挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜の都で謳う姫 作者:光太朗

第一章 少女と青年

1/15

1-1


 ありがとう。
 愛することを教えてくれたのは、
 愛してくれた、あなたたち。








******



「光、が」
 少女にはそれが、見えた。
 闇夜の中にあって、光を放つ、赤。
「来る」
 一閃。
 少女と光の間には、部屋と窓、夜と、町を飛び越えてなお続く、凍てつく空気。到底届かぬほどの、闇。
 それでも光は、あらゆるものを越え、少女の目を射貫いた。
 錯覚か、或いは幻想か。
 しかし少なくとも、少女は心を揺さぶられ、瞬きを忘れた。
 輝いたのは、竜の瞳だ。
 姿はわからない。光すらほんの刹那。
 少女は両手で自らを抱きしめた。震えていた。身体の芯から熱が押し寄せ、高揚していくのを感じているのに、正反対の寒気を抑えられず、奥歯を噛みしめる。
 ひどく混乱していた。
 一体なにに混乱しているのか、わからなかった。また、わかろうともしなかった。突き動かされるままに意識を手放し、そうして一呼吸──目を、見開いた。
 窓を開け放ち、跳躍する。闇の中へ飛び出していく。胸の奥、声にならない声を、力一杯叩き付ける。
「────────!」
 音は木々を揺らし、風を裂いた。振動に耐えられなくなったかのように空気が悲鳴をあげて、火が生まれる。少女を取り巻くあらゆるものが燃えさかり、昼間のように周囲を照らす。
 少女はそのまま火を纏って、わけもわからず走り続けた。燃やしたいのでも破壊したいのでもなかった。しかし止まることもできなかった。押さえつけることができないのだ。自分一人だけで燃え尽きることが可能ならば、そうなってしまいたいというほどに、どうしようもなかった。
「止まれ」
 場違いなぐらいに冷静な声が、正面から少女を迎え撃つ。
「────!」
 少女は吼えた。恐らくは、身体の奥底から、全力で。しかし声の主は微動だにせずそれを受け流し、背負っていた大剣を引き抜く。
 左足を下げ、少女に対してやや斜めに構えた。右手一本で巨大な剣の柄を持ち、切っ先はあくまで真っ直ぐに、少女を狙う。しかし少女は、かまわず突進した。そうすることしかできなかった。
 男は小さく舌打ちしたようだった。止まるのを期待していたのだろう。それでも表情は変えないまま、左手で背に残っていた鞘を抜いた。流れるような挙動で空に投げ、少女がそちらを目で追うほんの一瞬の隙に、地を蹴る。
 背後に回り込むと、大剣を手の中で滑らせた。刃のない、腹の部分を少女と水平にし、叩く。
 空気が押し出されるように、少女が悲鳴をあげた。
「止まれといってるだろう。まだ暴れるようなら……」
 声の続きを、少女は聞かなかった。
 止まることができたことに、少女は安堵していた。笑みを漏らして意識を手放し、地面に崩れ落ちた。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