二章:心 29
数無さんの部屋を出て、空を見てみると日差しはだいぶ落ち着いていた。
二十四時間三百六十五日こうならば、どれだけ楽なことか。
そうなれば、地球の裏側の方々には絶滅してもらうことになってしまうが。
合掌。
「气作さんは……部屋かな?」
あの人、自由気侭にこの島で生活してるし、生息区域がはっきりしてないからこっちから遭遇しようと思うと大変だ。社会人のくせに。
とりあえず、恐る恐る足場を確認しながら、慎重に階段を昇る。
階段について最近発覚したことが一つ。
それは美作は階段を警戒して、降りるときは飛び降りるようになったということ。高さはそうでもないので、飛び降りるのは問題じゃない。あいつ、人並み外れて運動神経いいし。
が、それほどまでに美作が警戒しているということは、もうかなり耐久度がヤバいのかもしれない。
運動神経以上に、美作の直観力は馬鹿にならないのだ。
そんな階段を何とか無事に上りきり、气作さんの部屋前までくる。
そのうちこの廊下も軋みだしたりしないだろうか?
早く戻って修理しろよ、管理人。
さっきまで存在を忘れていたぞ。
「イッキー、いますー?」
ちょっとした意趣返しを含みつつ、气作さんを呼び出す。
でも、返事はない。
返事がないだけに、一人で言っていた俺が恥ずかしいだけだった。
それでも气作さんの場合、居留守を使ってる可能性があるからな……。特に自分にやましいことがある場合。
というわけで、不法侵入パート2。
ドアノブに触れ、回してみると軽い抵抗。どうやら鍵がかかっているらしい。
このアパートじゃ無意味なんだけどね。
鍵、一緒だしさ。
ポケットから鍵を出し、差し込む。型が同じなのだから、当然すんなりと奥まで鍵は入った。
「あれ?」
が、回らない。
うんともすんとも言わない。
いや、ガチャガチャ音は鳴ってるけどね。
「なんか詰まってるのか……?」
もしくは向こう側で誰かがノブを必死に押さえてるとか。
それなら想像するだけ笑いが噴き出しそうだ。
「あっはっはっはっは!」
腹を抱えて笑ってみた。
ただひたすら恥ずかしい限りだけだった。
どうやら、气作さんは本当に部屋にいないらしい。
いい加減一人芝居が過ぎた。
「ま、不法侵入はするけどね」
確かめたいこともあるしさ。
改めてノブに差したままの鍵を握りなおす。
そして――
「おりゃっ!」
体全身で指先に力を集め、精一杯捻る。
まぁ、力技の結果なんて目に見えてるんだけどね。
いわゆる、破滅。
「いったー……っ!」
綺麗に根元から鍵が折れた。
ドアノブに残った方の鍵の欠片は爪の先でも触れないほどにしか残ってない。
…………。
「さ、气作さんを探しにいこ」
人間、誰にも失敗はあるよね。
特に俺みたいな若輩者にはさ。
* * *
倒壊寸前のアパートから人の目を避けつつ離れて、俺は島の南側、冬山商店へと向かった。島の中心のあそこなら、どこにだって行けるし、逃げ込むにもちょうどいい。
冬山商店の中に入ると、クーラーはついておらず生暖かい。その空気の中、入口のすぐ近くに設置されたレジには一人の少年が座っている。
「こんにちは」
「いらっしゃい、ニーチャン」
今日も店番はカワラ君だった。
最近、行くたびにカワラ君ばかり店番をしてる気がする。
これが離島のクオリティーなのか?
どうでもいいんだけどね。
カワラ君の方が話しやすいしさ。
「精神年齢が低いのかな、俺?」
「そんなことないですよ、オニイサン」
「おろ?」
後ろから声をけられた。
振り向くとそこには、カワラ君と同年齢くらいの女の子が立っている。
「オニイサンは十分大人です。大人になりすぎて周りの人に合わせているだけですよ、きっと」
「そんなこという君が一番、大人びてると思うけどね」
まぁ、いたのはミハルちゃんだったんだけどね。
カワラ君の幼馴染の。
「おい、無視すんなよ」
「そう剝れない、です」
もう一つ付け加えるなら、カワラ君の初恋の相手でもある。ミハルちゃんの方には全く興味がないみたいだが。
「でも珍しいね。ここでミハルちゃんに会うのって初めてじゃない?」
「そうです。ここに来たのはミハル自身、二回目です」
「へぇ、意外だね」
「まぁ、そーゆーわけだから、ニーチャン。空気読んで帰ってくれよぅ」
「それは別にいいけど?」
「じゃあ、ミハルも帰ります」
「なんでさっ!?」
「だって、ミハルがここに来たのはオニイサンについてきたからです」
とことん幼馴染に冷たいミハルちゃんだった。
幼馴染のいない俺にはどういう関係なのかはいまいちつかめないが、これは少々手厳しくないだろうか?
こんな幼馴染ならほしくない。
「で、なんで後ろからついて来たの?」
「オニイサン、何かから逃げてるようでした。それで思わず、です」
こんな追跡者もほしくない。
将来、美作みたいになりそうで嫌だ。
この分だと美作にも、追跡されていそうだ。
「…………」
「って、本当にいるしねっ!」
店の奥の方から颯爽と足音も立てずにひょろりと出てくる。
追跡どころか先回りされていた。
美作にはどこまでいっても敵わないらしい。敵ったら敵ったで嫌だけど。
美作にかなう奴なんてそういてたまるか。
「なんでいるんだ、美作?」
「…………平和のため?」
「疑問に疑問を返すのは愚の骨頂だと思うんだ、美作」
「鍵のこと……」
「間違えた。グットの骨頂だと思うんだ、美作」
鍵破壊現場を見られていたらしい。
美作に弱みを握られるなんて何たる失態。お先真っ暗だ。
だからって待ち伏せまでされているとは思いもしなかった。
「何が目的だ、美作」
「…………」
微かに不敵な笑みを浮かべると、俺に接近する。いや、ほとんど肉薄と言っていい勢い。というか、接触した。
そのままの勢いで俺の腕をとり、ぐいっと力一杯ひっぱる。
「痛い!折れる折れる折れるっ!」
力いっぱいなのは握る方もだった。ほとんど関節技だ。ギシギシ軋む。
そんな俺と美作の様子をカワラ君とミハルちゃんは呆れたような冷たい視線を向けている。
やっぱり、精神年齢低いんじゃないかな……俺達。
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