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中古系異世界へようこそ! 作者:高砂和正

1章 駆け出せない冒険者

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13 流言飛語

 情報戦を仕掛ける?

 いや、情報屋の観測と制御に張り付けないならば意味が無いし、解決したとしてもオカ君に傷が残る終わり方になりかねない。
 それだけは避ける。彼を引き受けた者として、絶対に何とかする。
 だが、僕が動くと古参馬鹿どもが新参馬鹿に加勢するだろう。
 くそ、こちらの名が足を引っ張るのは腹立たしいな。
 恥じることなんて髪の毛一本分も有りはしないが、こうなって来ると流石に気分が悪い。
 恐らくは捏造内容を叫んでいるの方からボロが出るし、まともな奴の半分は発信源が信用できないことに気付く。
 だが、まともな奴の半分は平気で声のでかいほうを信じる。
 どちらも調べもせずにだ。
 そして、声の続くほうを信じる。
 情報とはそういう物だ。
『晒し』とはそういう物だ。
 ……とりあえず、敵の所属は〈鷹羽〉そのものか、〈鷹羽〉を味方につけられる集団ということだ。
 いや、母体が何かはどうでも良い。主犯がリインに執着してる子供だという事実だけでも十分。
 何故リインに懸想してるか知らないが、どうあがいても犯人の願望は実るまい。何と言っても名前も知らなかった時点から「かわいい後輩をいたぶってくれた奴」になったようだし。
 捏造を信じる者が増えれば動きにくくはなるけど、()()()()()()()惑わされた者が何か仕掛けてくることはそうそうないのが有り難い。

 見込みの甘さで晒し相手に出遅れたことが、ただ情けない。





 ニコラウスは酒臭いため息を吐き出した。
 ほぼ無意識に注いでは口に運んでいた焼酎は瓶の半分にまで減ってるし、ツマミの切れた皿を箸先がうろついていた。

(何やってんのかね、僕は)

 自嘲と同時、机の上に冷たい烏龍茶の入ったグラスが置かれた。

「大丈夫? ニコ」

 部屋の同居人であるお(ゆう)だった。
 いつでも寝れる寝巻き姿。
 とはいえ、中々に扇情的なベビードールだ。
 小柄な割に出るとこ出て引っ込むところが引っ込んでいることが、その透けた生地越しに分かる。
 戦闘スタイルの特異性が目立つお柚だが、そのグラマーな肢体もまた非凡だった。
 青精人種(エルフ)は古来より、女性でも弓の適正を活かすために巨乳を人種全体で忌み嫌い、人為的な淘汰すら行った過去が有った。
 今なお、異種族と婚姻する際には相手血族に巨乳の女性が居ないかの調査を慣習とする、貧乳特化人種となっているのだ。
 一瞬だけストレス解消に飛びついて丸ごと堪能したい気分に駆られるが、細い腰を捕まえて柔らかな腹部に額をぐりぐりこすりつけるという奇行を為して満足する。
 一方、お柚は相方の見せた妙な行為に気にした様子も見せない。
 ニコラウスが尖った角の先を肌に押しつけでもして来たら張り倒すだろうが、この程度はじゃれ合いの範疇だった。
 体を捕まえられたお柚は、大型犬でもあやすかのようにニコラウスの頭をかりかりと掻いてやった。

「何? 夜宿いく?」
「……いや、それは良いよ」

 気持ちを切り替えさせてやるべきかと一応彼女の方から聞いてやるも、ニコラウスはそう返した。
 夜宿というのは言ってしまえばこの世界におけるラブホテルの類であり、限りなく恋人に近い関係であるこの2人も、必要になれば利用している。
 拠点としている宿で事に及ぶのは冒険者には珍しくはない。
 だが、この宿は長く利用しており隣には仲間が部屋を取り、時には宿の娘が掃除に入ってくることも有る。
 そういう形で利用しても問題無いことになっているが、それらの要素を無視して自儘に振舞う趣味は2人とも無かった。

