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第113話「ルジェの迷い」

 そのあどけなさはとても「賢き」という形容とは似合わないような気がしたが、とはいえ、見たことのない不思議生物を駆って来たことを考えれば、普通の子どもでないのは明白である。

「ホントに無事で良かったよ。もしかしたら死んだかと思ってた」

 ソイロ少年はホッとしたような笑顔を見せた。 

「詳しく話してくれないか、ソイロ」とルジェ。

「できるだけ手短にな」

 アレスが付け加えた。ヴァレンス関までは目と鼻の近さであって、ソイロ少年の事情が何であれ、あまりここに留まって時間を無駄にしたくない。

「ルジェ、誰だよ、こいつ?」

 急かされたことに気を悪くしたのか、ソイロはムッとした声を出した。

 ルジェは、アレスのことをヴァレンスの勇者だと紹介した。

「うっそだー! こいつが勇者アレスなわけないよ。全然ぼくの想像と違うもん!」

 ソイロは断言するように言った。ルジェはソイロ少年の失礼をたしなめようとしたが、

「だってさ、魔王クヌプスを倒した人だよ。もっとこう背が高くってさあ、カッコよくてさあ、超クールな武器を持ってるはずじゃん。こんなやつじゃないよ、絶対。だまされてるよ、ルジェ!」

 手遅れだった。

 アレスは初対面の年下から「こんなやつ」呼ばわりされて、ただでさえいらいらしていた頭が沸騰しかけたが、何とか耐えた。十歳程度の子どもがすること。本気になっていては大人げないというものだ。エリシュカもヤナも見ていることだし。アレスはぐっと奥歯を噛みしめて、笑顔を作った。

「すみません、アレス」

 ルジェの謝罪に、大丈夫だ、と鷹揚に構えたアレスは改めてソイロ少年に事情を訊こうとしたが、その前に彼は、

「こっちのヤツは誰?」

 アレスの隣にビッと指を向けた。向けられた先にいるのはヤナである。初めて会った人、しかも女性を指差すというぶしつけをルジェは叱りかけたが、それよりもヤナのカウンターの方が速かった。ヤナはニッコリと微笑むと、その見た目は細くて繊細な腕を、握手でも求めるかのようにソイロ少年に差し出した。しかし、その手は少年の手を取ることなく、彼の胸元に向かい、

「う、うわあ」

 胸倉を引き絞ると、そのまま少年の体を地面から浮かせんばかりに持ち上げた。

「なにすんだよ~! 離せ~!」

 地につくかつかないかの位置で足先をばたばたさせながら、少年が悲鳴を上げた。しかしヤナは悲鳴に頓着するような甘い女ではない。そのまま顔を近づけていってガンを飛ばすと、

「あたしの名前はヤナだ。ただし、呼ぶ時は『ヤナさん』って呼べ。いいな、クソガキ。年上には礼儀を尽くせ」

 低い声で言う。傍で見ているだけのアレスの身が縮むようなドスの効いた声である。まして真正面から鬼気を向けられたソイロは人外のものでも見たかのような青白い顔になると、首を小刻みにうなずかせた。

「よろしい」

 ヤナは打って変わったような明るい声を出すと、ソイロの足をちゃんと地につけさせて、手を放した。ソイロがヤナを見る目には明らかな畏怖の色があって、ヤナのその手際にアレスはいたく感心した。

「ソイロ、それで君はどうしてここに来たの?」

 ルジェが話を元に戻した。

「だから、さっき言ったでしょ。助けに来たんだって」とちょっと怒ったようにソイロ。

「ゴメン。訊き方がまずかった。どうやってここに来たのって訊き直すよ。誰に言われたの?」

「ティアだよ。ルジェがバカ太子の刺客に狙われてるから、助けに行くようにってぼくらに言ったんだ」

「ティアが?」

「うん」ソイロはうなずいた。

「ボクがいるところが良く分かったね」

「分からなかったんだよ。だから、こんなに探すのに時間がかかったんだろ。今もみんなが別の街道を探してるところさ」

「みんなって言うと……」

「そ。ぼくの愉快な仲間たち。ササリとかリョクとかノイファとかさ」

「そうか……」

「ルジェを見つけたら、ティアの指示したところまで連れて行くことになってるんだ。さ、マカに乗って」

 そう言うとソイロはルジェの腕を引っ張るようにした。

 ルジェはそれを優しく押しとどめると、一緒には行けない、と穏やかに告げた。

「え、なんで?」

「ボクはあそこに見えてるヴァレンス関を抜けて、ヴァレンスに亡命する」

「ええっ! ……って、まあ、ここにいるってことはそういうことなんだよね。でも、もうそんなことする必要は無いよ。ぼくらがルジェを守るから。ぼくらだけじゃない。アーヴェスやクリスロウだってルジェを助けに来てくれるんだから。あの二人がいれば、最強だよ。誰もルジェに手出しできなくなる」

「ソイロ。アーヴェスもクリスロウもボクの家臣じゃない、王臣だ。二人にはしっかりと王にお仕えするように言ってくれ。もちろん、君もだよ」

 ソイロはやれやれと首を横に振った。

「分かってないなあ。ぼくはあのときちゃんと言ったよね。王に仕えてもいいけど、あくまでルジェの客として仕えるってさ。ぼくは王に仕えてはいるけど、王の家臣じゃないよ。アーヴェスもクリスロウも同じ気持ちさ」

 そう言ってから、

「それにさ、ティアが言ってたけど、ヴァレンスに一回入っちゃったら、そう簡単にミナンに帰って来られなくなるんだろ? それでもいいの、ルジェ?」

 ソイロは続けた。

 ルジェの表情に迷いの色が現れたのが、アレスの目に明らかである。

 ルジェはしばらく押し黙っていた。

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