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中古系異世界へようこそ! 作者:高砂和正

2章 黒の猛禽たち

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36 竜と刀

(業腹だよな。出来る事が無いってのは)
(出来る事が無いのに無理して参戦しようとすれば、しわ寄せが仲間に行く事も有るって教えたろぅ?)
(分かってますよ。……今のニコさんたちに混じったら間違い無くリズム崩しますし)

 眼前で繰り広げられる凄まじい連携を見つめながら、丘崎はニコラウスと思念を交わす。
 サブボスのために用意された大部屋の隅で体育座りした彼の視線の先で、ニコラウスとおゆうの2人が縦横無尽に駆け回っている。
 戦っている相手は上位冒険者を相当の数を揃えても苦戦を強いられる程の強敵、翼こそ無いが、全長15メートルを超える火竜である。
 ウィケロタウロスに存在する魔窟の中でも最難関の一つと呼ばれる、〈鱗の魔窟〉最深層の主だ。
 丘崎では一撃の被弾でも即死の危険すらある圧倒的強敵だった。
 しかし、矢傷刀傷にまみれたその姿からその脅威を感じ取ることは難しくあった。
 丘崎の感覚からすれば、敵の方が可哀想になるほど一方的な戦闘展開。
 学習のため、ニコラウスとお柚からは丘崎に戦闘時の感覚、思考が伝達されて来るが、当の2人は感応効果を通信程度にしか使っていない。
 それが信じられないほどに自然に繋がる連携。
 お互いに示し合わせたように相手の欲する動きをこなす。
 呆れるほどに高い練度。2人は対でありながら個として動いていた。

(歴15年近いコンビっつてたもんなあ。お柚さんに至っては人生の半分をニコさんの相方として生きてきたと考えればああもなるか。……なるか?)

 お柚が正面から竜が振るう爪牙を半月刃の斧槍(バルディッシュ)で受け止め、いなす。
 その隙に、

「はあっ!」
「グォウッ!?」

 ニコラウスが助走をつけ、火竜の横腹にタワーシールドを展開して全身の力を叩き付けた。
 火竜の巨体が交通事故に遭ったように転がる。
 一つ、2つ、
 体格差からすれば信じられない光景だが、魔法で強化した肉体と、それを活かす技量が有ってのことだ。

「ユウッ!」
「オーライ! ニコ!」

 お柚が一瞬で逆側に回り込み、半月刃の斧槍で抉り薙ぐ。
 強力な霊法(ブースト)によって衝撃を伴う斬撃が、巨大な傷を付けると同時にピンボールのように巨竜を弾き飛ばした。 
 ニコラウスは自身と竜の角度を微調整、真正面から飛来する竜へ向かって、

「よいしょっ!」

 スロットの切り替えを利用して鋼糸弦の大弩(アーバレスト)を連射しながら、軽い掛け声と共に竜の巨体を足場に跳び上がった。
 一回転して向こう側へ。
 宙にありながらもずれない射線は、竜の首回りに矢弾の「えりまき」を作り上げた。

「ギョアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 痛めつけられた竜が怒りを込めて咆哮する。
 怒れる竜の口から炎が漏れ出す。ブレスの前段階。
 ニコラウスは即座に装備を鋼糸弦の大弩からタワーシールドに切り替え、霊法で魔法障壁、界理ワーシップで〈水気〉の被膜を構築する。
 お柚は何も言わずにその背後に回り、半月刃の斧槍を構えて前傾。
 準備が間に合った所で、人間など一瞬で焼き尽くす炎の激流が殺到した。

(うーわー。真正面からブレス弾いてるよ……)
(複合防護だからねぇ。こういう手合いだと下手な壁役より自信あるよぉ)
(よゆーよゆー! そのうちオカ君だって出来る様になるわよ。よしっ! おねーさんもう一段階ギア上げちゃうぞー!)
(えっ!? ちょっと待て、僕もそれなりに頑張ってるのに余裕って何だ! 限界まで反応速度上げて合わせてんだよ? 分かってんのかこの巨乳長耳ぃっ!)
(誰が巨乳長耳やねんっ!? うちかてこんなん無かったら今頃びゅんびゅん弓使っとったわ!)
(ハッ、クロスボウ使っても百発零中するような致命的ノーコンのくせに良く言うねぇ)
(ののののの、のーこんちゃうわ!)
(他人のPA使って思念で喧嘩すんの止めてくれませんかねえ……。というか何で高速戦闘しながらそこまで話出来るんだ)

