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ラブレター 春野天使編

作者: 春野天使

同じ設定、登場人物で小説を書いてみよう!という企画の第一弾です。

 開け放った教室の窓から心地良い春の風が吹いてくる。風は甘い花の香りとともに、生徒達の明るい笑い声も運んでいく。

 昼休み。俊哉は頬杖をついて、窓から校庭を眺めていた。俊哉の視線の先には、ある少女の姿がある。彼女の名前は鈴木沙紀。沙紀は三年A組。俊哉の隣りのクラスの生徒だ。沙紀は笑顔を振りまきながら、他の女生徒達と楽しそうに喋っている。

 長く艶やかなポニーテールが風に揺れている。はじける笑顔が眩しい。俊哉は、はぁと何度目かの吐息を吐く。中学に入学した日以来、俊哉の片思いはずっと続いている。一度も同じクラスになったことはなく、いつも遠くから見ている毎日。明るく優しい沙紀は、皆の人気者だ。男友達だって多い。彼氏が出来る日もそう遠くはないはずだ。

「はぁ……」

 春の愁いのようなもやもやした感情がわき起こる。

──このまま告白も出来ないで卒業するのかな?……

 まだ三年の四月だというのに、俊哉は来年の卒業式のことを思い描いてしまう。

「俊! なにボケーッとしんだ?」

 突然大きな声がしたかと思うと、クラスメイトの信吾がドタドタと俊哉の元まで走って来た。俊哉の感傷的な気分は吹っ飛んでいく。

 信吾は、去年の三学期に俊哉のクラスに転校してきた。家が近所ということもあって、自然と友達付き合いをするようになった。三年でもまた信吾と同じクラスだ。陽気で積極的な信吾は、もうすっかり新しい学校にとけ込んでいる。転校生の面倒を見ていたはずの俊哉が、今や信吾に面倒を見て貰っているという感じだ。

「何か悩みでもあんの?」

 信吾は窓から身を乗り出して、俊哉の視線の先を見つめる。

「何でもないよ」

 俊哉はクルッと窓に背を向ける。

「分かった! お前好きな奴出来たんだな」

「ち、違う!」

 キッパリ否定するが、俊哉の顔は心に正直に反応し赤く染まっていく。

「相手は誰だよ? よそのクラスの女子だよなぁ」

 信吾も食い入るように女子生徒達を見ている。

「……」

 俊哉はふと心配になる。信吾は並の容姿だが、行動派で明るい。クラスの女子にもかなり人気がある。もし、沙紀にアタックしたら彼女はOKして付き合うことになるかもしれない……沙紀を取られる!

「あ、あの。うん……」

 俊哉は、さらに顔を赤くして頷く。

「はぁ?」

 信吾は俊哉に視線を移し、キョトンとした顔をする。

「何が『うん』なわけ?」

「あの、だから……好きな子が出来た」

 俊哉は耳まで真っ赤にする。

「やったな! 俊哉!」

 信吾は俊哉の背中をバシッと叩いて笑う。信吾の大きな手に叩かれ、俊哉は前につんのめってしまう。

「で、どの子?」

 信吾はもう一度窓の外を覗く。

「あの──」

 俊哉が覗いた時には、既に沙紀達の姿はなかった。

「なんだぁ、いなくなっちゃったぜ。誰だよ?」

「……三年A組の鈴木沙紀……」

 俊哉は深呼吸すると、ようやく打ち明ける。

「鈴木沙紀? 知らないなぁ」

「お前は、今年転校したばっかだから……す、すごい可愛いんだ」

 沙紀のことを思い描き、俊哉顔は更に紅潮する。

「はぁん、頑張れよ、俊哉! さっそくメルアド聞いて来いよ」

「ば、馬鹿な……いきなりそんなの聞けるか……」

 俊哉はモジモジと手を弄ぶ。

「なんで? 一番手っ取り早いじゃん」

「あ、でも、嫌がられるかもしれないし……に、苦手なんだよメールって」

「俊哉はアナログタイプだもんなぁ」

 信吾はからかうように笑って腕組みする。

「そんじゃ、メールはメールでも本物のメールってのはどう?」

「本物のメール?」

「そ、お手紙」

「手紙?……」

 確かにメールより印象に残るかもしれない。習字を習った経験もあるから、俊哉は字には自信があった。それに、じっくり考えながら書ける。俊哉にはピッタリの告白方法かもしれない。

