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第103話「三対一の攻防」

 決めた覚悟で何を行うべきか。考えるまでもない。できることは多くないのである。

 とりあえずチャンスをうかがうため、アレスは彼らの攻撃をかわすことに専念した。

 アーマーナイトの三体はそれぞれの動きはそう速くないが、連携がうまく取れていてなかなか隙が無い。一体が斬りかかる時に、もう一体は二撃目を用意し、最後の一体がアレスの移動した方向に回り込もうとする。そうしてその回り込んだ一体が次の攻撃の一手目を担う。その繰り返し。三位一体となった流れるような攻撃である。

 きっと三人はこの連携攻撃を会得するために、雨の日も風の日もトレーニングに励んだに違いない。うまくいかなくてくじけそうな時もあったろう、「お前が悪い」と仲間を責めたときもあったろう、炎天下で長時間動きすぎて熱中症になりかかった時もあったろう、転んだ拍子に足の小指を骨折したときもあったろう。それもこれも、全てはこの日のため。そう、勇者抹殺の時のために!

「サブロー!」

 アレスの心の耳に、鎧戦士の心の声が響いた。それは哀愁と悲痛に彩られた声である。

 サブロー(仮)の鎧が前後に震えた。それから剣を持っていた腕が力なくぶらんと落ちた。カランと剣の落ちる音が街道に小さく響き、次いでバターンと巨体が転がる音が青空に大きく響いた。

 うつぶせに倒れたサブローを悠然と見下ろす恰好で、少年がひとり立つ。

 アレスの顔にはまるでわんぱくな子どものような得意げな笑みがあった。

 鉄壁の守備を持つはずの仲間が倒されて鉄仮面の後ろの顔が恐怖に慄いた……か、どうかはアレスの知るところではないが、一瞬、彼らの動きが止まったのは確かである。そうして、その隙を見逃すほど、アレスは甘くない。次の標的へと殺気を向けた。 

「気をつけて、イチロー兄ちゃん!」

 残った一人がそんなことを心の中で言ったかどうかは知らないが、既に手遅れである。

 瞬時に移動したアレスの攻撃。

 イチロー(仮)の体がぶるぶると震え出した。痙攣を起こしているのだ。

 アレスは光の剣を引いた。

 剣先はイチローの首元から現れた。鎧は体の全てを覆っているが、関節の可動域を確保するため、どうしても隙間が必要である。アレスはそのわずかな隙間を狙ったのだった。

「あとはお前だけだぞ、ジロー」

 アレスは剣先を残りの一人に向けた。

 直後、イチローが街道に重たげな音を立てて前のめりに沈んだ。

「お前ひとりじゃ勝ち目はない。大人しく降参しろ」

 アレスは余裕たっぷりの口ぶりで言った。しかし、内心は口調ほど余裕があるわけではない。鎧の隙間に突き込むのはそれほど簡単なことではなく、失敗すれば無防備な状態で相手の攻撃を受けることになる。先の二人に対しては成功したものの、あえて三人目に対してやりたいことではない。できれば、不利を悟ったジロー(仮)に降伏してもらい、負けを認めた印にフルフェイスを脱いだところを斬りかかりたい。

 がしゃん、がしゃんと鎧が金属音を立てる。

 正面から迫りくる最後のアーマーナイト。

 どうやらジローは兄弟がやられたにもかかわらず、いやかえってそのためやる気を増したのかは分からないが、とにかく降伏などする気はないらしい。アレスは心の中で舌打ちした。チョーめんどくさいよ! さすがに二人の仲間がやられたことで、こちらの意図は分かっているだろうから、さらに作業は困難になる。アレスは、ぶんと大きくしかし鋭く振られた剣をかわした。そのかわしたはずの剣が、下からはねあがってきたのに面食らう。振り下ろした剣を、そのまま振り上げるなど、並みの膂力(りょりょく)ではない。しかも片手なのだから恐れ入る。どうにかかわしたが、もう少しで一つしかない頭をなくすところだった。

「何だよ。本領発揮か、ジロー?」

 もちろん答えが返ってくるはずもなく、返ってきたのは幅広の剣の一撃である。

 アレスは、横殴りの一撃を光の剣であえて受け止めた。腕にしびれが走るほどの剣撃であるが、アレスは踏みとどまった。それから、体を沈みこませるようにして、鎧と兜の隙間を狙った。しかし、アーマー氏は狙われていると分かっていてむざむざやられるような間抜けではないらしい。ちょこっと顔を横に向けられて、アレスの剣は兜の側面に当たっただけだった。

 すかさず振られる鋼の剣。かわしたアレスに速やかに迫る連撃。それをよけたあとに距離を取ろうとしたアレスに、更に剣が襲い来る。アレスは上から振り下ろされてきた剣を、魔法の短剣で受け止めた。鋼と光が綺麗な十字を描く。

 三人で向かって来られたときと、一人に向かって来られる今。むしろ数が減って一人になった今の方がプレッシャーを感じるのだから、戦いとは興味深い。

 アレスの持つ剣にかかった負荷が不意になくなって、ふっと腕に軽さを覚えた。そこに振り下ろされる、鎧戦士の一撃。アレスは、今度は受け止めるのをやめて、かわした。すばやく距離を取って、剣を構える。鎧戦士は相変わらず、ゆったりとした所作でアレスに体を向けると、のしのしと歩いてきた。

――さてと、どうすっかな。

 鎧の隙間に光の剣を刺し込む作戦はもう使えない。

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