鏡写しの双子
柔らかなプラチナブロンドに、透き通った碧眼。雪のような白肌。しなやかな手足。鏡に映したようにそっくりな、美しい双子の少年がいた。彼らはどこへいくにもなにをするにも一緒だった。兄のシェーヌのほうが僅かに活発だったが、それ以外殆ど違いのない双子を見分けられる者は母親以外にいなかった。
「僕たち、ずっとこのままいられたらいいのに」
兄より僅かにおとなしいリィエがそう言うと、シェーヌはそっくり同じ顔を綻ばせてリィエの唇にキスを贈った。
「誰も僕たちを引き裂いたりしないよ。こんなに仲がいいとわかっていて、誰がそんな意地悪をするって言うの」
シェーヌが囁き、鼻先を擦り合わせながら微笑む。両手でリィエの頬を包んで、安心させるように互いの吐息を混ぜ合わせて。
「そうだよね……友達はみんな僕たちの違いがわからない子ばかりだけれど、どっちがどっちかわからないなら、どっちかを奪ったりも出来ないもの」
「そうだよ。それに母さんは見分けられるけれど、僕たちにいい加減離れなさいなんて一度も言ったことないんだから」
リィエは安心したように微笑むと、シェーヌにキスのお返しをした。くすくすと笑いあい、繋いだ手を絡めて縺れながら、大きなベッドに倒れ込む。
大人が二人でも楽に眠れる立派なダブルベッドは、十歳の誕生日に両親から贈られたものだ。ふかふかな一枚の布団に一緒にくるまって眠るのが二人は大好きだった。
かまくらに潜り込むように大きな布団を頭からかぶり、互いの両手の指を祈りの形に絡めて握ると、額を合わせて目を閉じた。
「シェーヌ……ずっと、一緒だよ」
「うん、ずっと一緒。リィエと離れたりしない」
毎夜の挨拶代わりの約束を交わし、眠りに落ちた。
高く晴れ渡る冬空が綺麗な、この時期にしては珍しく強く吹き付ける空っ風がない、穏やかな日だった。
広い庭の片隅で、秋の終わりにかき集めた落葉で母が焚き火をしていて、シェーヌとリィエは傍で煙を避ける遊びをしていた。微風に靡く細い煙に当たらないよう、微かな揺れを見極めて風上に居続けるというだけの遊びだが、二人は夢中になっていた。
だから、気付かなかった。母が落葉を追加したのに合わせて、近くに置いていた水がたっぷり入った桶の位置を変えたことに。
リィエよりほんの少しだけ活発で、ほんの少しだけ先に行くことが多いシェーヌが、足元を見ないまま桶のあるところへ駆けて行ってしまった。
「シェーヌ!」
悲鳴のようなリィエの声に、母が駆け付ける。そこには不注意で蹴り倒してしまった桶の中身の代わりに上着を必死に被せ、シェーヌの顔をきつく抱きしめながら取り乱すリィエの姿があった。
「リィエ、離しなさい!」
「嫌だ! シェーヌを連れて行かないで!」
「リィエ、お願いだから私の言うことを聞いて頂戴! シェーヌが取り返しのつかないことになってもいいの!?」
ビクッと体をこわばらせ、リィエが涙でぐしゃぐしゃな顔に縋る表情を張り付けて、母にシェーヌを託す。恐る恐る上着を退けると、シェーヌは顔の右半分に火傷を負って気絶していた。
すぐに医者に見せ、治療を受けたものの、シェーヌの右目とその周辺に負った火傷は一生残るだろうと言われてしまった。
ベッドの端に腰かけ、包帯姿で項垂れるシェーヌを横から抱きしめながら、リィエはなにも言わずはらはらと涙を流していた。
「どうしてリィエが泣くの」
「だって……」
シェーヌが頭を撫でても、リィエの涙は止まらない。
医者の帰り、たまたま通りかかった学校の友人に「ミイラ男のほうがシェーヌだって見分けられるようになって良かったじゃないか!」と揶揄われたのだ。付き添っていた母親が叱ろうとすると笑いながら駆けていってしまい、リィエはなにも言い返すことが出来なかった。
「ごめんなさい……大好きなシェーヌが傷ついているのに、僕はとっさの一言すら出て来なかった」
リィエの涙がシェーヌの手をすっかり濡らしてしまっても涙が止まる気配はない。
「あんなやつの言うことなんか気にしなくていいよ。それより僕は、大好きなリィエが泣いていることのほうがつらい」
「でも、シェーヌ……僕たち、ずっと一緒だって約束したのに……」
「一緒だよ。リィエは僕から離れたりしないでしょう? それともリィエは、火傷した僕とは一緒にいたくない?」
シェーヌの一言に弾かれたように顔を上げると、リィエは乱暴にベッドに押し倒して噛みつくようなキスをした。
「そんなことない……! 火傷でも切り傷でも、なにがあってもシェーヌから離れたりしない」
「だったら、なにも問題はないよ。僕にはリィエがいればいいんだから」
一つだけの瞳で笑って見せると、シェーヌはお返しに優しいキスをした。指を絡め、何度も何度も、互いの存在を確かめるように、唇や舌を喰らい合う。
ふと、リィエが何事か思い立ったような顔でシェーヌを見た。その表情を見た瞬間、シェーヌは目を見開きリィエを止めようと口を開いた。が、いつもほんの少しだけ遅くあとをついてきていたリィエが、初めてシェーヌより早く動いた。
「リィエ!」
悲鳴のようなシェーヌの声を背後に、リィエは寝室を飛び出して居間に駆け込むと、編み物の手を止めて目を丸くしている母の前を横切り、真っ直ぐに暖炉へ向かった。
「これで、一緒」
「リィエ! だめ!」
シェーヌと母の止める声も聞かず、リィエは薪を一つ掴むと、燃え盛る先端を左目に押し当てた。
鏡合わせに包帯を巻いた双子は、向かい合って一枚の布団に潜り込む。
「ずっと一緒だって、約束だから」
「……うん、そうだね。よく考えたら、僕がリィエだったとしても同じことをしていたと思うから」
「知ってる。僕がシェーヌだったら、やっぱり傷ついてほしくなくて止めようとしたと思う。けど」
リィエが言葉を区切り、小さく息を吸う。
「うれしかった」
声が揃った。それからくすくすと笑う声も、まったく同じ。鏡合わせの双子は不慮の事故にさえも引き裂かれることなく、ずっと一緒に同じで有り続けた。