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中古系異世界へようこそ! 作者:高砂和正

1章 駆け出せない冒険者

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14 丘崎の冒険者生活

「距離約1000メートル、商人の馬車3台と直立二足猪(オーク)人狩り魔物(マンハンター)だ」

 (おか)(ざき)の肩の上で直立し、額に手をかざしたリインが言う。
 今二人が居るのはウィケロタウロス近郊の草原地帯。周囲は背の高い草だらけなので、こうでもしないと遠方の視認は出来ないのだ。
 二人は丘崎が鍛錬目的に日々潜っている魔窟からの帰りだった。

「襲われてるのか?」
「膠着状態かな。一触即発という感じだろう」
「戦力差は?」
「商人側の護衛はそれなりの面子は揃えてるみたいだね。怪我人は出るかも知れないけど防衛は出来るんじゃないかな?」

 そこまで言って、リインは丘崎の肩からするりと降りる。
 丘崎は一瞬考えるそぶりを見せた。
 見て見ぬ振りをするか否か。

「……行くか? 見捨てて後味悪いのは業腹だ」
「異議無し」

 丘崎の答えに満足そうに笑うリイン。
 丘崎は背負ったリュックから包帯を取り出して頭に巻き付け、さらに羽織ったグレーのクロークのフードを被っておく。『晒し』で悪評が広がっているので風貌を隠すためだった。
 クロークの下の装備は安物のボディアーマーに厚手のカーゴパンツ。四肢には比較的軽量な手甲足甲。
 片手剣をマウントした小型の盾を左腕に取り付け、唯一のスロットに仕込んだクロスボウの展開に問題が無いか出し入れして見ている。

 リインの方は出会った時と同じ黒いワンピースとショールという格好で、スロットからガントレッを右腕に展開、装着すれば準備が終わる。
 ガントレットは高価な魔力親和性を持つ黒魔鋼という金属で出来ており、防具でありながら魔法使いとしてのリインにとっては杖に代わる魔法増幅器でもあった。
 全体を見るとやはり軽装に見えるが、全て合わせると丘崎の装備が100セット近く買える価格になる物を揃えている。

「それじゃあよろしく」

 リインは丘崎の肩をぽんと叩き、〈対界侵蝕(カイモン)〉を起動させた。

(……勝手に使うなよ)
(いいじゃないか。どの道使うんだし)

 リインは丘崎の抗議の思念を軽く流す。
 接続される感覚、言葉なしに伝わる意志。2人にとっては既に慣れたものになっている。 
 魔力操作の訓練の中で初めてのPA起動に立ち会って以来、どうしたことかリインは外部から丘崎のPAを起動させる事が出来るようになっていたのだ。 
 PAを保有者以外が起動させられるということについて、ベネット、西郷、ニコラウスらのセトラー及びリアクターたちは例の無い事だと首を傾げていた。

「……レベル2、通常形態アクティブ

 丘崎は悪びれないリインにため息をつき、PAの発動段階を一つ上げる。これはリインからは出来ない事だ。
 2人の感覚がさらに拡張される。僅かながら記憶も共有され、リインが視認した遠方の商隊と魔物の群れの状態が丘崎にもリアルなイメージとして届けられた。

「始」
「おう」

――霊威展開 戦術外殻及び内殻を構築 脚部機動補助 平衡系を支援……

 霊法(ブースト)を張り巡らし、

「行こう!」

 駆ける。










 馬車3台の小商隊の護衛を務める冒険者たちは5名。ベテランもいれば下位冒険者もいる、珍しくも無いパーティだった。
 斥候役の中年の基人系白人種の男をリーダーに、壁役である獣相系ウシ人種の大柄な女、剣士風の五相系赤精人種(サラマンディア)の少年、治療役の基人系白人種の少女、種族不明の魔法使いの老人がメンバーだ。
 馬車の御者をしていた3人の商人たちも、簡易ながら棍棒と盾などで武装し、妙に堂に入った構えをしている。
 人生で一度は冒険者を経験すべしとされるこの世界の一般人ならば珍しくも無いことだ。
 彼らが相対しているのは30体程の直立二足猪の集団だ。1.5~2メートル程の身長で、毛むくじゃらの肥満した人間のような身体と猪の頭を持っている。人間を捕まえると増殖のための苗床にするため非常に嫌われている種の魔物である。
 彼らは人間を狙うこと自体を目的とする人狩り魔物と呼ばれるタイプであり、人間社会の敵として存在していた。

