ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
ラブレターchoco編
作者:choco
同じ設定、同じ登場人物で小説を書いてみよう! という企画の第一弾です。「グループ小説」で検索頂くと、別の作者様の作品、及び第二弾以降の作品も見られますので、皆さんどうぞご一読くださいませ。
 どうしてこんな事になったのだろうか。
 いや、理由は解っている。ただ僕は、こんな状況を生み出してしまった自分の不運を恨んでいるのだ。
 現在時刻午後四時三十分。
僕は学校から駅まで、比較的人通りの少ない静かな住宅街を、同じクラスの女子と二人きりで歩いている。
 見た目に関してはクラスでもそこそこ評判の女子と二人きりで下校。普通の高校生男子なら喜んで然るべき状況だが、今回ばかりは例外だ。なぜなら、僕はこの女、小山静香が苦手なのだ。
――いや、僕に限らず大抵の人間は、この女のことを苦手だと言うだろう――
僕はなんとなく彼女に近寄るまいとして、道路の端ぎりぎりのところを、民家の外壁を肩で擦るように歩いていた。
 すると今まで僕の左半歩前辺りを並行していた小山が突然立ち止まった。彼女のやや茶色がかったセミロングが、慣性で前に揺れ、ブレザーの肩と薄い頬を撫でる。僕が、ともかくも見た目はなかなかに可愛い彼女のそんな後ろ姿にしばし見とれていると、彼女はそんなことはお構いなく、こちらを振り向かぬまま僕を叱責した。
「ちょっと、男は普通車道側歩くもんでしょ!?」
そう言って彼女はつかつかと僕の目の前に回り、僕はその左半歩後ろにつく。
 そう、彼女、その名前に似合わずとにかく『キツい』のである。
 悪い奴ではないのだろうが、簡潔を極めるあまり人に恐怖を植え付けるような言動や、百七十センチはあるであろう長身。きっちりと細く整えられた眉。クラスの合唱では専らアルトパートな低めの声と、陸上部では短距離走を務める駿足。クラスの男子が彼女と擦れ違う度に、恐る恐る会釈するのもうなづける。
 そんな小山と、彼女が大の苦手な僕が、何故こんな状況下にいるのか。それには、彼女の苗字が小山であることが大いに、それはもう大いに関係する。


 昨日の午後五時頃、僕は手にある物を握り締め、学校の玄関の、下駄箱を兼ねたロッカーの前で何度も深呼吸をしつつ、そわそわと周りに人がいないこと確認した。その放課後特有のけだるさを湛えた玄関には、無機質なグレーのロッカー達がずらりと並んでいただけだったが、その時の僕には、それら全てが僕のことをまじまじと見ているような気すらした。
 馬鹿だな、そんなわけないじゃないか。僕はそう自分に言い聞かせて、それでももう一度だけ周囲を確認してから、手の中のものを覗く。
 今時珍しい、ラブレターである。
 僕はそれを、クラスメイトの加藤沙紀のロッカーに滑り込ませんとしていたのだ。
 加藤沙紀といえば、クラスではかなり有名な美少女だ。丸刈り野球部員ならイチコロ必至な、清楚を絵に書いたような真黒いストレートのショートヘアと、二重でありながらすっきりとした目鼻立ち、少し厚めの唇。テストの順位は毎回学年一桁代、スポーツもそれなりに万能で、更に彼女の所属する吹奏楽部ではフルートを務めているという、どこかのゲームのヒロインとして出てきそうな女子だ。
 当然、人間を構成する要素のうち有用と思われる全てが平均的かそれよりやや下、つまり大抵のことで彼女に劣っている僕にとって、彼女は高嶺の花以外のなにものでもない。でもそんな彼女が、新しいクラスに戸惑っている僕に、初めて声をかけてくれた――恋愛経験は片手、いや片腕で数えても余るような僕が彼女に惹かてしまうのは、最早自然の摂理といったところだった。

 うちの学校のロッカーには、上部に通気孔のようなスリットが三本程、かなり大きく空いている。その一番上から手紙を滑り込ませれば、丁度よく彼女の靴の上に乗る、という寸法だ。上下に二つ積み重ねられたロッカーの列が幾つもならんでいる中で、五列目下段左から七番目が彼女のロッカーだ。僕はその目の前で再び深呼吸をし、改めて手の中の手紙を見る。
 昨日の深夜、眠い時特有の勢いに任せて五分で書き上げ、すぐに封をしてしまったものだ。僕は封に使った苺のシール(丁度いいシールが見つからなくて妹の部屋に忍び込んだのは絶対に内緒だ)を念の為に爪の裏で擦る。そしてもう一度だけ深呼吸をしてから、彼女のロッカーにそれを入れるべく最終確認をする。一、二、三、四、五、六、七。よし、ここに――
『由利センパイファイトー!』
女子運動部員の威勢のいいハイトーンボイスが、校庭からここ、玄関にまで届く。
 蚤の心臓を硝子細工で作ったような、心を寄せる人に直接会って想いを伝えることすらできないような臆病なハートを持つ僕は、それに驚いた身体の収縮のお陰で、よたよたと三歩程後ずさった。全く、運動部ももう少し、『ロッカーにラブレターを忍び込ませようとしている人』に優しい活動を心掛けてもらいたいものだ。
 ――さて、気を取り直して、と――しかし明らかに気を取り直せていない僕は、心拍に合わせて震える手でぞんざいにロッカーに手紙を滑り込ませ、そそくさと玄関を去った。

