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中古系異世界へようこそ! 作者:高砂和正

3章 『中古系異世界へようこそ!』

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56 役場再び

(ボディアーマーよーし、小手よーし、ブーツよーし、腰にナイフとショートソードよーし、お水よーし、食糧よーし、魔法薬よーし、タオルハンカチちり紙よーし! すーはーすーはー!)

 路地裏に身を隠して装備を改めた郷川は、仕上げを行うため長方形の折り畳み型の手鏡を開いた。
 覗き込まれれば人目に付く位置だが、精々身だしなみを整えているくらいにしか思われないだろう。
 自身の顔が写り込む。
 モンゴロイドとしてはやや色素が薄く、平均より茶色っぽく見える髪と虹彩。
 この世界に来たのが15歳で、1年経って現在16歳。
 顔立ちなどはまだ少年と言って良いが、その表情は1年前の物からすれば随分と幼さが抜けている。 
 彼が過ごして来た時間の濃密さと、先日保護者を喪った事の心労を示していた。

「……神授の魔眼(サテライト・ボイア)

 そして、郷川はPAを発動させた。

『個体名称:郷川隆利
 年齢:16歳
 性別:男性
 人種:基人系黄色種
 職業:高校中退 無職lv.4
 状態:クリミナル危険度5-封印済み

能力値  
 体力:6(41/65)
 持久:6(43/55)
 制御:3(28/38)

 腕力:7(37/65)
 器用:6(40/71)
 耐久:5(29/51)
 敏捷:5(23/56)
 魔力:3(36/31)
 運気:8(--/--)
 技量:-(07/99) 
 精神:-(22/99) 

魔力適正
 神威:霊威:界威=9:7:1

特記
 神授の大特権 ※多重封印-対象許可
 神授の魔眼 ※多重封印-一部機能損失・対象許可
 無限収納
 源世界知識lv.2
 武具戦闘・基礎lv.1
 その他魔法・基礎lv.1
 治癒魔法・神令lv.6 ※窃盗技能』

 視界に映し出される自身の能力値を閲覧する。
 彼が保有するPA〈神授の魔眼〉は封印によって性能を大幅に下げられている。本来のこのPAの目的の()()()()()は完全に封じられた上、対象の同意が無ければ発動が出来なくなっているのだ。
 数少ない例外が、こうして鏡を使った自己使用だ。
 わざわざ鏡を使うのは〈神授の魔眼〉はその名の通り眼球を基点に発動する能力だからだ。
 本来はセトラーを介して神々が世界を観察するためのPAだったらしい。妙なルビの直訳が『覗き見衛星』とはよく言った物だと郷川は思う。

(クソッタレなあの女神の道具扱い。そんな状況から解放されたと思えば、今の俺のPAがポンコツでも余裕で黒字が出るぜ。精々使える範囲で上手く使ってやらあ)

 かつては良く分からなかった能力値の正しい見方も、永田やニコラウスに許可を得て閲覧した結果を書き出し、見比べて考察してもらうことで今ではほぼ解明されていた。

・職業や特記に表示される項目のレベルは1~9と推測されるが、レベルが無い物も有る。

・魔力適正は幻世系でなければ計17が有る程度人種特性に従って割り振られる。

・能力値は先に表示される1~9を先天的な素養値。その後括弧内の分子が現在の実能力。分母が先天的な能力上限で1~99。
 運気は上下せず、技量、精神は習熟速度が無いが上限も誰もが最高の99まで解放されている。

 こういった法則性が確信されているが、重要なのはあくまで「数値化するとしたら」という前置きが付いた上で観測された結果でしかなく、世界に支配力を持つ絶対的な物ではないことだ。
 何せニコラウスが調べた過去の〈神授の魔眼〉保有者が残した記録だと、項目や表示のルールが保有者毎に異なっていたらしく郷川が見えているパターンも前例が存在しなかった。
 つまり、世界をゲーム的な枠に落とし込むだけの歪な数値の羅列だったのだ。
 それが完全に間違っている物では無く、有る程度他者の情報を看破してしまうのは事実だったが。

(俺が見える上限値も、近づけば伸び悩みこそすれ鍛え方次第で超えちまうようなもんでしかない。ニコラウスさんやオヤジは上限が99の項目以外上回って無い数値自体無かったからな……)

 あの2人は例外だと思いたい気持ちも有るが、永田に関しては素養値と上限値の全てで郷川より下だったのだ。正直分子枠に表示される実能力値以外参考にならないと考えて良かった。
 それらを踏まえ、改めて自身の能力を評価する。 

(平均よりはマシな素養と上限。基礎を徹底しただけ実能力値は上がったけど、技量値と特記関係が貧弱。前者に見合う実戦値は当然望めない。……が)

 特記の最後に表示された、自身に不似合いな高いレベルの項目に意識を向ける。
 不快な注釈が付いているが、恥じるべき物では無い。
 瀕死の永田が使用を許可した〈神授の大特権〉によって継承した技能であり、郷川にとって最大の形見だった。

(頼れる物を遺してくれたんだ。……行くか!)

