二十九匹目! 優しさの向こう側へ
時間いっぱいまで僕がフロア付近で待っていると、後少しのところで、賢二が来た。
「どうした。裕二」
何故か後ろには高嶺さんもいて、二人とも服が泥だらけだった。どうしたんだろう?
「賢二がいないから心配して……とにかく旅館に戻ろう」
色々と訊きたいことがあったけど、時間がないのでとにかく旅館へ向かうことにした。
ずかずかと上がってきた賢二をよそに、高嶺さんはずっと黙ったまま、顔を伏せていた。
「…………」
賢二に何か言われたのかな? でも、賢二はエロいけど酷いことはしないから……。
「高嶺さんも早く戻ろう」
まちまちで話していたけど、あまり話した感じがなくて、だけどこの時は、前みたいに話した感じがした。
僕の好きな人を聞いた、あの日の頃みたいに。
高嶺さんは小さく頷いて、ゆっくりと上がってきた。
僕は高嶺さんを気にかけながら、旅館へと向かっていった。
後ろを確認して、あまり間を空けないように気を付けた。
いつも歩くこの通路も、今は特別に感じた。
「告白された」
足が止まった。
後ろを振り向いた。
はっきり聞こえた言葉を、聞き間違いでないか確認するために。
本当は聞こえていた。けど、聞こえないフリをして、自分を誤魔化したかった。
「! ……高嶺さん?」
澄んだ瞳がこちらを真っ直ぐ見ていて、それで僕ははっきりとわかった。
本当なんだ、と。
高嶺さんは目に薄く涙を浮かべていて、それを隠すように両手で両目を押さえていた。
僕は近づいて、
「来るな!」
……近づけなかった。
「ごめん……来ないで」
僕は頭の中を整理していた。誰から告白されたのか。たぶん、一緒に帰ってきた賢二なんだろう。
賢二はいつから高嶺さんのことを好きになったのか。僕の相談を受けている時はそんな素振りはなかったけど……。
まさか、一目惚れ?
僕もそうだったように、賢二は高嶺さんに一目惚れしたのかもしれない。
でも、だったらなんで、高嶺さんは泣いているんだろう。
「都築に優しくされたら、私、気が狂うから……、今は一人にして」
あっ……、そうか。
僕はようやく気付いた。
高嶺さんが見せた無理やりの笑顔。そして、真人が言ったあの言葉。
それら全てが、今に繋がっているんだと。
今さら気付かされた。
「……高嶺さんは、来た時も一人だった。ようやく仲良くなって一人じゃなくなったのに、また一人になんてできないよ」
高嶺さんの好きな人。
自分の好きな人。
同時に二つも気付いて、自覚したところでもう遅かった。
僕の好きな人は、高嶺さんじゃない。
高嶺さんは顔を隠さずに見せた。
「……好きなんだ、都築のこと」
僕もちゃんと見た。
「……知ってる」
ずっと見つめた。
謝ることはしなかった。
たぶん、それは高嶺さんを余計に苦しめる気がしたから。
「……僕は、朱鷺沢さんが好きなんだ」
僕が優しくすれば、高嶺さんが苦しむとわかったから。
「……知ってたよ」
本当のことを言わなくちゃいけないんだ。
たとえ、目の前で高嶺さんが泣いていても。
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