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第十九項 パツキンは夢だ!!とさりげなく主張してみる。


 泣きじゃくるベルチェを立ち上がらせて、悪いと謝るとグチグチグチグチと呪いでも吐くように、俺への不満を言いつのった。

 妻なのに全然自分のことを気にしてくれないとか、妻なのにキスの一つもしてくれないとか、妻なのに夜這いに来てくれないとか……、その他教育に悪い罵詈雑言を吐きまくったのだ。

 そして、何よりも効いたのが二回目となる、胸が締め付けられるような叫び。

『一人は嫌だって言ったじゃないですか!』

 どうして自分がこんなにも罪の意識にかられねばならないのか。何でこんなにも苦しいのか。全部良くわからん。

 わかんないのに、何故か謝らないといけないと思ったんだ。

「全部許します、許しちゃいますから、早く帰ってきてください……っ」

 俺の胸にすがりつき、ぐすっと鼻をすする。見上げた瞳が救いを求めてるような気がして、俺の手はベルチェの頭に乗せられていたんだ。



 ――あれから2週間。

 修学旅行が間近に迫った日和。俺は頬杖をついてぼーっとしていた。腹がたつくらい痛快爽快に雲一つない青空を見上げる。2週間たった今でも、ベルチェの叫びが胸の中で渦巻いているようだった。
 苦しい、胸が痛い、どうして、何で――。

 そんなのこの2週間ずっと考えてきた。考えても考えてもわかんない時は、こうやって思考停止するのが一番。まあ、現実逃避とも言えなくない。

「ねむ……っ」

 二週間経っても、日々ベルチェの犯罪紛いな誘惑兼馴れを利用した洗脳によって徐々に疲労を蓄積。脳内は完全に犯されてる感がする。

 俺は青空から教室に目を移した。教室には机を囲んでキャッキャと談笑する我がクラスメイトの姿がある。中でも目立つのが、大河と浅賀組だ。あそこは浅賀がいるから、スゲーうるさい。うるさいってかうざい。

 特に浅賀が、10分に一回くらいは泣いてると思う。誰のせいとは言わないけど。

「よっ、悠。オレら同じ部屋だな」

「ん、ああ、だな」

 目の前でニカッと白い歯を見せる雄也を適当にあしらって、最近の悩みの種、大河をぼんやりと眺めた。なんかしらないけど、避けられてるっぽい。心当たりはあるって言えば普通にある。でも大河はそこまで女々しくないし。

 更に言えば、別に嫌われたって訳でもなさそうだった。声をかければ返事はちゃんとする。その返事がどこかおかしなだけで。

「なあ、雄也」

「あん?」

「なんかさ、最近大河おかしくね?」

「……そうかあ?」

 雄也は怪訝なで大河を眉間にシワを寄せながらじーっと見つめた。んー、としばらく唸っていたが、やがて力なく首を振る。

「いや? オレには普段と一緒に見えるが? つーかお前わかんねえのに、オレにわかるかよ」

 だよなあ。付き合いなら俺はこのクラス、もといこの学校で一番長いはずだ。まだ一年足らずの雄也にわかるはずもないか。

「お?」

 一瞬だけ、一秒もない時間大河と目が合ったような気がした。大河はすぐ気まずそうに目を逸らし談笑に戻ってしまう。俺、マジでなんかしたか?

「あ〜、でもハワイかあ。オレスゲー楽しみっ。なんたってパツキンだぜパツキン!」

「別に、珍しくもねえだろ……」

 前までの俺だったら純粋な金髪は珍しいと感じたはずだ。今は目がチカチカするほど、日常の一部と化しているが。

「はあ!? 枯れてんな悠は! パツキンでぼん、きゅっ、ぼーん! は日本男児の夢だろ!」

 日本人の品位を著しく下げるような言動はやめろっ。つか、それ言ったらお前に惚れてる奴泣くぞ。

「ああ、しかもホテルの近くはビーチなんだぜっ。うっひっひっ」

 グッの拳を握り締めてどっかいっちゃってる雄也。じゅるっと涎をすすり、にやけた顔を戻そうと頑張っている。アホだ、浅賀並にアホだこいつ。

 ――いや、それは少し言い過ぎかもしれない。

「おいっ、すっげえぞ!!」

 その時、一人の男子生徒が慌ただしく教室へと飛び込んできた。ハァ、ハァと息を切らした様子の男子生徒に、いち早く雄也が駆け寄り何か何かと訊ねる。ある意味尊敬に値する野次馬根性だ。

「な、なんかめっちゃ可愛い子が四組から回ってきてるんだとよっ。しかも私服で、この学校の生徒じゃないらしい」

 へえ、頭のおかしいやつってベルチェ以外にも居たんだな。

 その方は教師に捕まるとかそんなのは気にしないんだろうか。や、気にしないからこそのアホなんだろうけど。だがまあ、出来れば関わりあいたくない。

「おっ、来たみたいだぜっ!!」

 テテテテッ、と騒がしい足音とがしたかと思いきや、ガラッと乱暴な手つきで教室のドアが開け放たれた。

「――うえっ?」

 さして興味がなかったし、思考停止に勤しんでいたため頬杖をついたままノロノロとドアの先を見たんだ。刹那、運命と偶然って言葉をテロをおこしてでもこの世界から抹消したくなってしまった。いいや、この言葉を歴史から葬り去るためならサミットだって襲ってやるさ。あえて丸腰で行ってやる。かき回すだけかき回して警察のお世話になってやる!

「――たのもー!!」

 美しいソプラノが教室に響き、鮮やかな金髪を左右に乱しながら教室の中を見回していた。咄嗟に、防衛本能に従って机の下に身を隠す。

 な、何故ベルチェがっ!? ここ学校だよな。俺、実はバーチャルを見せられてるとかいう無駄にテクノロジーを駆使したドッキリじゃないよな!?

 机の下で頭を抱え、必死に思考を巡らす。背後から聞こえるツカツカと、誰かが歩みよる音がひじょーーーに怖い。霊的雰囲気がして怖いとか、この後の自分がどうなるかわからないから怖いのではない。

 ――俺実は予知スキル持ってたりしちゃったり? と思っちゃうくらいオチが見えるのだ。オチが見える事ほど怖いものはない、とバカ母どもに植え付けられたツッコミとしての芸人魂が、なんでやねんなんでやねんっと叫んでいる。

「ふふ、ふふふふっ。悠さま、みーつけたっ!!」

 耳にした者を蕩かせる魅惑のエンジェルボイスが、俺の聴覚にはサタンを鼻息で消し飛ばす天使の皮を被ったなんだか良くわからない不思議生物だとしか思えなかった。

 詰まるところの、晒し者になるっていうオチだ。大変遺憾だがな。


遅れましたが更新〜。
ちなみに今現在は、更新停止中より四話書いた三十四話を執筆中です。更新ペースはこのままフワッと(ナニッ!?)していく予定。大河編が終わったら番外編でも書こうか迷い中にて、何かリクエストがあればお願いします。無ければそのまま続けるので(苦笑)


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