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どうにか最終章です。
終の章 武彦の帰還、アキツの誓い
 オオヤシマを混乱に陥れた争いは終結した。

 武彦は自分の前で倒れているイサを見た。彼女は息を引き取っていた。
(死んでしまったというより、帰って行ったという事なのか?)
 イサの死に顔は安らかだった。
 神剣アメノムラクモが武彦に話しかける。
磐神(いわがみ)武彦、助かった。お前達異界人の力がなければ、我は消えていた」
「何を言ってるんですか、御剣(みつるぎ)さん。貴方はこれからオオヤシマを守って行かなければならないんですから、消えている場合ではないですよ」
「そうか」
 武彦はアメノムラクモが苦笑いしたように感じた。
「大叔母様」
 アキツは大叔母オオヒルメと邂逅していた。
「アキツ、ようやってくれた。ようやってくれました」
 オオヒルメは泣いていた。アキツもそれを見て涙する。
「大叔母様、今は……」
「案ずるな、アキツ。イサ様はお戻りになった。私も、スセリ様もサクヤ様も行くべき場所に行く」
「……」
 アキツは黙って頷いた。オオヒルメは慈愛に満ちた目でアキツを見ると、
「オオヤシマの事、頼んだぞ、アキツ」
「はい、大叔母様」
 アキツは光に包まれて消えて行くオオヒルメを見送りながら答えた。
「父上」
 イツセとイスズは父ウガヤと邂逅している。
「我が子達よ。私の過ちを繰り返す事なく、オオヤシマを守ってくれ。頼んだぞ」
 そのウガヤは妃のタマヨリとも邂逅していた。
「タマヨリ。悪い王の妃にしてしまい、すまぬ。これからはアキツ様に力を貸し、オオヤシマを盛り立ててくれ」
「はい、陛下」
 タマヨリは涙を流しながら呟いた。
 更にツクヨミは亡くなった両親と邂逅していた。
「ツクヨミよ、言霊師(ことだまし)一族の業は既にない。アキツ様と添い、このオオヤシマを守りなさい」
 父が言う。ツクヨミは驚いて、
「しかし、言霊師が王家と交われば、魔が生まれると……」
「それは言霊師の血を守るために遠き祖が作り出した偽りです。大事ありませぬ」
 母が微笑んで応じる。ツクヨミは唖然とした。
「そして何より、言霊師はお前一人。言霊師以外と契る以外にあるまい?」
 父が言い添えた。
「生きよ、ツクヨミ」
 父母の姿はやがて霧の向こうに消えるように見えなくなった。
「父上、母上……」
 ツクヨミは泣いていた。
 タジカラとスサノは、ナガスネと邂逅している。
「タジカラ、スサノ、これからのオオヤシマを頼むぞ」
「ナガスネ」
 タジカラは目を潤ませて呟く。
「ナガスネ様」
 スサノは号泣していた。彼は自分の力が足りなかったためにナガスネを死なせてしまったと思っているのだ。
「過ぎた事を悔やんでいても、国はまとまらぬ。タジカラと力を合わせて、アキツ様、ホアカリ様をお助けしてくれ」
 タジカラとスサノは黙って頷く。
 同時にナガスネは、ホアカリとトミヤとも邂逅していた。
「陛下、不甲斐なきこの私をどうぞお許し下さい」
「ナガスネ……」
 ホアカリは涙を目に溜めていた。
「トミヤよ、不器用な兄を許してくれるか?」
 トミヤは涙を流して、
「何を言われますか……。兄上は最後までご立派でした」
「ありがとう、トミヤ」
 ナガスネは光に包まれ、皆の前から消えた。
 ウズメとクシナダは、涙を呑んでその手にかけた兵達と邂逅していた。
「お泣き下さいますな、お二方。我らは皆、お二人のお心、十分に感じております故」
 兵達は皆目頭を熱くしてウズメとクシナダに語りかけている。
「皆の者……」
 ウズメとクシナダも泣いていた。
 やがて多くの光が一つにまとまり、天へと昇って行き、消えた。