(やはり殲滅だな。豚共の練度次第だが、少し骨が折れるかもしれねえなあ)

 リーダーの男は両手に一本ずつ持った短剣を握りしめ、自陣営と敵陣営を鑑みて覚悟を決める。
 主力である魔法使いの老人は既に慣れた様子で詠唱をしているが、敵の規模が規模であるためかなり時間のかかる魔法を選んでいるのが分かる。
 じりじりと近づいて来る二足猪たち。リーダーは開戦のタイミングを計っているが、こういう状態は嫌いだった。無用なストレスが蓄積されれば戦闘に突入した時に鈍りかねない。
 いっそ、何かきっかけが有ればと思い始めた頃だった。
 僅かながら草原を疾駆する人の足音が聞こえた。かなり音を殺しているが相当な速度で接近して来ている。
 壁役の牛人種の女も偽耳殻を揺らしている。敵か味方かは分からないが、祈るしか無い。
 だが、これで確実に戦闘は始まる。
 リーダーは闘志と緊張で汗を吹きながらも、自らを奮い立たせるために笑みを浮かべた。

(来るなら、来い……)

 先頭の二足猪に、機関砲を思わせる速度で大量の魔力弾が飛来した。
 純粋な五気に変換されているだけの魔力弾一発一発には左程威力は無いが、集束された連射は魔力の保護を破り、肉を削り、骨まで砕いて見せた。
 一瞬で一体が葬られた事に戦慄するが、同時にそれを向けられたのが敵側だった事に安堵する。 

「助立ちするっ!」

 若い娘の声、突っ込んで来た二つの人影は明らかに人間だった。
 黒い衣装を纏う獣相系の少女と、クロークを被った性別不明の人物。

「助かるっ!」

 明らかにそれなりに出来そうな少女は良いが、後者は貧相とすら言える装備だった。即席の共闘への不安から気を付けることを決める。

「俺達も行くぞっ!」

 リーダーは号令と共に自らも敵中に身を躍らせた。










(やるじゃねえか……。期待を超えるってわけじゃねえが、あれを評価出来ないような奴はボンクラだな)

 リーダーは安定し出した戦況に目を配りながらも、クロークを被った小柄な人物、つまり丘崎の戦いを見ていた。
 当初は機動性と見慣れぬ魔法で敵陣をかき回す黒衣の少女、リインの方が目立っていた。今もリーダー以外の仲間はそちらを気にしている。
 逆に丘崎の方は恐ろしく地味だった。
 凡庸な片手剣と盾を持ち、相方と同じ連射の魔力弾を使うが威力は貧弱。小型のクロスボウを使った単発の射撃と武器を使い分けて戦っている。
 速度も攻撃力も平凡そのものの下位冒険者。防御に優れる訳でも無く囮役をこなせているわけでもない。
 丘崎はあまり自分から二足猪たちに仕掛けない。
 自身が狙われる事を避け、共闘する護衛パーティーと商人達を利用し、そして支援する。
 複数に狙われる者がいれば二足猪の一体に魔力弾を打ち込んで気を引き、一対一の状況を作ってから確実に打倒する。
 大振りに武器を振るう者のため、二足猪の動きを止めるべくクロスボウから小矢(ボルト)を放つ。
 弱って捨て置かれた二足猪が回復する前に剣で仕留めて回る。
 戦場の雑用とでも言うのか、下位冒険者が敬遠しがちな目立たない戦い方を徹底していた。
 他者の邪魔をせず、他者を活かす。戦力的に弱い者の理想のようだった。
 それは即席の共闘でこそ真価が発揮される物なのかも知れないとリーダーは思う。

(いやあ、見た事のねえ魔法以上に良い物を見れた気がするぜ。当人の経験か、性格によるものか、それとも教育したのがいるか分かんねえが)

