ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
計5020文字です。
第九話  何も知らない人ほど可哀想なものだ。
前回までのあらすじ。

依頼を受けることにした。

P.S やっぱり依頼者は小さな女の子だった。子供好きは嘘じゃない。けど、ロリコンではないことだけは主張させてもらう。




街から出て東の街道の脇にある森、そこに件のエネミーが住んでいるらしく僕らはそこへと訪れていた。ちなみに、王都は街の南にある。

「よっ」

飛び掛ってきた狼型のエネミー、トリアさんに聞いたところウルフというらしい、の攻撃を足を曲げることで下にかわして、ウルフが通り過ぎた後、曲げた膝に溜まった力を利用しジャンプをして上を飛んでいた小さな鳥型のエネミー、こっちはピヨというらしい、を切り捨てる。そして、着地するより前に剣を振ったことで捻った体を使って少し離れたところにいるスライム型のエネミー、これはゼリースライムというらしい、の核部分に剣を投げて突き刺す。

着地した頃には最初に攻撃を仕掛けてきたウルフは『風刃カット』によって切り刻まれて殺されていた。

着地すると体を半回転させて別のウルフの攻撃をやりすごしながら肘でウルフの眼を潰し、怯んだところで蹴り飛ばしてトリアさんに襲い掛かっていたピヨにぶつける。

飛び跳ねて僕に襲い掛かってきたゼリースライムには打撃はあまり効果を示さないのでかわして無視をして、倒れこんでいるウルフの首に足を振り下ろして骨を折って殺し、ついでにピヨを踏み潰す。

「せいっ」

トリアさんが『炎撃ファイヤ』で僕がかわしたゼリースライムを攻撃しているうちに僕は剣に走って近寄って柄を持つと同時に走った勢いを殺さずにその場で回転、飛び掛ってきたウルフ三匹の顔を両断する。

その後ろから襲い掛かってきたウルフの顎を蹴り上げて僕の目の前に晒された体を下から上に切り上げる。そして、そのウルフを掴んで後ろから飛び掛ってきたゼリースライムの前に差し出して盾にするとウルフごとゼリースライムを串刺しにする。

剣を抜きながら上に視線を向けると頭上を旋回するピヨが二匹、その片方にまた剣を投げようとしたとき何かが破裂するような音がしてピヨが落ちてくる。落ちてきたピヨにそれぞれ一太刀ずつ浴びせて止めを刺す。

「今のは『風打ブラスト』、ですか?」

『はい。ですが、見せたのは今のが初めてのはずですが?』

「初級程度の術ならもう本で読みましたから」

空気を破裂させて標的に衝撃を与える術で殺傷能力は『風刃カット』より劣るが、術の起点を標的の近くに設定できることから発動から当たるまでのタイムラグがほとんどない。

風打ブラスト』、『地槍スピア』のように術の発生位置を任意に設定出来る術を遠隔系、『風刃カット』、『炎撃ファイヤ』のように術者の周囲で発生する術を射出系、術者が定めた空間内で効力を及ぼす界系、魔法はこの三つに分類できる。

