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神様が見ていた

作者:寿 安清
 
 if、それはどこにでもある、選ばれることのなかった選択肢。
 歴史とは、選ばれた選択肢の連なりで成り立っておるのじゃが、希にその選択肢が外れることもある。
 この世には偶然はなく、全てが必然。確率的な未来予測は儂らにも可能じゃが、それでも絶対ではない。
 小数点以下の確立でも、起こるべきことは必ず起こる。完全な未来予測など不可能なのじゃよ。
 ましてや、過去から未来にタイムスリップなど、事象を無視することも不可能じゃ。そもそも現実は今しかない。
 過去は記録であり、未来は不確定。それが真実じゃ。

 長い時間を眠り続けたなら未来に行けるかも知れないが、移り変わったわった現在から過去に戻るなど不可能。全ては事象の記録として一本の道筋が刻まれるだけじゃ。
『タイムマシンを作ったらどうなるか?』じゃと? そんなもん、次元の狭間をさまように決まっておるじゃろ。
 運が良ければ別の次元に転移してしまうかも知れんが、それはトラベラーが望んだ世界ではない。儂の管轄とは別の世界じゃ。
 話がズレたのぅ。ifじゃ、【もしも】という瞬間は必ず起こる。
 それは本人が気付かないうちに選択し、その未来に進んでしまう。良く『人生が変わった瞬間』と言うじゃろ? それがまさにそうじゃ。
 今もまさに【もしも】なことが起きようとしていおる。ちょいと見てみようか。
 どれどれ……。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 儂が管轄している世界。まぁ、所謂『剣と魔法の世界』じゃな。
 そんな世界の一角に、学園と呼ばれる場所でそれは起こった。

「どうして……。わたくしのことを、愛していてくださったのではなかったのですの……」

 そう呟いたのは、縦ロールなブロンド髪の少女じゃった。
 少々目元はキツめで、我が儘そうな印象と言えばよいか……。いや、実際に我が儘なんじゃけどね。
 実は侯爵家の令嬢で、名を【アンリローネ】と言う。
 彼女は今、決定的瞬間を目撃しておった。
 そう、婚約者と男爵家の令嬢が仲むつまじく抱き合っている瞬間じゃ。

「レンバルト様、いけません! こんな所を誰かに見られたら……」
「見られたって構わないさ。俺はもう、自分の気持ちに嘘は吐けない」
「ですが、レンバルト様にはアンリローネ様という婚約者が」
「彼女とは所詮、家同士で決められただけの間柄だ。アリア、俺の気持ちはお前にしか向いていない」

 なんとも甘い空気を出しているのじゃが、それを見ている者には堪らない。儂も、アンリローネもじゃ。イラッとくるのぅ……。
 このレンバルト、実はこの国の第二王子でのぅ。そのイケメン振りで多くの貴族子女から熱い目で見られておる。
 んで、アリアという男爵家の娘が、こやつのハートをスナイピングショットで射止め、しかもクリティカルでゲッチューしたと言えば分かりやすいかのぅ?
 まぁ、この娘も色々と裏事情があるのじゃが、それは一先ず置いておくことにしよう。
 なんとなく分かる? そこは言わないで欲しい。今は重要ではないのでな。

 問題は、アンリローネじゃ。彼女にはここで二つの選択肢が存在した。
 ゲーム的に言えば、【自室に戻る】か【教会に向かう】のどちらかじゃ。ネタバレをするようじゃが、【自室に戻る】を選択すると、所謂【悪役令嬢ルート】に進むことになる。
 最終的には【ざまぁ展開】になるのじゃ。
 儂もこの可能性が最も高いと思っておったのじゃが、彼女は涙を堪えて教会へと向かっていった。裏切りの悲しみと、屈辱の怒りの両天秤の狭間で揺れておる。
 そして、学院の片隅にある教会に入ると、祭壇の前で泣いた。

「どうして……どうしてですの! わたくしとこれまで過ごした日々は、すべて嘘だというのですか! 許せない……あの女、絶対に許せない!」

 彼女は泣き叫びながら、黒い情念に身を委ねようとしておった。
 その様子を窺っていた者がおった。そう、この教会に派遣された女司祭じゃ。
 正直、司祭と言うにはガラが悪そうじゃが、めんどくさそうに髪を掻きながらアンリローネの元へと向かう。

「おい、迷える子羊さんよぉ。悩みがあるなら聞いてやんぜ? 一人で詰め込んでいると、腐っちまうからな」
「関係ありませんわ、一人にしておいてくださいませ!」
「ハン! おおかた男を別の女に寝取られたって話だろ? 良くあるんだよ、この学院じゃよぉ~。ガキ共が盛りやがって」

 身も蓋もない司祭じゃった。

「良いか、糞ガキ! 恋愛は食うか食われるかの戦いだぁ! 自然界で生き残るため、種を残す神聖な弱肉強食の戦争だぁ! お前はその生存競争に負けたんだよぉ!!」
「なぁ!? 貴女に何が分かるんですの!!」
「ケッ、こんなとこでぴぃ~ぴぃ~泣いてるような奴は、大抵が恋愛がらみの敗北者なんだよぉ。アタシは何度も見てるから分かるんだ。こぉ~のぉ~、負け犬がぁ!!」
「ま、負け犬!?」

