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第二章
 考えてはいたが、それでもクラブ対抗リレーに参加するってのは虚を突かれた。
 果たしてこんな事が可能なのだろうか。なんて疑問はSOS団において冗談以外の何事でもない。俺には何も力はないが他の団員には不可能をある程度可能にする力があり、まあ今現在の朝比奈にはそこまで力があるとは思えないが、何とかなってしまうのだろうと、おんぶに抱っこの思想を張り巡らしている俺は、これらの事を理解しながらもハルヒに聞かねばならん事を聞いた。
「ハルヒ、SOS団は正式な部活じゃない問題はどうするんだ? クラブ対抗リレーに参加する資格を得ていないように思うが」
 最もな質問だろう。だがハルヒはまるで秋刀魚の群を見つけて、待ってましたと叫びたくて仕方ない漁師のような満面の笑みを浮かべて、
「そんなもん問題でもなんでもないわよ。さっきあたしが参加の意思を生徒会に伝えにいったらさ、あの連中泡食ったような顔して許可出したし、正直拍子抜けね。そもそもあんな脆弱な生徒会だから学校がつまらない代物になるのよね。だってそうじゃない? 悪役が弱くちゃヒーローは活躍できないもの。まあでも今はどうでもいい事ね、重要なのはSOS団が参加するっていう事実よ」
 この場合のどちらが悪役でどちらがヒーローなのかと言う議論は不毛なのでやめよう。それよりも新学期の方針などを話合っている最中にハルヒの嵐みたいな参加表明を聞かされた可哀相な生徒会の面々が目に浮かぶ。
 そんな哀れみに似た同情を同じ苦を共にする生徒会へ怪電波よろしく送っている最中、まるで社長専属の秘書のような物腰と態度で古泉が、
「では参加の問題はすでに解決していると言う事でよろしいですね? ところで涼宮さん少しお伺いしたいのですが、クラブ対抗リレーに参加するのは決定しているとして、体育祭が開催されるまでの期間にSOS団の活動内容が変わることはありますか?」
 と、確かに気になる今後について質問した。
「そうね、何か対策を考えておく方がいいと思うわ。暫くの間は土日の活動を中止してリレーの準備と練習に当てましょう」
「なるほど、了解しました」
 古泉は実に物分かりのいい子供のような仕草で納得の意思を見せる。
 やれやれ、リレーの練習か、バトンの渡し合い位しか頭に浮ばんがハルヒなら突飛な事を平気で思いつくかもしれん。それなりに覚悟はしておこう。
 俺はマイナスのオーラしか発さないであろう覚悟を左心房辺りでした。
「てなわけであたしは準備が色々とあるから、今日はこれで解散にしましょう。どんな優秀な活動にも休みは必要だわ」
 この一言で俺たちは来たばかりなのに帰宅の準備にかかり、朝比奈さんはメイド姿から制服姿へ早代わりし、長門は読んでいた分厚い本を大切そうにしまう。俺と古泉はトランプを適当に箱へしまって帰りの支度を完了させた。ハルヒはバックを持つだけ。そんな感じで10分も経たないうちに俺たち五人は部室を後にした。




 その後の帰り道、ハルヒは準備とやらを実行するために別行動をとり、長門と朝比奈さん、
古泉と俺の四人で少し早い帰路に着く事となった。
 まだまだ残暑が厳しい中のやたら長い坂道を下りながら、それぞれが何かを考え込んでいる顔つきで、あまり会話は弾まない。普段ならハルヒが一人騒がしく闊歩し、時に朝比奈さんにちょっかいを出していたりするが、今現在で普段と変わらないように見えるのは長門くらいだった。
 俺はそんな中、気になる懸案事項に対して長門へ話しかけた。
「長門お前はどう考える。以前の野球大会のように勝てないような状況になったら、またハルヒは世界をいじくろうとすると思うか?」
「……以前の状況と現在の状況は酷似している。その可能性は否定できない。でも涼宮ハルヒの精神状況は徐々に安定傾向にあり、目の前の結果に対して冷静に受け止める可能性も高い」
 長門のハルヒ分析を聞き、俺自身少しほっとした。実は俺も同じような結論に至っていたのだ。そしてこの答えでひとつの考えと、それに対する自信が湧いた。
 俺は考えをみんなに伝えるため、横を歩く長門と少し前にいる朝比奈さん、後ろを歩く古泉に聞こえるような声で、
「これから例の喫茶店に行かないか? 今後の対策を俺たちなりに決めておこう」
 こう提案した。
「ええ、僕としてもその方がいいと思います。今回は時間的な余裕もありますし対策を講じる事が出来るでしょう」
「あ、えっと、あたしも行きます。色々分からない事もあるし……」
 両名がすぐに了承の回答を出し、後は長門なのだが、それは問題ないだろう。
 俺は隣を歩く長門に目を向け、
「それでいいか?」
 と尋ねた。長門はほんの少しだけ顔をこちらに向け、
「……いい」
 決まりだな。そうなれば話は早い。俺たちにとって第二のSOS団拠点といっても過言ではないであろう、いつもの喫茶店へ足を運ぶのは最早慣れ親しんだ自宅へ向かうのと同じくらいたやすいものだ。
 そんなこんなで帰宅前に喫茶店で軽く話し込むという、高校生からしたらごく当たり前の行動をするべく、俺たちはそそくさと店内に入り、四人席の手前に俺と古泉、正面に長門と朝比奈さんという体を作った。まあ話の内容がごく一般の高校生の寄り道でする話ではないがな。
