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小説家になろうが冒険者ギルドだったら

作者:昼熊
この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです。
似ている名称は目の錯覚です。




「今日から俺も小説家だ!」

 俺は今憧れの職業である小説家への一歩を踏み出すために、作家の為に作られたギルド『小説家になろう』の建物の前にいる。
 この扉の先にはどんな罵詈雑言にも負けない打たれ強い小説家や、どんな読者の心も切り裂く小説家がいるのだろう。
 他にも疲れ傷ついた読者の心を癒す、回復系の小説家もいると聞いている。
 俺は深呼吸を繰り返し、心を落ち着かせると意を決して『小説家になろう』へと飛び込んだ。

 扉を抜けると、とんでもなく大きなホールが存在していて、そこは多くの小説家でごった返していた。
 入ってきた俺に一瞬だけ目を向ける人もいたが、大半は気にも留めていない。
 幾つもテーブルが置かれているのだが、そこにいる人はずっと何かを書き込んでいたり、手にしたカードのようなものを操作している人が多いようだ。
 あのカードは確か『ユーザ登録証』だよな。『小説家になろう』へ登録した者にだけ与えられるカード。俺はそれを目当てにやってきた。

「くそっ、PV全然増えてねえぞ。こいつら見る目がねえな」

「うそっ、ポイント減ってる。やっぱり、ヘイトを集める展開が悪かったのかしら」

「適当に書いたテンプレ作品の方が人気あるのかよ……。こっちの俺が本腰入れて書いた小説の方を読んでくれよ……」

 ホールには多くの小説家の声が響いている。
 彼らは自分の作品のことで手一杯のようで、新たに訪れた俺のことなど興味もわかないようだ。
 俺は入り口近くに張り付けてあった張り紙の注意文に目を通し、初心者受付のカウンターへと向かう。
 そこには多くの人が並んでいた。俺と同じく初心者小説家のようだ。
 暫くしてから俺の順番になり、受付嬢の指示に従い席に座る。

「ようこそ、『小説家になろう』へ。ここは初めてのご利用ですか?」

「は、はい!」

「作家としての登録でしょうか? それとも読者として?」

 作者とは小説を投稿してポイントを稼ぐ者を指し、読者とは作家の能力を見極め評価する権限を持つ者だ。作者は他の作者を評価することも可能で、読者も作者として活動しても咎められることはない。
 つまり、そこに差はないのだが形式上の質問なのだろう。

「もちろん、作家としてです!」

「分かりました。では小説家としての手続きを開始しますね。まずはお名前を教えてもらえますか。本名でなくても構いません。むしろ、本名で登録される方は殆どいらっしゃいませんので、作家としてどのように呼ばれたいか通り名を記入してください」

「わ、分かりました」

 言われるままに通り名を記入して、必要事項も書き込んでいく。
 書類を受付に手渡すと、じっと内容を確認してからニッコリと微笑んだ。

「はい、これでユーザ登録は完了です。ようこそ、『小説家になろう』へ。歓迎いたしますわ。これが『ユーザ登録証』です」

「い、意外と審査が簡単なのですね」

「はい。面倒で登録したくないという方がいらっしゃるのですが、そんなに面倒ではないのですよ。登録していただくと数々のメリットがありますから、もっと浸透して欲しいですね」

「え、えーと。これで俺……い、いえ。私も小説家になったのですよね」

 あっさりしすぎていて実感はないが、今日から俺は小説を投稿することが可能になったということだよな。

「はい。少し説明しますと、この『小説家になろう』はポイントが全てです。小説家にはSSランクからGランクまであり(実際はありません)それはポイントの数値によって振り分けられています」

「ということは、私はGランクからということですか」

「そうなります。ですが、投稿した作品のポイントによって、ランキングを駆け上がることが可能で、内容によってランクはすぐに上がりますから」

「ちなみにランク分けの基準みたいなものはあるのでしょうか?」

「そうですね。掲示板に張り出されているランキングを見ていただくのが一番早いかと。ここに今日のランキングを写した物があります」

 手渡されたガラス板を覗き込むと、日間、週間、月間、四半期、年間、累計ランキングと言う文字が飛び込んできた。

「ランキングっていっぱいありますね」

「ええ。最近の流行りを知りたければ日間、週間、月間をチェックするのが一番ですよ。四半期、年間となると既に流行遅れの場合もありますので」

 風の噂で聞いたことがある。『小説家になろう』でのランキングは移り変わりが激しく、特に日間は魔境だと。

「日間、週間ランキング上位は新進気鋭の作家とベテラン作者が入り乱れています。ベスト5までにはいると出版社からの目につきやすいと言われています。まずはそこを目指すべきかと」

