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きれいな骨 作者:松宮星
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きれいな骨

 頬がひりひりしてたので、よく顔を洗ってからラビに会いに行った。
 ラビの後ろ足の毛は、まだべったりしていた。乾いたはずなのに、まだ濡れているみたいだった。自分でなめて毛づくろいしないと、ふわふわにならないのだろうか。
 最後なのにキレイじゃないのが悲しかった。
 ラビのケージの前に座ってジッと見てたら、お母さんがケージを玄関に移動すると言う。もうすぐペット葬儀会社の人が来るのだ。

 ペット葬儀会社の人は、運送屋さんみたいな格好で現れた。でも、顔はとてもマジメそうだった。
「お預かりさせていただきます」
 ラビをそっと抱えてケージから出すと、布をしきつめた竹カゴの中に横たわらせた。小サイズのペット用の(ひつぎ)なのかな?
「遺骨はいつ頃いただけるのでしょうか?」
 と、お父さんが聞くと、葬儀会社の人は一時間後くらいにと答えた。
 驚いた、そんなに早いなんて。今日は遺体を預けるだけだと思っていた。葬儀会社で火葬してから、後日、遺骨が届けられるのだと思っていた。
 ペット葬儀会社の人が説明した。軽自動車のサイズの移動火葬車で来ているので、このままその車の中でラビを火葬するのだと。火葬炉つきの車だそうだ。
「マンションの前に車を駐車しておけませんので、一時間ほど、そのへんを流してきます」
 私は竹カゴの中のラビを見つめた。
 ただ眠っているだけみたいだった。
 ずっと見ていたかったけれど、頭を下げて葬儀会社の人は玄関から出て行ってしまった。
 扉が閉まる音が、やけに大きく耳に響いた。

 ラビのいた部屋に戻って、ケージを見つめた。
 空っぽだった。
 見つめているうちに、涙が後から後からこぼれてきた。
 ラビが死んだ時よりも、悲しかった。ラビの死体がそこからなくなって初めて、私は、もうあの子に会えないんだとわかった。

 リビングでお父さんとお母さんとラビの思い出を話していたら、一時間なんてあっという間に経ってしまった。

 葬儀会社の人は玄関に膝をつき、薄い布の中から白い陶器の骨壺を取り出し、中を見せてくれた。
 白くて軽そうな骨が、幾つか入っていた。硬そうじゃない。固まったお砂糖よりも、もっと壊れやすそうな、もろそうな骨だ。
「小動物だとあまり残らない事が多いんですよ。良かったです、きれいな骨をお家にお返しできて」
 骨壺の蓋を閉じて水色のお骨袋に入れてから、業者の人は手の中のモノを私に渡してくれた。
 とても、軽かった。

 主人のいなくなったケージの中に、お骨袋のままラビを置いた。
「おかえりなさい」
 と、お父さんが言った。
 お母さんも言った。
 私も言った。
 みんなでラビに手を合わせた。

 それから何か月も経ったけど、しょっちゅう、みんな忘れてしまう。
 もうラビはいないんだって。
 咳をしたり、爪を切ったり、大きな声で話すと、しまった! と、思い、皆、ケージをのぞきこんでしまう。
 ラビが不満そうにパーン! と、床を蹴るんじゃないかと心配して。
 病気になる前どころじゃない。小さい頃から、そうだった。気の強いわがままな子に、人間の方が遠慮していた。

 今も、ラビはケージの中にいる。
 ペット霊園を利用しようなんて、家族は誰も思っていない。田舎のおじいちゃん()に埋めてもらおうかとも思ったけど、いっぺんも行ったことのないお家に埋めるのもかわいそうだからやめた。

 ケージの中のラビを見る度に、思う。

 今の私には、ラビだけでいい。
 ペットは飼わない、もっと大人になるまで。
 最期までちゃんとお世話できるって自信が持てるようになるまでは、絶対にもう飼わないって。 

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