 無茶苦茶インパクトのある司祭じゃった。
 そして、凄い暴論じゃな。

「男を取られただぁ~? そんなもん、お前に魅力がなかっただけだろ。野郎共なんざぁ、少し儚げで可愛い女に吸い寄せられるからな。所詮は下半身で行動する獣さぁ」
「か、下半身って……女性なのだから、もう少し慎みというものを……」
「ついでに、アタシは既婚者だ。お前から見たら勝ち組、子供も五人いる。羨ましいか、負け犬!」
「嘘でしょぉ!?」

 アンリローネの言いたいことも分かる。
 お世辞にも結婚ができるような性格とは思えない。傍若無人で豪快、凡そ司祭からかけ離れた女が既婚者だと誰が信じられようか。
 儂もビックリの聖職者。うん、つーか司祭じゃねぇよね? 

「真の愛を知らねぇガキが、惚れた腫れたぐらいで騒ぐんじゃねぇよ。愛ってやつはよぉ、もっと深いところにあるもんさ」
「真の愛……」
「おうよ。あんたが誰に惚れていたかは知らねぇ、少なくとも泣くくらいは本気だったんだろ? そんな思いにすら気付かない糞男なんざぁ、こっちから捨てちまいな!」
「そ、そんなに簡単に割り切れるものでは……」
「あんたはまだ、現実を知らない。広い世界の中にゃぁ、あんたよりも苦しい思いを抱えているやつは、いくらでもいるもんさぁ。籠の鳥には世界を知ることなんざぁ、できやしないのよぉ!」
「籠の鳥……確かに。わたくしは、あの方の何も知りませんでしたわ」

 女性司祭は腰のポーチから煙草を取り出すと、魔法で火を灯す。
 いや、お前、司祭じゃないじゃろ! 教会で何してんじゃぁ!!

「この学院には貴族しかいない。他は、それなりに稼ぎを出している商人のガキがほとんどだ。それだけで全ての男を知ることはできねぇよ。世界に出て、本当の男ってやつを学んできな」
「……本当の殿方?」
「そうさ。ありのままの自分を受け入れ、包み込んでくれるような男を捜せと言ってんだ」

 無茶なことを言いおる。その場の勢いで、この司祭は言いたい放題じゃな。
 じゃが、選択するのはいつも自分自身じゃ。アンリローネが今後の選択肢をどう選ぶかは、彼女自身に委ねられておる。

『思い返してみると、レンバルト様はわたくしと会う度、なぜか嫌そうな顔をしていましたわね。今まで気付きませんでしたが、それは私自身に落ち度があったと言うことになりますわ。
 恋は盲目……。まさか、失恋して初めて気付くなんて……。でも、私のどこが間違っていたのでしょうか?』

 恋愛の熱に浮かれて、自分を省みなかったアンリローネは、この日初めて自分自身を冷静に見つめ直すことをした。
 まぁ、侯爵家では初めての一人娘で、散々甘やかされてきたゆえに、他人を重んじることはしてこなかった訳じゃ。
 何しろ、馬鹿みたいに贅沢をさせていたようじゃからのぅ。振り回される方は堪ったものではないじゃろ。
ただ、彼女はそのことにはまだ気付いておらぬが、教会に来たことにより、運命は良い方向に向かったことは確かじゃ。

「……わたくしのどこが悪かったのでしょうか」
「ん? 我が儘すぎたところがじゃねぇのか? 学園の講師や貴族のガキ共が、陰で散々悪口を言ってたぞ? アタシもお前を見たことがあるが、アレは酷い」
「そ、そんなに酷いのですか!?」
「あぁ、気に入らないからと言って水をぶっかけたり、教科書を破り捨てたり、他にも悪質な嫌がらせなんかもしてたんだろ? そりゃぁ嫌われんだろ。ここは実家じゃねんだぞ?」
「……思い当たることが多すぎますわ」
「あんたは、傍若無人で自己中で、ついでに他人の痛みを知らない人間の屑だ! 自覚しろ、自分の我が儘でどれだけの奴等が迷惑したのかを。殺されないだけマシだと思いな」

 勢いよく指を突きつけられ、アンリローネはショックを受けた。
 自分が当たり前だと思っていたことが、この時、他人には決してそうではないという現実を知ることになる。
 つーか、お前が言うなぁ!! そして、親は何してんのじゃ!

「振られるのも当然だな、世間知らずにもほどがあるだろ。お前の周りにいる連中は、お前ではなく親の権力が欲しいんだよ。だから何も言わない」
「そ、そんな……」
「その程度しか価値がないと言うことだな。お前には荒療治が必要だ。権力を捨て、己の力で強くなる必要がなぁ。言っただろ、お前は人間の屑だってよぉ」
「屑……駄目人間。社会のゴミ……」

 そこまでは言ってないのじゃが、自覚しただけマシとも言える。
 しかし、この司祭……無茶振りにもほどがあるじゃろ。しかも勢いだけで偉そうに説教しよる。
 貴族の娘が権力なしで生きていけると思っておるのか?

「お前は、冒険者になって人助けに貢献しろぉ! 今までの罪を清算し、綺麗になって戻ってこい!!」
「はい! わたくし、頑張りますわ! 頑張って、真人間になって戻ってきます!!」

 いや、騙されてるから! 真人間になるのに、そこまでする必要はないからね? 
 素直に頭を下げて謝るだけでも良いんだから!!
 今まで叱られたことがないから、素直に受け取っちゃったよぉ!!

