表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/227

第124話「より大きな罪」

 ナヴィン隊は迅速な動きをした。女隊長が剣を抜くと、仲間の騎士たちは一斉に白刃を日の下にさらした。ナヴィンは、先陣を切って盗賊風の男たちに向かっていった。勇敢なことである。その勇気に奮い立った騎士たちは、ナヴィンの後を追った。馬車の先を走っていた騎士たちはもちろん、後ろにいた騎士たちも盗賊たちへと向かっていった。

「何の騒ぎなんだ?」

 客車からヤナが顔を見せた。その隣にエリシュカ。

「盗賊らしいヤツラが襲ってきた」

 アレスは簡単に答えた。

「らしい?」とヤナ。

「詳細は知らない。多分、盗賊だ」

「多分?」

「それだけでナヴィンにとっては十分なんだろ。仮に盗賊でなかったとして、大声で叫んで突撃してくるのは少なくとも貴族じゃない。貴族じゃなければ、貴族にとっては敵だからな」

「随分さっぱりとした話だなあ」

「分かりやすくていいだろ。ただ、そういう分かりやすさじゃ政治はできないだろうけどな。できたとしても、大した話にはならない」

 喚声が大きくなった。耳障りな金属音が響いてくる。

「助けに行かないのか?」ヤナがからかうような笑みを浮かべた。

「オレが? 何で? これはあいつらの仕事だ」

「お前が行けば早く済むだろ。しかも、リスクも少ない」

「それはあいつらのリスクだろ。オレのリスクじゃない。ナヴィン隊と仲間になった覚えはないし、オレの役目はこのパーティを守ることだ」

「その守られる中にあたしも含まれてるだろうな」

「まあ、一応」

「一応? こんなか弱い女の子は最も慎重に守らなきゃだろ」

 ナヴィン隊はなかなか良い動きをしていた。どうやら数の上では敵の方が多いようだが、騎士隊は乱れのない突撃、散開、包囲を繰り返し、盗賊たちを圧倒していた。断末魔の叫び声が、風に乗って流れてくる。やがて盗賊たちは散り散りになって逃げ出した。ナヴィンは、勝利にはやる部下たちを止め、追撃を抑えたようである。後には、騎士たちに斬られた盗賊の死体がいくつか残された。

「終わったの?」

 エリシュカが訊いたが、アレスは答えなかった。無視された格好になったエリシュカはムッとして、アレスの髪を引っ張った。

 帰ってきたナヴィンは、外套の一部とその整った顔を黒く汚していた。本人はぴんぴんしている様子であることから、どうやら敵の返り血を浴びただけであるということが分かった。

「お疲れさん」

「頼みがあるの」

 ナヴィンはやぶから棒に言った。先を促したアレスは、今の戦闘で負傷した者がいるのでその者を馬車に乗せてもらえないかと、頼まれた。

「何人だ?」

「二人」

「分かった」

 アレスはエリシュカとヤナに、ルジェの馬車に乗るように言った。

「ありがとう」

「傷はひどいのか?」

「それほどじゃないけど、戦闘に参加させたくはない。あと、もし治癒の魔法がかけられるのならお願いしたいのだけれど」

「悪いな。治癒の魔法をかけられるヤツはうちのパーティにはいない」

「謝られることじゃない」

 ナヴィンは馬を戻すと、部下に負傷した味方をオソの馬車の中に運ぶように命じた。

「ズーマならできるんじゃないのか?」

 ヤナがヒソヒソした声で言った。何のことかアレスが訊き返すと、

「治癒の魔法だよ」とヤナ。

「できるな」

 アレスはあっさりと言った。

 ヤナは眉を曇らせた。では、なぜナヴィンにウソをついたのか。

「できてもやる気が無いんだから、できないのと同じだ。変な希望を持たせても仕方ないだろ」

「何でやる気が無いの? 頼めばやってくれるんじゃないのか?」

 ヤナの目から見てみると、ズーマはそれほど底意地の悪い人間には思えない。確かにナヴィン隊には何の義理も無いけれど、怪我人を助けることくらいはしてくれそうな気がした。

「ヤナが頼めばやるかもしれないな。あと、エリシュカとか。オレは頼む気はない」

「……治癒の魔法っていうのは、それを使う者に何か危険があるのか?」

 だから大した付き合いのないナヴィン隊のためには頼めないのかと解釈したヤナだったが、

「無いだろ、そんなの。ちょっと疲労するだけだ」

 どうやら間違っていたようだ。それならちょっと魔法をかけてやるくらいしても大したことないじゃないかと思うヤナだったが、

「ズーマの頭には、無償で人を助けるっていう概念は無い。あいつは悪いヤツじゃないが、いいヤツでもない」

 と答えたアレスの声音がいつものアホっぽい調子よりよほど真面目なものだったので、それ以上は何も言えなかった。

 けがを負った部分の応急手当てを済ませた二人の騎士がオソの馬車に乗り込んだあと、アレスはその騎士たちが乗っていた馬の一頭に乗った。可哀想なことにもう一頭の馬は、盗賊たちに斬られたようである。それよりももっと哀れなのが、ナヴィン隊に斬られた盗賊たちの方だったが、彼らに同情を寄せる者は誰もいないようだった。アレスは倒れた盗賊たちの横を通り過ぎるときに、彼らの体を見た。痩せこけた身に、ほつれた衣服を纏っている。アレスは静かに息をついた。盗賊は許される行為ではないが、もし盗賊をせざるを得ないような状況を作っている者がいるとすれば、その者の行為の方がより大きな罪である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