 丘崎が非常識な師匠らに呆れているが、その間にも戦闘は進んで行く。
 得物を消したお柚が竜の尾を掴みかかり、小柄な体からは想像も出来ない怪力によって振り回し始める。

「グォオオオオオオオオオオオオン!?」

 大型の竜に対してジャイアントスイングをかます小柄な近接最弱人種。
 丘崎やニコラウスはこういった光景は見慣れているが、そうでなければどんな世紀末展開かと思うことだろう。

「っいよいっ、しょおおおおおおおおおっ!」

 十分な遠心力を得たお柚は、上空へと向かって竜を放り投げた。

「『かきえんせつをしめすほむらのとかげ そははらをこするよつあしなり みずぞこをはうもりてにみなかんさるるはきえんかひにくか』」

 ニコラウスが魔法を構築するべく高速で詠唱する。
 しかし、動くのは口だけではない。
 両の手指が独特の組み方、〈印〉を成し、崩しては変え、別個の魔法をくみ上げていく。
 同時に双眸がくるくると動いている。魔力を込められた視線が正確に特定の形をなぞり上げ、宙に魔法陣を描いて行った。
 そしてさらに4つ目、思念による無詠唱魔法を構築しているのが丘崎には精神感応を通して分かった

(ひーっ、多い多い多いっ!)

 丘崎はその数に思念で悲鳴を上げる。

(はーっはっはっはっ! うひゃー! 久々に魔法使うのたのしーっ!)

 変なテンションでニコラウスが思念で叫ぶ。
 まだそんな余裕が有るらしい。

「『すいこくかあれ』っ! 行けぇっ! 〈あざぐるいおおみずち〉!」

 言霊の乗った強力な水気の界理魔法〈字狂大蛟〉を開放すると同時に、視線陣魔法による衝撃砲二門、手印駆動魔法による地表からの岩塊衝角弾、思念無詠唱による暴気流を次々に撃ち放った。
 放物線を描く竜の身体に魔法郡が撃ち込まれる。
 突き刺さる岩弾、気流と衝撃砲の連射が火竜を痛めつけながらも落下を押し留め、火竜に匹敵するほどに巨大な〈水気〉の蛟龍が横腹を咬み貫くと、長大な蛇状の身を巻き付けて拘束する。

「仕上げるっ!」
「はいよっ!」

 全弾を叩き込み、落下してくる竜へと2人が構える。
 お柚は半月刃の斧槍を、ニコラウスは両手に一本ずつ三葉飾の大剣(クレイモア)を展開する。
 全身に強化の魔法が、〈水気〉の黒い燐光が武器に纏わり付く。
 そして竜が地面に墜落するその瞬間に、2人の姿がかき消えた。

「ぶぇっ!?」

 丘崎の顔面に大量の土砂が叩きつけられた。
 自身が目を瞑ってしまうのと同時に、共有していたニコラウスとお柚の視界にも集中しそこなってしまう。

「いってえええ! くそっ!」

 土砂を振り払って何とかして目を開くと、蹴り足が生んだクレーターが残っていた。
 恐らく土砂をぶつけられたのはあれが理由だ。
 さらに視線をさまよわせると、残心を取ったニコラウスとお柚、三つの刃で4枚に切り分けられた火竜であったものの残骸が有った。
  決定的瞬間は見逃したようだが、過程を想像するのは容易な光景だった。

(……報酬はそこそこだけど、強すぎて挑まれにくくなったサブボスだって聞いたんだけどなー)

 だというのに、この2人は終始一方的な展開で圧倒して見せた。被弾すらしていない。

(「まるで追いつける気がしない」 ……リインが言ってた通りか)

 仲が良かった頃の先輩の少女を思い出してそんなことを思った。










 帰り道で立ち寄った、㈲鍛冶工房ティモシェンコの作業場。
 メンテナンスを終えた中巻柄の両手剣(ツヴァイハンダー)を、ジャファルはじっと見つめていた。
 切っ先から柄頭まで、睨むように出来を検分して、うむ、と頷く。
 側で見学していた丘崎(もちぬし)に渡した。