「ここであたしと出会ったのも、神の思し召し。強く、優しく、そして良い女になって戻ってこい。あたしは待ってるぞ!」
「はい……わたくし、明日から一年ほど休学いたしますわ。そして、多くの者達を救い、罪を清算してきます」
「うむ。あたしは待ってるぜ」

 儂、神託してないんだけど?
 何かあると儂をだすのやめてくんね? それで戦争も起こってんだけど?
 正直、迷惑なんだけど……。

 何かの決意を固めたアンリローネは、教会から力強く踏み出して行った。

「……やっべ、勢いで適当なことを言っちまったが、大丈夫か? 学園から出て行かないよな? マジであの糞餓鬼がいなくなったら、別の転属先に変えてもらおう」

 おい、それで良いのか司祭! 
 儂が見ておるのじゃぞ! 天罰下すぞぉ、コラァ!!

 翌日、有言実行したアンリローネは、休学届を出して学院から去った。
 そして、その一週間後に司祭も去ることになる。
 次いでに儂も仕事が忙しくて、一年間彼女が何をしていたのか見ておらぬ。
 膨大な情報から個人記録を探すのは大変なんじゃぞ? いや、手抜きじゃないから!!
 しょうがないじゃん。別の大陸で魔王が復活しちゃったんだから……。
 魔王の奴、攫った姫に惚れちゃって、幸せに暮らすために統一国家を樹立させおった。
 一年かけて作った聖剣、無駄になっちゃったなぁ~。どうしよう、コレ……。
 儂、泣いて良いよね?

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 さて、アンリローネの行方が分からないので、別の者を見てみよう。
【悪役令嬢ルート】から外れたアンリローネ。当然じゃが、それに困惑する者もいる。
 そう、アンリローネの婚約者を射止めた娘、アリアじゃ。

『どう言うことよ……。アンリローネがいなくちゃ、フラグを回収できないじゃない! 第一王子のスティンハルトは邪龍の復活で命を落とす。その邪龍を召喚させるのがアンリローネなのよぉ! この一年で嫌がらせをしながら召喚の宝具を回収し、私を殺すための準備をしているはずなのに……』

 まぁ、良くある転生者じゃな。
 ゲームと現実を混同している。なんとも残念な娘なのじゃが、欲望に対する執念が凄い。

『邪龍が復活しないと、私が王妃になれないじゃない!』

 邪龍? ん~~っ、思い出した!
 ちょいと確認……やべ、なぜか召喚可能になりそうなんですけど……。
 すんごくグロいドラゴンなんだけど、この邪龍を作ったの、実は儂のあんちゃん……兄なんじゃよ。
 あんちゃん、邪神でのぅ。いい歳こいて厨二病なんじゃ。
 邪神と言っても、要は世界の均衡を保つのが役割じゃ。聖と邪、光と闇。どちらの均衡が崩れても世界は滅びる。必要悪と言えば分かるかのぅ。
 魔王の奴も気付いて、均衡を保つために統一国家を立ち上げた。勇者に倒される気はないらしい。
 邪龍も似たようなものじゃが、こやつは儂ら側じゃ。魔王は自然発生で、邪龍は神が生み出した存在と思っとくれ。
 魔王が正義執行を始めたおかげで、儂とあんちゃんは随分と楽になったとも言える。皮肉なものじゃ、こうして地上を覗き見ができるのじゃからな。
 しかし、時期的に三百年ほどが早いのぅ。召喚用の宝具は厳重な封印されておったはずじゃが……。
 アレが封印の祭壇から持ち出されると、儀式だけで邪龍を呼び出すことが可能となる。無論、贄を大量に用意する必要があるがのぅ。

『仕方がないから、私が宝具を回収しちゃったわよ。後は、あの我が儘令嬢に押し付けて……』

 お前かい! なんてことをしてくれたんじゃぁ!! 別の方法で召喚されたらどうする気じゃぁ!!

 賭け麻雀で負け越していたとはいえ、こんな奴を受け入れるのではなかったわい。
 知り合いに、『うっかり殺しちゃった子がいるんだけど、頼むから受け入れてくんね? 貸しを少し減らしてあげるから』などと言われたのが運の尽きか。
 チート能力で体力と魔力の上昇が高く、ついでに全属性持ち。本気で動かれたら宝具も簡単に回収できてしまう。
 仕方がない。この聖剣を誰かに預けるとして……。あっ、勇者がいない!?
 今から用意するのも大変じゃぞい!? ラグナレク規模の邪龍を倒せる者など、この世界にはおらぬし……。
 復活して半年くらいなら倒せると思うのじゃが……。もしもの時は交渉しよう。
 なんで焦ってているかって? 後始末は儂がやるからじゃ! しばらく仕事に忙殺されるから、できることなら防ぎたいんじゃよ。
 邪龍? 話せば分かる良い奴じゃよ?