 ニコラウスが冷たい茶で喉を潤すと、アルコールの回った思考がいくらかマシになった。
 そして、今日の出来事を思い出していった。










 □□□□□










 丘崎が〈変り種〉に加入して1ヶ月間。
 基礎的な体力向上、魔法技術、PA操作の鍛錬、そしてこの世界についての常識を学ぶことで、瞬く間に日々は過ぎて行った。
 特に魔力操作に関しては一月経っても進展しない可能性も想定していたが、そこがPAによって解決したことで丘崎への教育は順調に進める事が出来た。

 しかし、それは最悪を想定していたからであり、丘崎自身は凡庸な男だった。
 突出した才能は無いに等しい。ギルド外の協力者としてベネットが指導してくれている斥候系の技術の覚えが良いくらいだ。
 他者と感応するPAである〈対界侵蝕(カイモン)〉のおかげで最初のコツを掴むのは早いが、発動を終えると感覚が途切れるのでそれ以上の習熟は難しかったのだ。
 結果として、現在は器用貧乏一直線になっている。

 そして一ヶ月振りに訪れた冒険者役場。
 丘崎は冒険者としての登録とギルドへの正加入手続きを行った。

「……クリミナルPAじゃなくて、ホント良かった」

 丘崎はそう言って安堵の息を吐き出した。

「オカ君のPAならそぅそぅクリミナルの判定なんて出ないって言ったじゃないかぁ。ビビリ過ぎだよぉ」

 背をぱしりと軽く叩いてニコラウスが言う。
 クリミナルPAというのは、セトラーの持つ多種多様なPAの中でも法的に規制されている物だ。

 能力強盗(バーグラリー)
 能力複製(コピー)
 精神操作(マインドコントロール)
 個人情報閲覧(ステータスチェック)

 といったものが代表的で、人の尊厳を侵すような行いを可能とするか否かが焦点だった。
 丘崎は冒険者登録と同時に、自身の有する〈対界侵蝕〉についての鑑定を冒険者役場に依頼したのだ。
 鑑定を行えば冒険者役場に記録されるため、自発的な申請が行われたということで受付には驚かれた。
 鑑定結果としては1から5の段階で保有者の精神性危険度が1、PA自体の危険度が2という極々軽い物。
 精神鑑定の質問への返答と、自発的な鑑定・登録の申請が評価されたこと。加えて示す能力も特殊な念話(テレパス)とかなり弱い学習補助(ラーニング)程度でしかなかったことが理由だ。

「質問の時に真偽精査の魔法陣まで使ってるからね。人格面での安全性も保証されたような物だから鑑定頼んだのは悪く無かったかもだけどねぇ」

 ニコラウスがへらへら笑って言うのを見て、気が抜けた丘崎は左手の甲に視線を下ろした。
 いくらか魔力を流すと、左手の甲にアラビア数字の『1』が青白く浮かぶ。 
 簡易物体保持魔法、〈スクエアスロット〉の刻印だ。
 冒険者の等級を示す「スロット何々」という表現の由来であり、冒険者役場で登録すれば全員に無償で付与してもらえる物だ。
 冒険者としての功績に応じて数値が向上、その数値の2乗(スクエア)の数が使用可能枠となり、『個』として認識出来る物体を一つ入れる事が出来る。
 レベル1で1枠、レベル2で4枠、レベル3で9枠、といった具合である。
 公的な規定は無いのだが、功績によって性能が上がる特性からそれ自体の数値がいくつかで冒険者の実力を測る指標としても扱われている。
 無償で手に入るにもかかわらず魔法自体の有用性が高いため、数値が上がったスロットを得ることそのものを目的に、この世界では多くの者が人生に一度は冒険者を経験をするのだという。
 スロット4となればプロとして見なされるようになるが、大半はスロット3以下で冒険者を辞め、その後の人生に経験とスロットを活かしていくことになる。
 そこで止まるのは難易度的に割に合わないからだ。
 それでもスロットは様々な活動の効率化や重量物の運送等にも応用出来たりするため、〈源世界〉における「自動車運転免許」程度の価値が有った。

 丘崎は一つしかないスロットから、彼の補助武装として与えられた150センチ程度の木棒を出し入れして見ている。
 この世界に来てから何度も見た、人の手元に突如出現し、そして消失する物体。
 当初は手品か何かかと思ったが、今ではその魔法は誰でも扱える物だと知っている。
 しかし、それが自分の手にも付与され、制限の範囲内なら自由に扱えるというのは、なんとも不思議な気分にさせられていた。