「最近、摩耗の仕方がニコラウスに似て来たのう」
「はぁ」

 ジャファルの感想に実感が沸かず、生返事してしまう。

「オカちゃんはそうなるわよね。仕方ないね」

 足を組んで椅子に座り、作業場に置いてあった雑誌を読んでいたお(ゆう)が顔を上げ、苦笑して言う。

「どういうことですかね? お柚さん」
「いや、オカちゃんは思いっきりニコの弟子としての路線進んでるからね。武器の使い方も似て来てるってことよ」
「『量産型東山ニコラウス』って感じじゃな。字面だけじゃとお近づきになりたくない感じじゃけどな」
「それわかるぅー」
「おい、……おい! 何で僕に似てくるとそうなるんですかねぇ!?」

 けらけら笑うジャファルとお柚。そして物言いたげに抗議するニコラウス。
 少しは自覚しつつも喜び辛い表現をされて丘崎は眉をしかめた。

「ユウみたいに先頭に立って得物ぶん回すポジだと、武器の傷み方がまた違うんだよぉ」
「うむ、丘崎は攻めの時にも守りを意識しとるじゃろ? ニコラウスも言動の割に無難の権化のような戦い方するけえ、同系統の動きになっちょるんじゃろな」
「今日みたいに突っ込んで暴れる腕はニコも持ってるんだけどね」
「……お柚さんみたいな近接の専門家が居る時には、ニコさんはむしろ中衛で指揮と遊撃、各種支援。ですか」

 丘崎が普段見ている戦闘時の様子を思い出し、納得したように頷いた。

「ニコはどの役割でもこなせるから、いつもの戦い方が全てって訳じゃないんだけどね。最近に限って言えばオカちゃんの見本になるための動きを徹底してるのよ」
「に、ニコさんがそんな心配りを? まじで?」
「……余計な事を。というかオカ君も失礼だよねぇ」

 あらゆる面を理解し切ったパートナーの思考からお柚は言うが、暴露されたニコラウスは苦い顔をする。

「昔はニコラウスに振り回されるだけだった小娘が立派になったもんじゃ」

 過去を知るジャファルがからかう笑みを浮かべて言った。

「んなっ!」

 お柚がさっと顔を染めるが、丘崎は止めさせるより聞きたいと思い、

「どんなだったんで?」
「んー、まあコンプレックス持ちの子供と保護者ってとこじゃったな。青精人種(エルフ)なのにノーコンなのをまだ引きずっとったし、近接の腕がニコラウスに並ぶくらいになってようやくマシになったがのう」
「懐かしいねぇ。いつまでも未練たらしく副武装に弓持って行こうとするから、散々スロットの無駄だって言って止めさせたんだよねぇ」
「へえー」

 エルフや黒精人種(ダークエルフ)は先天的に優れた「遠距離の物に何かを撃ち込む」才能を持つのが普通である。
 弓使いや魔法使いとしてはもちろん、球技系や投擲陸上競技でもそれらは発揮され、プロ野球の投手の4割を彼らが占めていることもその素質の高さを示している。
 ちなみに、そういった人種特性を活かした場合を例外として、この世界のスポーツ界はほとんど獣相系無双である。

「ノーコンで悪かったわね……」

 不貞腐れたお柚が言う。
 卓越した近接戦闘技術を持つ彼女だが、人種にそぐわない射撃の才の無さの方が彼女は面白くないらしい。
 丘崎とジャファルは怒気を放つお柚から揃って目を逸らした。

「……それで、俺の戦力向上についてなんですがね」
「お、おう。そうじゃな。魔鋼製の武器と打ち合うんじゃったか?」
「可能性が有るってくらいですけどね。どの道決定力不足は解消したいとこでして」

 丘崎が言うと、ジャファルは自ら鍛え、自信を持って研いだ両手剣を見て寂しそうな顔をする。

「スロットレベルや冒険者としての活動期間を思えば、ワレの剣は似合い以上と言って良いんじゃけどなあ」
「レベルに見合う場所を回ってる分には良いんですが、ギルドでどっか行くと一体だけ引き付けて誰か助けてくれるまで時間稼ぎ、みたいな戦い方になることが多いのも有って……」