『聖剣の使い手であるスティンハルトがいなくなれば、レンバルトが勇者になるわ。そして、私はこの国の賢母となるのよ! そのために炊き出しやら、街の花壇の手入れとか、やりたくもないことをやってきたんだから』

 ……炊き出しって、浮浪者に食い物を恵んでも、その場しのぎじゃぞ?
 経済を何とかしないと、働かない者はどこまでも施しに頼るようになる。根本的なことが解決せんのでは意味がない。
 国の予算も限りがあるのに、そんな馬鹿な真似が続けられるはずもないじゃろ。

『改革に必要なお金は、一時的に八公二民にして税収をアップ。新規の工業で経済を活性化させて……』

 待て、待て! いきなり新事業を始めたところで、上手く行くわけではないぞ!
 時間をおいて少ずつ変革していかんと、そのしわ寄せは一気にくることになる。経済をゲームと一緒にするでない!
 第一、いきなり税収を上げては、民が困窮するわぁ!! どこが賢母やねん!!
 駄目だ、コイツ……。それより、邪龍を召喚をなんとかせんとな……頭が痛い。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 頭痛の種に悩まされながらも、儂は地上を眺め続けた。だって、いい手が思い浮かばないんじゃもん。
 そして、ついにアンリローネが学院に戻ってきたのじゃが……えっ?
 ちょい待った! なんか、すんごく強くなってるよ!?
 レベル、フルカンスト。全属性持ちで全精霊の加護持ち。もしもし? なぜか【龍殺し】の称号があるんですけど……。
 あっ、【聖女】や【救世主】の称号もある。下手な勇者よりも強いんじゃね?
 一年で変わりすぎじゃろぉ、何があったのぉ!?

「おい……誰だよ、あの美人……」
「う、美しい……」
「天使だ……。天使は本当にいたんだ……」

 男共の視線は釘付け。無理もあるまい。
 以前のような世間知らずの我が儘な面は鳴りを潜め、縦ロールの髪はロングストレートに変わっている。
 人を小馬鹿にしていた表情が、今では静謐で神秘的なものへと。凄まじいビフォーアフターじゃな。
 おぉ……【ダンジョン攻略者】じゃとぉ!? マジで冒険者をやっておったのか……。
【神眼】で鑑定してみると、全ての魔法も極めておる。
 しかも、スタイルもかなりのもの。コレは男には堪らんじゃろ。

「あ、アンリローネ……。アンリローネなのか!?」
「お久しぶりです、レンバルト様。本日より学園に復帰することになりました」
「そ、そうか……元気そうで何よりだ。それにしても、今まで何を……」
「貴族であることを捨て、己を磨くために大陸中を廻っていました。自分の小ささを思い知りましたね。世界は苦しみに満ち溢れています」

 かつてのアンリローゼなら、レンバルトの腕にしがみつていたであろう。
 だが、今の彼女はそんな幼さは見当たらない。強い決意と信念に満ち溢れている。
 マジで何をしてきたんじゃ? 

「権威を振りかざした愚物の横暴、苦しむ力なき民達。魔物に怯え暮らす人々や、貧困に喘ぐ人々……。自分の無力さを痛感しました」
「意味が分からない……。アンリ、お前は俺の婚約者だぞ? その俺に何も言わず、なぜ消えた」
「はて? わたくしは家を出るときに、婚約を解消する話を父といたしましたが? なぜ未だに婚約者となっているのでしょうか?」
「なに!?」
「言ったはずですよ? わたくしは、貴族であることを捨てたと」
「ハァ!?」

 つまりは、ただの一般人になったということじゃな。

「今のわたくし……私は一般人です。貴族ではありません」
「な、何を馬鹿なことを……。そんなことが許されるはず……」
「それを決めるのは私自身です。たとえ王族であっても、私の人生を縛ることはできません」

 清々しいほどはっきり言いおった。完全に自立しておるのぅ。

「スローサンク侯爵がそれを許すとは思えん。お前は未だに我が儘を言っているだけだ」
「いえ、両親も納得して送り出してくれました。散々我が儘を言ってきたので、相当に呆れていたようですね。涙を流して送り出してくれましたよ?」
「あっ……凄く納得できた」

 儂も納得できた。
 しかし、我が儘娘がここまで変わるとなると、侯爵家も娘を家に戻そうとするじゃろぅな。
 何しろ、立派になりすぎた。
【聖女】の称号など、かなりの民草を救済し神殿で洗礼を受けねば、決して得ることはできまい。事実、多くの民衆を救済するため、身を粉にして働いたようじゃし。
 魔物を倒し、権力者の不正や圧政を打ち倒し、多くの仲間と信頼を自力で勝ち取ったようじゃ。儂も【神眼】で見なければ分からんかった。
 経歴が凄すぎて一言では語れん。濃い一年じゃな……。【転移魔法】で各地を飛び回っていたようじゃし、剣士としても魔導士としても超一流。
 ……にしてもこの第二王子、転生者の娘とアンリローネを天秤にかけ出したぞ?
 最低じゃな。