「手紙か。分かった書いてみるよ」

「頑張れ! 応援するぜ!」

 はにかみながら頭をかく俊哉に、信吾は大げさに拍手をおくる。



『中学に入学した時から、君のことが好きでした。

 いつも明るく笑っている元気な君が大好きです。

 毎日君のことを考えてばかりで、勉強にも身が入りません。

 ずっと君のことだけを見つめています。

 ストーカーだとは思わないでください。

 君のことが心から好きなんです。

 どうか、僕の気持ちを分かってください。

 もし、僕と付き合っても良いと思うなら、僕に返事を下さい。

 君からの返事を待っています。

           三年B組 山村俊哉』


 学校から帰って、俊哉は部屋に閉じこもり沙紀への手紙を書き続けていた。ノートの切れ端に何度も何度も下書きして、ようやく一枚の短い手紙を書き終えた。ゴミ箱は書き損じた紙くずで溢れかえっている。

 俊哉はフーッと肩の力を抜き、家に置いてあった便箋に、清書した手紙を封筒に入れる。二年間の沙紀への思いを込めた手紙。

───どうか、返事をくれますように……

 俊哉は手紙に向かって念じる。



 翌日。

 俊哉は眠い目をこすりながら学校へ向かった。昨夜は書いたラブレターのことが気にないり、ほとんど一睡も出来なかった。

───どうしよう。いつ渡そうか……

 考えながら学校に到着してしまった。沙紀は自転車通学で登校時間も俊哉とは違う。登校途中に手渡すというパターンは逃してしまった。

───帰りに渡そうかな……

 となると、手紙のことが気になって今日の授業は授業どころじゃない。

───いや、ダメだ! そんな長く待てないよ。緊張し過ぎて死にそうだ!

 あれこれ考えながら、俊哉は教室に入って行った。とぼとぼと歩いて自分の机の上にドサッと鞄を置く。昨日長い時間をかけて書いた手紙は、鞄の中に大切にしまってある。清書した後は読み返しもしないで、そのまま封をした。自分が書いた文章が恥ずかしくてとても読み返す勇気はなかった。

