表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

祈り。

作者: 吉村巡

 信心深い彼女はいつも、助けてくれるはずもない神様に祈っていた。


「神なんていないよ」


 僕たちがいくらそううそぶいても、彼女の信仰心は折れなかった。


「私には、私の神様がいるのです。私は、みんなの無事を神様に祈ることしかできないけど、みんなの分もいっぱいいっぱい祈ります。そして、神様に恥じないように生きるのです」


 馬鹿だと思った。

 守られるだけの無力な女のくせに。


「どうして、僕らの分まで祈るの?」


 呆れたように聞けば、彼女はいつだって満面の笑みで答えるのだ。


「それが、私の幸せだからです」




 人質として捕えられた私は、彼らのために祈った。

 凌辱の限りを尽くされても、拷問の果てに鼻と耳を削がれ、目と喉を潰されても。


(神様、どうか)


 口にする言葉がもう言葉に聞こえなくなっても。

 二度と光を見ることのない目から流れる涙は、すべて、この祈りのために。


 私は、彼らのために祈っています。


 どうか、

 彼らに救いを。

 彼らに幸福を。

 彼らに喜びを。

 彼らに安寧を。


 私はそれを神様に祈ります。

 この命が尽きてもなお、彼らのために祈るものでありたい。


 そして、祈りが通じたかのように奇跡は起こる。


 見えない何かが私の体を貫いた瞬間、私の体は焼死体と化した。

 私に落ちた光は周囲に雷鳴をとどろかせ、近くに居た者たちを一瞬にして薙ぎ払った。

 敵方が備蓄していた火薬にも雷は届き、敵兵の多くが骸となった私の体もろとも爆風によって四散した。


 どうか彼らが、私のために嘆くことのないように。


 私の体は塵となり、風と共に世界を飛んだ。

 彼らに、一縷の希望を残したまま。


 死体は見つかっていない、ならば、逃げ出して生きているのかもしれない。


 神様。

 神様。

 ありがとうございます。


 神様。

 神様。

 私は祈り続けます。


 彼らの幸せを、ずっと、ずっと。

 

 それが、私の幸せだからです。


 彼らが幸せだと、私も幸せだからです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