「出版社というのは?」

「依頼人です。『小説家になろう』の小説家の中から優れた才能を持つ者を見つけ出し、仕事の依頼をする組織のような感じですね。そういった方々が目安にしているのが、ランキングだと言われています」

「なるほど。依頼人の目につく人というのは、やはり才能に恵まれたベテランの方ばかりなのでしょうか」

「いえいえ。新人さんへの依頼も多いですよ。基本的に、ランクが上の小説家の方が有利なのは否めませんね。このホールにも何人か上位ランキングの小説家がいますよ」

 受付の言葉に反応して、俺はホール内を見回す。
 多くの小説家の中でも素人目にも分かる異彩を放つ人物が数名いた。

「あの方は『コピーアレンジ』のスキルを所有しているAランク小説家ですよ。世の中の流行を読み取り、人気のある技をコピーして自分なりのアレンジを加えるスキルを持っています」

「コピーって。人の技を真似てポイントを稼ぐなんて卑怯じゃないですかっ!」

「それは違います。完全に同じ技を出すのは違法ですが、そこに自分流の解釈とオリジナル要素をミックスさせるのです。それにより、多くの読者に受ける要素を作り出す。それはもう、コピーとは呼べない代物になるのですよ」

「そ、そうでしょうか?」

「創作というものは何かしら似るものです。完全オリジナル作品はあり得ません。っと、話が逸れましたね。あちらにいる方々もAランクですね。上位陣は何かしらの特殊スキルを所有していますよ。左から『テンプレブレイカー』『テンプレハーレム』『テンプレパッチング』『テンプレデジャブ』『テンプレリベンジ』ですね」

「やたらと技名にテンプレが目に付くのですが……」

「気のせいです。ちなみに『小説家になろう』累計ランキングトップ10にいらっしゃるSSランク小説家様のスキルは――」

「やめてください! それ以上は聞かない方がいい気がしますので!」

「あらそうですか? 累計トップ10ともなると、オリジナルスキルをお持ちの方も多いのですが。では、他に何か聞きたいことはありませんか?」

 聞きたいことはいっぱいあったはずなのに、小説家になった安堵で頭から質問が抜けてしまった。
 何か、何か質問を。

「あの、やはりAランクやSランクになるには、読者からの評価しかないのでしょうか? 腕がよくても評判にならず、埋もれている小説家もいるのでは……」

「ポイント重視なので基本はそうですが、ポイントを稼ぐには運や……それ以外の要素もありますからね」

 言いにくい事なのか、俺の耳に口を寄せて小声で囁く。
 危険な香りがするが、興味があるのでもう少し聞いてみよう。

「ここだけの話ですが組織内ポイントというものがありまして」

「組織内ポイント?」

 初めて聞く単語だというのに心がざわつく。
 その言葉はとてつもない危険を孕んでいる気がした。

「ホールを注意深く観察してください。グループになっている小説家達がいませんか?」

 そう言われて、じっくりとホールを見回すと確かに、数名から多いところでは百人単位の小説家がまとまって会話をしている。
 アレが受付の言う組織なのだろうか。

「彼らは通称『ワナビクラスタ』と呼ばれています」

「ワナビクラスタですか」

「ええ、小説家同士が組んで意見を交わし、情報をやり取りしてより良い作品を作り上げる組織です。ちなみにさっきの『コピーアレンジ』スキルの小説家が所属しているグループは、アレンジャーズと呼ばれています」

「なんかカッコいいですね。私も新人なのでそういう組織に加入した方がいいのでしょうか」

「んー、問題のない組織であればいいのですが、ごく一部の組織は先ほど申しました組織内ポイントを悪用して、メンバーのポイントを押し上げてランキングに強引に割り込ませる手段を取っているのですよ」

「それって……」

 作者でもポイントを与えられることを悪用して、仲間の作品が面白くなくてもポイントを一斉に注いで、ランキング上位に入り込むってことだよな。
 つまり、組織の人数が多ければ多いほど多くのポイントを操れるようになる。
 巨大な組織に加入していれば、能力が低くてもポイントを稼げる……ということか!

