ひょうたん島
俺は波の音で目が覚めた、砂の上だった。どうやら島らしかった。
「なんだあれは?」
それは、ひょうたんであった。しかし、巨大なひょうたん!3メートルはありそうなひょうたんが、砂に埋まるように突っ立っていた。
「すごいなあ。」俺は思わず唸った。
「ひょうたんから驚嘆!な〜〜んちゃって。」しかし、ひょうたんしてる場合ではない。
さっそく愛するママに電話しなければ・・・
俺は、誕生日に愛する亀子ママから買ってもらったショルダーバッグから、携帯電話を取り出した。
「もしもし、、亀よ、亀さんよ・・・」
おかしいなあ、園外になってる・・・ここはひょっとして園外だったりして・・・
「そんなことあってえんがい!な〜〜んちゃって、ちゃってちゃって〜〜〜ぇ♪」
「アンテナを立てても駄目かなあ?」
「もしもし・・亀よ・・よく噛めよ・・・」
「やっぱり園外だ!」
「このアンテナはあんてなにならない!な〜〜んちゃって。ちゃってちゃって〜〜〜ぇ♪」
「これだからいやなんだよ、安い携帯は。あのとき、高いのを買っておけばよかった。」
「仕方が無いから、公衆電話を捜すか。」
「公衆電話は、こうしゅう中です!な〜〜んてことはないよな。ちゃってちゃって〜〜〜ぇ♪」
俺は、海岸沿いを、右に向かって歩き始めた。
歩いても歩いても、と言っても、まだ300メートルほどだが、公衆電話はなかった。って言うか、道路がなかった。
「なにやってんだ、国土交通省は!怠慢だなぁ〜〜!」
「ひょっとして、ここなら電波が届いちゃったり、しちゃったりして〜〜」
「もしもし・・しもしも・・ピアノが弾けたなら・・・」
「やっぱり園外だ。」
「ひょうたんまで戻るか。」
ひょうたんまで戻ると、ひょうたんは相変わらず突っ立っていた。
「こいつはいったい、何なんだ?」
そのとき、
ひょうたんが、だるまさんのように左右に揺れ、女性の声で、
「いらっしゃいませ、ようこそひょうたん島へ♪」と、喋った。
俺は驚いた。
「なんだ、おもちゃだったのか!」
そんなことはどうでもいい、とにかく、おまわりさんを捜すのが先なのだ〜。
「ひとはいなくても、おわわりさんくらいはいるだろう。」
俺は、海岸沿いを、左に向かって歩き始めた。
歩いても歩いても、と言っても、まだ300メートルほどだが、おまわりさんはいなかった。
「まったく、怠慢だなあ!」
「そうだ、インターネットのメールだったら届くかもしれない。」
【 愛する亀子ママ いまぼくちゃんは たいへんでぇぇぇぇぇす おまわりさんのいない無人島より(~|~) 】
「よしできた、、送信!」
「うん、、送信エラー、、、 なんだ!?」
「これだから、安い携帯はだめなんだよなぁ〜。」
「けったいな携帯!な〜〜んちゃって。」
俺は、ふりだしの喋るひょうたんに戻った。
そして、ひょうたんの前の大きな石に座った。
「いらっしゃいませ、ようこそひょうたん島へ♪」
俺は、ひょうたんを睨んだ。
「同じことを言うなってぇの!」
俺は、島の奥に向かった。ひとがひとり通れるくらいの道があった。20メートルほど歩いたら、道は二つに分かれていた。
「分かれは辛い、れれれのれ〜〜〜ときたもんだ。」
俺は、左のほうの道を選んだ。
すると、
右側から、ママの声がした。
「お待ちなさい!」
俺は驚いて振り返った。
声は似てるけれども、愛するママではなかった。
「なあんだ、がっかり。それは通りがっかりの人だった!な〜んちゃって。」
その通りがっかりの人は、
「そちらは危険です。」と、言うのであった。
愛するママみたいな、きれいな脚をしていた。ぞくぞくしてきた。
「この辺りに、おまわりさんはいまちぇんか?」
髪は短く、目はママの好きなギラギラダイヤモンドだった。
「わたしたちは、ここの警備員です。案内します。」
「どうもあんりがとうございます。」
彼女のうしろに、もうひとりの女性がいた。太っていた。手にはスタンガンみたいなものを持っていた。
俺は、その女性に「このスタンガンは、どうなすったんがん?」と言った。彼女は笑わなかった。
俺は、目ギラギラダイヤモンドのママと、でぶっちょ女の前を歩かされた。
10分ほど歩いたのだろうか、俺は研究所らしいところに連れて行かれた。俺は驚いた。
「おお、なんと凄い建物だ〜〜!」
それは、ひょうたんの形をした馬鹿でかい建物だった。
「再び、ひょうたんで驚嘆!な〜んちゃって。」誰も笑わなかった。
入口まで歩かされたとき、目ギラギラダイヤモンドのママが、