本によればそういうことらしい。

「とりあえず、この巣にいた敵は今ので全部ですかね?」

『少しお待ち下さい。・・・・・・どうやらそのようです』

「今度は『風声ソナー』ですか?」

『はい。不知火様に頂いたこの魔法石のおかげで風の魔法を使うのが大分楽になったので助かっています』

空間内を風で走査する界系風魔法『風声ソナー』。初級の魔法の中では簡単ではあるけど唯一、探索を行える魔法だ。

「役に立ってなによりです。さて、僕が素材を剥いでおきますので、トリアさんはぬいぐるみをお願いします」

『はい』

エネミーはいくつも群れがあるらしくこの森に入ってから既にいくつかの巣を見つけた。しかし、そのいずれも空振りであり、ぬいぐるみを発見することは出来なかった。

おかげで素材がたくさん集まったけど、時間も大分過ぎて日が傾き始めている。

まぁ、日が暮れればそれはそれで好都合なんだけど。

トリアさんが巣である木の根もとの空洞を調べている間に素材を剥ぎ取っていると肩を叩かれた。

『ありました!熊のぬいぐるみです!』

「でも、ひどい有様ですね」

ぬいぐるみは食い破られたのかいたる所から中の綿が飛び出していて、表面の生地はほとんど裂かれていてかろうじて熊だと分かる程度だった。

「準備をしておいてよかったです」

服の中から糸、針を取り出し、持っていた袋から新しい綿を取り出す。

ある程度損傷していることは予想していたので街を出る前に直すための道具一式を買っておいたのだ。

『こんなに壊れていても直せるんですか?』

「まぁ、この程度なら。というか、一からでも作れますしね」

裁縫も特技の一つだ。これの場合は母さんに裁縫を任せると服に何をされるか分かったものではないので無駄ではなく、かなり助かっている。

『私は裁縫は苦手です』

「得手不得手なんて誰にでもあることですから気にすることでもないと思いますけど」

『ですが、男性の不知火様が出来て、女性の私が出来ないというのは何かこう納得がいかないといいますか』

「そういうものですか?・・・・・・と、よしっ。直りました」

『って、早すぎですよ!?』

「特技ですから」

僕の手の内にある完璧に修繕されたぬいぐるみを見てトリアさんが驚いているけど、これでも割と遅く直したんだよなぁ。・・・・・・お客さんを迎えるために。

トリアさんにぬいぐるみを渡すと剥ぎ取っている途中だった素材を剥ぐ。

「さて、帰りますか」

『そうで』

「おっと、そういうわけにはいかねぇな」

『誰ですか!?』

トリアさんの言葉を遮って男の声が聞こえてきた。

「どちら様ですか?」

僕と普通に会話してるから忘れてるみたいだけどトリアさんは声を発することが出来ないので僕が通訳することにした。

「これから死ぬ奴にゃあ教える必要はねぇな」

木の陰から僕らを取り囲むように次々と武器を持った男達が出てくる。ざっと三十か?

『こちらの方を誰だと思っているのですか!この方に手を上げるようなら国が黙っていませんよ!』

「僕が誰だかご存知ですか?」

「俺達に目をつけられた獲物だろ?」

そいつの言葉に周りの男達が笑い出す。

「・・・・・・一応、お聞きしますが、あなた方はここら辺で出没している盗賊の方々ですか?」

「何だ?知ってるんだったらいちいち聞くんじゃねぇよ」

「いえ、ただあなた方が出没していたのは街の北のほうだった気がしたもので」

「お前の記憶違いじゃねぇか?」

そんなわけがない。記憶力もあの馬鹿親に鍛えられたんだ。今日見たものを僕が忘れたり、間違えて記憶するわけがない。

掲示板に張ってあった盗賊退治の依頼内容は間違いなく、『北の盗賊退治』だった。

それがこんなところにいるってことは・・・・・・、金でも積まれて頼まれたか。

『私達の金品が狙いですか?』

「僕らのお金が狙いですか?・・・・・・トリアさん、僕、あなたの通訳じゃないんですけど?」

『あ・・・・・・、すいません』

「金もそうだが、お前らの命も頂くぜ」

親分らしき男が剣を抜くと周りの男達も武器を構える。

「・・・・・・トリアさん、人を殺せます?」

『・・・・・・必要とあれば』

とは言うものの彼女に人殺しをさせるのは忍びない。

「では、必要に迫られない限り殺さない方針で」

序幕は舞台を汚さずに演じきろう。だけど、第二幕は『彼』が舞台を紅く染める。

さて、いい具合に日も沈んできた。盗賊共、よく見ておけよ?これがお前たちが見られる最後の太陽なんだから。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





エネミー達との度重なる戦闘で私たちが疲弊していること、数の差、殺せないという制限もあって地力では私達のほうが勝っているはずなのに戦いは拮抗して、いえ、僅かに私たちが劣勢になっています。

