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最後の時
作:神名代洸


窓から外を眺めると、暖かな日差しと共に子供達の声が聞こえてきて、私は羨ましさと寂しさを感じていた。



それは2週間前の事だった。



以前から頭痛に悩まされてきた私は市販の薬を飲むなどしてジッと耐えてきた。誰にも言わずに・・・。
しかし、痛みの度合いは日々強くなり、とうとう耐え切れないまでの痛みを何とかして欲しくて痛みを堪えながら重い足取りで市の病院へと向かった。そこで診察と同時に細かい検査をあれこれして、担当の医師から家族を呼ぶように言われた。私は嫌な予感のようなものを感じた。普通、家族を呼ぶなんて事はありえない。とすると、大病なのかもしれない。私はそう考えた。
けれども家族には何も話したくなかった私は告知を希望した。
それでも家族を呼ぶように言われた私は不安で心が押しつぶされそうだった。



『なんでそんな事言うの?先生。』私は心の中で先生に聞いた。しかし、心の声は届くわけがない。



けれど、頑として呼ばない私に先生が折れ、検査結果を詳しく説明するからと午前の診察が終わるまでの1時間、待合室に待たされた。
その間、とても長く感じられた。そう、1分が30分位に――――。



気がつくと私の周りの待合室には私しか残っていなかった。




「○×さん、2番の診察室にお入りください。」




私はとてもドキドキしながら病室へと歩いていった。看護婦に呼ばれた時は緊張で手に汗をかいていた。
机のすぐ傍にはレントゲンの写真がかけられており、先生は神妙な顔でジッとカルテを見ていた。



「○×さん、それでは検査結果をお話します。――――。」




それからの事はほとんど覚えていなかった。



気が付くと病院から出て歩いていた。
目から涙が溢れ、頬を濡らし続けている。そして、医師からの告知を思い出していた。



検査結果を聞いた瞬間目の前が真っ暗になった。
病名は【末期癌】
悪性で、余命はあとたった3ヶ月・・・・・・・。
耳を疑った。とても信じられない。



私はただの頭痛だと思っていたのに・・・。
涙が止まらず、その場で泣き崩れた。椅子がなければその場で倒れこんでいただろう。



医師は家族に話したらどうかと何度も私を説得したが、遺されたまだ小学生の2人の子供が泣き叫ぶ様を思い描き、とてもそんな気にもなれなかった。
主人にも打ち明けられそうもない。



あれこれ考え抜いた私はまず身の回りの整理をすることからはじめた。けれど、掃除が苦手な私が・・・、普段あまり掃除をしない私があまりやり過ぎれば主人があれこれと言ってくるのは分かりきっていたので分からないように少しずつ・・少しずつ持っているものを処分していった。



日は一日一日と過ぎていく。
頭痛は治まるどころか少しずつひどくなっていくようだ。
私は少しでも残された日々を子供達と一緒に過ごすようにした。子供達の笑顔を少しでも長くみていたかった・・・・。けれど、その時は近づいている。





宣告されてから2ヶ月があっという間に過ぎ去った。



その頃になると頭痛で笑う事も少なくなり、主人がようやくおかしい事に気付いた。



「まだ痛むのか?」
「ええ。」
「ちょっとおかしくないか?痛み出してだいぶたつだろ?一度検査してもらった方が良くないか?」



その一言で私は黙っている事に耐えられなくなり、涙を流しながらすべてを打ち明けた。あと1ヶ月くらいしか生きられない事も。



「なんでそんな大事なことを黙ってたんだ!おま・・お前・・・。」言葉につまり、嗚咽した。



主人がこれほど取り乱し、涙したのは今までみたことはなかった。
いつも無意識に私を傷つける言葉を浴びせてきた。何度離婚しようかと考えたことか。でも、いつも子供たちの事を考え耐えてきたのだ。



「何で治療を受けないんだ?受ければもう少し長く生きられたんじゃないのか?」
「それはイヤだったの。治療を受けても苦しむだけ。それなら少しでも子供達と一緒に残りの時間を過ごしたかったから。」



主人はそれ以上は何も言わなかった。いや、言えなかったのだろう。どちらにせよ残りの時間はあまりにも少なかった。妻の顔色も日に日に悪くなっている。



「あなた、今までいろいろとご迷惑かけました。子供たちの事、どうかお願いしますね。」
「ああ・・・分かった。」



そう言いながらお互い抱き合った。ぬくもりを確かめ合うように。





それから数日後。
私は長い眠りについた。



痛みから解放されたその死に顔は安らかなものだった。














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