第三項 専制君主な妻?
――結婚奴隷五箇条。
第一条。夫が妻以外の異性に触れた時、妻は如何なる場合でも一時間夫に抱きつかなければならない。
第二条。夫が妻との約束を違えた場合、夫は妻の言うことを必ず一つきく。
第三条。妻が夫からの愛を感じなくなった、及び如何なる理由からでも、妻以外の異性と二人きりになってしまった場合。妻は夫を『監禁、調教』しても良い。もしくは『第二条』が適応される。
第四条。夫婦は絆を深めるため『寝室、入浴』を例外なく共にする。
第五条。夫が妻に対し『背心、浮気』をした場合、夫は命を賭して償わなければならない。って言うか死ね。むしろ殺してやるから覚悟しろ。
以下、注意書き。
――以上の五箇条に例外は一切なく、妻の自己判断にて決定され、下された決定は絶対である。
――妻のみ、五箇条の変更を許可されている。
――夫は五箇条、及び妻に対し『質疑、反論、反抗』は妻が許さない限り不許可とする。
――代わりに夫は妻から永遠の愛を貰えるのだから、文句言うな。
この『結婚奴隷五箇条』は婚姻届にサイン、及び本紙にサインした時点で有効とする。
――以上、ここに『結婚奴隷五箇条』を制定す。
「――ですので、さようなら」
「ちょっと待てッ!!」
おいおい、何でこんな俺に不利っつーか、小学生が好きな人に意地悪しちゃう、きゃはっ。の超究極体な内容は?!
しかもなんだ? 『第五条』の『背心、浮気』した場合は命を賭してって。確かに、婚姻届にサインした後でやっぱりやめたなんて背心以外のなにものでもないが、でもあれは勘違いで――ってそこじゃねえよ!!
「なあ、ここに『って言うか死ね。むしろ殺してやる』って書いてあるような気がするんだが、気のせいか?」
「いいえ、気のせいなどではありませんよ? 私が書いたのですから。えへへ、素晴らしい内容ですよねっ。徹夜して考えた甲斐がありました」
やべェ、目がキレてやがる……。
どこを取っても理不尽且つ惨い内容にツッコミたいが、全部置いておく事にする。
「待て待て待て待て!! ちょっと相談しないか?」
「イヤですよ〜、注意書きにも書いてあるじゃないですか。妻が許可しない限り夫は『質疑、反論、反抗』は許さないって。ね?」
「ね? じゃねえよ!! んな可愛く言ったってこの内容には納得できねえ!!」
「いやん、可愛いだなんてそんな……」
「いやそこかよッ!!」
「えへ、悠さまが私に可愛いと言ってくださるなんて……」
「いつまで飛んでんだ、早く戻ってこい!!」
頬を赤らめ、くねくねと身体をくねらせて照れているが、銃口はしっかりと俺を捉えている。
「んもう、話ならちゃんと聞いてあげますから大声出さないでくださいっ」
「人を寂しんぼみたいに言うなッ!!」
「……はい?」
――なぜキョトンとした顔で俺を見る?!
「ですが、可愛いと言われて少し感動したので二秒の猶予を与えましょう」
二秒? 二秒って短かっ!! なんも出来ないじゃんか俺。苛めか? 苛められてるのか俺は?!
朝早くから大人気のドーナツ屋に並んで、必死の思いでようやく自分の番になったかと思えば、突然割り込みされて風のように買って行った奴がいて。で、いざ俺が買おうとしたら「本日は先ほどので売り切れです。お帰りください」って言われるくらい苛めだぞ!!
「はい終了です。では――」
やっちまったーーーッ!!!
「可愛い可愛い可愛いチョー可愛いんですけど!! 国士無双もびっくりするくらい可愛い!!」
「え〜、そうですか〜? えへへ〜」
よし、これで暫くは大丈夫だろう。ふっ、ちょろいぜ。
――一旦整理しよう。今俺は絶世の美少女に銃をつきつけられている。このままじゃ確実に天に召される事になるだろう。こんな理由で死にたくない。助かるには二つ。説得するか、彼女の結婚するか。前者は確実に無理だろう。後者については……まあ、まあまあまあどうしようもないな。
この少女には何の問題もなく、あるのは五箇条と、いきなり夫婦に引いてしまっているくらいだ。や、なくもないか。いきなり銃口突きつけて殺しますよ〜って宣言してるんだから。その上自分も後を追うと言う。
寝起きバズーカよりも質が悪い。
――って言うか息子が殺されそうなんだから助けろよ、バカ親ども。
「あなた……」「おまえ……」「あなた……」「おまえ……」とひたすらイチャイチャしてるバカ親を睨んでみるが、効果はない。元々期待なんか微塵もしてなかったが。
「よし、わかった! お前と結婚する」
「えっ、本当ですか!? 良かった、これで悠さまを殺さないですみますねっ」
キャピキャピと笑い、全身で喜びを表している。銃を懐にしまうと、五箇条を大切そうにファイルへ戻した。
――とにかく、バツイチになるのを覚悟で結婚して、あの五箇条を破棄、そして離婚。この流れでいこう。これしかない。ああ、高校生にしてバツイチか……。
彼女居るの? て訊かれたら、いやあ俺バツイチなんだあって答えにゃならんのか。どんな返しだ俺よ。
「ではでは、誓いの口付けを」
「さっき散々しただろうがっ!!」
俺、後何年生きられるかな……。
――甘かった。何がって、俺にも良くわからん。ま、糖分の過剰摂取じゃない事は確かだ。ベルチェに出掛けるからと着替えさせられ、家を出て徒歩10分。辿り着いたのは、周りに建つ家よりも少し小さめの一軒家。二階建てのこじんまりとしたこの家の表札には、なんか知らんが『穂村』と書いてある。
うむ、見なかったことにしよう。
「なあ、まさかとは思うけど……」
「悠さまが何を考えてらっしゃるのかはわかりませんが、私達の新居です〜」
パンパカパ〜ン、と口でファンファーレを言いながら、無理矢理腕を組んでくる。
「……」
さりげなく外す。
「えへへ」
強引に掴まれる。
「んにゃろ」
少し力を入れてみる。
「ふふ、ふふふっ。新婚さんだ〜」
それを上回る力でねじ伏せられ、やっぱり腕を組む事となった。やわらか〜いモノが二つほどくっついてるのは、どうしたものだろうか?