「お荷物は、お預かり致します。」と丁寧に言った。
「な〜んだ、ホテルだったのか。」俺は嬉しくなった。「露天風呂とかありますか?」ふたりは黙っていた。
建物の中に入ると、筋肉もりもりの女性がバーベルを持ち上げていた。トレーニングの最中らしかった。
「ひょっとして、ここはバーベルの塔! な〜んちゃって。ちゃってちゃって〜〜〜♪」
でぶっちょ女は、なぜか俺の側を離れようとはしなかった。どうやら色男の俺に惚れたらしい。
「チェックインとかしなくても、いいのかな〜?」
「お待ち下さい。」でぶっちょ女の声は妙に低かった。
ぼんやりとしていると、目ギラギラのママが戻ってきた。
後から、がっしりとした身長180センチくらいの中年の男が歩いてきた。その男は笑いながら、
「どうなされたんですか?」と言って、俺の前で止まった。
「わたしの船が岩に衝突しまして・・・」俺は、事のいきさつを話した。
「それは大変でしたね。」
「てっきり無人島かと思いましたよ。」
「無人島ではありません。」
「日本で助かりました。」
「五島列島ですから、島は沢山あります。どの島も日本の領土ですので安心してください。」
「ああ、そうですか。ここは、なんという島なんですか?」
「ひょうたん島です。」
「そういえば、海岸のひょうたんが言ってました。」
「あれは、ひょうたん島のコマーシャルひょうたんです。」
「コマーシャルひょうたん・・・」
「人が上陸しそうな海岸に置いてあるんです。」
「・・ひょうたんからコマーシャル!な〜んちゃって。」
暫く沈黙が流れた。俺の前の男は呟くように言った。
「看護婦から聴いてます。あなたは病気ですね。」
「えっ、わたしがですか?」
「ええ。」
「わたしは、電磁波病の専門医で、岡田といいます。」
「電磁波病・・・」
「ええ、典型的な電磁波脳障害のパターンです。」
「電磁波脳障害」
「そうです。でも御安心ください。ここで1ヶ月ほど入院すれば直ります。」
「1ヶ月・・入院ですか?」
「ええ、入院といっても、手術をしたり薬を飲んだりってことはありません。療養ですね。」
「・・・わたし、病気だったんですか。」
「健康保険証は、お持ちですか?」
「ええ、持ってます。」
「お仕事は?」
「貿易会社をやってます。」
「1月ほど休めますか?」
「ええ、ママ、、妻がほとんどやってますから。」
「じゃあ、早速連絡しましょう。」
「ここ、携帯電話が使えませんね。」
「この辺りの島は、みんな孤島なので、ほとんど使えません。」
「普通の電話がありますので、使ってください。」
あっと言う間に1週間が過ぎていた。みんな親切で優しい人達ばかりだった。
なぜか、だじゃれの数も以前に比べると減り、物事を論理的に考えられるようになっていた。
たぶん、健脳食というものと規則正しい島の生活のせいだろう。
五島列島は、日本の西の端、東シナ海の只中にあった。北の方から中通島、若松島、奈留島、久賀島、福江島と続き、大小127の島々からなっていた。
「今日は、釣りに行かないんですか?」
それは、いつもの目ギラギラのママの声だった。
「今から行きます。」
「さいきん、あまり駄洒落でませんね。」
「そうですねえ。」
「今日は、わたしも行きます。」
「えっ、釣りに行くんですか?」
「はい、こう見えても、わたし釣りの名人なんです。」
「そうは見えないけどなあ。」
「きっと、びっくりしますよ。」
目ギラギラのママの目は、いつもよりも目ギラギラダイヤモンドだった。
俺は笑って、大きな返事をした。「じゃあ、一緒に行きましょう。愛子さん!」
彼女の名前は、野茂愛子。
なんでも、この辺りでは、野茂の名字は多いんだそうで、そういえば、大リーガーの野茂英雄投手も、両親の故郷が五島列島だと聞いた覚えがあった。
彼女は蓋の付いた大きなポリバケツを手に持っていた。
「これに入れるの?」
「はい。」
「こんなに釣れるかな?」
2人は大笑いした。
バケツの中には、餌に使うボイルした磯エビと、釣り竿立てが入れてあった。
2人は釣竿を持って、釣り場に向かった。
釣り場は、ひょうたんの建物の隣の病院の建物から約10分くらいのところにあった。
「愛子さん、今日は何日だっけ?」
「5月7日金曜日です。」
「愛子さん、歩くの速いですね。」
「そうですか。気をつけてくださいよ。マムシがいますから。」
「えっ、ほんと!?」
「嘘です。この島にはマムシはいません。」
「な〜〜んだ。」
「意外と臆病なんですね。」