 同じように味方と戦場をコントロールする役割をしているリーダーからすれば、丘崎の立ち回りは将来が楽しみになる物だった。










「世話になったな。随分と楽をさせてもらったぜ」

 戦闘終了後、護衛の冒険者のリーダーが朗らかに言った。

「本当によろしいんでしょうか。何かお礼の品を差し上げられればと思ったのですが」

 商隊の代表が申し訳なさそうに言う。

「いえ、御気持ちだけ有り難く頂きます。こちらとしても見捨てて嫌な思いをしたくなかったということが大きかっただけですから」

 顔面に包帯を巻いた不審者スタイルのままに丘崎が言う。フードこそ下ろしているが、髪もはみ出さぬように巻いているためにその姿はほとんどミイラ男であった。
 商隊がウィケロタウロスに入るのではなく、出ていく方向だったために丁寧に対応することしていた。これがウィケロタウロスに向かう集団であれば戦闘終了後何も言わずに引き上げている所だ。
 相対してる2人は丘崎の風体に興味は有るようだが、それを口にする様子は無い。「事情の存在」を察して敢えて触れないのだろう。
 丘崎はその気遣いに好感を持った。
 そして、そこに〈対界侵蝕〉を介して思念が届く。

(はじめー! 助けてー!)

 リインの方は他の面子に感謝と質問責めのようにされていた。
 人見知りする性質(たち)の彼女からは、引切り無しに情けない救援要請の思念を投げつけられて来ている。

(自分で何とかしろよ。こっちだって対応おろそかに出来ないの分かるだろ)
(だ、だって、こういうの私苦手なんだよ! 鬼! 薄情者! セトラー!)
(やかましい! お前がやりたくないって言うから代表代わってるんだろうが! 本来は上位者がやるのを!)
(う、うわーん! ごめーん!)

 一応済まなくは思っているらしい。素直な謝罪の思念が混ざっていた。
 最早丘崎の中でクール(笑)となった態度で対応しているのが目に浮かぶ。
 それでため息をつきたい気持ちを一切表には出さない丘崎も相当であるが。

「せめて猪共の身体くらいもう少し持ってってくれても良かったと思うぜ?」

 リーダーが言う。
 二足猪は首から下のほとんどが活用出来る。切り取った首をまとめて合掌して葬った後の身体は山分けになったが、丘崎とリインが取り分としたのは活躍に対して少なく思えたのだ。
 余談だが、スクエアスロットの『個』判定効果で収納時点で、容器に入った固体、蓋のされていない容器の液体は除外されるようになっている。二足猪の首から下を収納すればその場に体液と身体と固着していない内容物が落下するので血抜きも不要である。
 無論、それら落下物の匂いは壮絶になるので速やかに〈火気〉の魔法で焼く必要は有るが。

「恥ずかしながらスロットが足りないんですよ」

 そう言って手の甲を向けて魔力を通す。

「高かねえだろうとは思ってたが、1かよ……」

 丘崎に浮かび上がったアラビア数字の『1』を見て呆れ、驚き、感心の入り混じった呻きを漏らすリーダー。
 代表も意外そうだ。丘崎の態度からしても冒険者として最下位とは思わなかったのだ。

「お嬢ちゃんの方がかなり上だろう?」
「あっちのスロットは4ですね。私が代表の方との対応に当たるのは本来筋違いなのですが、何分彼女が、その、ちとコミュ障の気が有るのでギルドマスターより許可されているんです」
「……なるほどなあ」
「ふむ、確かに変にぎこちないですね」

 初見の者に囲まれ、無愛想なままにしどろもどろになっているリインの様子を認めてリーダーと代表は納得した。

(ま、リインの今までの経歴からすれば不器用にもなるだろうが、その不器用さから来る無愛想と子供らしくない顔立ちが似合いすぎるんだよな。まだ17歳だってのに……)

