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夏影
作:椎堂 真砂



二章:心 31


 左が主催で行われた美作とによる十分ばかりの協議によって、俺はまたどこかに連行されることが決定したらしい。
 協議の間、俺は美作が新たに破ったTシャツによって四肢を拘束され、熱されたコンクリートの上に放置され、転げまわっていた。美作の縛り方、上手すぎて自分じゃ外せないし。
 この閉鎖的な島で、一体あいつはどっからそういう知識を持ってくるのやら。
 まな板の上の鯉、というか鉄板の上の鯉だな、俺の今の状況。
 このままじゃ美味しい蒲焼になる。
 いや、美味しいかどうかは人によりけりだと思うけどさ。
「さぁ、行こっか」
「……ネオン街に?」
「いや、コンビニさえないこの島にそんなのないから。ネオン灯一個あるかも怪しいから。もし行っても何もできないから。それともあのアパートにいったら、今はもうネオンだらけになってたりするの?」
「クリスマス仕様」
「クリスマスはずっと先だし。クリスマスの飾りつけはネオンじゃしないし。ボケとしては失敗だよ……」
「…………」
「拗ねないでよー」
「拗ねてない」
「拗ねてるって」
「……鬱陶しい」
 なんて美作の珍しい会話らしき会話を聞きながら、拘束の解かれた俺は捕獲された宇宙人という例のありきたりな形容をせざるをえない状態にされていた。
 右手に美作、左手に左をそれぞれ抑えられ、今度はちゃんと正面向きで歩かされる。
 ちなみに、左にも美作と全く同じように、俺が抵抗できないようにしっかりと押さえこまれた。
 この島の必修技なのか、これ。
 覚えるならもっと別のものにしてほしい。
 皿洗いとか、料理の仕方とか、さ。
 あと、縛られている人の助け方と、助けるだけの良心も覚えてくれると助かる。
 そんな苦言も、口をふさがれている今となっては言えないことだ。
 目的地もアパートとわかったことだし、それ以外に言いたいことはないけど、あまり精神衛生状況として良くない現状。
 もちろん、はたから見れば両手に花な現状にではなく、半ば拉致されているという状況が。
 そして、拉致されること十分、アパートに到着。
 だが、俺が引っ立てられたのは鍵を破壊した气作さんの部屋でも、俺の部屋でも美作の部屋でも、ましてや青猫さんと有栖ちゃんの部屋や空室の管理人室でもなく、俺がさっきまでいた数無さんの部屋前だった。
 ここで何をするかと思えば、美作は唐突にとんでもない暴挙に出た。
「う、ぐぉえ!」
 と、情けない声をあげてしまうほどに、それは強烈だった。
 美作は口の中へ拳を突っ込むと、中で少し開き、拳のせいでのど奥まで押し込められた異物を外側に引っ張り出す。それは俺の唾液やら何やらで汚れていたが、そんなことを美作は一切気にせずに、黒いデニムの小さいポケットへ押し込んだ。
 わかりやすく言えば、口の中に押し込んでいた布をを取り出しただけだが、やり方が強引過ぎる。
 おかげで俺は喋れるようになったが、俺と左はそろって思いっきり引いていた。
 精神的に引けても、拘束されていて俺は逃げれないんだけどね。
 拘束されてなくも逃げれないだろうけどさ。
「で、俺は今から何されるんだ?」
 いくら美作の手が小さいとはいっても人の手なので、それを口の中で拡げられた所為で痛む口をさすりながら、美作に向かって尋ねてみる。
「…………」
 それでもいつも通り、美作は何も答えなかったが。
 さっきの左との会話はなんだったのやら。
 これが付き合っている期間の差なのか?
 今となっては馴れ馴れしく話しかけてくる美作というのも、気味が悪いから別にいいけどさ。
「……うーん、秘密だよ」
「いや、腹話術とかいらないから、左。もう自己完結したし」
「うっわ、寂しいやつだ」
「お前はいちいち馴れ馴れしいやつだっつーの」
 左は美作にも馴れ馴れしく、背後に回りマリオネット代わりにして遊んでいた。
 美作は美作でされるがままになってるし。
 こいつはもうちょっと静かになってくれないだろうか?
 喜んでやるからさ。
 気味悪がりはするけどね。
「秘密にするならやることないし、帰るけど?」
「やることないなら付き合ってよー。交流しようよー。交際してよー」
「いかなる意味でも嫌だ」
「まぁまぁ、そう言わずにさ!私が無理矢理ってことにしてあげるからね!」
「事実、無理矢理だろ」
「ちっ、ツンデレはこう言えば大抵落ちるのに……」
「いや、俺はツンデレとかじゃないから。事実を正確に認識しろ」
「事実事実って……事実なのは疲れた体にお酢がいいことだけで十分――」
「そのコマーシャルを一体日本人のどれくらいが覚えてるか把握してから言え、そういうことは」
 と下らないやり取りをしながら、美作の体を使って数無さんの部屋に押し込もうとする。
 相手が美作では、抵抗の仕様がないことは明白だし、何より抵抗した時の外聞が悪いので、されるがままに押される。
 もし誰かに見られたりでもしたら事だ。妙な噂になりかねない。痴情の縺れみたいな尾ひれがくっついて。
 この島での噂は、インターネットに書き込まれたりするよりよっぽど怖いと思い始めた今日この頃。
 いつの間にか、前に言っていたことと逆になってしまった。
 俺はすっかり島に毒されてしまったらしい。
 鍵も閉めなくなったしね。
 气作さんの部屋のドアノブに飲まれてしまったから、今回はそれが功を奏した。閉めていたら締め出されていたところだ。
 气作さんがどうするかは知らないけどさ。
 でも当然のことながら、鍵がかかっていないといっても、ドアを開けない限り中には入れない。
「うがっ!」
 そうなれば俺みたいにドアにぶつかるのは必然のことだ。
 あんまり力が入っていないとはいえ、地味に痛い。
 文句を言うか迷うくらいの地味な痛さ。
 ものすごい痛い方が嫌だし、中途半端が一番困るなんてことはないが、もう少しリアクションの取りやすいことをしてくれるとありがたい。
「あ、ごめんごめん。でも、ドアぐらい自分で開けないと駄目だよ?」
「お前の言動の端々に悪意が滲み出るのは、お前の心がドズ黒いからだよな……?」
「なんでもっとオブラートに包んでくれないかなぁ……」
「どうしてこんなに容姿とは逆に育ったんだろうな、お前……」
 その容姿さえも作りものだが。
「容姿とは逆だと、純真無垢な深窓のお嬢様に――」
「ならねえよ。逆なのは色だけの話だ。そこまで自分が把握できてない奴も珍しいと思うぞ?」
「把握してるよ!なんなら確かめる!?」
 変なところで熱くなる左。
 いちいち構ってほしがる子犬か、こいつは。
 ちなみに俺は犬より猫派だ。
 犬が嫌いです。でも、子犬のほうがもっと嫌いです。
 ……安易に使って、版権とか大丈夫だろうか?
 気にしても仕方ないけどさ。
「そんなこと言ってないで、ささ、入って入って」
 いつの間にか美作が自主的に開けていた扉に俺は押し込められ、それに続くようにして、美作、左が続いてくる。
 連行されたはずの俺がいつの間にか先頭に立たされていることは気にしないことにした。
 どうせ、理由なんてロクなことじゃないしね。
 非常時の盾とかさ。












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