 そんな意味のない一般との比較を俺が思慮している間、一番最初に話し始めたのは古泉で、俺に対し、
「まずはあなたに確認したいことがあります。体育祭で涼宮さんはクラスの競技にも参加しますか? それによって対応も若干変わります。どうでしょう」
 と、まるで人を試しているスフィンクスのような物質的笑顔を向け、質問してきた。
「考えたくはないがハルヒの奴は出れる競技には全部出るつもりみたいだ。その煽りで俺まで参加することになってやがる」
「そうでしたか。ではSOS団の件とは別にあなたのクラスにも対策が必要かもしれませんね」
「古泉、お前がどう思っているかは知らんが、俺的に思うんだがな、そこまで広く対策を練る必要は無いんじゃないか? 第一SOS団の成績でさえ厳しいんだ、それにハルヒだってそこまでの結果は求めんだろう」
「お忘れですか、以前の野球大会では負けるという現実が迫っただけで世界が崩壊しかけたんですよ?」
 俺は押し黙ってしまった。この懸案は確かにあるのだ。でも俺的には思う事もあって、どうしても受け入れられなかった。
「それは……そうかもしれんが、あの時はハルヒが持ち出した勝負だったからじゃないか? だったら今回の件で、クラスでの競技について自ら提案したわけではないし、そこまで思い入れてはいないだろうよ。あいつから言い出したクラブ対抗リレーへの参加は知らんがな。ハルヒだってそこまでバカじゃないさ、無意識じゃ無ければ露骨に力を使ったりはしないと思うぞ」
 それだけ言うと、なんだか妙なモヤモヤした気分になった。なぜ俺はこんな遠まわしにハルヒを擁護せにゃならんのだ。それに気が付けば古泉も石で彫刻されたような笑顔では無くなっている。
「あなたがそこまで涼宮さんを信頼するというならば、僕は諸手を挙げて賛成ですよ。僕としても昨日までのことがあったので神経質になっていました。反省ですね。仰るようにクラブ対抗リレーについては対策を練った方がいいでしょう。ここは涼宮さんとしても負けたくは無いと言う心理が働くと思います」
 古泉はそれだけしゃべると、後はもう任せると言う、妙に満足した感じの視線を俺に送ってきた。
 俺はといえば、実はまだ納得はしていないのだ。出来ればクラブ対抗リレーも何もせず参加したかったと言う考えがある。でも踏み切れない。ハルヒも学校生活において少しずつ成長しているし、それはSOS団の活動でも同じだと言う事を証明してみたかったのだが、確かに昨日の今日で、終わりの無い夏休みを体感した直後では大丈夫だと断言ができない。
 だから今回は仕方ないと割り切ることにした。まあいずれSOS団を巻き込んだ勝負ごとをハルヒが性懲りも無く持ち込んでくるだろう。その時こそは未来的、宇宙的、超能力的な対策を一切せずに、ハルヒには頑張って欲しいと思った。
 だから後は残りの面子に確認を取るだけだ。朝比奈さんはまだよく理解できていないと言うような、愛らしい瞳をキョロキョロさせている。長門についてはきっと俺と古泉が話すより何万光年も前から理解をしているだろう。
「朝比奈さんはどう思いますか? 今の結論でもいいですかね」
 俺はまず一番理解していなそうな朝比奈さんに話を振った。しかし朝比奈さんは急にもぞもぞし始め、うつむきながら申し訳なさそうに視線を送ってくださる。その仕草があまりに愛らしいので、思わず抱きつきたくなる衝動を抑えるのに必死だった。そして朝比奈さんは言う。
「あの、大変申し訳ないんだけど、体育祭って具体的にどういったものなんでしょうか……。皆で走ったり飛んだりしてメダルをもらえたりする大会ですか? さっきから質問したかったんだけどタイミングが中々で……」
 もうなんとお答えすれば良いか、俺には判断が出来ませんよ朝比奈さん。今後どのような成長をしていくのかは分かりませんが、大人朝比奈さんになってもこの感じは失って欲しくないね。
「ええ、まあそんな感じです。メダルが貰えるかは分かりませんが、走ったりするのは正解です。ただ朝比奈さんが知っているような大会とは規模がちょっと小さいかもしれません」
 朝比奈さんは自分が間違ってはいなかった事にほっとしたのか、可愛らしい仕草で胸をなでおろしていた。
 後は長門だが、
「長門はそれでいいか?」
「……あなたがそう求めるならかまわない」
「そうか」
 こんな五七五程度の会話で理解してくれていると確信が持てるのは、世界広しと言えど長門だけだろう。
 だがまあこれで結論は出たわけだ。今回はクラブ対抗リレーに対して万全の処置を取って挑む。そしてクラス対抗戦に関しては俺に一任、つまりは成り行きに任せるという感じだろう。そうと決まればなんだか自信も沸いてくる気がする。ハルヒの無理難題にしたって突発的な出来事でさえなければ、そこまで大変なことにはならないだろう。しっかり対策を練っておけば、俺一人ではどうしようもない事も、長門や朝比奈さんもいるし、古泉だって力にはなるわけで、問題を対処していくことが出来るに違いない。そう思った。
 だが実際はこの考えが安直すぎた。非日常的な力に頼りたくは無いと思っていたのに、その非日常的な力が逆に問題を難しくしていく事に、この時は全く気が付かなかった。やたら妙な自信があったのも問題だ。


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