「よっ、 おはよ!」

 元気な声とともに信吾が現れた。

「手紙書いたか?」

 頬杖ついてボーッとしている俊哉に目をやると、信吾は俊成の鞄を勝手に開ける。

「あっ! ちょっと」

 俊哉がとめる間もなく、信吾は鞄の奥から沙紀宛ての手紙を取り上げた。

「おっ、真っ白な大人の手紙だな」

 信吾は、表には何も書かれていない手紙を眺める。

「親の手紙しかなくて……」

「早く渡して来いよ。授業始まっちゃうぜ」

「えっ! い、今から?……」

「今じゃなきゃいつ渡すんだよ?」

「……そ、それはそうだけど」

 俊哉は恥ずかしげに目を伏せる。

「しょうがねぇなぁ。じゃ、俺が渡して来てやるよ」

 信吾は手紙をヒラヒラさせて笑う。

「あ、ちょっと、信吾はどの子か知らないだろ」

 そのまますぐに出ていこうとする信吾を俊哉は呼びとめる。

「あ、そっか。名前なんだっけ?」

「……鈴木沙紀……」

 周りをキョロキョロ見回しながら、俊哉は小声で呟く。

「え? 何て言った?」

「だから……鈴木沙紀」

 俊哉は顔を真っ赤にしながら、信吾の耳元で囁く。

「おぉ、分かった、分かった。鈴木さんだな!」

 信吾の声のでかさに俊哉はビクつく。

「じゃ、ちょっと行って渡して来てやるよ!」

「あっ……」

 言うが早いか信吾はもう走って教室を出て行っている。

───いいのかなぁ? これで……

 俊哉は信吾が無事に沙紀に手紙を届けてくれるか気になったが、直接手渡さなくてよくなりホッとする。

───あぁ、でも、返事が恐い。……今日は沙紀と顔合わせられないや……

 俊哉には新たに別の心配事が出来て、考えると胸がドキドキとしてきた。


 信吾はA組の教室まで走って行き、入り口でキョロキョロと中を見渡す。何人かの生徒達が席に着いたり、雑談していた。

「えーと! 鈴木──?」

 信吾は教室に向かって声を上げる。

───あれっ? 下の名前何だっけ? えーと? ま、いいか名字で。

「鈴木さーん!」

 信吾は手紙を振りかざしながら、声をかけた。

「あ、はい!」

 入り口近くの席に座っていた少女が驚いた顔をして立ち上がった。

「鈴木さん?」

「あ、はい……」

「三年B組の山村俊哉からお手紙です!」

 信吾は笑顔でそう言うと、手紙を差し出した。

「えっ! 俊哉君から?……」

 少女は更に驚いた顔を信吾に向ける。

「これってラブレターだと思うよ!」

「ラ、ラブレター! 俊哉君から!」

 少女は顔を真っ赤にすると、手紙を受け取り慌てて席に戻っていく。信吾はその様子を面白そうに見ていた。

───俊哉君だってよ。あっちも気があるみたいじゃないか。なんか、俊哉の言ってたタイプとは違うみたいだけどなぁ。まぁ、良い感じだ。

 使命を果たした信吾は、満足感に浸る。


「おはよー!」

 信吾が去った後、A組の教室に沙紀が元気良く入って来た。

「あれ? 鈴木さんどうしたの?」

 席に着き、顔を真っ赤にして俯いている少女に沙紀は声をかける。

「気分でも悪い?」

「な、なんでもない……」

 少女は目を伏せたまま低く答える。

「そう」

 沙紀は少女を気にしながら、自分の席の方へ歩いていく。

「沙紀、おはよ」

 沙紀の友達が何人か集まって来る。

「さっき隣りのクラスの子が鈴木さんって呼んでたけど、沙紀のことじゃないよね?」

「え、そうなの?」

 沙紀はキョトンとした顔を向ける。

「鈴木さんは沙紀と静香二人いるでしょ」

「でも、鈴木さんって言ったら静香のことだよね」

「そうそう、沙紀は沙紀で、静香は鈴木さんだもんね」

「同じ鈴木でも、沙紀と静香じゃ別人だし」

 少女達はチラチラと静香の方を見ながらクスクスと笑う。静香はじっと席に座って、白い手紙を胸に握りしめていた。

「暗いよね、鈴木さんって」

「鈴木さんの側に行くとこっちまで暗くなっちゃいそう」

「やめなさいよ。鈴木さんは大人しいだけじゃない。まだクラスに馴染んでないのよ」

 正義感の強い沙紀は、陰口悪口は許せず口を挟む。

「そうかな? 私去年も同じクラスだったけど、ずーと暗かったよ」

 その時、始業のチャイムが鳴り響き、生徒達は各自の席へと散っていった。


───どうしよう。俊哉君からラブレターもらうなんて!