彼女もママに似て意地悪だった。
ひょうたん島は、長さが約3キロメートル、幅が1キロメートルほどの小さな島で、名前のように、ひょうたんの形をしていた。ひょうたんの中央上の窪んだところの東側に病院があった。病院の右側には砂浜があり、左側は岩場になっていた。
丘の上は、心地よい風が吹いていた。すみれや野菊の花が風に揺れていた。
山に向かう斜面では、3頭の放し飼いのヤギが草をはんでいた。
丘の向こうは、遠浅の白砂の海浜が300メートルほど延びていた。
「きれいな砂浜ですねえ。」
「夏になると、みんなで泳ぐんですよ。」
5人、砂浜でなにかをしているのが見えた。
「あの人達は?」
「病院の人達です。あそこで貝採りをしてるんです。」
右側に家が2軒見えた。
「あの家は?」
「あれは廃屋です。10年くらい前まで住んでいたそうです。今は人は住んでいません。」
よく見ると、大きな木の影に、もう一件見えた。
砂浜を歩いていると、貝を採っている男の人が声をかけてきた。
「釣ですか?」
「ええ」と、2人は同時に返事をした。
「なかがいいんですねえ。」
「えっ!?」と、彼女は言った。それから彼女は、
「仕事ですから!」と、大きな声で言った。
病院は、3人の先生、2人の調理士、7人の看護士がいて、わたしを含め32人が入院生活をしていた。
上空をカモメの群れが通りすぎて行った。
「なんだか、ここは素晴らしいところですねえ。」
海は限りなく澄んでいて、浅瀬は淡いブルー、遠方は深いブルーだった。
日差しが強かった。
「すっかり夏ですね。」
「そうですね。砂浜の向うに珊瑚礁があります。そこで釣りましょう。」
砂浜の向うは岩場になっていた。海の水は透明で、珊瑚礁が見えた。
「なんだか怖いくらいに透き通っていますね。」
「泳げますか?」
「あんまり泳げないんですよ。」
「落ちないように気をつけてください。」
「はい。」
「あそこで一休みしてから、釣りましょう。」
「はい。」
「かんころ餅を食べましょう。」
「かんころ餅?」
「切り干ししたサツマイモを蒸して、もち米、水あめ、ごま、砂糖を混ぜて臼でついた餅です。」
一口食べて、俺は思わず唸った。
「う〜〜ん、これはいい!」
愛子さんは少し笑いながら、「はい、お茶。」と言って、中サイズのペットボトルを差し出した。
「愛子さんや岡田先生のおかげで、すっかり元気になりました。」
「あなたはもう大丈夫です。」
振り向くと、愛子さんはいなくなっていた。
「あれ!?」
「あいこさ〜〜〜〜ん!」
いくら呼んでも彼女は現れなかった。俺は大声で叫んだ。
「あいこさ〜〜ん!!」
遠くから声が聞こえた。
「もしもし、だいじょうぶですか?」
目を開けると、俺の目の前には看護婦さんが立っていた。俺はベッドに横たわっていた。
「えっ、ここどこ?」
「ここは、五島の福江島の病院です。」
「えっ、病院?」
「近くにいた人の話しによると、携帯電話をしてるときに、突然気を失ったとかで、救急車でここに運ばれてきたんです。」
「あっ、思い出した。確か観光で一人で島巡りをしてたんだ。」
「だいじょうぶですか?」
「うん、だいじょうぶみたい。」
「電磁波過敏症なんですか?」
「そうみたいですね。」
「さいきん、電磁波で突然気を失う人多いんですよね。」
「そうなんですか。怖いですね。」
俺は立ちあがって窓の景色を見た。
「ここらあたりに、ひょうたん島ってありますか?」
「ええ、ありますよ。あそこに見えるのが、ひょうたん島です。」
それは、夢で見た ひょうたん島と同じだった。
「あの島に病院はありますか?」
「病院ですか?戦時中は有ったと聞いています。なんでも電磁波兵器で被爆した人が入院してたらしいです。今は取り壊されて何も有りません。」
「ひょうたん島の夢を見てたんですよ。」
「ほんとうですか。」
「不思議だなあ・・・」
俺は、しばらくの間、ひょうたん島を見ていた。
翌日、俺は退院して、漁師さんに無理に頼んで、ひょうたん島まで運んでもらった。
「すぐ戻ってきます。待っててください。」
「この島には、お墓くらいしかないよ。ほら、廃病院の上に見えるだろう。」
「あ、あれですね。行ってみます。」
墓に行く道は、草が生い茂っていて、歩きづらかった。墓場には50ほどの墓があった。
そこには、野茂愛子さんの墓もあった。
《 完 》
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