 現在は自身の肉体年齢も中学生程度に下がっているのだが、どうしてもかつての22歳の視点から考えてしまい目を細めた。










「戻りました」
「おぉ、おつかれぇ」

 二足猪の売却をリインに任せ、日が落ちてから人目を逃れて宿に戻った丘崎は、夜になるまでに街の外で書いておいたレポートをニコラウスに渡した。
〈変り種〉で活動を始めてから3ヶ月が経過している。
 丘崎は日曜を除いて毎日とある魔窟に潜り、帰れば文武双方の指導を〈変り種〉の面々に受ける日々を繰り返していた。
 そして、その日の行動と反省を文章化して提出する決まりになっていた。
 そこにどういった意味が有るのかは教えてもらっていないが、毎日宿に戻ってから紙を渡されるうちに今では自主的にA4用紙一枚程のレポートを仕上げないと落ち着かなくなっていた。
 椅子を軋ませグラスに入った焼酎を傾けつつ、いつものへらへら顔でレポートに目を通すニコラウス。

「ふぅん、野良で共闘かぁ」
「ええ。難しかったですけど良い勉強になりました」
「助言は役に立ったかなぁ?」
「……まあ、確かにニコさんやお(ユウ)さんみたいな人は流石に居ませんでしたよ。今日会った中位以上の人らの立ち回りに俺が敵うわけじゃ無いですけどね」

 にやにやするニコラウスに半眼になりながら丘崎が言うと、ニコラウスは満足そうに焼酎を呷った。

「身内外との共闘じゃ期待し過ぎないことが特に大事だからねぇ。僕らより上がいないなんて思い込むのも、高位冒険者の集団にいるからって自分も強くなったと勘違いするのも困るけどさぁ」
「……肝に銘じます」
「ま、僕らも余所から文句付けられるような戦い方をしてない自信も有るからねぇ。生真面目な君が自身が何とかやれたと思える立ち回りが出来るようになってくれたのは嬉しく思ってるよぉ」
「PAに頼ってる気もしますけどね」
「PA頼りを恥じれるセトラーというだけで充分さぁ」
「そんなもんですかね……」

〈対界侵蝕〉は拒絶する相手だと感応が難しくなり思考を捉える事も出来ず、逆に自身の思考を伝えてしまうリスクも有るため多用したい物では無かった。
 何より他者を利用するような面の有る能力だ。クリミナルPAの判定こそされなかったが、丘崎としてはとても誇れるような能力に思えなかったので、基本的に許しを得た相手にのみ使うようにしていた。

「強力なPAの特別性は倫理観を狂わせるよ。躊躇い過ぎて使うべき時に使えない、なぁんて本末転倒にならなきゃオカ君はそのまんまで良いよぉ」

 そんな話をした後、他の報告を済ませて丘崎は退出した。
 ニコラウスはグラスに焼酎を注ぎ、一口含んでアルコールが粘膜を焼くのを楽しむ。

「……〈活字中毒〉」

 ニコラウスは()()を発動させた。
 彼の保有する〈活字中毒〉はストレージPAと呼ばれるタイプであり、無尽蔵に「情報媒体としての書物」を収納することが出来る物だ。
 そこから、一冊のファイルを取りだした。

 ニコラウスはセトラーではない。彼はあくまでリアクターであり、かつて丘崎に言った事に偽りは無い。
〈活字中毒〉は、とある手段によって彼の母であるセトラーから委譲された物だった。
 そうと知らない者が見れば驚くだろう。実際、この街ではギルドメンバーくらいにしか存在を知られていない。
 もっとも、〈活字中毒〉はタイプ名の示す通り物体を収納する能力だ。スクエアスロットがほぼ無償で獲得出来るこの世界ではストレージPAそのものが『ハズレ』扱いを受けやすい。表に出たとしてもそこまで問題にならないだろう。
 おまけに収納対象も書物類限定という微妙な物。有って損はしないが劇的に何か変わりもしない。
 PA移譲の方法が存在する事の方が問題であるため、秘匿しているに過ぎない。

 ファイルに納められているのは、現在の〈変り種〉に関わる者と情報屋が流している悪評についての調査資料だ。

(オカ君は単独戦闘だと不安が有るがそれなりの形になって来ている。が、やはりもうしばらく時間が欲しいな……)

 開いて見ているのは既に素性の明らかになっている主犯、マーティンについてのページだ。
 軽薄さの無い険しい表情でニコラウスは目を通していった。
+注意+
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