「はあ」
マジかよ……。二人で住む? あり得ないだろ。こいつ頭おかしいのか? いきなり熱烈キスしてきたり、二人で暮らす家をちゃっかり用意しちゃってたり。用意周到っていうかバカ。それも、今世紀最大規模のバカ。真性のアホ。最早新人類と言っても過言ではないはずだ。
夫を奴隷の如く扱う五箇条なんか作ってるしよ。闇金より質が悪い。無理矢理逃げるとか、んなもん無効だとか言ったら天に召されるだろう。
マジで、何かの陰謀か? むしろ「ハッハッハー、お前を不幸にしてやる〜」的な悪役が出て来てくれる方が嬉しいんだが。そしたらそいつをぶっ殺して終わりなのになあ。
「ああ、俺が甘かった」
「え? 悠さまって甘いんですか?」
興味津々と言った顔で、ベルチェが俺を見上げた。身長にさほど差はないが、大切そうに我が右腕を抱く姿はめちゃくちゃキュートだ。こんな性格じゃなきゃパーフェクトだろう。
「あの、悠さま?」
「ん?」
「舐めても良いですか?」
「……舐めても甘くないぞ?」
なんでわかったの? と言いたげな表情を浮かべ、ニヘへと含み笑いを溢す。
「そうですか。でもきっと、悠さまは美味しいんでしょうね」
「は? それはどう言う意味で?」
「やん、そんな事早朝から訊かないで下さいよっ。はあはあ……」
お巡りさーん!! なんかここにハアハアしてる不審人物居ますよー!! まあ残念な事に俺の奥さんらしいですけどねー、はっはっはっ!!
「こほん、改めて悠さま。末永くよろしくお願いします」
ぶんっ、と頭が風を切って腰の辺りまで下がった。金色の髪が太陽の光に反射して、キラキラと輝いている。若干肩が震えているのは、緊張してるせいか。
――ああ、そうか。こいつは、ベルチェは何にでも一生懸命なんだ。何事にも全力でやっちまうから、行き過ぎるんだろう。でも、それでも加減って言葉を覚えてもらいたいと思ってしまうのは仕方がないだ。仕方ないで済ませたくないが。
「ベルチェ」
「はい」
顔を上げたベルチェは、俺に名前を呼ばれたのが嬉しかったのかニコニコしている。それくらいで喜ばれたらこっちまで嬉しくなるじゃねえかよ。
「ぶっちゃけ、お前の事よくわかんない。それにあの五箇条だって認めない。でもさ……」
「……」
ベルチェの喉が上下に動き、こくっと唾を飲み込む音がした。心なしか緊張した面持ちで、だが真っ直ぐと俺をそのブルーの瞳で見返してくる。
「お前のこと、嫌いじゃないから」
真っ直ぐで、ただひたすら純粋な好意。その返事にしては情けない返事だったが、実際そう思ってるのだからしょうがない。
でもそう――あくまでも『嫌いじゃない』のだ。
「ちょっと悠! あんたそんな所で何してんのよ?」
金髪を振り乱し、俺より先にベルチェが反応した。俺達の目の先には、隣の家の前で、ガッと肩幅に足を開いて仁王立ちする少女が居たのだ。爛々と輝く眼光がベルチェを貫き、続いて俺を貫く。
「大河……」
――鬼のような形相をした、この少女の事が好きなのだから。
大河登場。虎で大河って凄くベタな名前ですけど、大河って名前なんだかかっこいいですよねー(^-^)
五箇条については、この先色々な場面で活躍してくださるかと思います。いやぁ〜、自分で書いててなんですが、ベルチェ黒いですね…(^-^;)はら黒キャラは初なので、ちょっとおかしな所があるやもしれませんが、目を瞑っていただければと思います。
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