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第168話「いざ暗黒の森へ」

 地下組織の長と会って一体どうするつもりか。お友達を増やしたいなら宮中でやってもらいたいものである。そもそも、当のその組織を潰しに行くのではなかったのか。手際良く段取りを組んでいる王女に、アレスは疑問をぶつけた。

「組織を潰すには、頭を叩くのが一番手っとり早いでしょう」

 王女の口調は簡単な計算をしているかのような気安さを帯びている。

「オレは具体的に何をすればいいんです?」

「さあ、それは何とも。その場のあなたの判断にお任せします」

 王女が何をするつもりなのか分からなければ、前もって対応策を考えようがない。前もって対応策を考えられなければ、その場の判断は鈍る。

「そう固く考えずに、遊びだと思って気楽にいきましょう」

 王女が言う。

 地下組織は楽しい遊び相手ではない。普段なら、「ふざけるな!」と大喝しているところであるが、彼女の性格を良く呑み込んでいるアレスは口を閉じた。叫ぶだけ無駄。エネルギーを消費し、イライラを蓄積するだけである。アレスは割り切ることにした。何をするにせよ、アレスの役割はオソを守ることだ。女の子ではないが、オソはいいヤツなので守り甲斐がある。オソにはズーマの近くにいろと言ってあるが、ズーマはそこまで当てにできない。

――最終的にはオレが守ってやらなければいけない!

「わたくしのことも忘れないでくださいね」

「…………もちろんです、殿下」

「とても嫌そうな声をありがとう」

「恐縮です」

「ところで、アレス、わたくしに対するその丁寧な言葉遣いですが――」

 アレスはパッと顔を輝かせた。

「やめたほうがいいですか?」

「いいえ、続けてください。あなたの改まった口調って新鮮なので」

 王女は答えた。

 その夜は、二度と気持ちの悪いアラームを聞かなかった。

 朝日に目を覚まして食事を取り、アレスがテントを手早く片づけると、オソの御でルゼリア外壁まで馬車を走らせた。

 薄曇りの朝である。空気が心地よく冷たい。

 やがて見えてきた門は、二日前に通ってきた門である。

 アレスは、門を通してもらうために門番に賄賂を渡したこと、渡してなお通してくれなかったことなどを、朝餉(あさげ)の席で王女に話しておいた。部下の失態は上司の責任である。

「わたくしを含め、関係者にしかるべき罰を与えよ、とそういうことでしょうか?」

「いえ、罰なんてどうでもいいですので、できればお金を返してもらいたいなあ、と。ちょっと、ある女の子に借金があるので」

「いつからヒモヤロウになったのです、あなたは?」

「言葉をお慎みください、殿下」

「わかりました……女の子からお金を借りて返さないでいるなんて、サイテーのクズね! これでいかがですか?」

「良くなりました」

「ありがとう」

 アレスはヤナのことを想った。大金の支払いを待ってくれた上に、縁もゆかりもないエリシュカの面倒まで見てくれるというのだ。何という素晴らしい子なのだろう。この際、男勝りであったり、男勝りであったり、男勝りであったり、女の子らしくなかったりするところは大目に見てやらねばなるまい。

 外壁西門を出るとき、入るときとは違って、何にもトラブルはなかった。賄賂も要求されず、すんなりと通された。「王の眼」とやらの仕業だろうか。面倒がなくて良かった良かったと思っていると、馬が一頭追いかけてきて、馬車に並ぶ。御をしているオソのその隣にいるアレスは、並んだ馬の上に見知った顔を見た。ざっくりとした黒髪のショートカットの中に凛とした瞳が輝いている。ここルゼリアまで一緒に旅をしてきた国境警備軍の女隊長ナヴィンである。

「なんだ、まだ帰ってなかったのか?」アレスが言う。

「部下のほとんどは返したわ。残っているのは、ケガ人だけよ」

 ナヴィンは答えた。ということは、けがをした部下の看病をするために彼女はひとり残っているというわけだ。

「感動した。泣いていいか?」

「好きにして。ミナンへ帰るの?」

「いや、仕事さ」

「どこに行くの?」

「それは言えない。そういうもんだ。分かるだろ?」

 話の流れから訊いてみただけという風でナヴィンはアレスの行く先には興味が無いような様子だった。もう少し突っ込んでくれてもいいのに、とアレスは内心悔しがった。

「あなた、もしかして、殿下にお会いした?」

 ナヴィンの声が真剣さを帯びる。

 会うも何もいままさに客車の中にいる。アレスは肩をすくめた。

「ああ、会ったよ」

「ご様子はどうでした?」

 ナヴィンが勢い込むようにして訊いた。

 アレスは思い出すような振りをしてから、「怖かった」と素直な答えを返した。

 ナヴィンは納得のいかないような顔をすると、

「怖い? ああ、殿下の御前で緊張したってことね」

 そう言って、自らを納得させた。そのあと、「お元気そうだった?」と訊いてきた。

 その点だけはアレスは保証してやった。

「今すぐ魔王を倒しにいけそうだったよ」

「そう……」

 ナヴィンはホッとしたような様子を見せると、一声オソにかけてから、馬を返した。

 客車の窓から王女が顔を出した。

「慕われてるようですね」アレスが言う。

「そのようです。しかし、昨日の朝のわたくしの仕打ちを知ったらどうでしょうか」

「何をしたんです」

「ミストラス卿を謹慎処分にいたしました」

 確かナヴィンはミストラスの家の出である。直系ではないようであるが。

「なんでそんなことを」

「朝廷で卿が小うるさいことを言ってきたからです」

「それは暴君のセリフですね」

「今頃分かったのですか?」

「いえ、前から知ってました」

 暗黒の森が見えてきたころ、街道上にアレスはひとりの男が突っ立っているのを見た。

 近づいていくと、男はまるで知り合いででもあるかのように、ひょいっとひょろ長い手を振ってきた。

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