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第135話「暗黒の森の真の支配者」

「死んでしまったんですか?」

 周囲でピクリとも動かなくなった少年たちを見ながら痛ましい声を上げたのはルジェである。

 ズーマは口元に微笑をたたえた。

「いいえ、気を失っているだけです。いくら強盗まがいのことをやったとはいえまだ子ども。殺すには忍びない」

 それを聞いてホッとした顔を見せているのだからルジェの人の良さは筋金入りである。ルジェは自分の影に隠れているターニャに、もう心配無いことを告げた。ターニャは、唐突な賊の襲撃に震えが止まらないながらも、気丈にうなずいてみせた。

 そこへ、ヤナがぐったりと横になっている少年たちを避けながらやってきた。

「五人相手に呆気ないことしてくれたなー。あたしの活躍台無しにしてくれたわけだけど、なに、さっきの?」

 ズーマに言う。

「何とは?」

「呪文みたいだったけど、詠唱がなかった」

「わたしのことが良く分かってないようだな、ヤナ嬢」

 ズーマは上から目線で、ヤナを見た。

「わたしは世界一の魔導士だ。詠唱など必要ない」

「えっ! 詠唱必要無いの? 呪文使いの弱点が詠唱中無防備になることなんだぞ。詠唱必要無かったら、無敵だろ」

「その通りだ」

「その割にはこれまであんまり活躍してなかったのはなんで?」

「わたしの出る幕ではなかったということだな。これまでの危機など、アレスごときで十分」

「さっきのは?」

「子どもが調子に乗っていたから仕置きをしてやったまでのこと」

「なんだよ。じゃあ、あたし、ガンバる必要無かっただろ。最初からズーマが呪文でちゃっちゃっと片づけてくれればさあ」

「ノリノリだったようだが」

「じょーだん」

 ズーマとヤナの楽しげな会話を少し離れたところから聞くとはなしに聞きながら、アレスは、全く何の役にも立たなかった護衛の騎士たちが向かってくるのを迎えていた。

「勇者かどうかはまだ分からないけど、なかなかやるわね」

 ナヴィンはやけにデカイ態度である。

「この辺は安全じゃなかったのかよ? それともこういう青少年の小悪党たちは数に入らないのか? それにしては、見事に護衛の隙をつかれてたみたいだけど」

 ナヴィンは口に苦いものでも含んだかのような顔をした。返す言葉が無いとはこのことである。護衛の隙をつかれたのはナヴィンの油断だったかもしれないが、その油断のもとは、ここが王都周辺パトロール隊「竜勇士団」のテリトリーだという事実である。

「人のせいにすんなよな。油断は自分の責任だろ、隊長さんよ」

 にやにや笑いを浮かべて人の弱みを突っついてくる自称勇者に、しかし、ナヴィンはただ耐えるしかない。

「分かった。認めます。わたしの責任です。殿下に謝罪してくるわ。あなたにも謝ります」

 そう言って、ペコリと頭を下げるナヴィン。周りにいる隊員たちからざわめきが湧いた。

「本気になるなよ。冗談だよ」

 ナヴィンはすっと目を細めたが、それはアレスの軽口に対してではない。

「賊にとどめを刺せ」

 部下に冷たく告げるナヴィンは、「やめろ!」という切羽詰まった声がすぐ近くから上がるのを聞いた。

「まだ子どもだぞ」

 さっそく動き出そうとしたナヴィンの部下たちの前に立ちはだかるようにして、アレスが言う。

 ナヴィンは、自分たちの邪魔をしようとしている少年をどうすればいいのか指示を求める部下たちに、「少し待て」と告げた。

「子どもだからといって法を犯せば罰は免れない」

「何も死刑にすることは無いだろ」

「他国の王族への強盗行為は死に値する罪よ。……何で、こんなヤツラに同情するの?」

「別に同情してるわけじゃない。ただ、こいつらだって好きこのんでこんなことをしているわけじゃないだろ。特に今のヴァレンスの状況じゃな」

「それは理由にならない」

「そういうことを言えるのは立場が同じヤツだけだ。あんたは貴族だろ。こいつらと同じ立場じゃない」

「見過ごしにはできない」

「……じゃあ、つないで王都まで連行しろ」

「そんなことしていたら王都に着くのが遅れるでしょ、いいの?」

「いい訳ないだろ。だから、オレたちはオレたちで先に行くから、あんたらはそのクソガキどもを連れてゆっくり後から来ればいいってこと」

「わたしがいなければ、王都の外壁部から中には入れないわ」

 アレスは、「試してみるさ」と言って、不敵な笑みを浮かべた。

 そのときである。

 気配を感じて振り向いたアレスの目に、ひとりの青年が立っている姿が映った。ヤナに加減して殴られて回復が他の仲間よりも速かったのだろうと思ったが、どうやら違うようである。服装が、大地に寝転がっている若者たちとは違う上等な仕立てである。とすると、どういうことになるのか。

「おい。誰だ、あんた?」

 直接訊いてみるのが早道である。

 青年はまだ二十歳前くらいの年である。ひょろひょろとした体型に長い手足。顔まで細長い上に、目も糸目である。どことなく存在感の感じられないような不気味な雰囲気があった。

「おーい! 聞こえてますかあ?」

 アレスが声を大きくすると、青年はニタリと笑った。糸目がわずかに開いた。

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