 そして次の日の朝。
きっと彼女のことだ。昨日の返事は直接会って話すか、僕と同じように手紙をしたためるかのどちらかだろう。
 僕は朝の慌ただしさの中の一瞬の隙を狙い、やはり一度深呼吸をしてからロッカーを開けた。下から順に、柔道着、体育館履き、教科書、上履き。
 そしてその上に、律義な文字で『俊哉くんへ』と書かれた一枚のメモ。
 僕は一瞬、まるでそこに生首でもあったかのように凍り付いた。緊張とある種の恐怖、そしてささやかな期待で筋肉が緩みきった手を騙し騙しそのメモを裏返すと、そこには『放課後第二集会室に来て下さい』とだけあった。そして放課後――


 結果を言ってしまうと、その第二集会室にいたのが、沙紀ではなく小山だった、ということだ。理由は簡単、僕が手紙に宛名を書き忘れた上に、あろうことか入れるロッカーを間違えてしまったのだ。沙紀の苗字は加藤で出席番号は十四番、小山は同じ沙紀と同じ『か行』だからの出席番号は十六番、二段に積まれているロッカーのうち下段が偶数に割り当てられているから、この二人のロッカーは丁度隣り合わせなのだ。
 何とかしなければ、とは思ったものの、折角僕の為に来てくれた上に、まるで僕に怯えているかのように
「私も、好きでした。俊哉くんのこと」
などといつになくしおらしい声で返事をくれた小山の手前、本当のことなど言えるわけもなく、今こうして二人、かなりぎくしゃくとしながらも一緒に帰っている、というわけだ。宛名を書き忘れた僕が悪いのか、それとも絶好のタイミングで声を張り上げてくれたどこかの女子が悪いのか。そもそも直接面会もできないような臆病な僕が悪いのか……。考え出せばきりがないが、そんなことよりも今は、どのようにしてこのピンチを乗り切るかを考えた方がよさそうだ。

「……なあ、小山」
次の言葉など考えていない。ただとりあえず何か楽しい話でも、と気を利かせた僕に、彼女は間髪入れずに、そしてやはりこちらには顔を向けずに切り返す。
「静香、って名前あるんだけど」
 友人に『お前ってS? それともM?』と聞かれて『いや、これLサイズだけど……』と返してしまうような鈍い僕でも、何とかこの位は理解できる。かなり躊躇はあるが小山、いや静香には逆らうわけにもいかず、二三回口ごもりながらもそれに従う。
「……あの……静香、ちゃん?」歴代の彼女の数を片手で数えたら指が五本余る僕に呼び捨てなどできるわけがない。かといって言う通りにしないと、という僕なりの葛藤の結果だったのだが、彼女には、
「やめて、気持ち悪い。静香、って呼んで」
単に気持ち悪いだけだったようだ。
 『気持ち悪い』という一言によるダメージは、味わったことのない者には計り知れない程に大きい。静香はそれをわかっているのかいないのか、それからはお互い一言も発さずにとぼとぼと歩く。――ほんの数十分前のしおらしい彼女は何処へ言ってしまったのか――今は見る影もないな、と思いつつ、僕は、さっきから不自然にこちらを向かない静香の方を少しだけ覗き込む。すると――若干俯いていて見にくいとはいえ、その髪の毛の間から明らかに赤く染まった頬が見える。――へえ、なんだかんだ言って、やっぱり照れてたんだ――僕のような人間に、このような態度を示してくれる人がいる、というのは、やはり嬉しいものだ。
――この際だ、少しでもポジティブに考えよう。これはきっと、何処かのひねくれた神様の悪戯だ。――となると、あの時の声の主は、さしずめその神様に仕えるひねくれ者の天使、といったところだろうか――運命の人、とまで言う自信はないけど、きっと、悪くはない――僕は人生二番目に大きな勇気(因みに一番は、小学生のときに好きだった子のたて笛をこっそり吹いた時だ)をふり絞り、静香の隣りに寄って、左手を取った。
「えっ!? ちょっ……ばかっ!」
ほら、やっぱり照れてる。……あれ? 今の声何処かで。


「……静香?」
「何?」
まだ少し棘の残った声で静香が答える。僕の手を握り返す静香の手が熱い。未だにこちらを向いてくれない彼女をそっと覗き込むと、僕の手が強く後ろ側に引かれた。やはり、まだ照れているのだろうか。だとしても僕は、彼女のそんな反応が、まだ少しだけ怖い。慣れるまで大分時間はかかりそうだが、時間ならたっぷりある。お互い、少しずつ慣れてゆけばいい。

「お前部活何入ってたっけ?」
やっと出てきた言葉。僕は別に、そんなことを知りたいわけではない。ただ、折角のこんな時間、少しでも話していたいじゃないか。
「……陸上だけど」
「昨日って活動あった?」
「うん」
――そうそう、昨日僕らを引き合わせてくれたひねくれ者の天使は、天使なんかではなく、正に奇跡そのものだったのかもしれない。つまり――

「……じゃあさ、ちょっと部活の要領で『ファイトー!』って言ってみてくれない?」
読んで頂きありがとうございます&お疲れ様です。他の作者様と読み比べたりなどなどしてみて下さい。キーワードは「グループ小説」です!
評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。

▼この作品の書き方はどうでしたか?(文法・文章評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
▼物語(ストーリー)はどうでしたか?満足しましたか?(ストーリー評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
  ※評価するにはログインしてください。
ついったーで読了宣言!
ついったー
― 感想を書く ―
⇒感想一覧を見る
※感想を書く場合はログインしてください。
▼良い点
▼悪い点
▼一言

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項を必ずお読みください。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。