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第141話「王都城門を抜く方法」

「城門を破壊するのはいいけど、その後が面倒くさいことになるよなあ?」

「ぞろぞろと警備兵が集まってくるだろうな」

「そいつらを蹴散らすのもまたメンドーだな」

「王都城門の警備ということになれば、相当な数が詰めてるだろうからな」

「うーん、メンドクサイ」

「人生は面倒事の連続だ」

「面倒なことは嫌いなんだけどなあ。春の木陰で可愛いあの子に膝枕してもらいながらのんびり寝そべるような、ゆったりと平和な人生を送れんもんかなあ」

「どんな勇者だ、それは」

「勇者は廃業しましたので」

「ところが勇者というのは職業のことを言うのではない。それは生き様なのだ」

「生き様?」

「事に雄々しく当たり、華々しく散る」

「何で散るんだよ。やだよ、オレ」

「運命には逆らえん。最後には散ることになるのが勇者の宿命。かの大勇者アホタレンしかり、バカコゾウしかり」

「よくその名前で勇者になれたなあ」

「おまえも二人にならいせいぜい面白おかしく散ってくれ」

「オレは散らない。運命にあらがってみせる! 可愛いあの子と結婚するまで!」

 アレスは握り拳を夕空に突き上げると、クルリと振り返って、仲間たちの様子を見た。

 アレスの感動的な宣言を聞いていた者はパーティの中には誰一人いないようであった。オソは馬の様子を見ているし、ターニャはルジェにお茶を給仕している。エリシュカとヤナに至っては、

「今みたいな感じ? ヤナ?」

「なかなか良いけど、もっと腰を回せ。下半身の力を拳に込めるようにするんだ」

「こう?」

「良くなった。パンチは上半身じゃない。下半身で打つ。普段の走り込みによって下半身を強化しておくことが大事だ」

 悠々と何か恐ろしいトレーニングをしているようであった。

 アレスはやれやれと首を横に振った。みな、やたらとリラックスしている。何も分かっていない。

「いいか、みんな。よく聞け。これからオレたちはあの城門をぶっ壊して王都に侵入する。警備兵と戦うのがメンドー……じゃない、えーと、喪中の王女の平穏を破るのが畏れ多くて、できるだけ穏便な手でいきたかったが、そうも言っていられないことになった。待てど暮らせどナヴィン女史が帰って来ない。これ以上は待てない。城門を破壊すればオレたちは当然、ヴァレンスの国賊となる。だが、前にオソが言ってくれたようにオレはなすべきをなす男だ。みんな、覚悟はいいか?」

 アレスの緊迫した言葉で、気を引き締めてくれたのはオソだけだった。

 足が地を踏みつけて拳がピシイと何かに打ちつけられる音がして、続いて、

「リシュはなかなか筋がいいな」

 満足そうな少女の声。ヤナはエリシュカの拳を受けた自分の手をヒラヒラした。

 ターニャはアレスの言ったことの意味が良く分からないらしく、あどけない顔を不思議そうな色に染めている。

「しかし、城門を破壊すると言っても具体的にどうするんですか?」

 そう訊き返したのはルジェである。彼もターニャと大差ない。アレスの言葉の意味は分かっても、何をするつもりなのかということがイメージできないので現実感が無いのである。

「言葉通りだよ。大呪文でガツーンとね」

 アレスのカルい言葉を聞きながら、ルジェは城門を見た。ほんの三十歩ほど離れたところに門は鎮座している。王都を守るものだけあってさすがに重厚な趣。これを破壊するとなると、相当大掛かりな呪文でなければならず、そのためには相応の準備がいるのではないかと思われた。

「そこはそれ、勇者の実力だよ。王子」

「アレスは呪文の使い手でもあるのですか?」

「いや、オレ自体は大した使い手じゃない。せいぜい魔法剣に力を発揮させてやるくらいのもんさ」

「では、ズーマ殿が?」

 ルジェはアレスの横にいる銀髪痩身の青年を見た。自らを「大陸一の魔導士」と称するだけあって、ズーマの魔法の力は群を抜いている。旅の途中で何度かズーマの(わざ)を目にしたルジェは、彼が大陸で一番かどうかは定かでないにしろ、確実に今ミナン王宮に勤めているどの王宮魔導士よりも優れていることを認めざるを得なかった。もしかしたらズーマならできるのかもしれない。何の準備もなく、城門を吹き飛ばすような大呪文を使うことが。

 しかし、アレスはそんなルジェの思いを、軽やかに否定した。「違うよ」

「わたしがやっても構わないがな」

 王子の畏敬の眼差しを受けて気を良くしたズーマが横からしゃしゃり出てくるのを、アレスは険のある目で見た。

「おまえはすぐいいカッコしたがるんだからなあ」

「そういうおまえは?」

「オレはアレだよ、この頃、どうもみんながオレのことをリーダーとして敬ってくれないからさ。ここらで一発派手にやって、みんなに尊敬されたいだけだ」

「じゃあ、同じことだろ」

「それに、この剣もたまには使ってやんないとなあ。単なる背中のアクセサリーと思われるかもしれないし」

 そう言って、アレスは片手を後ろに伸ばすと、背に負っていた剣の柄を握った。そうして、ルジェに、城門を破壊する呪文は剣の力を借りて唱えるのだと続けた。

「これは呪文の威力を増幅させる魔法の道具なんだ。訳あって、オレしか使えないけどな」

 アレスは柄を握ったまま、城門の方を振り向いた。

「良く見てろよ、みんな。勇者の大呪文ショーの始まりだ」

「九割九分がたは剣のおかげだがな」

 ズーマが言う。

 アレスが呪文を唱え始めようとしたまさにそのときのことだった。

 城門の中心にまっすぐに裂け目ができて、ゆっくりと両側に開き、ついには向こうの景色が見て取れるほど門は全開になった。

 勇者は活躍の機会を逸したようである。

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