「そのようなわけで、私はただの一市民として学園に戻りました。アリア様といつまでもお幸せに」
「なぁ!?」

 決別の言葉に、ショックを受けたようじゃが、自業自得じゃろ? あからさまに転生者とイチャついておったろぅに……。
 逃した魚は大きかったようじゃ、その選択をしたのはお主自身。選択肢は生きる者すべてが己で選ぶものじゃよ。
 アンリローゼはレンバルトに振り返ることなく、颯爽とその場を立ち去った。
 クールじゃ……。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 我が儘令嬢の帰還と変貌は、学院中に瞬く間に広がった。
 アンリローネは貴族と接することを拒絶し、商人などの比較的裕福層にいる子息令嬢と接するようになった。彼等は貴族の子息令嬢との間に、越えられない壁がある。
 彼女の影響を受け、一般出身者達の地力が比較的に高まり、ついに貴族出身の者達の成績を脅かすことになる。
 元より貴族は英才教育を受けておるからのぅ。一般出身の者達は剣や魔法など大きく出遅れるのは必然じゃ、その開きを短時間で埋める修練法を教えたのだ。
 そう、ダンジョンによるレベルアップと、自己鍛錬によってじゃ。
 学園は有能な者達が増えることで名声が高まり、生徒は刺激を受けて研鑽を続け、講師は度重なる質問攻めに答えられず自身を見直すことを始める。

 その結果、学園は急速にレベルの高い教育機関へと変わっていった。
 無論、アンリローネの実家であるスローサンク侯爵家から、彼女を迎えに来た者達もおったが、『私は、ただの一般市民です』の一言で追い返す。
 強引に連れ帰ろうとすれば、逆に返り討ちに遭った。誰一人殺すことなく無力化されるのだから訴えることもできない。
 わざと負傷し、ケガを理由に強引に連れ戻そうとするも、アンリローネは回復魔法も使える。決定的な証拠を残さないのである。
 まぁ、他国から感謝状やら贈り物やら、ついでに見合い話も持ってこられたのだから当然じゃろぅ。
 追い出した娘の偉業に喜びつつも、同時に追い出してしまったがゆえに呼び戻すこともできず、王から叱責を受けることとなった。
 とにかく、アンリローネは貴族に戻ることを頑なに拒んでいた。
 無論、叱責を受けたのはレンバルトも同様。婚約者を無視して他の女に入れ込んだことが、ついにバレてしまったのだ。
 儂ゃぁ~知らんよ。

 そして、それを面白くないと思う者もいる。

『なんでよ! 主人公は私なのよ!! どうして悪役がチヤホヤされてんのよぉ、おかしいじゃない!!』

 未だにこの世界がゲームと思い込んでいる転生者、アリアじゃな。
 こやつはアンリローネに凄く嫉妬した。チートを努力で上回った彼女に対し、理不尽な怒りを抱くようになった。
 いくらチートを貰っても、努力を続けるチートには決して勝てぬよ。
 一年間、アンリローネは休学をしていたが、学園にスキップ制度があるのが良かったのか、アリアの同級生として過ごしている。

『聖女になるのは私のはずだったのに、なんで悪役令嬢が聖女になってるのよぉ!! おかしいわよ、こんなのどこかのラノベ展開じゃない!!』

 うむ、良くある話じゃな。儂は大好きじゃよ?

『私はただ、王妃になりたいだけなのに……どうして邪魔ばかりするのよぉ!! 大人しく犠牲になっていれば良いものを……』

 いや、お前さんの人生のために、なんで他人が犠牲にならないといかんの?
 その発想が悪役令嬢じゃね? 現実を見なさいよ、ここはゲームじゃないんだけど?
 お前さんの世界ではないよ? 儂の世界じゃからね?

『まさか、あいつも転生者!? あり得るわね……ラノベでもそんな展開があったし』

 あるねぇ~。けど、なんでも転生者と決めつけたら駄目でしょ。
 ifの可能性は誰にもあるんじゃよ? 人生の転換時期を自らの手で選んだから、こうなったんだけど? 

『階段から突き落とされるイベントも、そもそも貴族と関わらなければ起こりえないし、授業が終わると直ぐに帰っちゃうし……。そもそも、あいつはどこに住んでいるのよ!!』

 まさか、仲間と冒険者クランを立ち上げ、その拠点の自室へ転移魔法で帰っているなんて思わんじゃろうなぁ~。今のアンリローネの魔力はどんだけ!?
 もう、儂の予想を遙かに上回っておる。天才の努力は恐ろしい。
 ついでに、アリアはなんとかイベントをこなそうと考えるが、アンリローネは授業を早退したり、休むことが多い。冒険者としての仕事のためじゃ。
 これ、留年するんじゃね? そう思ったのじゃが、アンリローゼは成績の上位をキープしておる。充分に卒業は可能じゃ。
 リアルチートは少ないが、確実に存在するのじゃ。千年に一人の逸材じゃね?

『おまけに、卒業パーティーのイベントすら起こる気がしないわ。だって、卒業式を終えたら直ぐに帰りそうだし……』

 そうじゃのぉ~、冒険者の仕事は何が起こるか分からん。
 人助けを率先して行うアンリローネに、パーティーなぞ面倒な行事以外の何ものでもないじゃろ。間違いなく帰るのぅ。
 それが分かるだけに、アリアはアンリローネを睨みつけることしかできない。

「どいた、どいたぁ――――――――っ!!」

 ん? なんじゃろうな?