 情けない顔で丘崎が言う。

「弱い火力をこねくり回してこそ工夫する力を養えるもんだけどねぇ」

 ニコラウスがつまらなさそうに言う。

「順を追って行き先の難易度上げてる訳じゃないから仕方ないんじゃない? オカちゃんは無茶なとこ連れてってる分の成長はしてるけど、今のままじゃやっぱ自信が付かないわよ」
「そうかなぁ、やれると思うけどなぁ」
「うちの時だってそうだったじゃん。大体ニコは要求レベルが――」

 2人が丘崎の教育方針について口論し始める。

「さて、武器のバージョンアップがしたいなら、魔鋼兵装か日本刀系を用意するか、かのう」

 それを見て苦笑しながらのジャファルの提案に、丘崎の瞳が揺れた。
 この世界で日本刀やそれに類する刀剣類は、そこまで珍しい物ではない。
 セトラーやリアクターが半端な知識で再現を試みた粗雑な物から、〈源世界〉つまり日本の伝統技法で作られた物にも劣らぬ業物まで存在している。
 要求される技量や繊細さから万人向けではないが、この世界のルーツが日本であることは大きく、独特の存在感を放つ武器だった。
 この鍛冶工房ティモシェンコにも過去にジャファルが鍛造した日本刀がいくつか存在しており、元日本人として丘崎もそれなりの興味が有った。

「お、お高いんでしょう? どちらも」
「前者の安い奴、ジュラブ製量産型両手剣で500万。後者の、……ワレなら中巻野太刀あたりじゃろ。それで150万から。中巻野太刀はワシの店置いてないけえ割引きもしてやれんし」
「おおう……」

 丘崎の意識が遠くなる。
 後者ですら、とてもじゃないが短期間に都合出来る値段ではなかった。
 頭を抱えながらも、ふと興味から聞いて見る。

「ところで、魔鋼製の日本刀ってのは無いんですか?」

 ジャファルが意地の悪い顔で笑う。

「国産は無いのう。六大匠共の技術じゃあのう」

 彼が嫌っている六大匠の不足が嬉しいようだ。
 しかし、自身は普通の魔鋼兵装すらもこさえられない事を思い出してクールダウンする。

「ん、ごほん。……魔鋼は基本的に日本刀の条件を満たすことが出来んけえな」
「条件を満たせないっていうのはどういうことですか?」 
「日本刀を素材の面から見るとじゃな、〈炭素濃度遷移鋼刀剣〉、とでも言うべき物になるんじゃ」

 いわゆる「鋼」とは炭素をわずかに含有する鉄の合金を示す言葉だが、炭素の含有量次第で硬度と強靭さが変化する特性が有るのだとジャファルは語る。

「それを利用するのは鍛造武器なら少なからず共通することじゃけどな。日本刀というのはそれを活かすことに特化した剣なんじゃよ」

 硬い刃金と側金、軟い芯金に棟金、炭素濃度の異なる鋼を組み合わせることで、日本刀特有の切れ味と柔軟な刀身は構築される。
 それを生み出すための工程が、日本刀の鍛造には含まれている。

「じゃが、魔鋼は「鋼」の一字こそ有るが実際には鉄、Fe合金ですらなく、炭素濃度で性質が変化する特性を持っちょらん。反りが有ったり片刃であるというような形状を真似ることは出来ても構造はむりじゃけえな。湾刀としての斬撃能力は得られても、せいぜい日本刀風サーベルもどきじゃ」

 この世界の一般的な鍛冶技師は、そのような刀を「日本刀」と称することは恥としていた。
 ジャファルが冷めた顔で説明するのを聞きながら、丘崎はある疑問が浮かぶ。

「魔鋼は色によって強度や特性が変化するんじゃ有りませんでしたっけ? それを利用すればまだ近い物が……」

 出来たとしても、「日本刀」に分類されるのか怪しいとは思いながら、

「いや、過去にもそがいな試みは有ったんじゃけどな。色の異なる魔鋼同士の鍛接は全て失敗しとるらしい。魔鋼兵装は単一色で構築されるのが原則じゃ」
「ふむ」

 やはり浅知恵だったかと丘崎は肩を落とした。
 天才でも専門家でもない自分が思いつく様なことは、〈源世界〉をはるかに超える長さの人類史を持つこの世界では大抵が既存の発明や技術だった。

