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第109話「ミナン出国前夜」

 勇者一行は街道を東へとひた走った。途中、ほんの少し休憩を取っただけで、あとはひたすら爆走である。食事も携帯食を走りながら取った。

 アレスとしては、

「もうこれ以上追っ手の相手をして、エリシュカに謝るのがいやだ」

 という男のプライドを守りたいがゆえということもあるのだが、それより何より、パーティ全体の安全を思っての行動である。毎回、さっきのアーマーナイトたちのときのように、うまく追っ手を退けられるかどうかは分からない。これが自分一人であれば、うまくいかなかったとしてもせいぜい自分が死ぬだけであるので、まだ良い。もちろん死なない自信も相応にある。しかし、パーティ全員を守りながら追っ手を退けるというのはかなりの難事であって、神経に障る。できればあんまりやりたくない。

 その願いが地に通じたわけでもなかろうが、その日、追加の追っ手はとうとう現れなかった。太子の追っ手のストックが底をついたのかもしれないが、もしかしたら最後の一撃に賭けるために力を溜めているのかもしれない。アレスは油断しなかった。

「よし、到着!」

 星影かすかな闇の向こうに、関所がある。関はミナンとヴァレンスを分かつレネピル山地の山道入り口に鎮座している。その関を過ぎ、レネピル山地を超えると、ヴァレンスに入ることができる。基本的に周辺国との自由な往来を許しているミナンの関は、一日中開けられているのだが、夜間はしまっているようだった。関の近くで野営している商隊がいくつか見えた。明日、山を越えていくのだろう。アレスたちも関の近くで野営の準備をした。

 ここまでくればとりあえず一安心である。さすがに関の近くで狼藉は働けない。関には常に、国境警備軍が詰めていて、関の近くで何かあれば当然に出張ってくる。

「みんなよくがんばったな。後は朝になるのを待つだけだ」

 アレスは一団のリーダーっぽくひとりひとりに声をかけた。リーダーの温かなねぎらいの言葉で疲れも癒えるが良い、と思ったのである。しかし、パーティのメンバーからの反応は今一つであった。オソとルジェは今日一日の疲労で答えるのも億劫そうであり、エリシュカとヤナは逆にあまり疲労していないのでまともに答えてくれない。ズーマにいたってはまるで少しも疲れていないかのような平然とした様子である。アレスは皆のあまりの無反応ぶりにちょっと落ち込んだが、これから先きっと自分の言葉でみんなを奮起させてやる、と勢い込んで己を奮い立たせた。

「未来は明るいはず!」

「何をぶつぶつ言ってる? さっさとテントを作れ、下っ端」

 ズーマが言った。

「おい、オレはリーダーだぞ」

「なるほど。よし、分かった。テントをつくれ」

 何も分かっていない!

「何でオレなんだよ、お前は?」

「わたしよりもお前の方がうまくできる。適材適所だな」

「オレはテントを作る役かよ。なに、その役! ……だいたいテントを作る必要はないだろ。エリシュカとヤナ、オソとルジェはそれぞれ馬車の中で休めばいいんだから」

「わたしとお前は?」

「寝ずの番だよ。決まってるだろ」

「必要か?」

「オレは用心深いんだよ」

 ゴールにたどり着いて気を緩めたばっかりに最後の最後で失敗! などという間抜けなことにならないようにしたいということである。そんなことになったら目も当てられない。

「結界は?」

 アレスが訊くと、ズーマは「既に張った」と良い答えをした。「結界」とはズーマの呪文の一つで、自らを包むように半球状の魔法空間を作ることで、その空間内に敵が入ってきたときに警報を鳴らすことができるなかなか便利な代物である。

「仕事が速いなあ。さすが」

 アレスは、ズーマを除いた他の四人に休むように言った。ルジェとオソは携帯食を食べたあと、早々に眠りについた。エリシュカも馬車に入って横になった。一方、ヤナは、

「不寝番なら代わろうか? あたしはゆっくり休めたからさ」

 気を遣うことのできる女の子であることをアピールした。

 アレスは感動した。そうして、もう少し彼女がお淑やかであれば世の男性諸氏がほっとかないだろう、もったいない! というお節介なことを考えた。

「いや、いいよ。夜更かしはお肌の大敵だろ。姐さんの肌を荒らすのに忍びない。オレとズーマが起きてるから安心してくれ」

 ヤナが馬車の中に入ったあとは、闇だけが残った。

 繊細な虫の音が聞こえてくる。

「ヴァレンスか。少し早かったか」ズーマが言った。

「約束よりは少しな」

「嬉しいだろう?」

「何が?」

「彼女に会えるのが」

 アレスは重苦しいため息をついた。

「時々お前の神経を疑うね」

「勝手に疑ってろ。わたしは正気だ」

「あいつはオレが会った中でも一番残念な女だ。一生会わなくてもいい。ていうか、会いたくない」

「リシュ嬢がどんな反応をするか楽しみだな」

「そうだ。エリシュカに剣を買ってやらないとなあ」

「なぜ?」

「いざというときは、あの女からオレを守ってもらう」

 その夜、ズーマの結界は何の反応も示さなかった。

 やがて夜が明けた。  

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