『なに? 何かのイベント!?』

 授業中、教室のドアがいきなり開けられた。
 それを行った者は、まるでどこかのハンターゲームに出てくる上等な装備を纏った、小柄な少年であった。

「姐さん、大変だぁ!! 緊急事態だ!!」
「あの……ジョット? 今、私は授業中なのですけど……」
『あの少年、アンリローネの知り合い? どこかのハンターゲームにいそうなんだけど……』

 うむ、儂もそう思った。

「そんなものはノートでも借りればできんだろ! 緊急事態だぁ、【魔狼の爪】の奴等がしくじりやがった!!」
「【魔狼の爪】? 彼等は確か、私達が受けようとした依頼を横取りした人達ですよね?」
「あぁ……未確認の魔物を調査する依頼だったんだが、その魔物が【フューラーワイバーン】だったんだよ!! しかもつがいだ。奴等のせいで村一つ壊滅した」
「な、なんですって!? なぜ、そんな事態に……」

 蒼白な顔で勢いよく立ち上がるアンリローネ。よほど信じられない事態なのだろう。
 ちなみにじゃが、【フューラーワイバーン】は龍種に近い飛竜で、獰猛で縄張り意識が強い。敵は執拗に追いかけ、殲滅するまで止まらない。
 飛竜の中で最強のモンスターじゃ、特に雌がヤバイ。雄よりもデカイのじゃよ。

「奴等、依頼を無視して調査から狩りに変えやがった。最近、俺達が名をあげ始めて焦ったんじゃないか? 良くギルドで皆に絡んでいたみたいだし、実力はねぇのに無駄に功名心は高い連中だったから……」
「なるほど……理解できました。勝てないと分かって村に逃げ込み、その結果村が壊滅したのね? それで、私の装備は?」
「持ってきた。武器は後から馬車で運んでくる。姐さんは準備を整えて欲しいんだ」
「わかりました。ジョット、時間がありませんから装備するのを手伝ってください!」
「いや、ここでか!? 制服の上から装備するのか? それより、兄貴に申し訳ねぇんだけど……」
「時間がありません! 皆はこちらに向かっているのでしょ? 現地に到着してから装備したのでは遅いのですよ!! 現地に到着して、直ぐに戦闘に入るかも知れないのですから」
「うっ、わかった。兄貴……ごめん」

 誰もが言葉をなくして注目する中、アンリローネは制服の上着を脱ぎ、皮の袋に収められた装備を身に纏ってゆく。
 ある者は鼻血を吹き出しそうになったが、彼女の装備を見て次第に表情がこわばっていった。何しろ稀少なドラゴンの鱗をふんだんに使われ、その輝きは騎士を目指す者達から見れば誰も憧れを持つ。まさに至高の一品。

『……なに、アレ。どこのハンターよぉ!! あんた、ゲームを間違えているわよぉ!? 悪役令嬢がなんでフル武装して、ワイバーン退治に行こうとするのよぉ!!』

 予想以上に凄いことになっておるようじゃ。
 もう、英雄と言っても良いんじゃね? どう見てもアンリローネがリーダーじゃろ。
 どんだけ強いのよ。儂も理解不能……。聖剣、預けちゃおうかなぁ~……。

『それより、『兄貴に』って……あのアマ、恋人がいるのぉ!? 私の幸せフラグをぶち壊しておいて、自分だけ幸せなわけぇ!? ゆ、許せない……』

 醜い嫉妬じゃのぅ……。

「おい、校庭を見てみろ……」
「あれ、新規精鋭の冒険者クラン、【龍滅の剣】だろ!?」
「待て! と言うことは……」
「アンリローゼ様は、【龍滅の剣】のメンバー!?」

 いや、クランリーダーじゃ。
 装備を纏っている最中に、冒険者仲間が到着したようじゃな。
 まぁ、走って学園に来るのと、馬車で移動してくるのでは速度が違うわな……。
 それにしても、準備が早いのぅ。あらかじめ緊急依頼に対応しておるのか?

「姐さん、皆が到着したみたいだ」
「……装備を持ってくる意味があったのですか? ここで待っていても、結果は変わらない気がするのですが……」
「実は……途中で道に迷った」

 ジョット君、ドンマイじゃ!
 そして、アンリローゼは出陣していった。
 五日後、【龍滅の剣】が【フューラーワイバーン】の二頭狩りに成功したという話題に、街はお祭り騒ぎとなった。
 その偉業を成し遂げたのが、十代の女性に率いられた冒険者集団というのが話題を攫ったようである。アンリローネの名声は益々高まるのじゃった。
 うん、聖剣は彼女に預けよう。君に決めたのじゃ!

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 どこか地下深くにある広間で、アリアは儀式を行っていた。
 全裸に黒マント、左手に宝具を掲げ、他の宝具を周囲に配置し、血液で描かれた魔法陣の真ん中で呪文を唱えていた。
 あれから数ヶ月、卒業を前にしてもアリアはイベントとやらを回収できず、恋人のレンバルト第二王子との仲は急速に冷めてゆく。
 何かにつけてアンリローゼを目で追うようになり、逆にアリアの素行の悪さや醜悪さが目に付くようになったためじゃ。それが自分のせいだとは思わない。
 周囲の者達からも次第に距離を置かれ、ついにアンリローネに憎悪を向けるようになる。どうしようもない奴じゃのぅ。
 以前のアンリローネよりも酷い。転生する者に記憶を残すべきではないのぅ。
 まぁ、記憶を維持したままという条件じゃったから、儂にも責任があるのじゃがな。
 どうせバレないのだから、人格をリセットしておけば良かったわい。
 う~む、しかし……こうして儀式を見てみると、あやしい……変態じゃな。