「最初は一つだけで不便に思うかも知れないけど、じきに慣れるよぉ。上がれば枠増えるし」

 僅かに周囲に気を配るような動きをしながら、ニコラウスが言う。
 どうやら愉快でない視線を向ける者がいるらしいのだ。
 丘崎も少し注意して見ると、それを察知する事が出来た。
 探られるような感覚。
 不審がる視線。
 しかし、表向きは何も気付いていないように振る舞うことにした。

「不便どころか、一つだけでも十分に反則的な魔法のような気がしますけど」
「物体収納型、いわゆるストレージPAに対抗すべく作られた魔法らしぃねぇ」

 2人して取りとめのない会話をする。
 白々しいと思いながらもだ。

「丘崎君、東山さん」

 そこに、覚えの有る声。
 声の方を向くと、丘崎には嫌でも郷愁を感じさせられる容姿の女性。
 冒険者役場職員にして転移型セトラー、西郷愛美だった。

「愛美さん、こんにちは」

 丘崎は親しげに言った。
 丘崎が〈変り種〉に行ってからも、彼女は何かと丘崎を気にかけ、ベネット共々宿を訪ねてくれたりしている。
 価値観を共有出来る存在として〈変り種〉の面々とはまた違った部分で丘崎の救いとなってくれていた。

「おや、どぉも」

 ニコラウスも愛想良く頭を下げる。

「2人とも、時間有る?」
「あぁ、今日の所はそこらへんの店冷やかしてから帰ろぅかと思ってたくらいで、特に急ぎの用は無いで」
「じゃあ悪いけど付き合って」

 言い終えるより早く、西郷は丘崎とニコラウスの手首を掴んで引っ張り始める。
 ニコラウスはもちろんのこと、身体の鍛錬や強化魔法の修練を修め始めたばかりの丘崎でも振り払えそうな力でしかない。
 だが、西郷の真剣で焦った様子に、2人は抵抗することも無く役場の奥に連れて行かれた。





「オカ君、先に言っておくけど、君はこの件でうちを抜けたりする必要は無いからねぇ」

 ニコラウスはきっぱりと言った。
 場所はかつて丘崎が運び込まれた休憩室だ。
 そこで西郷が語った内容は、丘崎と〈変り種〉に対する捏造された悪評だった。

「……まだ何も言って無いですよ。俺」
「でも君、すぐそういうこと考えるからねぇ」

 ぐうの音も出ない。
 すっかり性根を把握されてしまったと、丘崎はため息を吐き出した。

「でも、俺を入れたせいで評判下がらせちゃったりするのはやっぱり」
「あぁ、大丈夫大丈夫。うちの評判は基本的に元から悪いから」
「ええ?」
「うちはギルマスの僕が魔人種だし、近接エルフに治癒ドワーフと種族不適正な冒険者で構成されてたからね。趣味職だのまじめにやって無いだの、くだらない嫉妬で評判下げられたりってのは多かったんだよ」

 堂々とした態度で言うニコラウスに、丘崎は知らない過去の話に感心した様子を見せる。
 だが、

「東山さんだけは人種どうこうの問題よりも、余所に喧嘩売り過ぎ」

 呆れを込めた半眼で西郷が言った。

「……ニコさん喧嘩とかするんですか」

 胡散臭いが基本温厚な男だと思っていた丘崎が言う。
 当人であるニコラウスは悪びれた様子も無い。明後日の方を向いてニヤニヤしている。

「別に喧嘩とか売ってませんよぉ。本当の事言っただけですぅ」
「うん、ちゃんと報告も来てるし過去の件の話も聞いてますからね。
 ……言ってることが間違って無くてもあんた思い切り煽りまくってるじゃない!」
「いやぁ、上手い人は褒めて、下手なのは注意してあげただけですよぉ」
「皮肉と嫌味を効かせすぎでしょうが」
「どんなに悪評流されたって僕は「東山ニコラウスは下手くそ」ってことを言われたことは有りませんので平気ぃ。言わせるような戦い方してませんのでぇ」

