エピローグ
学校ってのは勉強をするところにも関わらず、意外なほど体育関連の行事が多いのはどういうことだろう。正直迷惑といっていいかもしれない按配である。二年に進級しても相変わらず放課後は部室塔の一室を占領した状態が続いているし、休日無しで召集が掛かるのは当然の流れであった。俺はと言えば、久しぶりに一人部室へと向かう事となったのだが、実の所ハルヒは来週行なわれる球技大会に向けて対策を練るとかで、クラスの連中を捕まえて会議をしている。球技にセンスを感じなくなって久しい俺としては、同情するばかりである。
部室に着いて、意外に思ったところでは、長門が隅っこで読書しておらず、朝比奈さんがトレードマークとも表現可能なメイド姿で給湯を試みている姿も見えないという所である。かわりに居たのは、見たことも無い、どこかの国の伝統的テーブルゲームをいじっている古泉だった。
「何だそれは。ルールのよくわからんゲームを持ってくるな。今日時間をつぶす物がなくなるだろうが」
古泉は相変わらずの面持ちで、見事なフレンチ料理を愛でるシェフのような微笑で語りかけてきた。気持ちが悪いぞお前。
「実は近所の骨董店で偶然見つけたものなんですよ。解説書も付いているのですが、何分解読ができないので、長門さんにでも翻訳を頼もうかと思って持ってきたんですよ。ところでお一人で来るとは珍しいですね。涼宮さんとケンカでもしたんですか? 僕としては避けていただきたい事象です」
不愉快だ。夫婦喧嘩のように語るな。喋るな。
「ハルヒなら来週の球技大会に向けて弾け回っているよ」
俺は答えながら、冷蔵庫から飲み物を取り出し、古泉に対面する形で座った。
「なるほど。それは大変ですね。土日にまた練習ですか。ですが涼宮さんも変わりましたね。去年は同じようなことを実行するのにかなり遠回りをしていましたからね」
お前はまだいいだろう。時間移動も無かったんだ。
「一年経てば誰だって少なからず変わるもんだろ。ハルヒだって例外じゃないさ」
古泉は納得したように頷いた。
「そういえば……今回は涼宮さんがご自身で発案されたのですか?」
「ああそうだが?」
古泉はまるで弁護士のような、鋭い視線で笑みを向けてきた。嫌な予感のする笑みだ。
「去年のことですが、どうも腑に落ちない点があるんですよ。たしかに涼宮さんは変わりました。ですが以前の涼宮さんなら、果たして素直にクラスメイトの前で『お願い』が出来たのでしょうか。涼宮さんには申し訳ないですが、僕には想像もつきませんね。朝比奈さんも長門さんも現場には居合わせなかったと仰っていました。でもあなたはその場にいた。そこで疑問が発生するんですよ。果たしてあの涼宮さんを『お願い』させるのに、あなたがどんな行動を起こしたのかが」
思わず口の閉じ方を忘れて絶句してしまった。相変わらずどうでもいいことに対してこだわる奴である。正直な話、あまり思い出したくない事柄のベストファイブには入るであろう出来事だ。一位はもちろん閉鎖空間でハルヒと閉じ込められた事だが、それとは違う意味で忘れたい、てか忘れていたことだ。
「さ、さあな。昔過ぎてもう覚えちゃいないさ。なんせあの時は必死だったからな」
古泉は少ない時間沈黙し、普段の表情に戻った。
「それは残念ですね。ぜひ教えていただきたかったのですが、あなたの新しい一面を垣間見れると期待していたんですよ」
そいつはすまんな古泉。こいつは墓に持っていくべき情報だ。ハルヒが借り物競争で、一体どんな命題の封筒を引いたのかってのと同じでな。
これで涼宮ハルヒの疾走は終わりです。ご愛読ありがとうございました。
また、この後からは『続・ミステリックサイン』を連載していますので、よろしければ引き続き読んでいただけますと幸いです。
*『続・ミステリックサイン』につきましては、主として執筆している作品の合間に執筆する事となりますので、更新は不定期で遅れてしまいます。申し訳ございません。
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