『うふふ……現れなさい。邪龍よ……。私の幸せをぶち壊したあの女に、絶望という名の結末をもたらすため……』

 ……マジで自己中じゃな。そんなくだらない理由で邪龍を呼び起こすでない!
 仕事に真面目で、酒好きの気の良い奴なんじゃぞ? 可哀想じゃろ!!
 見た目の酷さに悩む、不憫な奴なんじゃ……。
 あんちゃん、頼むから姿をかっこよくしてあげて……。
 しかし、仕事には真面目じゃからな。目覚めたら直ぐに破壊の限りを尽す。
 だって、それがあやつのお仕事だから。必要悪と言ったじゃろ?

「我を……召喚したのは、汝か……」
「そうよ! 思い通りにならない世界なら、壊してしまえば良いのよ!!」
「破壊を望むか……」
「当然でしょ! こんな糞ゲーの世界、滅んだ方がマシよ!!」

 酷いのぅ。儂の世界なんじゃぞ? なんでお主に行く末を左右されねばならぬのじゃ?

「ならば、我の贄となれ……」
「……へっ?」
「我が一部となりて、世界を破壊する。汝、代償も考えずに我を目覚めさせたのか?」
「ちょ、そんなこと聞いていないんですけど!?」
「別に構わん。我が目覚めた以上、汝は我の贄となることは決定しておる。全てを呪い死に逝くがよい!!」
「い、いやぁああああああああああああああああっ!?」

 魔法陣から出現した巨大な口に――食われた。
 馬鹿じゃのぅ。いつまでもゲーム気分が抜けぬからじゃ。そして邪龍は姿を現す。

「む、久しぶりだな。神よ……」

 久しぶりじゃな。どれくらい振りじゃ? 積もる話もあるし、このまま飲みに行くか?

「仕事がある。サボるわけにもいくまい? 食った奴の記憶を見る限り、碌でもないな」

 まぁ~のぅ。そうなると、儂も動かねばならんか……。ハァ~。

「お互い、大変だな……」

 まったくじゃ。仕方がない、神託をだすことにするかのぅ。

「終わったら、飲みに行こう」

 そうじゃな。最近、行きつけの店の酒が極上でのぅ。

「楽しみだ……。さて、破壊活動を始めるか」

 手を抜いても良いぞ? どうせ、たいした力は振るえまい?
 適当に負けて、さっさと一杯やりにいくのじゃ。儂が支払いをもつ。

「なぜにそこまで飲みたがる。ヤケ酒か? まぁ、いつもの仕事だし、適当に切り上げるさ」

 ハァ~、後始末が大変じゃ……。転生者など引き受けるべきでなかったわ。
 借金の方が幾分かマシというものじゃて……。

「同情する。では、後でな……」

 うむ、ほどほどにな。儂が大変じゃから……。

 邪龍は岩盤をブレスでぶち破り、大空へと飛翔していった。
 さて、仕事を始めようかのぅ。終わったらヤケ酒じゃ!! 酔うまで飲んでやる!!

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 アンリローネよ……。

「私を呼ぶのは誰ですか?」

 時がない、汝に神託を与えよう。
 邪龍が目覚めた。おそらく王家の聖剣だけでは倒せまい。

「じゃ、邪龍!? あの伝説の【名もなき龍】ですか!?」

 いかにも。ゆえに汝に聖剣を与える。
 多くの命を守るため、聖剣を振るい邪龍を滅せよ。それが汝の運命。

「私の……運命。では、私は一生涯、神に身を捧げることになるのですか?」

 別に神殿に遣える必要はないぞ? 
 聖女の称号も、所詮は便宜上のものでしかない。汝の思うがままに生きるが良い。
 人は誰しも幸せを望む資格がある。それは聖女だろうが浮浪者であろうが変わらぬ。

「ならば、私は自分の幸せを守るために聖剣を振るい、邪龍を倒します。神であるあなた様を蔑ろにすることを、お許しください」

 それが汝の力となるのであれば、思うようにするが良かろう。
 聖剣を受け取るが良い。汝の未来に祝福あれ……。

 そして、儂はアンリローネの元へ聖剣を送った。ついでに加護も与えておいた。
 まぁ、【龍殺し】なら、多少は手こずっても何とか勝てるじゃろぅ。
 後始末を考えると、頭が痛いがのぅ。
 ハァ~、人間にしてみればタチの悪いヤラセなんじゃよなぁ~。罪悪感が……。
 余談じゃが、邪龍は死なぬぞ? 核が別次元にあるのでな、肉体が滅んでも何度も蘇ることができるのじゃ。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 結論から言えば、戦いは半年間続いた。
 アンリローネは仲間と共に勇敢に戦い、見事に邪龍を打ち倒す。
 もう一人の聖剣の勇者、スティンハルト第一王子と共闘で、国の垣根を越え多くの民を守り抜いた。
 翌年、アンリローネは仲間でもあり恋人でもある青年と結婚。数年後には三児の母となっていた。儂もビックリ。
 彼女の夫はイケメンというわけではなく、むしろブサメンで寡黙な男であったことや、多くの仲間と共に大陸中を駆け抜け、全員が英雄と呼ばれていたなど、人間の寿命では無理としか思えぬ伝説をいくつも残し続けたのじゃ。
 あっ、子供達は父親に似ず、イケメンと美少女だったのぅ。