「不正行為なのでは?」

「そうですね。ですが、証拠の上げようがないのですよ。内部からのリークがない限り動けない状況でして。組織内の仲間が作品を投稿して読んだら面白かったから、メンバーの殆どが高ポイントの評価をした。と言われてしまえば、こちらから不正と断定する訳にも……」

 これは『小説家になろう』を運営している側としても難しい問題なのだろうな。

「小説を書いて人を喜ばせたいと思う小説家が、そんな不正をするとは思いたくないのですが……。実際にあることなのですね」

「一部の人間は欲の為なら結構なんでもやりますよ。他にも『ユーザ登録証』を偽造して一人で大量のポイントを稼ぐ人もいますし。そして、そういう人の殆どが自分の過ちを認めず「みんなやっている」「人の目につく日間ランキングに上げただけだ」「数百ポイントを操作しただけで、そこから先は実力だ」と定番の言い訳を始めます。日間ランキングに入ることが、どれだけ険しい道のりかも知らずに」

 同じ志の小説家にそんな人達がいるなんて信じたくないが、苦虫を噛み潰したような受付の表情を見ると、そんなことは口が裂けても言えない。
 もっと、夢のある職業だと思っていたのだが、少しだけ……がっかりした。

「とはいえ、それはごく一部の人達です。上位ランキングの方は自分の実力でのし上がった人が大半です。組織に入るというのなら、少数のまっとうな組織にされたほうがいいですよ。情報を共有して、意見を交わせる相手がいるのは素晴らしいことですので。個人的には五人パーティーぐらいがバランスもいいと思います」

「参考にさせてもらいます」

「それにですね。不正をしてポイントを得たとしても、いずれそれが明らかになった時、その人はその汚名を一生背負っていくことになるのですよ。人によっては改名して新たな小説家人生を歩んでいる人もいるようですが」

 それぐらいのデメリットは当然だろう。
 真面目に実力勝負をした者と不正をした者が同じ条件でいられる訳がない。

「それに、そういう情報は依頼人の耳にも届きますからね。悪評は依頼の妨げになりますよ。ご注意ください」

「私はそんな事やりませんよ」

「皆さん初めはそうおっしゃるのですけどね……」

 色々経験してきたのだろうな。疲れたように微笑む受付を見て、そう思う。

「さて、暗い話はここまでにしましょう! 今日は作品を持ってこられているのですか?」

「はい! これになります! 初小説なので緊張しています。よろしくお願いします」

 生れて始めた書いた小説。『小説家になろう』の評判を聞いて、夢を抱いて我流で腕を磨いてきた。ここで自分の能力を見極めてみせる!

「では、拝見させていただきます」

 受付が自分の書いた小説を読んでいる。
 今まで誰にも見せたことがない小説を誰かが読む。それはこんなにも緊張することなのか。
 今にも逃げ出したくなるような緊張感と気恥ずかしさ。そして、ほんのわずかな期待。
 高鳴る胸の鼓動を感じながら、じっと読み終えるのを待っている。

「なかなか攻撃力の高い文章ですね。オリジナルのルビ、センスの光る魔法の詠唱。言葉のチョイスもいい感じに尖っています。そして、何よりも初めから十万文字を超える予約投稿をする書き溜め力! これは期待の新人ですよ!」