 カモフラージュ用の巾着型のボロ袋を肩にかけ、決意を胸に路地裏から出る。
 その先の大通りには、1年振りとなる冒険者役場ウィケロタウロス壁西支部が面している。
 ごくり、と郷川は喉を鳴らした。
 以前の自分とは違うという思いも有るが、まさにその変化の原点ともいえる場所だ。
 緊張しないはずが無かった

(いくぞ~いくぞ~いくぞ~)

 しかし、足は出ない。
 自身を情け無く感じ始めた所で、

「おう、坊主。役場に行きてえのか?」
「うひょっ!?」

 急に声をかけられて全身を跳ねさせた。
 振り向くと、旅装にウィケロタウロスの土産菓子の包みを下げた長身の青年が居た。
 黒い肌に長い耳の黒精人種ダークエルフ。髪は白っぽい茶色で朱色の虹彩をしていた。

「リアクターか? それとも転移型か?」

 秀麗な顔立ちをした青年は、郷川の顔立ちを酷く懐かしそうに見て言った。

「え、ええと、セトラーかって言うなら、そうっす……」
「ふうん。鍛えてんな」

 ちらりと郷川の身体付きを見て青年が言う。
 これから冒険者役場に向かおうとする転移型にしては、という意味だ。

「〈源世界〉で武道でもやってたか?」
「一年ほど、こっちで扱いてくれる人が居たんす」
「ほう。ま、この世界は良い奴が多いよな」
「……にーさんは転生型っすか?」

 苦笑する青年に郷川が訊くと、肩をすくめて頷いた。

「御明察だ。儂は今から実家に帰省するとこだけどよ、縁が有ったらどっか一緒に探索でもするか?」

 そんなことを言うだけ言って、ダークエルフの青年は去っていった。
 突然声をかけて来てどういうつもりだったかは分からないが、郷川は青年から見た目通りで無い人間性の深みを感じていた。
 どこかニコラウスや生前の永田にも似た雰囲気。
 それが何となく、郷川の中の緊張を拭い去っていた。










「久しぶりやね」
「はい、その節はお世話になったっす」

 1年前、この冒険者役場のロビーで出会った受付嬢のエルフ。
 お竹・フリムランと再び顔を合わせた郷川は、深々と頭を下げた。
 お竹は永田の葬儀にも参列してくれていたが、直接顔を合わせるのはこれが2度目と言って良かった。

「お世話になった、で良えの? 次に来る時はお礼参りってセトラーも多いんやけど」
「ははっ、それならまさしく俺はフリムランさんにお世話になったんすよ。やらかす前に見つけてもらった恩人だと思ってるっす」
「殊勝やね。本心なら」
「オヤジに誓っても良いっす」

 郷川はあっさりと言ったつもりだったが、お竹はさっと顔色を変えた。
 かつて会った時の郷川は野心と力を秘めていた。
 だが、それらを封じて厳しく教育していた生前の永田が、彼なりに郷川を可愛がっていたことを聞き知っていた。
 最後は悪く無い関係であっただろう義父を喪った少年の心中を慮って、お竹の涙腺が潤んだ。

「……永田さんの事は残念やったね」
「はい。しごかれなくなったプラスと足し算しても、急に居なくなられたマイナスで赤字になったっすよ。マジ勘弁っす」
「……あははっ」

 目の上のタンコブがいなくなったことを喜びつつ、義父の死を悼んで見せる郷川が痛々しくも可笑しくて、お竹は笑った。

「でも残念やね。もうちょっと郷川くんは永田さんの指導を受ける事に成りそうや」
「へ?」

 悪戯っぽく言うお竹に、郷川が間抜けな声を出した。
 故人である永田の指導という言葉に困惑していると、お竹は何枚かの依頼書を取り出して見せた。

 薬草採取。
 コボルド1体討伐。 
 商隊同伴護衛。
 etcetc……。

 どれもいかにも駆け出し冒険者が行うっぽい内容。
 しかし、その「ぽさ」を理解出来るのは、この世界では特定の知識を持つセトラーのみだ。
 それらに共通しているのは、依頼人の名前欄。

「オヤジが……」
「うん。郷川くんが過去を噛み締めてうちの支部を訪ねて来たら、これらを受けさせろってね」
「はは、なんとも……」

 郷川は苦笑して俯いた。
 それらの依頼は全く効率的な物では無い。ただ「ぽさ」だけを求めたレクリエーション的な内容だった。
 それを、あの効率厨である永田が郷川のために用意していたというのが酷く不似合いで可笑しく、そして切なかった。
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