「トリアさん!」

『ッ!?』

疲れで集中力が途切れ始めているところを不知火様に引き寄せられて抱きしめられます。

「ぐぁっ!?」

後ろを振り向くと盗賊の一人が剣を振り下ろしていて、そこに不知火様が蹴りを当てていました。

「大丈夫ですか?」

『は、い。ありがとう、ございます』

疲れのせいでうまく口が回らなくなりながらも助けてくれた御礼を言うと不知火様から離れます。

周りを見れば傷を負ってはいるものの盗賊達はまだ二十人以上が健在です。

疲れた頭に喝を入れて集中をしなおすと周りの騒音も消えた中で精神中の魔力で魔術式を描き、そこに魔力を注ぎ込みます。調子の良いときなら一秒で済ませられるこの工程も疲れのせいか時間がかかってしまいます。

一度、集中が切れたからかさっきよりも遅くなっている気がします。

そして、現実に意識を戻し何とか『風打ブラスト』を構築して目の前の四人の手前で発動させます。

それでもダメージは与えられても気絶させるにはいたりません。

疲れと相手を殺さないように威力を絞っているために思った以上にダメージが少ないようです。

「しっ!ぜぁ!」

私の傍では不知火様が普段は荒げない声を気合を入れるために大きくして敵の剣をかわし、相手の剣を持つ腕を切りつけて、違う敵が振り下ろした手に蹴りをぶつけて剣を弾き飛ばしていました。

「ふっ!」

それでも不知火様の動きは止まらず、私達を狙った矢を剣と敵をうまく使って防ぎ、蹴りで敵の顔を蹴り飛ばしていました。

炎撃ファイヤ』、『風刃カット』、『地槍スピア』は殺傷能力が『風打ブラスト』より高く、当たり所が悪ければ殺してしまうこともあるため中々使う踏ん切りがつかず、他の術は今の状況と疲労度では使えません。

もう一度、『風打ブラスト』の式を描こうとしたときです。

『っ!?不知火様!あそこの奥の男、魔術師です!』

魔力の不自然な流れを感じてそっちを見ると、小さく聞こえないように詠唱をする男を見つけて、そう口にするもこちらに背を向けている不知火様に私の意思は伝わりません。

その間にも小言で詠唱をする男に魔力が集まっていき、何度か私の魔法を見て魔力の流れを感じられるようになったらしい不知火様もやっと気づきます。

「ちっ!」

不知火様が近くに突き刺さった矢を引き抜き、その男に投げつけます。

しかし、それは男を守るように前に立った男に防がれてしまいます。

それを視界に収めつつ私が『風打ブラスト』の術を完成させて、その男に放つのと男が魔法を完成させるのはほぼ同時でした。

私の術は男に当たり、男の術は私を狙って放たれた『地槍スピア』であり、

「ぐぅ!」

『不知火様!?』

発動する寸前に私の足元の異変に気づいた不知火様が私を庇い『地槍スピア』で左腕を貫かれていました。

不知火様がそれを強引に抜き取ると、貫かれた部分から血が溢れ出しました。

『だ、大丈夫ですか!?』

「・・・た」

何かを言ったようですが私の耳には届きませんでした。

『何ですか?』

「・・・・・・大丈夫、です。ふっ!」

腕から血を流しつつも攻撃してきた男の脚を腕をきりつけ、続けて脚に切りかかったあと、蹴り飛ばしました。

「けど、この出血は、早めに手当てをしないと、マズイかも、しれません」

左腕から次々と血が流れ出ていて不知火様は顔をしかめました。

「それより、あの男、魔術師としては、未熟みたいですね」

不知火様の視線の先を見ると起き上がったあの魔術師の男が再び、詠唱をしているようですが今度は魔力が集まっていません。

今のうちにあの男を仕留めるために『風打ブラスト』を構築して、あの男の周りで五つ同時に発動させます。

そして、その衝撃で崩れ落ちるのを見て次の攻撃対象に意識を移そうとしたとき

『え?』

急に体の力が抜けて、崩れ落ちました。

焦りのあまり魔力を過剰に消費して、私の魔力が底をついた、みたい、です。

もうし、わけ、ありま、せん、しらぬ、いさ、ま・・・・・・。

そして、私は気を失いました・・・・・・。

というわけで、トリアはここでリタイアです。彼女が気絶して紅月がとうとう牙をむきます。
 次の話は人が死にますのでご注意下さい。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。