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第105話「太子とガサリ族との密約」

 適当に足先でつんつんとしていると、やがて男は目を開けた。それから、自分を上から覗き込んでいる少年少女を認めると、ハッと瞳を大きくした。アレスの視界に、男の手がそろりそろりと動くのが見えた。

「やめとけ。剣はオレが蹴り飛ばしたから、近くにはないぜ」

 アレスはゆっくりと、手に持った光の剣の先を男の首筋に向けた。

 男は手をぴたりと止めると、観念したような息をついた。アレスは、「二三、訊きたいことがある」と言って、

「答えたくないなら、答えなくていいけどな」

 断ったあと、

「ただ誇りあるガサリ族の男は、戦いに負けたあと勝者の言うことに素直に従うんだろ?」

 と適当なことを言ってみた。

 それを隣で聞いていたヤナは、さっきガサリ族という名前を知ったばかりなのによくもまあ知ったかぶって厚かましいことを言えるもんだ、と呆れつつも感心していた。そうして、アレスの言葉を聞いたガサリ族の男が、当然だと言わんばかりの誇らしげな顔をしたものだから、内心で「おいっ! あんた、アホだろ」と突っ込んでおいた。もちろん、心の内は外には見せない。慎ましやかな顔を保っていると、

「太子に頼まれて王子を殺しに来たのか?」

 アレスが質問を落とした。

 男の太い顎がウムとうなずく。

「あんたたち以外に追っ手は?」

 男は小さく首を振った。いない、という意だろうが、これは「いるかどうか知らない」という意に取っておいた方が安全だろう、とアレスは思った。

「ガサリ族はなんで太子についたんだ? あんたらは王家から迫害されてきたはずだ」

 ヤナから聞いたのは、「呪われし一族」がミナンで忌み嫌われているということだけだが、とすれば、当然に迫害もされているだろう。精神的な嫌悪感が肉体的な暴力になることは想像に難くない。

 男はためらいの色を浮かべて、反応を見せなかった。しばらくして、

「……仲間を葬らせてくれ」

 そうさせてくれたら答える、と覚悟を決めたような澄んだ声で答えた。

「その必要はないね」

「頼む」 

「ダメだ」

 アレスはにべもなく答えた。

 男の瞳に一瞬、怒りの色が浮かび、それから深い諦めの色が沈んだ。

「殺せ」 

 男が平板な声を出す。

 アレスは人の悪い笑みを口元に乗せると、

「誤解があるから言っておくけど、あんたの仲間は二人とも死んでない。ただ気を失ってるだけだ。だから、葬る必要は無い」

 いった。途端に男の目が限界まで見開かれた。

「……本当か?」

「勇者が嘘をつくわけないだろ。イチロー兄さんもサブローも無事だ」

「太子は王になったあかつきには、我々が住む山を正式に我々のものとして認める、と約束した」

「ん?」

「我々が住む場所の自治を認め、ミナンは今後けしてガサリ族を害することはない、とそう約束したのだ。だから我々は太子に協力することにした」

 なかなか律儀な男である。裏事情をすらすらと話してくれた彼に、アレスは、「ちょっと正直すぎやしないか」と警戒したものの、なるほどありそうな話だった。異民族を懐柔するときによく使われる手である。しかし、果たして太子はその約束を守るだろうか。自治権を認めると言って甘いエサをちらつかせ散々利用したあとにポイと捨てる。それはアレスの全くの想像であったが、太子は落ち度の無い弟を殺そうとするような人間、十分にありうることだった。

「あんたらにルジェを殺させて王子殺しの罪を着せ、口封じと厄介払いにあんたらを始末する。そういう危機感は無いのか、あんたらには?」

「ルジェ王子が太子に対して害意を持ち、密かに次の玉座を奪わんと画策している……そういう話だった。大義は太子にあり、また太子は英明な方だそうだ。お前の言っていることなど起こりようが無い」

 男はかすかに馬鹿にしたような顔を作った。

「随分信用されたもんだな、太子は。ま、確かに、太子が優れているっていう噂はオレも聞いてる。太子が王になれば、次代のミナンも安泰だっていうのはな。ただ、オレは太子に会ったことがないし、あんただってそうだろ。噂を鵜呑みにするのは危険だとおもうけどね」

 そう言うと、アレスは剣を引いた。聞きたいことはもう無い。

「念のため言っておくが、これ以上はついてくるなよ。次に会ったら殺す」

 アレスは呪文を唱えて、短剣から光を消すと鞘に納めた。

「ガサリの男は見苦しいことはしない」

「そうだったな。じゃあ、そういうことでよろしく……ヤナ、走るぞ」

 アレスは隣の少女に一声かけると、街道を走り出した。ヤナが一瞬遅れてその後に続く。

「走るのはいいけど、いつまで走るんだよ。前に馬車は見えないぞ」

 ヤナは、アレスの横に並んで走りながら言った。

 二乗の馬車は随分と戦場を離れたようで、影も形も見えない。

「そりゃ見えないだろうな。普通に走り続けるようにオソには言ってある」

「おいおい。どうすんだよ。そしたら、絶対、追いつけないだろ」

「馬を使うさ」

「馬ってそんなん、どこにあるんだ?」

「すぐ来るって」

「はあ?」

 この辺りは野生の馬の宝庫だったりするのだろうか。首をひねるヤナがアレスと一緒に走っていると、少しして、後ろから馬の蹄の音が聞こえてきた。

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