法屋、『オフーダ屋マーナ』の前に、地味ながらどこか仰々しい黒塗りの馬車が停まったのは、王太子が次の都市へと向かうというまさにその日の朝であり、店主のアンナ・マーナが『なんだか高貴な騎士様』に『オフーダ』を売ってから、ちょうど一週間後のことだった。

 黒塗りの馬車から現れた、素晴らしい微笑みを浮かべた美男子二人に挟まれて、引きつった悲鳴を上げたアンナ・マーナが、魔法屋を一時休業せざるを得なくなったその理由は、推して知るべし、である。





 
アンナ・マーナは交易都市・マリスで『オフーダ屋マーナ』を営む魔女だ。異界人だった祖母・マーナの残した異界の魔法で『オフーダ』を作ることを生業として、町外れの狭小店舗で細細と、しかし堅実に営んでいる。
そんなある日、『オフーダ屋マーナ』に、やたらと高貴な雰囲気のお客様がやって来て……。

……という一覧用のあらすじがあるんだけど、これ見てないでいきなり本文に入ると「なんのこっちゃ」だなあと今更思ったのであった。

四字熟語って呪文感あるよな~と前から思っていた+お正月というベスト・オブ・お札シーズンのコンボ、ということで。今年もよろしくお願いいたします。

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