「ほ、本当ですか⁉ ありがとうございます」

 受付に褒められたことが素直に嬉しい。
 自分の作品に対して意見を貰えただけだというのに、燃え上がりそうなぐらいに熱い血が全身を巡っているのを感じる。

「おいおい、それは褒めすぎじゃねえか? 新人を甘やかすのはよくねえなぁ」

 そんな俺達に割り込んできたのは、巨漢の男だった。

「お、おい。あの人はCランク小説家の『ハートブレイカー』だ」

「あの他人の作品には辛口の批評をするくせに、自分の作品に対する意見には全く耳を貸さない……」

「そうそう。『ありきたりな話で面白くないです』とか書き込むくせに、自分は有名作品をそのままパクって名前だけ変えたような内容だってのに、どの面さげて」

 どうやら評判のよくない男のようだ。
 俺の小説にざっと目を通すと、「はんっ、なんだこれ」鼻で笑った。

「そもそも、基本すらなってねえな。文章の頭を一マス下げるぐらいしろや。三点リーダ―は二つくっつけるのが基本だろ。ダッシュも二本繋げろっての。括弧で閉じるときは最後に丸はいらねえっての。一人称の文章なのに、なんで視点がブレブレなんだよ。おいおい、難しい漢字を使えば頭がいいとでも思っているのか? 読者が読めない漢字なんて多用していたら嫌われるだけだぞ。せめてルビ入れろや。ったくよぉ、小説家になる以前に小学生からやり直して、作文の書き方勉強してこいや」

 高圧的な口調でまくしたてるが、その内容が的確で俺は言い返せないでいる。
 くそっ、書くことに浮かれていて基本を怠っていた自分が悪い。だけど、何もそこまで言う事はないだろ。

「あいつ、自分の作品は誤字脱字だらけなのに、指摘は結構的確なんだよな……」

「なんであれを自分の作品にいかせねえのかね」

 周りの小説家の声を聞いて、男が気まずそうな表情を浮かべている。
 なるほど、そういう人なのか。

「そこまでにしてください。誰でも初めは初心者なのですから。経験を積んで徐々に成長する場所を提供するのが『小説家になろう』でもあるのですよ」

 受付の厳しい言葉に男が怯む。
 こんな屈強そうな男でも運営には文句を言えないのか。そのまま何も言わずに人ごみの中へ消えていった。

「あまり気にしないでくださいね。失敗を経験して人は成長するものなのですから。投稿を何年か続けたある日、自分の処女作を読み直してあまりの酷さに赤面する、というのがここでの通過儀礼のようなものです」

「はい。初心者への洗礼と思って受け入れます」

 それから幾つか質問をして、ある程度は理解できたので受付にお礼を口にした。

「今日はありがとうございました」

「いえいえ。今日のお昼から作品が世界中に配信されることになります。投稿時間を過ぎてから一度自分でチェックされることをお勧めします。あなたの活躍を期待していますよ」

 その言葉に送り出されて、俺は『小説家になろう』を後にした。




 宿屋に帰り着くと、昼まで仮眠することにした。
 昨晩は緊張して一睡もできなかったので、投稿時間まで少し寝よう。
 (まぶた)を閉じると精神と肉体の疲労が一斉に押し寄せ、俺は闇の中へと落ちていった。

「ふへっ? 今、何時だ?」

 近くの時計を見ると、針が昼過ぎを指している。

「ああっ、俺の小説!」

 予約投稿時間をとっくに過ぎていたので、俺は『ユーザ登録証』に触れて起動させると、自分の作品が投稿されているか確認をする。

「あ、あるある。そうか、自分の書いた小説が読まれるのかー。あっと、ポイントどうなっているかな。ログインして投稿小説履歴から作品に触れて、小説情報で現在のポイントが確認できるんだよな。あー楽しみだ。今のポイントは……0だと」

 何度確認してもポイントの数字が増えることがない。

「ま、まあ、投稿してからまだ三時間だし、それに新人だからね。夜まで待てばポイントはいるよな。あ、そうだ。アクセス解析で何人の人が読んでいるか確認するか」

 アクセス解析を調べると、PVがギリギリ二桁あった。
 誰も読んでいないということはないのか。

「あ、あれだ。一話しか投稿してないのに、評価する人なんていないよな。最低一週間は様子見ないとな、うん」

 予約投稿で毎日決まった時間に投稿されるので、一週間も経てばそれなりに評判になっていることだろう。

「よーっし、頑張って続きを書こう! 一週間後には有名作家の一員になっていたりしてな!」

 栄光の未来を夢見て、俺は小説の続きに取り掛かった。
 ――この先は断崖のように険しく、茨が敷き詰められた道を進むことになることも知らずに。

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