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四十一匹目! 僕のクラスには迷い猫がいる。
「一族の掟を破った罰。しっかりと受けてもらうぞ」
 このままじゃ、朱鷺沢さんが追放されちゃう。
 そんなの駄目だ。僕は立ち上がった。
「罰って何だよ! 朱鷺沢は何も悪いことしてないだろ!」
「そうだよ。るるちゃんは悪くない」
「み、みんな……」
 僕だけじゃない。
 みんなが立ち上がってくれた。
「気に食わねえな。朱鷺沢が猫だからって何だって言うんだ」
 高嶺さん……。
「そうだ。猫であろうと犬であろうと朱鷺沢は朱鷺沢だ」
 賢二……。
 みんなは僕の顔を見てきた。
「そうだろ? 裕二」
 そうだ。何も悪くない。
 でも、それは僕ら人側の意見で、猫側からすれば、僕らの意見は傲慢にしか感じないのかもしれない。
 それでも、何とか朱鷺沢さんを一族から追放しないことはできないかと思ってしまうのは、人とかそういう堅苦しい理由じゃなくて、ただ、朱鷺沢さんが好きだからなんだ。
「……立って、朱鷺沢さん」
 僕は朱鷺沢さんに手を差し出した。震えたその手をしっかりと掴み、朱鷺沢さんを立ち上がらせた。
 目の前にいる村長を見た。
「……これは、一族の問題だから僕らが口出しするのは間違っていると思います」
「裕二!」
「都築!」
「だけど、朱鷺沢さんが罰を受けることになった最後の一回は、僕のせいなんです」
「都築クン……」
「だから――」
「――だから罰を受けさせるなと?」
「いえ、そういうわけじゃ……」
 やっぱり駄目なのか。
 でも、ここで諦めたら、朱鷺沢さんは一族から追放されてしまうんだ。
 僕が踏ん張らないと駄目なんだ。
「……確かに貴様の言う通り、最後はこやつのミスではない。しかし、見つかった事実に変わりはない」
「…………」
「だが、ここでわし等の意見を一方的に押し付けるのは間違っておろう」
「じゃあ……!」
「ないことはない」
 村長さんははっきりと言った。良かった。朱鷺沢さんを一族から追放しない方法がある。
「何でも利きます! だから教えてください……!」

「――貴様らから、こやつの記憶を消すことだ」

 一瞬、言葉を失った。
 何も言い返せなくて、どうしていいか分からなくて。
 ただ、ずっと離さないと朱鷺沢さんの手を握り締めていた。
「おいおい、それはいくら何でも……」
「――分かりました」
 でも、それ以外に朱鷺沢さんを守ることができないのなら、それをするしかなかった。
「裕二、お前……」
「それで朱鷺沢さんが一族から追放されないなら、僕は受けます」
「都築クン……」
「大丈夫。また会って、みんなと思い出を作ればいいんだ」
 ずっと離れ離れになるわけじゃない。
 またいつかどこかで出会えたら、その時は、また新しい思い出を作っていけばいいんだ。
「――そうだな。都築がそれでいいなら、私はいいぜ」
「ああ、俺もだ」
「俺も」
「私も」
「みんな……」
 ほどなくして、朱鷺沢さんの手が外れた。
 少しずつ離れていく朱鷺沢さんを、僕は追いかけようとはしなかった。
 みんなの覚悟、朱鷺沢さんの覚悟、それらを踏みにじるような気がしたから。
 だから、ぐっとこらえた。
「良かろう。――約束は守ろう」
「……朱鷺沢さん!」
 こらえたけど、たまらず、これだけは言っておきたかった。
 振り向く“彼女”に、僕は最後にこう告げた。
「ずっと、一緒だよ」
「うん……!」
 涙ぐむその表情からは悲しみは感じなくて、空一杯の喜びに満ち溢れていたんだ。






 僕は今年から高校に通っている。
 二年前に出会った、林間学校での女子も結構同じ学校にいて、高嶺さんもそのうちの一人だ。
 二週間も経つと、そういった顔馴染み以外の人とも仲良くなれて、充実した高校生活を送れていた。
 ただ、すっぽりと穴の空いた感情が胸の中にあって、それは昨日今日の話じゃなくて、中学二年の夏、林間学校を終えたあの頃からずっとなんだ。
 それが何なのか僕には分からず、賢二や礼二や真人、それと高嶺さんにも聞いてみたけど、やっぱりみんなも分からず、それどころかみんな僕と同じ感情を抱えていた。
 一体、このもやもやした感情は何なんだろう。
 先生の話そっちのけで、僕は考えていた。
 そんなところに答えなんか落ちてるわけじゃないのに、ずっと外を眺めていた。
「…………」
 いけない。先生の話はちゃんと聞かないと。僕はよそ見を止めた。
「――先生ェ、何か外に猫がいっぱいいます−」
「猫? 誰か連れてきたんじゃないだろうな。――まあそんなことは後回しだ」
 外を見ると、校門からざわざわと猫の群が来ていた。ざっと見でも五十匹はいる。
 気のせいか、どこかで見覚えが……。
 ――ガラララ。
「え−、ちょっと遅めの入学になるが、今日から新しい生徒が入る」
 隣の高嶺さんが僕のシャツの袖を引っ張ってきた。
「都築! アレ!」
「えっ、なに……」
 ああ……、そうだ。
「…………」
 僕らには、かけがえないのないクラスメートがいたんだ。
「――――」
 猫の耳に猫の尻尾を隠し持ってて、少しドジなところがあって。
「――朱鷺沢るるです。これからも、よろしくお願いします」
 そんな迷い猫がいる。
 そう――
 僕のクラスには迷い猫がいる。



 完。
 お疲れ様でした。
 これにて僕猫は完結となります。
 思い描いていた通りのラストを描けました。
 そんな僕猫ファミリーの幸せを描けた今は、これ以上ないくらい幸せです。
 そして、この幸せを応援してくださった皆様とも分かち合えたら嬉しいです。
 みんなはこれから新しい学校生活が始まる。
 それは、かけがえない思い出を共有することになるでしょう。
 願わくば、そんな幸せな未来を、皆様の中で描いてあげてください。
 それでは皆様、長い間、お付き合いありがとうございました。
 2010.6.10.白蜜印のメイド漬け。
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