 話がズレたな、仲間達はアンリローネと出会ったことで、自分の人生が変わったと言う。
 しかし、それは彼女だけの力によるものではない。
 たった一つの選択肢が、彼女を取り巻く者達の人生を大きく変えた。その逆もしかりじゃ。
 多くの者達の選択が、彼女の運命を変動させた。コレは誰にでも起こりえる未来であり、その好機はどこにでもある。
 無論、ここまで濃い人生ではないが、少なからず人生を変える選択肢は常に存在しておる。
 要は、その選択肢を選べるかどうかじゃが、それは神である儂も手はだせん。
 選ぶのは人生の岐路に立った者であり、その岐路は個人で大きく異なる。未来は不確定じゃからのぅ。
 そして、多くの仲間がおれば、選ばれた選択肢は大きなうねりとなって歴史に影響を与えるのじゃ。

 アンリローネが司祭と出会ったように、彼女の仲間達もまた多くの出会いを重ね最良の選択肢を選んだ。当然じゃが、破滅の選択肢もあったじゃろう。
 じゃが、最悪の選択肢は選ばれなかった。結果が出た以上、ifはもう関係はない。考えるだけ無駄なのじゃよ、存在すらせぬのだからな。
『もしも』と思ったところで意味がない。何しろ結果が既に出ておる。
 今を見ようともせず、都合の良いものだけしか見てこなかった者は、楽な選択肢を選んだだけにすぎんのじゃ。
 破滅しても自業自得じゃて。

「……分かっておるのか?」
「知らないわよ! 何で主人公の私が死ぬのよ……人生は糞ゲーだわ」
「うむ、人生は取り返しの付かないゲームじゃよ? 現実を見なかったお主自身の選択による結果じゃ」

 儂は今、転生者と対峙しておる。
 どうも、自分の人生に納得がいかないらしいが、儂のせいにされても困る。
 未だにゲーム感覚なのじゃからタチが悪いわい。

「それで、私はいつ転生させてくれるの? 当然チートよね?」
「そんな都合の良い話があるわけなかろぅ。転生はさせるが、チートはないぞ?」
「なんでよ! 私は神の失敗で死んだのよ!!」

 どこまでも自己中な娘じゃのぅ。

「それは、この世界に転生したことで話はついておる。それに儂のせいではないぞ? 今後、お主にチート能力がつくことはない」
「ふざけんじゃないわよ!!」
「至極マジな話じゃよ? お主は儂の世界で生きることは許されたが、それ以外はお主自身の問題じゃ。あの世界をゲームと思い込み、お主の理不尽な嫉妬でどれだけの者が死んだと思う? 中には偉業を成し遂げるはずだった者もおったのだぞ?」

 こやつは何も分かってはおらぬ。
 現実は常に理不尽であるということを……。

「ふざけんなジジィ!! アタシの人生を返せ!! アタシに贅沢をさせろぉ!!」
「ハァ~、お主……儂が神であることを忘れてはおらぬか?」
「な、なによ……」
「言ったじゃろ? お主の理不尽な感情と行動で、どれだけの者が死んだ? 儂の世界では大きな損失じゃよ。今後の復旧に時間を割かねばならん」
「だ、だから? 関係ないじゃない」
「大ありじゃよ。お主は、多くの者を死なせた業を背負っておる。少なくとも、七十億年は人間に転生は無理じゃな。これが、お主が選んだ選択の結果じゃ。そして、転生先は儂の権限でいくらでも決められる」
「う、嘘でしょ? 冗談よね!?」

 嘘ではないよ。
 邪龍は世界を維持するためのシステムじゃが、意図的に召喚することは犠牲となる者の業を背負うことになる。自然に召喚されるのなら話は別じゃが……。
 生きるための殺害ならともかく、自分の欲望が果たされず、嫌がらせで召喚したのだから当然じゃな。

「な、なんとか言いなさいよ! 冗談よね!?」
「人生は糞ゲー、そう言ったのはお主じゃろ? アメーバーからやり直してきなさい」

 元転生者の小娘は顔を青ざめさせた。
 今更ことの重さを知っても遅いのじゃ。こやつは再び選択肢を誤った。
 反省するべきだったのじゃ。それならば昆虫ていどに転生もできたであろうに……。
 まさか、再びチート転生ができると思っとったとはのぅ。

「待って、謝るから……。チャンスを……アタ……」

 儂は、強制的に転生をさせた。
 いるんじゃよ、こうした自己中の魂って……。 
 さて、うるさいのもいなくなったし、次の仕事を始めるかのぅ。

 ハァ~……儂、隠居しようかのぉ?
 けど、後任を誰に選ぶか……。今の仕事を片付けんと、休むこともできまい。
 神様は辛いのぅ。



 ~End~
アラフォー賢者のネタを考えていたとき、偶々脳裏に過ぎったので書いてみた。
こんなの書いている場合じゃないのに、なぜか頭から離れないだもんなぁ~。
モヤモヤするので、取り敢えず文章化。筋肉じいさんよりはマシだと思う。
おいちゃんは、何をやっているのだろうか? 

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