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第165話「キャンプは楽しい」

 王都ルゼリアを囲む二重の城壁のうち外側の壁、その近くに到達したとき、既に日は暮れかかっていた。

「それで? 壁の他には門以外、何にも無いわけだけど。どうするんだ?」

 御者台でアレスが言う。少し前に、御者役をオソと交換したのだった。やれやれこれでリラックスできると、客車の中で散々迫られて貞操の危機を感じたあと、外の清風に身をさらしほっと息をついたのも束の間、すぐに王女が隣に現れたので、アレスは寒くもないのに体をぷるぷると震わせた。彼女に比べれば、エリシュカの方がずっと落ち着けたなあ、とアレスは失礼なことを考えた。

「野営しましょう!」

 王女は元気のよい声を出した。

 アレスは馬車を止めた。これ以上近づくと、西門の警備隊に発見されて、問責されるかもしれない。こちらは王女を抱えているわけだし、あるいは仮に王女がいなくても、大して問題ないと思えるほどの図太さを持ち合わせているアレスだったが、とはいえ少しでも面倒は避けるべきである。それでなくても面倒な女の子が隣にいるのだ。

――エリシュカがいないのに、なんで面倒事が減らないのかなあ。

 とまたまた失礼なことを心に思うアレスだったが、本当に言葉通りのことを考えているわけではなくて、その憎まれ口は寂しさの裏返しである。

「そんなことは無い! オレは断固認めない!」

 王女はきょとんとした。「野営してはいけませんか?」

「え? あ、いや……ていうか、なんで野営なんかすんだよ? ここに何しに来たんだ」

「明日、門を出ます。ですから、今日は早めに休んで英気を養おうかと」

「門を出てどうするんだよ? 諸国漫遊の旅にでも出るのか?」

「面白そうですね」

「全然面白くないね。最初の方は物珍しくていいかもしれないが、そのうち金は尽き、土手の上から女の子が降って来て、王子と出会い、剣呑(けんのん)なヤツラに狙われて、母国に戻ってくるだけの話だ」

「お帰りなさい」

 王女は、アレスに、「馬車をその林に寄せて、積んであるテントを出して建ててください」と命じた。アレスは言われた通りにした。馬車を林に寄せて停め、テントを出す。後学のためにオソを手伝わせながら、手際よくテントを建てていると、

「お上手ですね~」

 と横から王女。

「昔、散々やってましたからね」

 答えるアレスの声に皮肉げな色が混ざるのをオソは聞いた。

「あなたは昔から何でも器用でした」

「器用貧乏だって言いたいんでしょう。まあでもパーティにはそういう人間が必要でしょう。何より、こういう仕事は貴族様のやることじゃありませんしね」

 アレスの声にわずかではあるが皮肉を通り越して嘲るような色が現れた。

 王女はその口元を笑みの形にした。「オソ」

「は、はい、殿下!」

 急に名前を呼ばれたオソは、びっくりして直立不動になった。

「もうひとつのテントはわたくしが建てます。手伝ってくださいますか?」

「もちろんです、殿下……あの、でも……」

「何ですか?」

「わたし一人で大丈夫です。殿下のお手をわずらわせなくとも――」

「いいえ、わたくしがやりたいんです」

 王女は断固とした口調で言ったあと、バツの悪そうな顔をしているアレスを見た。

 夕闇が迫る中で、王女はテントと格闘した。大ミエを切った割にはもたもたとしていたが、最終的には建ったのだから上出来だろう、とアレスは思った。

「わたくしが何が言いたいのか、分かりますね、アレス?」

 額の汗をぬぐいながら言った王女に、アレスはうなずいた。貴族というひとくくりで一緒くたにされたくないということだろう。その意地の張り方はなかなか可愛らしい、と思ってしまって、何ということを考えたんだと焦っていたところ、ズーマが、夕食の準備が出来たことを告げた。王女がテントを張っている間に食事の準備をしていたのである。

「その気になれば動くんだよなあ、お前も」

 地面につくった簡易カマドでぐつぐつさせた鍋からよそわれたスープの椀を受け取りながらアレスが言った。

「わたしは常に率先して動いている」とズーマ。

「ウソつけ。ルゼリアに来るまでは全然動かなかったじゃないか」

「ヤナ嬢がいたからな。わたしは率先して動くが、しかし無駄には動かないタイプだ」

「ヤナの料理がなつかしいなあ。よくも旅先であんなにうまいメシが作れたもんだ。それに比べるとこれは本当にひどいな。……よし、お代わり!」

「自分でよそえ」

 食べ終わった頃には、すっかり月の光が明るく感じられるようになる頃合いだった。

 食後のお茶を飲みながら、アレスは近くにいる少女に、門を出てどこに行くのかと尋ねた。目的地を教えないドッキリゲームはここまでにしてもらわないといけない。なにせ外は盗賊の巣である。アレス自身は王女の遊びに付き合っても構わないが、オソがいる。何をするのか分からないと自分の身はともかくとしてオソの身に危険が及ぶ。

「『暗黒の森』から、賊を一掃します」

「は……?」

「聞こえなかったのですか?」

「いえ、意味がよく分からなかったんです」

「言葉どおりです。シブノブという組織、また他の組織を全て、森から排除します」

 王女は何でもないことででもあるかのような口調で言った。

 アレスは、オソはここで返したほうが良さそうだと思った。

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