 そして、武彦がオオヤシマを去る時が来た。
 武彦はアメノムラクモと別れを惜しんでから、アメノムラクモをアキツに渡した。
 アキツとツクヨミが武彦の魂をイワレヒコから解き放ち、イワレヒコの眠りを解いた。武彦はその時初めてイワレヒコと対面した。
「今までありがとうございました」
 大きなイワレヒコを見上げて、武彦は頭を下げた。イワレヒコは苦笑いをして、
「異界の方、貴方様のご活躍、このイワレヒコも眠りながら皆見させていただいておりました。礼を言うのは私の方です」
と跪いて武彦を見た。武彦はその視線に照れ臭くなり、笑った。イワレヒコは姉イスズを見て、
「姉上、今までの無礼の数々、お許し下され。この(のち)は真の夫婦(めのと)となるべく改めます故」
と頭を下げた。イスズは微笑んで、
「イワレヒコ様、お止め下され。貴方様は私の許婚(いいなずけ)でございますよ、ずっと前から」
「姉上……」
 イワレヒコの目に涙が浮かぶ。イスズは武彦を見て、
「たけひこ様、ありがとうございました。貴方様のお陰で私とイワレヒコ様は昔の二人に戻れました」
「そ、そうですか。良かったですね」
 何となくホッとしている自分を嫌悪する武彦である。
(良かった。ついて来るとか言われたらどうしようかと思った)
「では、参りましょう、たけひこ様」
 アキツが声をかけた。武彦は彼女を見て黙って頷いた。
 光に包まれる。そして、霧の中に出る。オオヤシマに初めて訪れた時と同じ光景が目の前に広がる。
「さ、たけひこ様」
 アキツが先導する。
「あ、はい」
 武彦はそれに続いて歩き出した。
「アキツさん」
 歩きながら武彦は声をかける。
「はい、たけひこ様」
 アキツは立ち止まって武彦を見た。武彦はスウェットのポケットからデジカメを取り出した。
「一枚、撮らせて下さい、記念に」
「はい?」
 アキツは武彦が取り出した奇妙な箱を見て目を見開いた。
「アキツさんは僕の幼馴染みの子にそっくりなんです。見せてあげたいのでお願いします」
「はい」
 アキツは戸惑いながらも応じた。
「いいですか、撮りますよ」
「は、はい」
 これから何が起こるのかわからないアキツは緊張している。そこへいきなりカメラのストロボが光った。
「きゃっ!」
 アキツは驚いて悲鳴を上げた。
「ごめんなさい、アキツさん。もう終わりましたよ。ほら、見て下さい」
 武彦は画像をアキツに見せた。
「まあ」
 アキツは目を見開いている。
「これが私……」
 彼女は何故か顔を赤らめた。
「それから、ほら」
 次にツクヨミ達が写っている画像も見せる。
「……」
 アキツは驚きのあまり声が出ない。
「それと」
 武彦はとっておきの画像をアキツに見せた。それは、彼が密かに写した都坂(みやこざか)亜希(あき)の満面の笑顔の写真だ。彼女が陸上の大会で一位になった時の写真である。
「この子が、アキツさんにそっくりな子です。そして、僕の一番好きな子」
「そうなのですか」
 アキツは微笑んで武彦を見た。
「では、お別れです、武彦様。お元気で」
 アキツの目が潤む。武彦はついそれを見てドキッとした。
(やっぱり、アキツさんはイサの血を引いている。イサとアキツさんはそっくりだ。そして、亜希ちゃんとも……)
「お別れは言いません。また会えるかも知れないから。それまでお元気で、アキツさん。ツクヨミさんとお幸せに」
「……」
 アキツは真っ赤になっていた。やがて互いは霧に包まれ、見えなくなった。


「あっ!」
 武彦が目を開けると、そこは自分の部屋だった。朝である。彼はベッドから起き上がり、部屋を飛び出した。キッチンからいい匂いがして来る。母珠世が朝食の用意をしているのだ。武彦はキッチンに駆け込んだ。
「おはよう、母さん」
 珠世は武彦の姿を見て、涙を流した。
「武彦!」
 彼女はオタマを放り出して武彦を抱きしめた。
「よく、よく無事で……」
 母が顔をクシャクシャにして泣いているのを見て、武彦はジンとしてしまった。
「このバカ、戻ったのならそう言え!」
 いきなり頭を殴られた。姉美鈴がキッチンに飛び込んで来たのだ。
「只今、姉ちゃん」
 武彦は頭を撫でながら言った。

 武彦はそれまでの事を二人に話した。珠世も美鈴も、尊と曾祖父に出会った話のところで仰天した。
「父さんと曾お祖父ちゃんに?」
 珠世はまた涙ぐんでいる。美鈴は硬直してしまったかのように動かない。
「うん。二人が助けてくれたんだ。だからオオヤシマも救われたし、僕も戻って来られた」
「そうなの。やっぱりね」
 珠世はそう言いながら、尊が書いていたノートを武彦に見せた。
「……」
 それを読んで、武彦は全てに合点がいった。
「そうだったんだね。だから僕はアキツさんの声が聞こえた。そして、オオヤシマを救いたいと感じた。そういう事だったんだね」
「ええ、そうよ」
 珠世は笑いながら泣いていた。すると美鈴が涙を拭いながら、
「私も会いたかったな、父さんに……」
としんみりとして言う。武彦は申し訳なくなり、
「ごめん、姉ちゃん」
「何であんたが謝るのよ、武」
 美鈴はそう言ったが、
「優しいんだね、武。ありがと」
と言い添えた。武彦はホッとして微笑み返した。


 そして登校時間。武彦はいつもより早く起きたので、遅刻はしない。亜希の家まで彼女を迎えに行った。
「お、おはよう、武君」
 亜希は驚いた顔で玄関から出て来た。
「さ、行こう、亜希ちゃん」
「うん」
 もうすぐ校門前というところで、武彦が、
「亜希ちゃん」
と呼び止めた。
「何、武君? 早くしないと遅刻しちゃうよ」
 亜希は怪訝そうな顔で言った。武彦は大きく深呼吸して、
「僕と付き合って下さい。ずっと好きでした」
と告白した。亜希は目を見開き、涙をこぼした。
「武君……」
「ダメ、かな?」
 武彦は上目遣いに亜希を見た。すると亜希は、
「ダメな訳ないわ。ずっと、ずっと待ってたんだから!」
と言うと、武彦に抱きついて来た。周囲に誰もいなかったので武彦はホッとしたが、
「亜希ちゃん」
と優しく抱きしめ返した。
「OKしてもらえたから、いろいろ話したい事があるんだけど」
「え? 何?」
 亜希はギクッとした。
「それは放課後にするよ」
「えーっ、何よ。気になるじゃない? 焦らさないでよ」
 二人はそのまま校門を入り、校舎を目指す。
「長くなるから、放課後で」
「わかった」
 亜希は本当に嬉しそうだ。武彦はそれを見て心が和んだ。
(そうさ。亜希ちゃんにも話さないと。彼女は聞く権利があるんだから……)
 武彦は空を見上げた。

                       ──完──
ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

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