 静香は俊哉の手紙をこっそりと読み、舞い上がっていた。読み返すたびに頬が赤くなり心臓がドキドキしてくる。

───俊哉君も私のことが好きだったなんて……全然気付かなかった。ずっとずっと私、俊哉君が好きで……でも、今まで打ちあけられなくて。

 先生の話など静香の耳には入ってこない。顔が自然とほころび笑顔になってくる。

───何て返事書けばいいんだろ? 手紙書くなんて初めて……

 静香は机の下隠し持った俊哉の手紙をギュッと握りしめる。



「おい、信吾。ちゃんと渡してくれただろうな?」

 授業の合間の休み時間に、俊哉は信吾にたずねる。

「渡したさ。明日は返事もらえそうだな!」

 信吾は俊哉にブイサインしてみせる。

「彼女、お前の手紙もらってすごく嬉しそうだったぜ」」

「そ、そうか?……」

 俊哉は頭をかいて下を向く。

「ああ、けど、なんかイメージ違ったなぁ」

「イメージ?」

「お前は明るいタイプが好みかと思った」

「? 沙紀はすごく明るいよ」

「沙紀? あぁ、下の名前沙紀だったよな。さっき思い出せなかったよ」

 アハハと信吾は笑う。アハハって……俊哉はふと不安な気持ちになる。

「?……何だよお前どうやって渡したんだ?」

「名字で呼んだよ、鈴木さーん!って」

「鈴木さん……」

「そう。鈴木で良いんだろ? 名字」

「あ、うん……いつもは沙紀って呼ばれてるけどな」

 俊哉は何かひっかっかたが、沙紀は鈴木沙紀だから間違いではない。俊哉は、A組に鈴木さんが二人いるということに、その時は気付かなかった。

「良かったなぁ、俊哉! 明日から彼女が出来るんだよなぁ〜俺もがんばろっと!」

 信吾は俊哉の肩をバシバシと叩く。そのたびに俊哉の体は前に倒れそうになる。

「まだ彼女だなんて……返事ももらってないのに」

「絶対大丈夫だよ! 自信もてって!」

「……あぁ」

 信吾の半分ほどの自信が自分にもあれば、と俊哉は思う。手紙を渡したは良いが、もう返事のことが気になり始めた。今夜も眠れない夜になるだろうと、俊哉は確信する。



 予想通り、俊哉は寝不足な朝を二日連続で迎えた。

 朝から欠伸ばかり出る。沙紀からすぐに返事が貰えるかどうかは分からない。だが、自分の気持ちは伝えた訳で、俊哉は沙紀の気持ちを早く知りたかった。

 昨日は、沙紀とは会わなかった。俊哉が沙紀を避けていたせいもあるが、どうしても顔を合わせられなかった。

───今日は、ちゃんと会わなきゃな。

 学校に着いた俊哉は、高鳴る胸の鼓動をおさえつつ、真っ直ぐにA組の教室に向かった。

───落ち着け! きっと沙紀はOKしてくれるはずだ! 必ず!

 俊哉はゴクリとつばを飲み込んだ。

「あっ、おはよー!」

 後から明るい声が響く。俊哉はビクッと体を緊張させる。いつも遠くで聞いている耳に心地よい声。そして、笑顔。

「!……」

 振り返った俊哉の目の前に、沙紀のはじける笑顔があった。

「おはよう、B組の山村君だよね?」

「……うん。あ、お、おはよう」

 俊哉と沙紀は顔を見合わせる。俊哉の顔は見る見る赤く染まっていく。

「あ、あの……昨日の返事」

「え?」

「……」

 沙紀は笑顔のまま、不思議そうに首を傾げる。しばらく目と目を見つめ合う二人。

「じゃあね」

 教室の中から沙紀を呼ぶ声がすると、沙紀は軽く俊哉に手を振って友達達の方へ走って行った。

「あ?……」

───何で? 反応なし? 手紙のことなんか知らないみたいじゃないか

 不審に思う俊哉の背後で、また人の気配がした。

「……山村君」

 小さな低い声がし、俊哉は何かゾクッとして後を向く。そこには俯いた静香が立っていた。

「はい?」

「……昨日はありがとう」

「え?」

 静香は視線を落としたまま、手を震わせながら手紙を差し出す。

「手紙?」

 俊哉は口をポカンと開けて、静香の様子を見守る。

「わ、私の返事です。受け取ってください!」

 静香は俊哉の手に手紙を押しつけると、俯いたままサッと教室の中に駆け込んでいった。

「あ、ちょっと……?」

 俊哉は静香の手紙に目をやる。

「あっ!」

 封筒の裏には『鈴木静香』と書いてある。

───鈴木! 信吾の奴まさか!

 嫌な予感を感じながら、俊哉は封を開ける。

「はぁ……」

 便箋の文字を目にして、俊成は深くため息をつく。便箋には短い文が一文書かれてあった。


『私もずっとあなたのことが好きでした。どうか、私と付き合ってください。

                              鈴木静香』


───どうするよ……

 俊哉は始業のチャイムが鳴るのも気付かず、じっと手紙を見つめていた。



 今更、手紙を渡す相手を間違えましたとは言えなかった。

 『鈴木沙紀』と『鈴木静香』を間違えたとは……静香にはどうしても言えない。

 俊哉は静香のことは一年の頃から知っていた。確か一年の時は同じクラスだったような気もする。だが、地味で目立たない静香のことを気にかけたことは一度もない。話したことさえなかった。 その静香がずっと俊哉のことを好きだったとは! 俊哉は意外だった。誰かに好かれるというのは妙な気持ちだ。嬉しいとまではいかないけれど、嫌な気分はしない。

「……」

 俊哉は横を歩く静香にチラッと目をやる。

 ラブレターの返事をもらった日から、俊哉は静香と行動を共にすることが多くなった。登下校には必ず一緒に帰るし、メール交換もしている。今度の日曜日は初デートの約束までしている。

───これって、付き合ってるってことだよな? けど、俺、静香のこと好きなのか?