 腹の立つ顔で西郷の言葉に反発するニコラウス。
 ニコラウスはウィケロタウロスでもそれなりに有名人である。
 そして、冒険者の界隈において、「有名人」というのはあまり良い意味では扱われない。
 ただ技量が高いだとか、実績が有るとかでは話題性がいまいちなのだ。あだ名くらいはつくが、それだけの者は「有名人」にはならない。
 では、「有名人」というのは何かといえば、それは「評判が悪い者」である。

 異性へのアピールが激しいとか。
 詐欺を働いたとか。 
 自慢だらけで不快だとか。
 極端に独りよがりな戦い方をするとか。
 役に立たず寄生行為を働くだとか。

 そういった悪評を流布することは、一般的に『晒し』と呼ばれている。
 元はマナーの悪い者の情報を共有することを言うが、ニコラウスはともかく、丘崎の『晒し』は明らかに私怨によって捏造された物だった。

「はあ……、まあ、東山さんのことは良いですけどね。どうでも」

 西郷は諦めたようにため息をつく。

「オカ君の方だねぇ」
「ええ、今はまだ噂の出始めといったところですけどね。そのうち広がりますよ」
「もしかして、〈鷹羽〉の連中が絡んでる?」
「……ええ、その下部の情報屋で主に流れています」
「なるほどねぇ」

〈鷹羽〉というのは、ここ1、2年で力を付けると同時に、どうやってかウィケロタウロスの情報屋たちに強い影響力を持つようになったギルドだ。
 他者を陥れる情報の捏造や恣意的な情報操作は、裏付けと真実を重視する情報屋としての倫理に反する行為だ。法規制が有るわけではないが、情報屋たちの界隈ではそれに対しての暗黙の了解が有ったし、各々の良心に任されていた。
 それを破れば相応の報いを受ける。
 だが、〈鷹羽〉傘下に頼めば自身に有利な情報を流すことも、任意の他者を陥れることも出来る。
 そういった噂が〈鷹羽〉の規模拡大に比例するように広まっていた。
 そして、どうやらその噂は真実だったようだ。










 □□□□□










「現状ではオカ君の名前自体知られてないらしい。金髪の子供とか、流れてるのはそのレベルの情報だね。その割に私怨臭いのが多いからそこまで信憑性が有る物として扱われてるわけじゃない」

 ニコラウスとお柚はダブルベッドに寝転がりながら話していた。

「ふうん」
「恐らく、以前オカ君を2度襲ったリアクターの子供が首謀者だろうね」
「その理由は?」
「〈変り種(うち)〉についての悪評は流れてるけど、リインに関してだけ擁護の情報が流れてるらしいんだ」
「ああ、それは確定ね……」

 嫌そうに言うお柚だったが、ふと何か思い出したようにくすりと笑う。

「ニコの評判みたく真実混じりじゃなくて良かったわね」
「うっさいよ」
「最初、実は結構怖かったわ。誰かれ構わず噛み付く狂犬みたいな奴だって噂聞いてたから」
「ほーお、実際に僕に会っての感想は?」
「うちがギルド追い出されるまで、あんまり接点無かったじゃない。意外に文句言われたりしないから驚いてたくらいね」
「何もしてない初心者相手に文句なんか有るもんか。むしろユウは動きが新人ぽく無かったし」
「……そうね。それも有って連れてってくれたのよね」
「評価されるべき者の評価を嫉妬で捻じ曲げるギルドなんか居られないね。あの時の当事者だったユウを連れてったのは正直気まぐれだった」
「そっか。うん。でも、ありがとうね。こういう関係になるとは思って無かったけど」
「確かに」

 2人して笑った。

「それで、オカちゃんのことだけど、どうするの?」

 お柚が問う。
 気遣わしげな声。
 彼女もかつて、酷い『晒し』で活動が困難になった経験が有り、丘崎のことが他人事には思えなかったのだ。

「……今度は時間に解決を差し出す気は無いよ」

 ニコラウスは安心させるように言って、お柚の頭を軽く撫でる。

「それなりに手間はかかるかも知れないが」

 怒りを絡ませた声だった。

「必ず潰す」
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