「そもそも魔鋼はワシら白精人種(ドワーフ)にしか鍛える事は出来ん。こりゃ青精人種(エルフ)の弓の腕や視力が向上するようなのと同じで種族特性の部類なんじゃけど、純粋な鍛造以外の干渉をしようとすると、極端に高い金気適正が邪魔になるんじゃと」
「……製錬で変色させて作った各種魔鋼を鍛えることしか出来ないってことですか」

 ジャファルは頷いた。

「例外的に、龍国アガナジフの極一部の刀匠は、魔鋼で日本刀を鍛造出来るそうじゃけどな。鋼を叩き延ばすという工程だけで正体不明の強度遷移を成し遂げるんじゃとか」

 そう言うと、お柚が持っていた雑誌を取り上げて、とあるページを見せた。
 雑誌の名は、国際的な武具の専門誌である〈月刊ドワーフマガジン〉であった。
 開かれたページには白と黒、二色の大小拵えの日本刀の写真、どこかの工房らしき場所に居る皺の目立つ老ドワーフと見覚えの有る灰色の少女の写真が有った。
 一瞬、以前自身に戦慄を感じさせた〈付き人〉なるセトラーの姿を探したが、写ってはいなかった。

『―勇者の剣― 
(ハク)(ジョウ)〉 白魔鋼製 2尺3寸 
(コク)()〉   黒魔鋼製 1尺5寸
〈人間界宝〉ガルイーニン氏、102983代目〈勇者〉アルセリア氏特別インタビュー!』

 紹介記事の内容の中で、気になる部分を見つける。

「固有兵装化……?」
「うん? おお。作成に手間をかけるほど、想いを込めるほどに固有兵装に変質する可能性は高くなるけえな。元からくっそ大儀い手間踏む日本刀は素材に関わらず成り易いんじゃ」
「ニコさんの杖とかも固有兵装でしたよね?」
「一応ねぇ。僕の〈六杖鍵〉は霊木ベースで魔鋼使って無いけど」

 そう言って、錫杖のようなスタッフを固有の空間から引き摺りだして見せる。

「じゃな。ワシも日本刀以外のはそれくらいしか実物を見たこと無いわい。このとおり当代の勇者もそうじゃけど、他の五法が持っちょる固有兵装も確かアガナジフの刀匠の日本刀型じゃし。……精祖の刀だけは違ったかの?」

 はっきりしない記憶に首を傾げながらジャファルが雑誌のページをめくると、勇者の二刀ほど大きくは取り上げられていないものの、他の五法の刀も紹介されていた。

〈龍皇〉の〈(すめら)天狗(てんぐ)
〈精祖〉の〈(うろ)(あざみ)
〈魔王〉の〈(どう)()(なき)かい
〈獣聖〉の〈(くに)(はみ)(びゃっ)()

 丘崎の眼力では、写真だけでそれらの良し悪しを判断したりは出来なかったが。

「いくらくらいするんでしょう」
「……固有兵装に変質するかどうかは時の運じゃろうけど、聞くところに因ると一振り10億を超えるっちゅう話も有るのう」

 丘崎は遠い目になった。
 どう考えても関わり合いになる機会すら来る気がしない。

「良いわよねえ。いつかは振ってみたいもんだけど」

 きらきらした目で写真を見つめながら、お柚が自身が副武装として持つ刀を展開する。
 刀身だけで彼女の150センチ前半の身長を超える長大な野太刀。
 炭素鋼製だが、魔法・呪術的な強化が行われている業物だった。
 ジャファルの見立てでも1000万は下らない。

「でも、オカ君に日本刀はまだちょっと早いかな」

 お柚はきっぱりと言う。
 日本刀は「叩き切る」西洋系の剣とは違う。
「引かなければ切れない」というのは偏見から生まれた言い過ぎだが、ナチュラルに引き切りを行う技量が無ければ真価を発揮しきれず、使うのは勿体無い。
 魔法で強化した上で使いこなせれば値千金だが、その種の鍛錬をしていない今の丘崎の技量では望めい事だ。

「でしょうね」

 肩をすくめ、諦観の表情で丘崎が言う。

「突貫工事で刀を使いこなせるように鍛える時間は無いし……」
「レンタ魔鋼兵装とか無いのかな……。もう、サラ金的なとこで借りて買うしかねえかなあ」

 絶望を混ぜ込んで、丘崎は呻くように言った。
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