 何度も俊哉は自問自答してみるが、その答えは分からない。嫌いではないが好きでもない。中くらいのどっちでもない状態なのだ。

───付き合っているうちに、段々好きになっていくのかも? あ、でもその逆の場合だって……

 俊哉と静香は肩を並べ黙々と歩いて行く。口数の少ない者どうしでは、会話が弾むこともない。だが、重苦しいという雰囲気でもない。静香はずっと笑顔だし、俊哉の側にいるというだけで嬉しそうだった。

───嫌な奴じゃないしなぁ。可愛いっていうか?

 微妙だった。胸のときめきもドキドキもないが、居心地が悪いわけでもない。


「おーい! 俊哉!」

 ゆっくりと歩く二人の後から、リンリンという自転車のベルと信吾の馬鹿でかい声がした。

「相変わらずラブラブだなぁ!」

 信吾のケラケラと笑う声がする。

「うっさい───」

 振り向いた俊哉は、途中で言葉を飲み込んだ。自転車を漕ぐ信吾の後に沙紀が乗っている。信吾の腰に手を回して二人乗りしている。

「なんで?……」

 何故、沙紀の自転車に信吾が乗っているのか? 

「俺達もお前等に負けないくらいラブラブになるからな!」

「え?」

 信吾はハハハと笑う。

「じゃあね!」

 沙紀も否定せず、信吾と一緒に笑っている。ポカンと突っ立っている俊哉をおいて、信吾と沙紀は自転車のベルを鳴らし慌ただしく去っていく。

「……沙紀さん達、お似合いのカップルね」

 走り去って行く二人の自転車を見つめながら、静香がボソッと呟いた。

「え?……」

───何? 信吾の奴いつの間に沙紀と……

 俊哉は軽くショックを受ける。いや、かなりショックだった。沙紀のことの気持ちの整理もつかないうちに、沙紀と信吾が付き合うとは。

───裏切られた! ……けど、これは裏切りとは言えないのかな?

 信吾は、俊哉が沙紀のことを好きだとは知らなかったはずだ。その信吾が沙紀と付き合うことになったとしても、俊哉がとやかく言える筋合いもない。俊哉の複雑な気持ちがより一層複雑になっていく。

「……そう思わない?」

 ことの成り行きを全く知らない静香は、無邪気に微笑み頬をピンクに染める。

「あ、あぁ、そうだね……」

 ふと、静香は俊哉の腕に手をからめてくる。

「私たちも……」

 ギュッと俊哉の腕を掴む。大人しい静香の割りには、大胆な行動だった。

「……帰ろうか」

 俊哉は静香と腕を組み、歩き出す。

───これでいいのか?……

 こうなったのも運命? 初恋の相手とは結ばれないものだということ? 俊哉にはいくつもの疑問符が頭を駆けめぐるが、とりあえず今は隣りに静香がいる。

───これもいいのかなぁ? 多分……

 二人の長い影が後で重なっている。夕暮れで赤く染まりかけた空を見つめながら、俊哉は静香と腕を組んで歩き続けた。         完 





読んで下さってありがとうございました。

最初に決めた設定とは微妙に違ってしまいました。(^^;)書きながら展開に悩みました。短めの短編のつもりだったけど、かなり長くなったような気もします。

他の方の小説も早く読んでみたいです。(^^)

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― 新着の感想 ―
[一言]  掲示板見てやって参りました、でん助です。  俊哉は割り切れてなかったようですが、静香の事が本当に好きになるまで書いて欲しかったです。が、企画モノである以上仕方ないんでしょうね。  それ以…
2008/04/20 00:30 退会済み
管理
[一言] 第1弾って事はこちらが本家? さて、本題に入ろう。 俊哉が俊成になってる部分が一ヶ所だけありました。修正お奨めします。 信吾ナイス大ボケキャラ! 鈴木違いやねん!です。 それはそうと俊哉、…
[一言] 信吾くん、ナイスキャラです! 信吾くん目線でいったら、どんなストーリーになるんでしょう。おもしろそうですよね。 すいません……信吾くんのことばかりで。キャラ惚れしてしましました☆
2006/07/25 23:54 ひとやすみ
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