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第142話「亡命完了の時」

 城壁にぽっかりと空いた口のようになった門から現れたのは、我らがナヴィン隊長と、数名の鎧姿の男たちであった。そのうち一人の男が隊長格らしく、ナヴィンと話しながら歩いてくる。他の男たちは、後ろに従っていた。

「遅くなりました、殿下」

 近づいてきて申し訳なさそうな声を出したナヴィンに、

「早過ぎだぞ。今からがいいところだったのに」

 アレスは駄々っ子のように口を尖らせた。

 何のことを言われているの分からないナヴィンは、小首を傾げて黒髪を揺らすと、隣の男を王子に紹介した。名をキュリオと言い、この西門の責任者らしい。柔和な物腰の男である。というよりは、弱々しいと言った方がいいかもしれない。細い線には角ばったところがなく、顔も男性的なゴツサから解放されて中性的。王都城門を守るにはどうにも頼りなげな男であるが、アレスはその体躯から滲み出る澄んだ気のようなものを感じていた。

――見た目どおりのモヤシヤロウじゃないな、コイツ。

 心の中でアレスは失礼なことを考えた。

「どうもー。お初にお目にかかりますー」

 キュリオは語尾を伸ばすようにして王子に向かった。

「部下が失礼をして、ホントに申し訳ありません」

 まるで商店の主が客にでも対しているかのような口調に、気分を害したりしないのがルジェの偉いところだとアレスは思う。

「いえ、こちらこそ、喪中をお騒がせする無礼者です。どうぞよろしくお願いします」

 ルジェは頭を下げた。

 それを見たキュリオは、まさか王子に頭を下げられるとは予想だにしなかったに違いない。びっくりした様子を見せて、

「いえいえいえいえ、どうか頭をお上げください、殿下」

 慌てて言った。

「今日はじき日が暮れますので、門内で一泊していただいてーですね、翌朝、王宮までお送りいたしますので。早馬を飛ばしておきましたので、おそらく今夜中か、それとも明日の朝には、王子のご来駕を王女殿下もご存知になることと思いますのでー」

「痛み入ります」

「さささ、何にもありませんが、お食事を用意いたしますので、旅の疲れをお取り下さいませー。馬車は部下にやらせますので。ささ」

 キュリオは、手を城門の方に向け王子を誘うようにするときに、ちょろっとアレスに視線を向けた。アレスは見られたことに気がついた。視線が張り付けられていた時間は長くない。むしろ一瞬のことである。それから、キュリオはナヴィンと目語した。ナヴィンが小さくうなずく。二人の声なき声を、アレスの心の耳はしっかりと聴き取っていた。

――ヘーイ、ナヴィン。こいつが勇者アレスだって? 冗談キツイぜ。

――わたしだって信じてないわよ。一応、見覚えがあるかどうか王都住まいのあなたに確かめてもらっただけじゃない。

――ハッハー。こんなのが勇者な訳ないダロ。見覚えなんか、ノーノー。

――やっぱりね。よりによって勇者の名を(かた)るなんてね。得体が知れないヤツだし。始末しておいた方がいいかしら?

――物騒なこと言うなヨー。一応王子の連れだゼ。

――じゃあ、どうする?

――とりあえず、様子を見るしかないダロ。まあ、おかしなことしやがったら、すぐにたたっ切ってやるけどナ。

――頼りにしてるわ、キュリオ。

――まっかせなサーイ。ハッハー。

「どうしたの、変な顔して?」

 腹の中にどす黒い悪意を持つにしてはやたらと爽やかな微笑を見せながら、ナヴィンが横から現れた。

「これだから女は嫌なんだよ!」

 アレスは怒りをぶちまけるようにして言った。彼の不用意な発言に対しては、エリシュカとヤナの冷たい視線が送られてきた。

「ホントに変わってるわね、あなたは。まあ、最後に意見が合ったようで良かった。わたしもあなたのことは好きじゃない。でも、今回のわたしの任務を果たせた事に対してあなたの力があったことは否定できない。暗黒の森では、もう少しでルジェ殿下をお守りできないところだった。ヴァレンス関から色々あったけれど、そのことについては礼を言うわ」

 ナヴィンは少しそば向くようにしながら、それでも素直な声を出した。

「あんた、ミストラス家の人間なのか?」

 アレスは全然関係の無いことを訊いた。

 誠心をかわされて、ナヴィンはムッとしたようだった。しかしうなずいたその顔に多少の誇りが浮かぶ。

「キュリオの父上が一族の長なの。わたしは彼の従妹。従兄妹同士だったから話が早く済んだわけ」

「早く?」

「あれでも早かった方よ」

 ナヴィンは城門から中に入ろうとはせずに、城壁に背中を押しあてた。そこで、部下を待つという。

「その部下思いをもう少し広げてやれよ」

「平民に情けを持てと?」嘲るような口調。

「できなければこの国は滅びるぞ」

「国を守るためにわたしはいる」

「立派だよ。じゃ、またな。お互い、生きてたら」

 アレスは城門をくぐった。

 二人のやり取りをそばで聞いていたヤナは、隣にいたズーマに顔を向けた。

「ミストラスっていうのは確か――」

「ヴァレンスの政治をあずかる五つの大臣家の一つだ。あのキュリオというのは、その次男だったハズだ」

 ズーマが答える。

「へー、いいとこの坊っちゃんなんだ。口調が変な割には」

 ナヴィンを残して、アレス達がみな中に入ったところで、門はゆっくりと閉められた。

 ルジェの亡命がとりあえずの完了を見た瞬間だった。

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